観光による地域活性化を目指す一方で、「観光客を増やすだけでよいのだろうか」と感じる事業者もいるでしょう。そのような課題を考えるうえで役立つのが、サステナブルツーリズムの考え方です。
観光客数だけを成果とするのではなく、地域の環境・文化・暮らしを守りながら、観光を長く続けられる仕組みをつくることがサステナブルツーリズムの特徴です。
本記事では、個別地域で取り組む小豆島、地域の実践を広域へつなぐ四国、二都市を一つの観光圏として捉える関門、国レベルで仕組みづくりを進めるタイの4事例を紹介します。
地域が抱える課題によってサステナブルツーリズムの実践方法は異なります。本記事で紹介するそれぞれの取り組みから、サステナブルツーリズムを地域づくりや事業に生かすヒントを学びましょう。
サステナブルツーリズムとは何かを簡単に解説

サステナブルツーリズムとは、観光による経済的・社会的・環境的な影響を考え、自然や文化、住民の暮らし、地域経済を守りながら、地域全体の持続可能性につなげていく観光の考え方です。世界観光機関(UN Tourism、旧略称UNWTO)は、旅行者や観光産業だけでなく、環境や受け入れ地域のニーズにも配慮する観光と定義しています。[1]
「サステナブル」と聞くと環境問題だけをイメージするかもしれませんが、省エネやごみ削減だけを行えばよいわけではありません。地域文化を守ることや、観光による利益を地域へ還元すること、住民の暮らしに配慮することもサステナブルツーリズムでは欠かせません。
つまり、個別の環境対策だけではなく、観光による利益や負担を地域全体で考え、継続的に観光地を運営していく視点が重要です。観光事業者にとっては、「旅行者に何を提供するか」だけでなく、「観光によって地域に何を残せるか」まで考えることが出発点になります。

日本・海外のサステナブルツーリズムの事例4選

サステナブルツーリズムの実践方法は、地域が抱える課題や持っている資源によって異なります。国際基準を地域づくりに活用する地域もあれば、既存の観光資源を見直したり、旅行者の周遊を促したりする地域もあります。
ここでは、リジェネ旅が取材した日本と海外の4つの事例を通して、それぞれの地域がどのような課題に向き合い、観光の仕組みを変えているのかを見ていきましょう。
香川県・小豆島|世界基準を共通言語にした観光地域づくり

小豆島は一つの島ですが、小豆島町、土庄町、観光協会の連携が十分ではなく、似た内容の観光ロードマップをそれぞれ作成するなど、施策や情報が分散していました。
そんな小豆島で転機となったのが、JSTS-DやGreen Destinationsの基準です。Green Destinationsの審査では、文化財の保護や水資源の管理、住民への情報公開など80以上の項目について、両町の状況を一つのデータとして提出する必要があります。そのため、3者が計画やデータを持ち寄り、「こちらには制度があるが、もう一方にはない」といった違いを確認しながら調整を重ねました。こうした作業そのものが、島全体の課題を共有し、連携を深めるきっかけになったのです。
連携体制を整える一方、地域の持続可能性を支える具体策も進めています。環境面ではオリーブの搾りかすを牛の飼料に活用し、文化面では「中山虫送り」を有料の観光体験にして収益を運営費へ還元。環境・文化・経済を個別に捉えず、島全体の経営につなげている点が特徴です。

四国|地域の「点」をつなぎ持続可能な観光ブランドへ

四国には、遍路文化や上勝町のゼロ・ウェイスト、祖谷のかずら橋など、地域に根付いた資源があります。しかし、それぞれを個別に発信するだけでは、旅行者に四国各地を巡る動機づけになりにくいという課題がありました。
そこで四国ツーリズム創造機構は、サステナビリティを各地域に共通する軸として打ち出しました。観光庁のJSTS-Dのモデル地域への挑戦や、サステナブルな取り組みを国際的に評価するGreen Destinations TOP100への応募を各地域に働きかけ、小豆島町や大洲市がアワードを受賞するなどの成果につなげています。
さらに、先行地域の経験を四国全体へ広げるため、2022年には「四国『持続可能な観光』推進ネットワーク」を設立。サステナビリティの取り組みを四国4県へ拡大しています。
同時に、各地域にある資源の価値を掘り下げることも重視しているのが特徴です。たとえば丸亀では、伝統産業の丸亀うちわを単に商品として紹介するのではなく、竹の調達や職人の仕事など、その背景まで含めて伝えています。
こうした地域固有の営みを磨き、四国全体の共通した価値としてつないでいくことが、持続可能な観光ブランドづくりにつながっています。

関門エリア|既存インフラを観光資源に変えて周遊を促す

山口県下関市と福岡県北九州市門司区は海峡を挟み、向かい合って位置しています。しかし、県も市も異なるため、旅行者の行動がどちらか一方の都市で完結し、2都市を一つの観光エリアとして巡ってもらいにくいという課題がありました。
そこで、両地域の観光地域づくりを担う関門DMOは、2都市が共有できる資源として、関門海峡と、海峡を越えて両都市をつなぐ関門橋・関門トンネルに着目しました。関門鉄道トンネルや関門国道トンネルのバックヤードツアーでは、普段は入れない場所も公開。設備を維持管理する担当者自身が歴史や技術、日々の仕事を伝えることで、インフラを単に見学するだけでなく、地域を支える人の営みまで学べる観光体験にしています。
さらに、共通電子クーポン「かんもんPAY」で二都市の消費行動を可視化。旅行者の移動や消費がどちらか一方に偏っていないかを確認しながら、周遊施策に生かしています。
関門エリアの事例は、新しい施設を造るのではなく、既存の資源を磨き直し、データを使って人の流れや消費を地域全体に広げる方法を示しています。

タイ|観光客数を追う「量」から地域に価値を残す「質」へ

タイでは、観光客数を増やす「量」だけでなく、地域や環境に価値を残す「質」を重視する観光への転換を進めています。2026年4月にプーケットで開かれたGSTC(持続可能な観光の国際基準を策定・普及する国際団体)の国際会議でも、タイ国政府観光庁の総裁が、この方針を示しました。
具体策の一つが、観光産業全体に持続可能な観光を広げる国家的な推進計画「Thailand Green Tourism Plan 2030」です。タイ観光・スポーツ省観光局、マヒドン大学国際カレッジ、Green Destinations、Travelife for Tour Operatorsの4主要機関に加え、政府・学術・民間の49のパートナー機関が参画しています。計画には、観光事業者や観光地がGSTCの基準をもとに自己評価できるツール「Green Scan System」も用意されています。環境、文化、地域社会などの項目で強みと課題を把握し、その結果をもとに改善を重ね、国際基準に沿った認証の取得へ段階的に進める仕組みです。
こうした事業者側の取り組みと並行して、旅行者の行動を変える施策も進められています。有名観光地への集中を避けるため地方都市への誘導を図るほか、一つの地域に長く滞在するスロートラベルを促し、旅行者の分散と地域での滞在時間の延長につなげています。

事例からわかるサステナブルツーリズムの3つのポイント

4つの事例は、島、広域地域、2都市、国全体と対象範囲が異なるほか、地域資源や観光をめぐる課題、取り組みを進める主体もそれぞれ異なります。しかし、いずれも観光客を増やすことだけを目的とせず、地域の課題や将来像を踏まえて観光のあり方を見直している点は共通しています。
地域の課題を起点に観光のあり方を考える
サステナブルツーリズムでは、まず地域が抱えている課題と目指す状態を明確にすることが重要です。
たとえば、小豆島では人手不足により、受け入れられる旅行者の数に上限がありました。関門エリアでは、旅行者が下関か門司港のどちらか一方にとどまり、2都市間の周遊が生まれにくいことが課題でした。
観光施策といえば、まず観光客数を増やすことが頭に浮かびますが、これらの課題は、どちらも単純に来訪者数を増やしても解決できません。
大切なのは、まず地域の課題を把握し、将来どのような状態を目指すのかを定めることです。そのうえで、観光を地域の課題解決にどう生かせるかを考えます。事業者も、自社の商品やサービスだけでなく、自社の事業が地域の課題とどのように関係しているかまで視野を広げることが、取り組みの入口になります。
既存の地域資源に、体験と還元の仕組みを加える
サステナブルツーリズムを進めるために、新しい施設や観光資源を必ずしもつくる必要はありません。地域にすでにある資源を見直し、物語や体験として伝える方法があります。
小豆島ではオリーブ産業や地域文化、四国では伝統工芸や地域の営み、関門では橋やトンネルなど、もともと地域に存在していたものを観光の価値として捉え直しています。
地域資源そのものだけでなく、その背景にある歴史や文化、人の営みまで伝えることで、新しい体験価値を生み出せるのです。
さらに、その価値を保全や継承につなげる仕組みまで設計すれば、地域資源を守りながらサステナブルに観光産業を発展させられます。
観光客数だけで成果を判断しない
サステナブルツーリズムでは、観光客数だけで成果を測るのではなく、地域にどのような利益や変化が残ったかを見る視点が重要です。旅行者が増えても、人手不足や混雑が深刻になったり、地域に十分な利益が残らなかったりすれば、持続可能な観光とはいえません。
小豆島では、人手や受け入れ能力に限界があるため、観光客数だけではなく観光消費額などを重視する方向へ転換しています。タイでも、旅行者の人数だけを追わず、地域への価値や便益を重視しています。
成果を確認する際は、観光消費額や地域事業者の収益といった経済面、滞在時間や周遊範囲といった旅行者の行動、混雑や住民負担、文化・環境の保全といった地域への影響を総合的に確認しましょう。数字を増やすこと自体を目的にせず、「観光によって地域に何が残ったか」という視点を大切にしてください。
サステナブルツーリズムの事例から持続可能な観光を考えよう
サステナブルツーリズムの取り組みに、すべての地域で共通する正解はありません。人口減少や観光客の集中など、地域によって課題が異なるからです。
一方、今回の4事例のように、参考になる共通点はあります。まずは自社や地域で「何を守り、何を変えたいのか」「観光によって地域に何を残したいのか」を整理してみましょう。
さらに、一歩進んだ取り組みを行いたい方には、「リジェネラティブツーリズム」について学ぶのをおすすめします。ぜひ、以下の記事も合わせてご覧ください。

サステナブルツーリズムに関するよくある質問(FAQ)
サステナブルツーリズムには、似た観光の考え方やさまざまな取り組みがあります。ここでは、エコツーリズムとの違い、認証の必要性、観光事業者が取り組む際の疑問に答えます。
サステナブルツーリズムとエコツーリズムの違いは?
エコツーリズムは、自然や地域文化を体験し、その価値を理解しながら保全につなげる観光の形です。[2]
一方、サステナブルツーリズムは特定の旅行形態ではありません。自然環境に加えて、地域経済、文化、住民の暮らし、観光地の運営まで含め、観光全体を持続可能にする考え方です。
つまり、エコツーリズムが具体的な観光の形の一つであるのに対し、サステナブルツーリズムは観光全体のあり方を考える、より広い概念です。
サステナブルツーリズムに認証の取得は必要ですか?
認証の取得は、取り組みを始めるための必須条件ではありません。JSTS-Dなどのガイドラインや認証制度の基準は、地域の現状を点検し、関係者が目標を共有するためにも活用できます。認証を目指す場合も、取得をゴールにせず、基準に沿って改善を続けることが重要です。[3]
観光事業者はサステナブルツーリズムに何から取り組めばよいですか?
まずは、自社の事業が地域や環境に与える影響を確認しましょう。たとえば、地域内からの仕入れを増やせるか、地域文化を生かした体験をつくれるか、繁忙期に集中する来訪を分散できるかを検討します。
そのうえで、地域住民やほかの事業者と課題を共有し、自社で始めた改善を地域全体の取り組みへ広げていくことが大切です。
参考文献
[1] UN Tourism「Sustainable development」

