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メルボルンのサステナブルツーリズム、緑・食・文化・移動から見る、これからの都市観光

2026 10/22
取材
ごみ・資源循環 実践事例 生物多様性・自然再生 移動・モビリティ
2026-10-23
市川 隆志
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オーストラリアのメルボルンを歩いていると、あることに気づきます。

大通りだけではなく、路地裏にもカフェがあり、公園があり、街路樹があります。トラムが街の中心部を走り、人々は歩いたり、自転車に乗ったりしながら街を移動しています。

そして、少し街を離れれば、森林や海岸、湿地など豊かな自然に出会うことができます。

メルボルンは、世界的に「住みやすい都市」として知られてきた都市です。しかし現在、この都市が目指しているのは、単に「環境にやさしい都市」になることだけではありません。

自然を再生し、地域の文化を尊重し、食や資源の循環をつくり、人々の暮らしそのものをより豊かにしていく。その考え方は、観光にも少しずつ入り込んでいます。

オーストラリア政府は2023年に「National Sustainability Framework for the Visitor Economy」を策定し、持続可能な観光を、自然・文化・地域社会を守りながら観光産業の将来をつくるための重要な考え方として位置づけました。[1] さらに2026年には、Tourism Australiaが「Green and Gold Promise」を発表し、旅行者と観光事業者の双方に、より責任ある観光を呼びかけています。[2]

では、メルボルンでは具体的にどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。

目次

「観光地」ではなく「暮らす都市」そのものを再生する

メルボルンのサステナブルツーリズムを考えるうえで、まず重要なのが、観光政策だけを見ても全体像が分からないということです。

メルボルンでは、都市計画、気候変動対策、自然再生、食、交通、地域コミュニティなど、さまざまな政策が動いています。そして、それらが結果として「観光地としての魅力」をつくっています。

たとえば、ビクトリア州が2017年に策定した都市計画「Plan Melbourne」(2025年に後継計画「Plan for Victoria」へ移行)は、2050年に向けて、低炭素で気候変動に強く、緑豊かで暮らしやすい都市を目標にしていました。そこで描かれていたのは、公共交通や徒歩で移動でき、建物の省エネや水の再利用、再生可能エネルギーが当たり前になった暮らしです。[3][4]

つまり、「観光客のためにサステナブルな街をつくる」という発想ではありません。住民にとってより良い都市をつくることが、そのまま観光の価値にもつながっているのです。

これは、これからのサステナブルツーリズムを考えるうえで非常に重要なポイントです。

「都市の森」をつくる|自然を観光資源ではなく都市インフラに

メルボルンの街を歩いていると、街路樹や公園の多さに気づきます。

しかし、メルボルンが取り組んでいる「Urban Forest(都市の森)」は、単に街に木を増やそうという政策ではありません。都市の樹木や植物、土壌、水などをひとつの生態系として捉え、暑さを和らげる、雨水を管理する、生物の生息地をつくる、空気を浄化する、炭素を吸収するなど、さまざまな「生態系サービス」を都市の中に組み込んでいく考え方です。[5]

市民と育てる、生態系をつなぐ都市の森

メルボルン市(City of Melbourne)は、都市の森づくりの方針「Urban Forest Strategy」に基づいて、地域ごとの10年間の計画をつくり、どこに、いつ、どのような木を植えるのかを市民とともに検討しています。[6]

さらに興味深いのが、生物多様性との関係です。

メルボルンは草原、高地、平原など異なる生態系が交わる場所に位置しており、都市そのものが多様な生物の生息地になっています。Urban Forestは、こうした生態系をつなぐ役割も果たしています。

ここに、観光との接点があります。

観光客が楽しむ「美しい街並み」「緑の多い公園」「川沿いの散策路」は、単なる景観ではありません。それ自体が、都市のレジリエンスや生物多様性を高めるインフラなのです。

川沿いの散策と自然再生をつなぐGreenline

さらに、メルボルンではヤラ川(Birrarung)の再生を目指す「Greenline」も進められています。川沿いの緑化、生物多様性の回廊づくり、自然環境を学ぶサインなどを組み合わせ、都市と川の関係を再構築しようとしています。[7]

観光客にとっては「新しい散策スポット」になります。しかし、都市にとっては「自然環境を再生するプロジェクト」でもあります。この二つを分けずに考えているところに、メルボルンの面白さがあります。

トラムに乗ること自体が「サステナブルな旅」になる

メルボルン観光の象徴ともいえるのがトラムです。市内を縦横に走るトラムは、観光客にとって便利な移動手段であると同時に、市民の日常生活を支える公共交通でもあります。

Visit Melbourneも、鉄道、トラム、バス、自転車などを活用した「Car(e)free travel」を推奨しています。[8] 市内では、ソーラー発電による電力を活用したトラムも紹介されています。[9]

ここで重要なのは、「観光客向けのエコツアー」を特別につくるのではなく、既存の都市交通そのものを観光体験として利用できることです。たとえば、トラムで街を移動し、途中でカフェに立ち寄り、公園を歩き、マーケットへ行きます。そこには「環境配慮のために我慢している」という感覚がほとんどありません。

むしろ、車を使わないからこそ街を歩き、人と出会い、路地や小さな店を発見することができます。サステナブルツーリズムが目指すべきなのは、こうした「環境負荷を下げること」と「旅の質を高めること」が同時に起きる状態なのかもしれません。

「食」を観光資源から循環の仕組みへ

メルボルンを語るうえで欠かせないのが、カフェ文化と食です。スペシャリティコーヒー、ファーマーズマーケット、多文化的なレストランなど、メルボルンには豊かな食文化があります。そして現在、この食文化を「循環」の視点から捉え直す動きも進んでいます。

食品廃棄物を回収し、資源に戻す仕組み

City of Melbourneでは、食品廃棄物を減らし、残った食品を地域のフードリリーフにつなげたり、コンポストを通じて都市の土壌に戻したりする取り組みが進められています。[10]

市のFood City Policyが掲げるのも、使い捨てプラスチックや食品包装を減らし、有機食品廃棄物を資源として循環させる「circular food economy」です。

その実践例のひとつが、メルボルンCBD(中心業務区)の飲食店を対象にした食品廃棄物回収です。

回収にはe-bikeとトレーラーを使い、狭い路地の多いCBDでも効率的に食品廃棄物を集める仕組みが試行されました。回収した食品廃棄物は処理施設に運ばれ、資源として活用されています。[11]

マーケットの余剰食材から、商品と雇用を生み出す

Queen Victoria Marketでは、売れ残りや過熟した農産物などを活用し、新しい食品や商品へと変える取り組みも行われています。STREATによる「Crowd Sauce」プロジェクトでは、マーケットで発生する食品廃棄物を原料として商品を開発しました。[12][13] 実際に59種類の商品が開発され、廃棄物削減だけでなく、新たな雇用も生み出しています。

Queen Victoria Marketは年間800万人以上が訪れる観光・地域拠点でもあります。つまり、マーケットにおける食品循環は、単なる環境対策ではありません。地域の食文化を体験する観光そのものを、地域の循環や再生につなげる仕組みにもなり得ます。

食の体験を、地域に価値が残る観光へ

マーケットでの食品循環は、リジェネラティブツーリズムを考えるうえで、非常に示唆的な取り組みです。

観光客が地域の食を楽しむことで、当然ながら食品廃棄物も発生します。しかし、そこで終わらせるのではなく、その廃棄物を資源として地域に戻すことで、新たな商品や雇用が生まれ、地域内の資源循環が促進されます。

つまり、観光客が「食べる」という行為を起点に、地域の食文化を知り、食品廃棄物が資源として活用され、そこから新たな商品や雇用が生まれ、さらに都市の循環が強くなっていくのです。

観光客の消費を、単に「消費」で終わらせない。その消費を地域の自然や文化、経済の循環に組み込み、訪れることそのものが地域をより良くする力へと変えていく。

これこそが、観光を地域の再生につなげる、リジェネラティブツーリズムの考え方の一つなのではないでしょうか。

使い捨てから「リユース」へ、カフェ文化も変わり始める

メルボルンでは、コーヒー文化とサーキュラーエコノミーを組み合わせた実証も行われています。

たとえば、CBDのOlderfleet buildingでは、オフィス内のカフェなどを対象に、使い捨てカップからリユースカップへ移行する実証実験が行われました。事前調査でわかったのは、年間17万6,000個もの使い捨てカップが廃棄されていたことです。[14] そこで1,000個のステンレス製リユースカップと返却ボックスを導入し、回収・洗浄して再利用する仕組みを構築しました。[15]

また、メルボルンではRegroundのようなソーシャルエンタープライズも活動しています。[16]

使用済みコーヒーかすを回収し、地域のコンポストやさまざまな循環プロジェクトにつなげるなど、「廃棄物」を「地域資源」に変えています。メルボルンでは、カフェでコーヒーを飲むという極めて日常的な行為が、循環経済を考える入口になっています。観光客にとっても、これは特別な「サステナブル体験」ではありません。

いつもの旅の中で、地域の循環に参加することができるのです。

先住民文化を「観光コンテンツ」ではなく、土地との関係として捉える

メルボルンのサステナブルツーリズムを考えるとき、もうひとつ重要なのがFirst Peoples(先住民)との関係です。

メルボルンの土地には、Wurundjeri Woi-wurrungやBunurong / Boon Wurrungなど、Kulinの人々が長く暮らしてきた歴史があります。City of Melbourneは、こうしたTraditional Owners(土地を伝統的に受け継いできた先住民)との関係を観光や都市政策の中でも明確に位置づけています。

ビクトリア州では2025〜2030年の「First Peoples Tourism Plan」も策定され、First Peoples-led、つまり先住民自身が主体となる観光を推進する方向性が打ち出されました。[17]

文化的安全性を高め、マーケティングや案内表示などでTraditional Place Names(先住民に受け継がれてきた地名)を活用することも推奨されています。ここからわかるのは、サステナブルツーリズムを「環境問題」だけで捉えてはいけないということです。

土地の自然を守ること。その土地の文化を尊重すること。そして、その文化を誰が語るのか。観光によって生まれる価値が、誰に還元されるのか。

こうした問いも、持続可能な観光の重要なテーマです。

「観光客を増やす」から「観光によって都市を良くする」へ

メルボルンでは、観光そのものも次の段階に進もうとしています。

City of Melbourneが2024年8月に承認した「Experience Melbourne 2028」は、観光を都市の経済にとって重要な存在とし、地域コミュニティやさまざまなステークホルダーの声を取り入れながら、これからのVisitor Economyを考える取り組みです。[18]

一方、州レベルでは「Visit Victoria 2030」が2025年に発表され、2030年に向けてビクトリア州のVisitor Economyを成長させながら、持続可能で、包摂的で、レジリエントな観光を目指す方向性が示されています。[19]

ここから見えてくるのは、観光の評価軸が変わりつつあることです。

これまでの観光では、「何人の観光客が訪れたのか」「どれだけお金を使ったのか」「何泊したのか」といった、観光客の数や経済効果を測る指標が重視されてきました。

しかし、これからの観光では、それだけでは十分ではありません。

「観光によって地域の自然は豊かになったのか」

「地域住民の暮らしはより良くなったのか」

「地域の文化は守られ、次の世代に受け継がれているのか」

「観光で生まれたお金が地域の中で循環しているのか」

「観光を通じて、地域が気候変動などの変化に強くなっているのか」

こうした問いから、観光が地域にもたらした「プラスの変化」まで評価することが、これからの観光には求められているのではないでしょうか。

メルボルンの実践から、日本の都市観光を考える

メルボルンの取り組みを見ていると、サステナブルツーリズムとリジェネラティブツーリズムの境界が見えてきます。サステナブルツーリズムは、観光による環境負荷や社会的な悪影響を抑えながら、観光を長く続けられる状態をつくることが重要です。

一方、リジェネラティブツーリズムでは、その先にある、「観光があることで、地域がより良くなる」という状態を目指します。

自然・文化・経済をつなぐ観光の役割

メルボルンの事例には、観光を通じて地域をより良くする可能性が随所に見えます。

街路樹を増やすことは、観光客のためだけではなく、住民の暑さ対策や生物多様性につながります。トラムは市民の日常の足であると同時に、観光客にとっても便利な移動手段です。観光客が乗れば乗るほど、市民が使う公共交通を支える力にもなります。食品廃棄物を循環させることで、観光産業の廃棄物削減だけでなく、地域の食を生かした新しい商品や雇用、ビジネスも生まれています。

先住民文化を尊重することは、観光コンテンツを増やすだけではなく、土地と文化の関係を次世代につなぐことにもなります。つまり、観光を「消費」として捉えるのではなく、都市の自然・文化・経済・コミュニティをつなぐ媒介として捉えているのです。

日本の都市観光に問われる、旅のあとの地域の変化

メルボルンの取り組みは、日本の都市観光にも大きなヒントを与えてくれます。

これからは、観光客を増やすことだけを目的にするのではなく、

「観光客が訪れることで、街に何が残るのか」

「観光によって、地域の自然や文化はどう良くなるのか」

「観光で生まれた消費が、地域の人や事業者にどのように還元されるのか」

「旅人が帰ったあとにも、地域にプラスの変化が残っているのか」

といったことを考えることが重要です。

観光客を呼び込むだけではなく、観光によって地域をより良くしていく。そんな視点が、これからの都市観光には求められているのではないでしょうか。その視点に立ったとき、観光は単なる「交流人口を増やす産業」ではなくなり、地域の未来をつくる産業になるのです。

メルボルンから見える「次の観光のかたち」

メルボルンの面白さは、都市の自然、交通、食、文化、経済、コミュニティといった、一見すると観光とは関係のない取り組みの積み重ねが、「訪れたくなる都市」「歩きたくなる都市」「暮らしたくなる都市」をつくっている点にあります。

そして、その都市を訪れること自体が、地域の循環や自然とのつながりを知る旅になります。「観光地を持続可能にする」のではなく、「暮らしそのものを良くする。その結果、観光も良くなる」。

メルボルンから見えてくるのは、そんなこれからの都市観光の姿なのかもしれません。

参考文献

[1] Austrade「National Sustainability Framework for the Visitor Economy」

[2] Tourism Australia「Tourism Australia Unveils New Industry-wide Initiative for Responsible Tourism」

[3] Victorian Government「Plan Melbourne 2017–2050 Summary」

[4] Victorian Government「Putting Plan for Victoria into practice in the Planning Policy Framework」

[5] City of Melbourne「Project overview|Plan the urban forest in your neighbourhood」

[6] City of Melbourne「CBD Urban Forest Precinct Plan 2025-2035」

[7] City of Melbourne「The Greenline Project」

[8] Visit Victoria「Car(e)free travel in Melbourne & Victoria」

[9] Victorian Government「Solar-powered trams」

[10] City of Melbourne「Food City 2024–34」

[11] Good Cycles「Providing sustainable food waste solutions to Melbourne’s inner-city cafes」

[12] CEBIC「Funded project – STREAT」

[13] Moving Feast「Crowd Sauce」

[14] Sustainability Victoria「Cercle Melbourne – case study」(保存版)

[15] Cercle「Olderfleetのリユースカップ実証紹介(LinkedIn投稿)」

[16] Reground公式サイト

[17] Victorian Government「Strategy|First Peoples-led experiences」

[18] City of Melbourne「Experience Melbourne 2028 Plan Endorsement and Launch Event」

[19] Visit Victoria「Visit Victoria 2030」

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