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華やかなネオン街に灯る、Green Key。メルキュール札幌が繋げる、優しさのサステナビリティ

2026 10/07
取材
hokkaido
2026-10-15
佐事 美咲
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画像出典:メルキュール札幌

夜のきらびやかな灯りがきらめく札幌・すすきの。

ネオンサインがどこまでも連なるこの賑やかな繁華街に溶け込むように、世界から注目を集めるサステナブルなホテルが佇んでいる。それが、メルキュール札幌(Mercure Sapporo)。

提供:メルキュール札幌

同ホテルは、2025年5月に、北海道のホテルとして初めて「Green Key(グリーンキー)」を取得した。

Green Keyは、ホテルなどの宿泊施設や観光施設を対象とした、サステナビリティに関する国際認証制度である。運営を担うのは、デンマークに本部を置く非営利団体の国際環境教育基金(FEE)。

認証を得るには、環境マネジメントをはじめ、節水・省エネ、廃棄物削減、地域社会との連携など、多岐にわたる厳しい基準をクリアしなければならない。

そして、Green Keyは一度取得して終わりではなく、毎年の書類確認と、定期的な現地審査を通じて継続的な改善を求められる。

提供:メルキュール札幌

サステナビリティという言葉には、時に「義務感」や「息苦しさ」が付きまといがちだ。

しかし、メルキュール札幌の取り組みからは、環境問題に対する真摯さと、それを当たり前の日常として溶け込ませる、ナチュラルな姿勢が伝わってくる。

この姿勢はどのように生まれ、現場へ浸透していったのだろうか。その背景を探るべく、総支配人のクリストファー カーセルさんに話を聞いた。

取材を通して見えてきたのは、「正しい理屈」や「一方的な熱意」の押し付けではない。目の前の人や地球を想う「優しさ」を起点とした、あたたかなサステナビリティの広がりだった。

メルキュール札幌 総支配人のクリストファー カーセルさん

世界基準のエコ認証「Green Key」への道のり

北海道のホテルとして初となる、Green Keyの取得。先述の通り、この認証を取得するには「ドキュメンテーション(記録の作成)」という大きな壁を越えなければならない。

単に「環境に配慮した取り組みを行っている」と主張するだけでは、国際基準の厳格な審査を突破することはできず、環境配慮の裏付けとなる膨大な数値を、日々正確に記録し、書面で示し続ける必要がある。

カーセル総支配人は、「世界的なホテルチェーンである『アコーホテルズグループ』の一員として、以前から環境配慮に関する、独自の厳しい基準をクリアしていました」と振り返る。認証を取得するための土台は、すでに十分に整っていたのだ。

提供:メルキュール札幌

そうはいっても、膨大なデータを毎日欠かさず記録し続ける作業は、決して容易ではない。この現場の負担を支えたのが、アコーホテルズグループとエネルギー管理の世界的専門企業「シュナイダーエレクトリック」との連携だ。

両社の強力なパートナーシップにより、電気・ガス・水道の使用量から日々の廃棄物量まで、あらゆる環境データを専用システムで一元管理し、スムーズに記録できる仕組みが構築された。

同システムで管理される環境データに加え、Green Keyの厳格な審査をクリアした設備や日々の取り組みには、主に以下のようなものが挙げられる。

水資源の徹底管理

  • 客室のシャワーヘッドは流量毎分6リットルの節水タイプを導入。キッチンシンクの蛇口にも節水アタッチメントを導入している。
  • 清掃には環境配慮型洗剤を使用。
  • 第三者機関による定期的な水質検査を徹底し、客室の水道水は飲料水として提供。

エネルギー管理と省エネ

  • 高度なHVAC(冷暖房空調設備)制御システムによる効率的な館内空調。

環境配慮型アメニティ・消耗品の採用

  • 客室内のシングルユース(使い捨て)プラスチックを全廃。
  • レストランのテイクアウト用カップ、蓋、ストロー、容器、カトラリー類もすべて紙製または木製へ刷新。
  • ペーパータオルやトイレットペーパーなどは、すべて環境配慮型製品を採用。

廃棄物削減と食の循環

  • レストランの生ごみは札幌市環境公社が回収し、養鶏用の飼料として地域内で循環リサイクル。
  • 調理後の廃油もパートナー企業を通じてリサイクル資源へ再生。
  • 多様な食習慣に応えるため、ヴィーガン・ベジタリアン向けメニューを常時用意。

地域社会との連携・貢献

  • 食材は北海道産を基本とし、サステナビリティに取り組む地元事業者を優先的に選定。
  • パートナー企業と共同で継続的な植樹活動を展開。

カーセル総支配人は、「グローバルグループだからこそ得られる手厚い技術サポートのおかげで、現場スタッフの事務負担を大きく軽減できました」と、その効果を実感している。

しかし、メルキュール札幌の歩みを見つめると、決して「手厚いサポート」だけが成果をもたらしたわけではないと気づかされる。

真の推進力となったのは、現場のスタッフが自発的に知恵を持ち寄り、目の前のできることから積み重ねてきた挑戦の姿勢だった。

現場の知恵が生んだ、「ザルとバケツ」の生ごみ削減

コロナ禍が明け、国内外から多くの宿泊客が戻るにつれて新たな課題が浮き彫りになった。朝食ビュッフェで急増する食べ残し、いわゆるフードロス問題だ。

本来ホテルでは、朝食の提供時間(午前6時〜10時)に合わせて料理の提供量を細かく調整する「ポーションコントロール」を行っている。

たとえば、ツアー団体などで混み合う午前7時〜9時には、十分な料理を用意してストレスなく楽しんでもらい、ピークを過ぎた時間帯には、皿のサイズ自体を小さくして一回あたりの提供量を絞る、といった工夫だ。

メルキュール札幌ではさらに、ビュッフェで余った食材のうち、安全に食べられるものについては、国際的な食品衛生管理基準(HACCP)に厳格に沿ったうえで従業員食堂のメニューとして再利用している。

しかし、こうした対策を徹底しても、厨房から出る生ごみをゼロにすることは難しい。ホテルでは毎日ごみを捨てる際、必ず専用の量りに載せて「重さ」を細かく記録しているが、数値の改善に伸び悩んでいた。

ちょうど同じ頃、グループ内の別ホテルでは、高額なデータ管理システムを導入してフードロスを削減する試みが始まっていた。

その最先端システムは、ごみ箱の上部に設置したカメラと重量計を連動させ、「どの食材が、いつ、どれだけ捨てられたか」をAIで自動的に判別・記録する仕組みだ。

なかなか減らない生ごみを前に、メルキュール札幌でも最新システムの導入を検討し始めていた。しかし、料理長は「まずは自分たちの手と知恵でできることをやり切りたい。導入を少し待ってほしい」と総支配人に直談判した。

こうして厨房とレストランのスタッフが知恵を絞り、たどり着いたのは驚くほどシンプルな解決策だった。それは、バケツの上にザルを重ね、スタッフの手で生ごみの水分をしっかり切る「水切り」の徹底だ。

このささやかな工夫が、大きな効果をもたらした。水分をしっかり絞るだけで、生ごみの重量は大幅に減少。さらに、水分が抜けたことでごみ袋が破れにくくなり、地下のごみ集積場まで何度も運ぶスタッフの負担までもが、劇的に軽減されたのだ。

この小さなアイデアと、それを実行し続けたスタッフたちの想いが、確かな成果となって数字に表れた。同ホテルにおける客室1部屋あたりの生ごみ重量は、2025年1〜6月の平均168gから、翌2026年の同期間には157gへと推移。「6.6%」もの削減を達成したのである。

ポーションコントロールや食材の再利用といった、フードロス対策の徹底は大前提である。しかし、それでもなお残る「壁」に直面したとき、高額なシステムや機械にすぐに頼るのではなく、まずは現場のスタッフが知恵を持ち寄り、自らの手で解決を目指す。

この主体性こそが、サステナビリティを一時的なブームで終わらせず、ごく自然な日常として定着させる原動力なのだ。

コロナ禍での「プラスチック廃止」が、業界の未来を切り拓く

メルキュール札幌では、環境に配慮した設備投資を段階的に進めてきた。たとえば、館内照明のLED化にはいち早く着手し、285室の客室や11階分の廊下については、すでに2016年から2017年にかけて切り替えを完了させていた。

コロナ禍の影響で、投資資金が一時的に凍結される局面もあったが、2024年、初期費用を抑えられる「リース契約」を活用した現実的な手法により、宴会場やバックヤードを含む館内照明の90%をLEDへと一気に移行させた。

その結果、2025年には、施設全体の電気使用量を2%削減することに成功している。

また、テラススペースでは2019年から太陽光パネルを導入しているが、この太陽光発電への切り替えは、非常に軽やかで等身大のアプローチでもある。

エンタメ性を織り交ぜた「怪談晩餐会」のイベント開催時、雰囲気づくりのライティング用として、スタッフは簡易的な太陽光発電システムを自作した。

提供:メルキュール札幌

イベントは大盛況に終わり、テラススペースのさらなる活用を模索する中で、総支配人がパネルの増設を持ちかけたときのことだ。

「やりましょう、できますよ!」スタッフは笑顔で即答し、市販のパネルなどを買い揃え、低コストな発電システムを自分たちの手で楽しそうに組み上げてしまったのである。

提供:メルキュール札幌

「どうせ取り組むなら、サステナブルな視点をプラスしたいよね」。そんな言葉が、いつしか社内の共通言語となり、ごく自然な「軸」として現場に根づいている。

彼らにとってサステナビリティは、単なるマーケティングのツールではなく、誰もが「当たり前の日常」として楽しみながら、軽やかに実践するものだ。

しかしながら、この軽やかな空気感は、順風満帆に生まれたわけではない。なかでも最も難航し、現場からの強い反発を招いたのが、コロナ禍の真っ只中に断行した「客室での使い捨てプラスチック製品の完全な廃止」であった。

提供:メルキュール札幌

アコーホテルズグループのフランス本部から、「2021年12月31日までに、客室からすべての使い捨てプラスチック製アメニティを全廃すること」という通達が届いたのは、なんと期限まで残り1ヶ月を切ったタイミングだった。

当時はコロナ禍で客足が絶え、経営はまさに危機的状況にあった。それにもかかわらず、代替品として導入する竹製歯ブラシの仕入れコストは、1本10円以下の従来のプラスチック製に比べて、3〜5倍(1本30〜50円)にまで跳ね上がる。海外からの高額な輸送費も加わり、状況は厳しさを極めていた。

提供:メルキュール札幌

この状況に、年に一度の従業員満足度調査では、「経営がこれほど苦しい時期に高い竹製歯ブラシを導入して、自分たちの雇用や生活に影響が出ないのか」と、現場のスタッフから不安と反対の声が寄せられた。

それでもカーセル総支配人は、「地球環境に対するホテルの責任を果たすため、この変革は今絶対にやり遂げなければならない」という想いを伝え続け、アメニティの切り替えに踏み切った。

この決断に対し、葛藤を抱えながらも現場で走り抜いたスタッフの努力は、やがて大きな実を結ぶ。

コロナ禍を抜けた現在、サステナビリティの推進は世界的な大潮流となった。他社に先駆けて使い捨てアメニティの全廃を成し遂げたメルキュール札幌には、問い合わせや視察が殺到している。

費用面はもちろん重要ですが、プラスチックを使い続ければ、CO2排出量などは増える一方です。

だからこそ、まずは私たちが先陣を切って、環境配慮型のアメニティを導入する。その発信によって他社も追随して普及が進めば、やがてコスト構造も逆転していきます。

確かに、導入時の初期コストはかかります。それをどう上手くコントロールし、どのような形でお客様にお届けするか、日々試行錯誤を重ねています。

最終的には、環境に配慮したアメニティが業界の当たり前(主流)になることこそが、何よりも大切だと考えています。

さらに、この大きな変革を自らの手で成し遂げたことで、スタッフの心には「自分たちは日々の業務で、知らず知らずのうちに多くのごみを生み出していたのではないか」という自発的な気づきが芽生え始めた。

たとえば、コーヒーに添えられていたポーションタイプのミルクやシロップ。かつては使い捨てが当たり前だったが、スタッフたちは「小さな器に注いで提供し、使用後は他の食器とともに洗浄すればごみをゼロにできる」という解決策を自ら見出し、実践に移していった。

当初は激しい反対に晒されたものの、大きな壁を全員で乗り越えた経験は、スタッフの心に「リーダーを信じて挑めば、自分たちも世界を変えられる」という強い誇りと、次なる挑戦へ向かう前向きな姿勢を芽生えさせた。

提供:メルキュール札幌

保管するだけの「マイナス」から、命を救う「プラス」へ

急ピッチでプラスチック廃止を進めた裏で、メルキュール札幌は別の問題にも頭を悩ませていた。

ロゴ入りのため取引先への返品もできず、かといって客室に置くことも許されなくなった使い捨てプラスチックのカミソリ約5,000本が、倉庫で「デッドストック」として山積みになってしまったのだ。

これだけでも限られた保管スペースは大きく圧迫されていたが、そこへさらなる追い打ちがかかる。

冬になると、スキーやスノーボード目当てでアジアなどから訪れるインバウンド客が、不要になったスキーウェアやダウンジャケット、さらには壊れたスーツケースまで客室に残していく現象が相次いだのだ。

忘れ物なのか、それとも意図的な不用品なのか。帰国後の旅行者に確認することは極めて難しく、ホテルの規定上、持ち主から連絡がない荷物であっても、1〜2ヶ月間は厳重に保管し続ける必要があった。

その結果、バックヤードの保管スペースはあっという間に埋まり、膨らむ処分費用や荷物の管理に追われるスタッフの負担は限界に達していた。

この苦境を救ったのが、館内でサステナビリティ活動を力強く牽引するスタッフの砂田 志穂美さんだ。彼女は、NPO法人グッドライフが運営する不用品回収・寄付サービス「セカンドライフ」の仕組みを見つけ出し、総支配人に提案した。

画像出典:メルキュール札幌PR

この仕組みを活用し、ホテル側が不用品を発送することで、客室に残されたまだ着られる防寒着や、倉庫で眠っていたカミソリを、それを必要とする国内外の人々のもとへ寄付として届けることが可能になったのだ。

さらに、段ボール1箱の寄付が、開発途上国の子ども2人分のワクチンに変わるという、社会貢献の仕組みも大きな特徴だ。

この取り組みを開始してから2026年5月時点までに、メルキュール札幌が支援したワクチンは累計で34万人分を超え、開発途上国の子どもたちの命を繋ぐ大きな力となっている。

提供:メルキュール札幌


客室の「寄付の意思確認カード」には活動の趣旨が添えられており、宿泊者は自らの意思で、不要になったスノーウェアや荷物を寄付することができる。

現在では、スノーウェアなどで荷物が特にかさばる冬のシーズンになると、1週間に2〜3箱もの大型ダンボールを発送するほど定着している。

宿泊客からも賛同の声が寄せられ、この取り組みは札幌市内の他ホテルや、遠く沖縄のグループホテルへも波紋のように広がっている。

家庭が幸せでなければ、良い仕事はできない

メルキュール札幌が誇るサステナビリティの強みは、環境への配慮にとどまらない。同ホテルでは、意思決定を担う管理職(マネージャー)の45%以上を女性が占めている。

だが、それは国や企業が掲げる「数値目標を達成するため」のアピールではない。根底にあるのは、カーセル総支配人の「目の前のスタッフを心から大切にし、一人ひとりの幸せを願う」という人間味あふれる姿勢だ。

ひとり親として子どもを育てる女性スタッフは、「子どもが体調を崩した際、自分が管理職では職場に大きな迷惑をかけてしまう」と、当初マネージャーへの打診を遠慮しようとしていた。

そのとき、カーセル総支配人は彼女にこう語りかけた。

挑戦したい、成長したい。その純粋な想いを「周りに迷惑がかかるから」と諦めないでください。新たな一歩を踏み出すことは「迷惑」ではなく、あなたにとっての「絶好のチャンス」です。

その挑戦を全力で支え、全員でカバーするために、会社という組織があるのですから。

提供:メルキュール札幌

また、ある男性マネージャーが、新しく生まれた我が子の成長をそばで見守るため、長期の育児休暇を希望した際のことだ。公的な育休制度では、休業中の手当は従来の給与の6〜8割ほどになり、今後の生活に不安が残るという切実な課題に直面していた。

一人ひとりの事情に寄り添い、「子育てをしながら働き続けたい」と願うスタッフの声と丁寧に向き合うことで、職種に応じた「在宅勤務」や「フレックスタイム制度」といった仕組みが次々と形になっていった。

男性だから、女性だからという区別は一切しません。

私たちは、ただその人が持つ素晴らしいスキルを正しく評価し、適材適所で最大限に活躍してもらっているだけです。

不用品寄付の仕組みを見つけ出した砂田さんも、産休・育休を経てマネージャーとして現場復帰を果たし、その才能を存分に発揮している一人だ。

家庭が幸せでなければ、仕事で最高のパフォーマンスを発揮することなど、絶対にない──。

これは、カーセル総支配人が20代前半の頃、沖縄の米軍基地内のホテルで初めてキャリアをスタートさせた際、当時の総支配人から学び、自らの軸として大切にしている教訓だ。

「家庭の幸せ」を大切にするメルキュール札幌だからこそ、スタッフたちは職場で最高のパフォーマンスを発揮している。その結果、マネージャー不在の状況でも、スタッフが自発的にチームを動かし、互いにカバーし合う文化が根付いた。

「自分たちの力で現場を支え、最高のおもてなしを届ける」。そんな強い自信と固い団結力を育んだスタッフたちが原動力となり、組織全体を一段上のステージへと導いている。

失敗を許容する優しさが、「出る杭は打たれる」社会を変える

国内約40施設を率いるアコーホテルズグループ全体のサステナビリティ責任者でもあるカーセル総支配人は、長年の日本生活を通して、日本人の気質に深い洞察を抱いている。

日本人の環境に対する意識やモラルの平均値は、世界的に見ても極めて高いと感じます。

街はどこも美しく、誰もが順番を守って整列します。しかし、平均値が極めて高いからこそ、そこから一歩踏み出した「挑戦」を起こしにくい側面もあるかもしれません。

エスカレーターの片側を空ける習慣に象徴されるように、日本には特有の同調圧力が存在します。「出る杭は打たれる」という言葉通り、「周りの目を過剰に気にする」「目立つ行動は避ける」といった意識が強く働くためです。

環境問題への具体的な対策や新しい設備投資には、どうしても初期コストがかかる。「出る杭」にならないよう、変化を嫌う日本のビジネス社会では、「そこまで高いお金を払ってリスクを冒さなくても、今のままで十分ではないか」と、現状維持を望むブレーキが強く働いてしまう。

だからこそ組織を動かし、新しい挑戦を促すには、理屈を振りかざすのではなく、挑戦する人を見守るような「失敗を許容する環境」が必要不可欠だと、カーセル総支配人は強く主張する。

「失敗したら恥ずかしい」「叱責される」という恐怖心をスタッフに与えないよう、失敗を「次への学び」として受け止める。試行錯誤の末、それでも解決しない場合は、リーダー自身が「潔く諦める勇気」を持つことも時に大切だ。

その安心感を現場に根づかせるため、総支配人は毎朝、フロントからレストラン、オフィスまでホテル内の全部署を自ら巡る。スタッフ一人ひとりと目を合わせ、笑顔で挨拶を交わし、たわいもない雑談を重ねていく。

「正しい理屈」や「一方的な熱意」だけでは、人は動かない。動かすのは、一見当たり前のように思える、目の前の人間を尊重する「優しさ」なのだ。

カーセル総支配人の思いやりは、現場に確かな安心感をもたらす。その安心感こそが、スタッフ自ら行動を起こす原動力となり、同僚はもちろん、地域社会や地球環境へと視野を広げるエネルギーを生み出していく。

この優しさの連鎖は、静かな波紋のようにホテルという枠を超え、社会全体を包み込む大きなサステナビリティのうねりへと広がっている。

札幌・すすきのから波及するこのストーリーは、これからの観光産業はもちろん、変化を恐れて足踏みをするすべての組織に向け、「まずは人を大切にし、そこから生まれる一歩から変えていこう」という、温かくも強いメッセージを投げかけている。

取材協力:メルキュール札幌

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