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TISFDとは?人権・不平等など人に関する情報開示の枠組みをやさしく解説

2026 10/28
リジェネラティブを学ぶ
サステナビリティ経営・ESG 人権・ダイバーシティ 制度・政策
2026-11-3
Kazumi Kawagoshi
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「人権や格差への対応は大切だと聞くけれど、どう対応すればよいのかわからない」と感じる担当者もいるかもしれません。

こうした課題を整理する国際的な取り組みがTISFDです。TISFDは、企業が人に与える影響と、企業が人に支えられている側面の両方に目を向けます。そのうえで、それらが経営上のリスクや機会にどう結び付くかを開示するための枠組みを開発しています。

この枠組みは、2026年10月26日時点で最初の草案(ベータ版0.1)が公表され、完成に向けて改訂が進められている段階です。

本記事では、TISFDの意味、ベータ版0.1の内容、気候や自然に関する開示の枠組みであるTCFD・TNFDなどとの違いを解説します。企業が今から準備できることも紹介するので、自社の取り組みを考える参考にしてください。

目次

TISFDとは?人に関する情報開示の国際的な取り組み

TISFDトップページ
画像出典:TISFD Global Initiative

TISFDは、人権やウェルビーイング、不平等など、人に関する課題を扱う開示勧告を開発する国際的なタスクフォース(特定の課題に取り組むために結成された作業チーム)です。企業や金融機関が人に与える影響と、人の技能や健康、信頼関係などに依存する側面を把握し、それらが経営や財務にどう関わるかを説明できるようにすることを目指しています。[1][2]

人に関する情報は、企業によって開示内容や測定方法が異なり、比較しにくいのが課題です。TISFDは共通の考え方を示し、企業や投資家の判断、影響を受ける人々への説明に役立つ情報を整えようとしています。

TISFDの正式名称

TISFDは「Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures」の略です。日本語では「不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれています。

TISFDは、2024年9月23日に発足を発表しました。[3]

TISFDが開発する情報開示の枠組みが「TISFDフレームワーク」で、2026年5月26日に最初の草案であるベータ版0.1が公表されました。[4] 2026年10月26日時点では、公開意見募集で寄せられた意見を踏まえて改訂が進められています。

TISFDが扱う人に関する課題

TISFDは、人権、ウェルビーイング、人的資本・社会関係資本、不平等を関連付けて捉えます。それぞれの意味と企業との関わりは、次のとおりです。[5]

課題意味企業との関わり
人権すべての人が尊厳を持って生きるための権利労働環境や取引先の状況、商品・サービスなどを通じて、人々の権利に影響を与える
ウェルビーイング健康や安全、生活の充実など、人が良好な状態で暮らすこと働き方や職場環境、商品・サービスが、人々の心身や生活に影響する
人的資本・社会関係資本人の知識・技能・健康と、人や組織、地域の信頼・協力関係企業は、従業員の能力や健康、取引先や地域との信頼関係に支えられている
不平等人や集団の間にみられる、所得・資産・健康・機会などの分配やアクセスの違い賃金や雇用、商品・サービスへのアクセスなどが、格差の拡大や縮小に関係する

人権の尊重やウェルビーイングの向上は、働く人の健康や能力、職場や地域の信頼関係にも関わります。これらを企業の活動を支える「資本(価値を生み出す元手)」として捉えるのが、人的資本と社会関係資本という考え方です。

TISFDは、これら4つの課題のつながりを経営や投資判断に反映させることを目指しています。

TISFDが対象とする「人」と4つの関係者

TISFDが対象とする人は、自社の従業員だけではありません。調達側(上流)から利用側(下流)まで、バリューチェーン全体を考慮します。[6] そのなかで、企業の活動や取引、商品・サービスを通じて影響を受ける人として主に想定されているのが、次の4つの関係者グループです。

関係者対象となる人
自社で働く人正規・非正規の従業員など、自社の労働力を構成する人
バリューチェーンの労働者原材料の調達先や委託先、物流などで働く人
地域コミュニティ事業所や工場などの影響を受ける地域の住民
消費者・利用者商品やサービスを購入・利用する人

関わる課題は、グループごとに異なります。働く人なら賃金や労働時間、安全、地域住民なら生活環境、消費者・利用者なら商品の安全性や利用しやすさなどが主な論点です。

観光産業に当てはめると、宿泊施設の従業員が「自社で働く人」、清掃や輸送の委託先で働く人が「バリューチェーンの労働者」、観光地の住民が「地域コミュニティ」、旅行者が「消費者・利用者」にあたります。検討する課題も、従業員や委託先の労働条件に加え、観光客の集中による住民生活への負担、旅行者の安全、施設の利用しやすさなど、幅広い範囲に及びます。

TISFDフレームワークのベータ版0.1で示された内容

TISFDフレームワーク ベータ版0.1の表紙
画像出典:The Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures (TISFD)

2026年5月26日、TISFDはフレームワークの最初の草案として、ベータ版0.1を公表しました。主な内容は次の4つです。

  • 人と企業の関係を理解するための概念的基盤
  • 情報開示に関する5つの一般要件
  • 開示勧告の草案
  • 今後さらに検討する課題

TISFDは意見募集や企業などによる試行を踏まえて内容を改訂し、推奨指標や実施ガイダンスを追加する予定です。

人への影響・依存が経営リスクや機会につながる

ベータ版0.1では、企業と人の関係を理解するための基本的な考え方として、「影響・依存・リスク・機会(IDRO)」という4つの視点を示しています。[7]

  • 影響:企業の活動や取引が、人権や暮らしなどに与える良い影響と悪い影響
  • 依存:従業員の技能や健康、地域の信頼など、事業を続けるうえで頼っている人や社会の資源
  • リスク:人への影響や依存をきっかけに、売上や費用、事業継続などに悪影響が及ぶ可能性
  • 機会:人に関する課題への対応を通じて、生産性の向上や事業の安定につながる可能性

たとえば宿泊施設で長時間労働が続くと、従業員の健康に影響し、離職の増加やサービス品質の低下につながるおそれがあります。一方、労働環境や研修制度の改善は、人材の定着やサービス品質の向上につながるかもしれません。

5つの一般要件|開示の前提をそろえる

ベータ版0.1では、開示情報の一貫性や企業間の比較可能性を高めるため、5つの一般要件が提案されています。

  • 重要性:適用する定義と情報利用者の視点に沿って、開示すべき重要な情報を判断する
  • システム関連情報:人への影響の積み重なりが、経済・金融システム全体に及ぼすリスクを考慮する
  • ステークホルダーとの関与:従業員や地域住民など、影響を受ける人々と対話や関与を行った目的・方法を説明する
  • 範囲:評価・開示の対象と、その範囲を決めた方法を示す
  • 時間軸:短期・中期・長期の影響と、それぞれの期間の定義を示す

重要性は、投資家が経営への影響を見る視点や、人への影響を把握する視点など、情報利用者の視点によって捉え方が変わります。企業が都合よく情報を選ぶのではなく、どの視点と定義で判断したかを明確にします。[8]

システム関連情報の背景にあるのは、人への負の影響が多くの企業で積み重なると、格差の拡大などを通じて社会の安定や消費、金融市場にも影響が及ぶという考え方です。幅広い企業に投資する投資家が関心を持つ情報ですが、具体的な開示方法は検討中です。[9]

ステークホルダーとの関与には、人権デューデリジェンスも関係します。人権デューデリジェンスとは、企業が人権への悪影響を特定・評価して防止・軽減し、対策の実施状況と効果を確かめて、対応を説明する一連の取り組みです。[10][11]

開示勧告の4つの柱|指標・目標は今後開発

TISFDの開示勧告案は、気候関連のTCFDや自然関連のTNFD、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準と共通する4つの柱を基本としています。[12]

  • ガバナンス:人に関する影響・依存・リスク・機会を、経営層などがどのように監督・管理するか
  • 戦略:人に関する課題が、事業モデルや経営戦略、財務計画にどう関係するか
  • インパクト・リスク管理:影響・依存・リスク・機会をどのように特定・評価・優先順位付けし、管理するか
  • 指標・目標:人に関する取り組みの進捗や成果を、どのような指標と目標で評価するか

ただし、ベータ版0.1で具体的な勧告案が示されたのは、主に最初の3つです。「指標・目標」の詳細な勧告や、中核となる指標・目標の一式は、今後の開発対象です。[13]

TISFDの今後のスケジュール

TISFDは、企業や金融機関、労働団体、市民社会などの意見を取り入れて開発を進めています。2026年10月26日時点の主な経緯と予定は、次のとおりです。

時期主な動き
2024年9月23日TISFDの発足を発表
2026年5月26日TISFDフレームワークのベータ版0.1を公表
2026年7月31日ベータ版0.1に関する公開意見募集を終了
2026〜2027年パイロットテストや技術的な連携、追加の意見募集を通じて内容を改訂
2027年最終勧告を公表する予定

TISFDは、公開意見募集で寄せられた意見を検討し、次の版への反映を進めています。今後も試行や技術的な連携を通じて改訂する計画のため、公表済みの内容と将来の予定を分けて把握しましょう。

TISFDとTCFD・TNFD・ISSBなどの関係

TISFDは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)といった気候・自然に関する枠組みとの連携と、既存の開示基準との整合性を重視しています。対象とする課題の違いと、開示内容をどう補い合うかを押さえると、位置付けを理解しやすくなります。[14]

TCFD・TNFDとの違いと共通点

TCFD、TNFD、TISFDの主な違いは、対象とする課題と、企業が把握・開示する内容にあります。

枠組み主な対象企業が把握・開示する内容
TCFD気候変動気候変動による経営上のリスクや機会
TNFD自然・生物多様性自然への依存・影響と、それに伴うリスクや機会
TISFD人権・不平等など人に関する課題人への影響・依存と、それに伴うリスクや機会

3つの枠組みは、ガバナンス、戦略、管理、指標・目標という4つの柱を基本とします。管理の柱の名称は、TCFDが「リスク管理」、TNFDが「リスク・インパクト管理」、TISFDが「インパクト・リスク管理」です。[15][16]

観光地の気候災害は、施設の運営や自然環境に加え、住民の暮らしや雇用にも影響する可能性があります。TISFDは人に関する視点を加え、気候や自然の情報開示を補完します。

ISSB・GRIなど既存の開示基準との関係

TISFDは、すでに使われている開示基準とあわせて使えることを重視しています。主な基準は、ISSB基準、GRIスタンダード(企業が経済・環境・人々に与える影響を報告するための基準)、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)などです。[17]

企業がこれらの基準に沿って集めた情報を生かし、足りない部分だけを補えるようにすることで、情報収集や報告作業の重複を減らす狙いがあります。

このうちISSB基準を定めるISSBでは、働く人に関する情報開示を研究中です。2026年9月24日には研究プロジェクトの名称を「人的資本」から「労働力関連開示」に変え、自社で働く人やバリューチェーンの労働者の労働条件、健康・安全、研修などの開示を検討しています。ただし、新しい基準をつくるかどうかはまだ決まっていません。[18]

これに対してTISFDは、働く人に加え、地域コミュニティや消費者・利用者、不平等も扱う点で、より幅広い人との関係を捉える枠組みです。

TISFDに向けて企業が今から準備できること

TISFDの最終勧告は2027年に公表される予定で、指標・目標の詳細もこれから開発されます。それでも、TISFDの考え方に沿った準備は今から始められます。次の5つの手順は、実務に生かすための準備例です。

  1. 関係者を洗い出す:自社で働く人、バリューチェーンの労働者、地域コミュニティ、消費者・利用者などを整理する
  2. 影響と依存を把握する:事業が人に与える良い影響・悪い影響と、人の技能や信頼関係などへの依存を確認する
  3. 経営との関係を整理する:影響や依存が、人材確保や売上、事業継続などのリスク・機会にどう結び付くかを検討する
  4. 既存の情報を確認する:人権デューデリジェンス、労働環境の調査、地域との対話、開示済みの情報などを整理する
  5. 不足している情報を確認する:必要なデータや担当部署、今後対話すべき関係者を明らかにする

既存の調査や対話の記録は準備に活用できますが、開示資料をつくるだけで人権への対応が完了するわけではありません。人事や調達、サステナビリティなどの部署で情報を共有し、実際に影響を受ける人の声も確認しましょう。

TISFDを手がかりに人への影響と経営課題を整理しよう

TISFDの最終勧告は2027年に公表される予定です。とはいえ、関係者の洗い出しや当事者との対話は、短期間で済む作業ではありません。今から少しずつ準備を進めておけば、勧告が固まったときに慌てずに済むだけでなく、人材の定着やサービス品質の向上など、経営上の機会にもつなげられます。

まずは、自社の事業を支えている人を書き出してみましょう。観光産業なら、宿泊施設の従業員、清掃や輸送の委託先で働く人、観光地の住民、旅行者が出発点です。次に、従業員アンケートや地域との話し合いの記録など、すでに手元にある情報を確認してください。まだ声を聞けていない相手が見えてくれば、自社が次に取り組むべきことも明確になります。

TISFDに関するよくある質問

ここでは、TISFDへの対応義務や、ほかの開示枠組みとの関係について、よくある疑問に答えます。

TISFDへの対応や情報開示は義務ですか?

2026年10月26日時点で、TISFDフレームワークは開発中の草案(ベータ版0.1)です。また、TISFD自体が企業に一律の法的義務を課すものではありません。

ただし、各国の法令やほかの開示基準により、関連情報の開示が必要になる場合があります。自社に適用される法令・基準は別途確認しましょう。

TSFDとTISFDの違いは何ですか?

TSFDは社会関連、TIFDは不平等関連の情報開示を検討していた取り組みです。2023年に両者の取り組みが統合され、2024年のTISFD発足につながりました。[19]

TCFDはなぜ解散し、その役割はどこへ引き継がれたのですか?

TCFDは役割を終え、2023年10月に解散しました。勧告はISSB基準に取り込まれていますが、企業は引き続き利用できます。

気候関連情報開示の進捗確認は、2024年からIFRS財団が引き継いでいます。

TISFDと日本生命にはどのような関係がありますか?

日本生命は2025年2月、TISFDの活動を支援する組織のネットワークであるアライアンス(Alliance)への加盟と、木村武氏の運営委員会(Steering Committee)への就任を公表しました。[20] TISFDの公式サイトの運営委員会一覧でも、木村氏の参画を確認できます。[21]

参考文献

[1] TISFD|Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures

[2] TISFD Framework|Executive summary

[3] TISFD|Launch of the Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures (TISFD)

[4] TISFD Framework (Beta Version 0.1)

[5] TISFD Framework|Social issues and inequalities

[6] TISFD Framework|Scope

[7] TISFD Framework|People-related impacts, dependencies, risks and opportunities

[8] TISFD Framework|Materiality

[9] TISFD Framework|System-relevant information

[10] ILO|企業の人権デューディリジェンスにおける労働の側面

[11] OECD|OECD Due Diligence Guidance for Responsible Business Conduct

[12] TISFD Framework|Overview of TISFD draft disclosure recommendations

[13] TISFD Framework|Metrics and targets

[14] TISFD|About Us

[15] TNFD|Disclosure recommendations

[16] IFRS Foundation|ISSB and TCFD

[17] GRI|Standards

[18] IFRS Foundation|Workforce-related Disclosures

[19] Rights CoLab|Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures (TISFD)

[20] 日本生命保険相互会社|「不平等・社会関連財務開示タスクフォース(TISFD)」におけるアライアンスへの加盟および同 Steering Committee メンバーへの就任について

[21] TISFD|Steering Committee

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