ドイツで需要が高まるメンタルヘルスケアを目的とした癒しの旅自然が豊富なドイツではハイキングやトレッキングといったアクティビティを含む旅が人気ですが、近年では、ヨガや瞑想、森林浴などといった同じ自然の中でもリフレッシュやメンタルヘルスケアを目的とした滞在型の旅に需要が高まっています。
その背景には現代社会に生きる人々が感じるストレスや多忙によるバーンアウト、うつ病、心身症といったメンタルに関わる深刻な問題が関係していると言われています。
日本と比べ、残業が少なく、有給休暇も多く、理想的な働き方と言われるドイツでなぜそのような問題が起きているのでしょうか?また、ドイツ人に限らず、欧州人は休暇をとても重要視しています。
ストレス社会において旅の需要傾向も変わってきているようです。この記事では、具体例を挙げて紹介していきたいと思います。
ドイツで人気のメンタルヘルス×旅プラン
2016年に設立された世界各地のリトリートを検索、予約できるオンライン・プラットフォーム「BookRetreats.com」が提案する2026年にドイツで実施される滞在型リトリートは以下のような種類があります。
①暗闇の中で瞑想する5日間のリトリート
ドイツ北西部に位置するゾトルムという町の自然に囲まれた家に滞在し、光を完全に遮断したダークルームで瞑想を行い、自分の呼吸、身体感覚、感情、思考の流れを観察します。スマートフォン、時計、読書、筆記、他者との会話も禁止となっており、昼夜の区別がない暗闇の中で感覚を内側へ向けることを目的としています。
ガイドスタッフが常駐しており、食事や健康状態を管理してくれる。視覚情報が完全に遮断されることで、脳の処理負荷が大きく減少し、日常的に抑え込んでいる不安、悲しみ、怒りといった負の感情をデトックスできる効果があります。

②レイキヒーリング、森林浴、ヨガリトリートを組み合わせた4日間の旅
ドイツ南西部バーデン=ヴュルテンベルク州にあるヴァイルハイムに位置する施設に滞在し、以下のプログラムを4日間に渡り、実施します。
1. 朝や日中に瞑想をしてリラックス
2. 手かざしや軽く触れることで、生命エネルギー(宇宙エネルギー)を流し、自然治癒力を高める手当て療法として日本で発祥した「レイキヒーリング」を行うことで、心身の緊張やストレスを和らげます
3. 森の中でのグラウンディングは、裸足や手で直接土、草、樹木に触れ、大地との繋がりを感じることで、デジタルストレスや疲れを取り除き、心身を「今ここ」の安定した状態へとリフレッシュさせる効果的なマインドフルネスです
4. 自然の中で軽い散策やトレッキングを行い、身体を動かします。
5. ヨガセッションは、軽いストレッチや呼吸法を取り入れたヨガで身体をほぐします
③秋のアーユルヴェーダ・リトリート7日間
国際的なコミュニティブランド「ASH Aexperience(アシャエクスペリエンス)」が、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダ、ヨガ、瞑想をベースとしたホリスティックなウェルネスやリトリート体験を提供します。
このリトリートでは、アーユルヴェーダ医師、セラピスト、ヨガ講師、瞑想トレーナー、栄養士、シェフなどといった専門家チームのサポートを受けることが可能となっており、体質に合わせて以下のようなアーユルヴェーダ治療、瞑想、ヨガ、アーユルヴェーダ食、ワークショップを組み合わせた総合的なプログラムで、心身のバランスと健康を整えることができます。
- パーソナルセッション
1対1であなたの体質や特性を理解し、秋の季節に合わせたグラウンディング療法、温める儀式、消化サポートなどの癒しプランを作成します。 - アビヤンガ(全身マッサージ)
温かいハーブオイルを使い、心身の緊張をほぐします。 - シロダーラ
心身を落ち着かせ、深いリラクゼーションを促します。 - アーユルヴェーダ食
季節に合わせた温かく、軽くスパイスを効かせた食事で、消化力を整え、内なる火(アグニ)をバランスよく保ちます。

サステナブル × ウェルネスホテルが提供する健康促進プログラム
ドイツには環境に配慮したホテルが数多く存在しますが、スパなどのリラクゼーション施設を兼ね備えたサステナブル&ウェルネスホテルが人気を集めています。近年では、ホテルが提供する医療的要素を取り入れたウェルネスや健康促進プログラムへの需要も高まっています。

1.「Biohotel Eggensberger(ビオホテル・エッゲンスベルガー)」
「Biohotel Eggensberger」は、バイエルン州に位置する4つ星のオーガニックホテルで、1950年代から続く歴史ある施設として知られています。ガーデンスパ&ウェルネスエリアには水治療センターや屋内プールが整備され、総面積約1,600平方メートルを誇ります。
医療ウェルネス5つ星認定を受けており、専門チームによるケアを提供しています。医師によるカウンセリングと健康チェックを受けた後、体調に応じて以下のようなプログラムを受けることができます。
・理学療法(Physiotherapy)
・マニュアルセラピー(関節・筋肉の調整)
・背中・首・肩・腰など筋骨格系へのトリートメント
・関節痛の緩和や姿勢改善を目的とした施術
・術後や回復期に対応した軽度のリハビリテーション
・軽度の医療断食プログラム、クナイプ療法(水・温冷刺激療法)

2.「SCHWARZWALD PANORAMA(シュヴァルツヴァルト・パノラマ)」
2013年に設立された「SCHWARZWALD PANORAMA」は、ドイツ南西部バーデン=ヴュルテンベルク州のバート・ヘレンアプ(Bad Herrenalb)に位置しています。同地は「heilklimatischer Kurort(気候療法保養地)」として認定された健康リゾート地であり、観光地として名高いSchwarzwald(黒い森)の高台にあります。
バート・ヘレンアプは治癒効果があるとされる水源を有することで発展してきた街で、温泉や保養文化が深く根付いています。同ホテルでは併設のセルフネスセンターにおいて、心身の両面にアプローチするプログラムを提供しています。

・ブヒンガー博士式断食療法(1週間)
20世紀初頭にドイツ人医師オットー・ブヒンガーが確立した医学的管理下で行う治療的断食法を基盤とするプログラムです。肉、魚、乳製品、卵、小麦製品、砂糖、アルコール、コーヒーなどを控え、野菜や果物を中心としたアルカリ性食品を摂取することで、代謝の改善や体調の調整を目指します。
・レジリエンストレーニングとマインドフルネス
逆境やストレスから立ち直る「精神的回復力(レジリエンス)」を高めるためのプログラムです。思考の傾向を認識し前向きに修正する方法や、マインドフルネスによる現在への集中、自身の強みの活用などを通じて、自己効力感や楽観性を向上させ、メンタルヘルスの改善を図ります。
・ピーター・ヘス式サウンドマッサージ
ドイツ人の物理工学系エンジニアPeter Hessが1970年代に体系化した音響療法です。金属製のシンギングボウルを身体の上や近くに置いて鳴らし、その振動と倍音により深いリラクゼーションへと導くことを目的としています。
ドイツで深刻化するメンタルヘルス問題
休暇をリゾート地やホテルでゆっくり過ごすだけでなく、医療系ウェルネスや健康促進プログラムが体験できる旅に需要が高まっている背景の一つには、メンタルヘルスに問題を抱える人口の増加があります。
2024年にドイツのロベルト・コッホ研究所が実施した「Health in Germany 2024」調査によると、成人の約22%が抑うつ症状、14%が不安症状を示し、8%が中等度〜重度の抑うつまたは不安症状を有していると推定されています。27,102人の回答に基づいたパネル調査であり、女性や若年層、教育水準が低・中レベルの人々で症状が多く見られるなど、属性別の差異も分析されています。
この調査は、ドイツの人口健康状態を調査する新たな継続的研究として、2024年初頭から約47,000人の16歳以上の市民を対象に、オンラインなどで定期的に健康に関するアンケートを実施し、健康データを分析・収集しています。

さらに、欧州委員会、OECD(経済協力開発機構)、欧州保健システム・政策観測所が共同で作成するドイツの保健医療状況に関する分析報告書「State of Health in the EU: Germany Country Health Profile」によると、ドイツでは過去の推計でも人口の約18%がメンタルヘルス上の問題を経験しており、これはEU平均をやや上回ると報告されています。こうした状況には、戦争や経済不安などの複数の社会的ストレス要因も影響していると指摘されています。
一方で、心理療法士や専門医の不足により初診まで数か月待ちが一般的で、地域によっては半年以上待つ場合もあります。外来・入院・リハビリの連携も十分でないため、統合的なメンタルケア体制が整いにくく、COVID-19以降、その問題はより顕在化しています。公的医療保険はメンタルヘルス治療をカバーしているものの、必要な治療に迅速につながりにくく、多くの人が専門支援を受けられていない現状があります。
最後に
ドイツ人にとって、休暇は必要不可欠であり、当然の権利であると考えられています。土日に仕事の連絡をしても当然ながら対応してもらえませんし、夏季休暇シーズンやクリスマス前後に連絡するのも躊躇してしまいます。
フリーランスで日本人の筆者にとってなかなか慣れない習慣でしたが、疲労回復のために休むことは必要であることは理解しています。今後は、単にゆっくり過ごすだけでなく、質の高いメンタルケアも同時に受けることによってどんな変化があるのか、試してみたいと思います。
