【リライト】ニュージーランドのエネルギー事情と水力発電

ニュージーランドの総発電量における再生可能エネルギーの割合は80%を超えています。しかし、一家庭あたりの電気料金は、平均でNZ$195/月(約16,426円※2025年4月時点)と高いため、国民全体の節電意識は高いと感じます。週末はエスカレーターが稼働しないビルがあります。また、無駄なエネルギーを消費しないために夜遅くまで営業をするのではなく、比較的早い時間帯に店を閉めている店舗も多いです。この他にも省エネに対する国民の意識の高さを垣間見ることができる場面があります。また、ニュージーランドの水力発電には深い歴史があります。本記事は、ニュージーランドのエネルギー事情と水力発電について、そして滞在したホテルの節電の取り組みを紹介します。
ニュージーランドのエネルギー事情
出典:ニュージーランドの再生可能エネルギー市場規模・シェア分析 -産業調査レポート -成長トレンド
ニュージーランド政府の公開しているデータによると、2021年の電力供給のうち80%以上が再生可能エネルギー由来であることが分かります。また、原子力発電はありません。
ニュージーランドは、気候変動への対策として、社会全体に供給する電気を化石燃料に依存しない、さまざまな発電方法を組み合わせてまかなうことを目指すグリーンエネルギーミックスを実践することが重要だと主張しています。
再生可能エネルギーの発展
出典:ニュージーランドの再生可能エネルギー市場規模・シェア分析 -産業調査レポート -成長トレンド
ニュージーランドは化石燃料由来のエネルギーから再生可能エネルギーにシフトしており、非常にバランスの良いグリーンエネルギーのポートフォリオを形成しつつあります。ニュージーランドが推進しているグリーンエネルギーは、以下の5つです。
- 水力発電
ニュージーランドでは、古くから水力発電が行われてきた歴史があります。2022年は、安定して雨が降り続いたため、過去数十年で最も多く発電をした年であったと言われています。水力発電は2022年のニュージーランドの電力供給量の60%を占めています。一方で、規模に関係なくダムの建設が周辺環境に大きな影響を与えることが懸念されています。
- 地熱発電
ニュージーランドは、日本と同様に新期造山帯に分布するため、火山活動や地震の起きやすい場所です。よって、地熱発電の適地も多くあります。地熱発電は、天候に左右されないことから安定して電力供給を行うことができます。一方で、地熱エネルギーの蒸気温度は、石炭やガスボイラーで生産される蒸気よりも温度が低いため、電気への変換効率はかなり低いという課題も抱えています。
- 風力発電
南半球に位置するニュージーランドは、風が強い国としても知られています。2021年のニュージーランドの電力供給量のうち6%を占めています。風力発電は、大きな伸び代があります。特に洋上風力発電の推進により、2035年にはニュージーランド全体の電力供給量の35%を占めるまでに成長すると見込まれています。風力発電は、水力発電のように降雨パターンなどの影響を受けないため、安定して発電できると期待されています。
- バイオマス発電
バイオマス発電は、2021年のニュージーランドの電力供給量のうち7%を占めています。バイオマス発電は、木材加工やパルプ・製紙分野で積極的に導入されており、これらの産業にとっては、重要なバリューチェーンの一部です。今後、ニュージーランド政府の資金援助や支援プログラムを通じて、バイオマス発電を導入する産業が増えると予想しており、2035年にはニュージーランドの電力供給量のうち、12%〜14%まで増加すると見込まれています。
- 太陽光発電
太陽光発電は、ニュージーランド全体の電力供給量のうち、わずか1%と非常に限定的です。太陽光発電所の建設や商業ビルの屋上での利用が拡大することで、2035年には全体の6%まで広げる計画です。
自然と調和する水力発電
ニュージーランドの電気供給の半分以上を占める水力発電。その中でも最大の発電量を誇るマウナポリ湖の水力発電所には同国の人々との深い関わりがあります。
ニュージーランド南島のフィヨルドランド国立公園に位置するマナポウリ湖は、国内で2番目に深く、豊かな水資源を持つ湖です。この湖では、1960年代にダムと水力発電所の建設計画が浮上しました。当初は地上に大規模な設備を設ける案でしたが、「生態系への悪影響が懸念される」として、釣り人やナチュラリストを中心に全国的な反対運動が巻き起こりました。その結果、当時の人口の約1割にあたる26万人の署名が集まり、計画は大きく見直されることになります。
こうして1971年、自然環境への影響を最小限に抑えるため、地下176メートルに世界初となる地下発電所が完成。このマナポウリ発電所は、現在もニュージーランド最大の水力発電所として稼働を続けており、年間約4,800ギガワット時もの電力を生み出しています。発電に使われた水は毎秒510立方メートルという勢いでダウトフル・サウンドへと流れ込み、自然の循環の一部として再び風景に溶け込んでいます。
この発電所の建設によって、かつてはアクセスが難しかったダウトフル・サウンドへのルートが開かれ、地域のツーリズムにも新たな可能性をもたらしました。現在では、発電所の見学ツアーや、湖やフィヨルドを巡るクルーズ、シーカヤック、さらには周辺の人気トレッキングルート(ケプラー・トラックやダスキー・トラックなど)も整備され、エネルギーと自然が調和するエリアとして注目を集めています。[3]
市内のホテルで進む省エネ対策
ニュージーランド最大の都市であるオークランドのホテルで実施されている省エネ対策を紹介します。私が最初に滞在したホテルでは、シャワー室やお手洗い、キッチン、ランドリーといった全ての部屋で省エネを促すためのメッセージを目にしました。


節電を促すポスターは、部屋の照明だけでなく、ドライヤーやキッチンコンロの電源、洗濯機などの側にも貼られています。
洗濯機や部屋に設置されている冷蔵庫には、オーストラリア発祥のエネルギー効率が星の数によって評価されたEnergy Ratingラベルが貼られています。

同ラベルは、星の数によって10段階で評価されており、星の数が多いほど同じサイズや容量の他のモデルと比較して、エネルギー効率が高いことを表します。そのため、同じタイプやサイズ、容量の電化製品の比較は可能ですが、冷蔵庫と洗濯機のように異なる製品の比較はできません。
Energy Ratingラベルについて詳しくは、こちら
また、友人宅では、トイレにどの程度節水しているのかを示すラベルが貼られていました。水資源には恵まれているニュージーランドですが、節水に取り組む姿勢は水資源が豊かな日本でも見習うことができるでしょう。

最後に
今後は、人口の増加や経済成長に伴い電力需要がますます高まることが予想されます。ニュージーランドは、一部で化石燃料由来のエネルギーを使用していますが、80%以上の電力需要を再生可能エネルギー由来で賄っています。また、政府の方針等で原子力発電は行っていません。ニュージーランドは日本と同様に新規造山帯に位置し、火山活動や地震が多く起こる国です。ニュージーランドのエネルギー戦略は、日本にとってもヒントになることがあるのではないでしょうか?
また、ニュージーランドに来て感じましたが、日本でもさらに積極的な節電対策ができると感じます。化石燃料由来からグリーンエネルギーへの転換は非常に重要ですが、同時に節電や省エネに関しても国全体でもっと議論されて良いのではと思います。
参照
What is the Average Power Bill in New Zealand?(ニュージーランドの平均電力料金)
[1]25年までに再生可能電力の比率を90%に−アジア大洋州の再生可能エネルギー政策−(ニュージーランド) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
[2]安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁
[3]real-journeys-insider-guide-to-doubtful-sound-japanese.pdf

