ISO21401認証とは?持続可能な宿泊施設のための認証制度|概要や事例、メリット

環境保護や社会貢献への関心がますます高まる現代において、観光業界が持続可能な運営を目指すことは欠かせない課題です。
ISO 21401は、宿泊施設が環境負荷を軽減しながら、地域社会や従業員との関係を強化するために設けられた国際規格です。
本記事では、ISO 21401の基本的な内容に加え、日本国内の事例や導入による具体的なメリットについて解説します。
サステナブルな宿泊施設のの運営を目指す国際規格「ISO21401」とは
ISO21401は、宿泊施設が環境への負担を軽減し、地域社会とのつながりを深め、地域経済に積極的に貢献するための基準を示した規格です。[1]
この規格は、人権の尊重、従業員や宿泊客の健康と安全、エネルギーや水資源の効率的な利用、廃棄物管理など持続可能性の主要な要素を取り上げています。
ISO21401作成の背景
近年、観光産業全体では脱炭素化への動きが加速し、持続可能な観光への関心が高まっています。旅行者も環境や社会に配慮した「サステナブルツーリズム」を選ぶ傾向が強まっており、観光事業者にとって持続可能な運営は、競争優位性を確立するうえで不可欠です。
宿泊施設は観光活動の要であり、環境改善や地域社会への貢献に大きな役割を担います。ISO21401はこうした時代の流れに対応し、持続可能な社会の実現に向けた宿泊施設の取り組みを支える重要な指針となっています。
ISO21401導入のメリット
ISO21401を導入することで、宿泊施設は持続可能な運営体制を確立し、社会的責任を果たせます。規格の採用により、施設運営のさまざまな面で多くのメリットが得られるでしょう。[2]
以下に具体的な利点をご紹介します。
環境負荷を低減し、地域社会に貢献
環境保護の取り組みを体系化することで、施設運営による負荷を最小限に抑えられます。また、地域資源や文化の保全に貢献し、地元との関係をより良いものにします。
従業員のやりがいと満足度を高める
持続可能性を意識した業務プロセスの導入により、従業員が自らの仕事に社会的な意義を見出せるようになり、働きがいや満足度の向上につながります。
サステナブルな体験で顧客満足度アップ
環境や地域に配慮したサービスは、多くの旅行者に共感を呼びます。サステナビリティ志向のゲストに選ばれる宿泊施設となり、顧客満足度やリピート率が向上します。
地域との連携を深め、信頼関係を築く
地元企業やコミュニティと協力することで地域との結びつきを強め、信頼関係の構築が可能です。これにより、地域社会全体の支援を得られるようになります。
ISO認証でブランド価値を向上
国際規格であるISO21401の認証取得は、宿泊施設の環境・社会への取り組みを対外的に示す証となり、企業のブランド価値や競争力を高める効果があります。
ISO21401認証取得の国内事例
国内で持続可能な観光産業を推進する取り組みが進む中、ISO 21401の認証を取得した施設が注目を集めています。草津温泉ホテルヴィレッジは、日本で初めて認証を取得し、その挑戦と成果が大きな話題となりました。[2]
同施設の実践は、業界全体の模範となる可能性を秘めているといえるでしょう。
草津温泉ホテルヴィレッジの事例
草津温泉ホテルヴィレッジは、2024年12月、日本国内で初めて宿泊施設の持続可能性マネジメントシステム規格であるISO 21401の認証を取得しました。認証取得に向け、2023年秋からコンサルティング会社と協力し、約1年間にわたり以下の取り組みを行いました。
規格の翻訳と解釈
ISO 21401は国内での規格化が進んでおらず、日本語版も存在しないため、英語の原典を基に、要求事項の解釈を実施
独自のマネジメントシステム構築
翻訳と解釈に基づき、ホテルの組織文化や業務運用に適した独自の持続可能性マネジメントシステムを構築
スタッフの参画と意識向上
経営層からスタッフまでが強い意志を持ってプロジェクトに参加し、全社的な意識向上を図った
上記の取り組みは、ISO 21401の規格開発責任者であるアレシャンドレ・ガリド氏から「経営層とスタッフの高いコミットメント」「業務管理の強化」といった点で高い評価を得ています。
草津温泉ホテルヴィレッジは、日本三名泉の一つである草津温泉に位置し、最大の収容人員数を誇る総合温泉リゾート施設です。
源泉かけ流しの大浴場や露天風呂、プール&リラクゼーション施設「テルメテルメ」、広大な敷地を活用したアスレチックや森林浴散策など、多彩なアクティビティを提供し、年間20万人以上の宿泊客を迎えています。
ISO 21401認証取得を契機に、同ホテルは持続可能な運営をさらに推進し、顧客、従業員、地域社会の未来に貢献する企業を目指して活動を続けています。
こうした試みは、国内の宿泊業界における持続可能性への関心を高め、他の施設への波及効果も期待されています。
ISO21401 導入に向けたステップ
持続可能な宿泊施設運営を目指すためには、持続可能性の観点から経営を見直し、市場の変化に対応できる体制を築くことが重要です。以下では、国際規格 ISO 21401 の導入手順を分かりやすく解説します。[3]
自社の現状を把握する
まずは、すでに宿泊施設で実施している環境や従業員配慮の活動を洗い出します。
- 施設内でのエネルギーや水の消費状況
- 環境負荷を軽減する取り組み
- 地域社会との関わりや従業員の働きやすさ
これらの要素を「環境」「社会」「経済」の3つの視点から診断し、持続可能性に関連する活動の全体像を把握しましょう。
パフォーマンスを測る指標を導入する
次に、ホテルの現状を定量的に評価するための「サステナビリティ指標」を選びます。
例えば以下のようなものが考えられます。
- 水やエネルギーの使用量
- 廃棄物の削減率
- 顧客満足度や地域社会への貢献度
指標を設定することで、サステナブルな運営状況を正確に把握し、効果的な意思決定を行えるようになります。
明確な目標を設定する
現状分析と指標の導入ができたら、次は具体的な目標を設定します。
- 水の使用量を年間10%削減
- 廃棄物リサイクル率を50%に向上
- 顧客満足度を90%以上に引き上げる
目標は具体的で測定可能なものにしましょう。
持続可能性マネジメントシステムの導入
設定した目標を達成するために、ISO 21401の要求事項をもとに管理体制を整えます。
- 持続可能性の観点を含む事業戦略の策定
- 定期的なモニタリングと評価
- 改善計画の策定
ISO 21401のフレームワークに沿って進めることで、持続可能な運営が体系的に可能になります。
パフォーマンスの継続的な向上
導入後も定期的に結果を見直し、新しい取り組みを加えていくことが大切です。
- 成果を検証し、成功事例を拡大
- 発見された課題に対処し、さらなる改善を実施
このようなプロセスを繰り返すことで、ホテルのサステナビリティを継続的に強化できます。
持続可能な宿泊施設へ、第一歩としてのISO21401
ISO21401の導入は、宿泊施設が環境保護や地域社会への配慮を強化し、競争力を高めるための有効な手段です。この規格を導入することで、施設は持続可能性を意識した運営体制を確立でき、サステナビリティ志向の顧客に選ばれる魅力ある施設となるでしょう。
国内初の事例である草津温泉ホテルヴィレッジの成功は、他の宿泊施設にも導入の可能性とメリットを示しています。持続可能な観光はこれからの観光産業における必須の課題であり、宿泊施設業界全体がこの流れに積極的に対応することが期待されます。


参考文献