シニアボランティアが支える観光地づくり|持続可能な人材モデルを解説

観光地の人材不足が深刻化する中、シニアボランティアガイドという新しい担い手が全国各地で注目されています。
シニアボランティアガイドとは、退職後や子育てを終えたシニア世代(50~70代)が観光ガイドとして地域の魅力を伝える活動のことです。
プロのガイドとは異なり、豊富な人生経験や地域の深い理解を活かせる点が特徴。シニア世代ならではの視点で案内できることが魅力です。
観光地におけるシニアボランティアガイドは、人材不足解消だけでなく、あらゆる方面にメリットをもたらす持続可能な人材モデルとして評価されています。
本記事では、多くの観光地でシニアボランティアが広がる背景や、具体的な事例について詳しく解説します。
観光地で広がる「シニアボランティア」という新しい担い手

観光地におけるシニアボランティアの活躍は、年々広がっています。その背景には、シニア世代そのものの増加に加え、シニア世代の「社会と関わり続けたい」という意欲の高まりが影響しています。
シニア世代の増加
観光地におけるシニアボランティアの増加の背景には、日本の人口構造の変化があります。
仕事を引退した後も「経験や知識を活かして誰かの役に立ちたい」と考えるシニアにとって、ボランティアガイドは無理なく社会とつながれる場です。こうした流れを受け、観光地で活動するシニアボランティアガイドが増加しています。
シニア世代の社会参加意欲の高まり
シニア世代の社会参加意欲が高まっている点も、観光地におけるシニアボランティアが増加している理由の一つです。
こうした社会参加意欲の高まりは、賃金の発生する仕事だけでなく、ボランティア活動にも見られます。
内閣府が発表した「市民の社会貢献に関する実態調査(2022年度)」によると、2021年の1年間に、ボランティア活動を「したことがある」と回答した人は17.4%でした。さらに、年代が上がるほど参加率は高くなる傾向にあり、参加者の年代別では60歳代以上が30.5%を占めています。[4]
観光地におけるシニアボランティアの意義

シニアボランティアの活躍は、観光地・シニア本人・旅行者それぞれに大きなメリットをもたらします。
観光地にとっては、人材不足に悩む現場を支える貴重な担い手です。シニア本人には健康維持や生きがいをにつながり、旅行者には地域ならではの質の高い体験を届けます。
観光地にとってのメリット
観光地がシニアボランティアを受け入れる最大のメリットは、人材不足の解消です。
近年、多くの観光地では、ガイドや案内スタッフの確保が課題となっています。シニアボランティアがガイドとして参加すれば、採用コストを抑えながら人材を確保することが可能です。時間に余裕があるシニア世代は、平日や閑散期にも活動しやすく、観光地の運営を支える貴重な存在となります。
加えて、シニアボランティアによるガイドは、地域経済の活性化にも効果的です。
地域に住むシニアガイドは、ガイドブックに載るような有名店だけでなく、地元の小規模店舗や隠れた名所にも精通しています。シニアガイドが独自の目線で地元店を紹介することで、観光収入が広く行き渡り、地域全体の経済活性化を後押しします。
シニア本人にとってのメリット
ボランティアガイドとしての活動は、健康維持や生きがいの創出につながるためです。定期的に外出して人と接する機会が増えると、身体的にも精神的にも活力を保ちやすくなります。
さらに、シニア本人のウェルビーイング向上も期待されます。ボランティア活動を通じて社会的なつながりが生まれ、地域や旅行者に貢献しているという実感が得られるためです。社会に役立っている感覚は、自己肯定感や充実感を高めます。
加えて、ボランティアガイドの経験は、スキルアップにもつながります。ガイドの仕事を通して、訪日外国人への対応で語学力を磨いたり、地域の伝統・文化を改めて学んだりと、新たな知識や技能を身につけることが可能です。
場合によっては収入につながることもあり、仕事を探している方にとっても有益な機会となります。
旅行者にとってのメリット
シニアボランティアによるガイドは、観光体験の質を大きく向上させます。プロのガイドとは異なる「生活者目線」でのガイドは、地域の日常や暮らしに根ざした情報が豊富なためです。
とくに、ガイドブックには載っていない地元の名店や、隠れた名所を知りたい方には最適です。旅行者向けの情報だけでは出会えない、地域住民が実際に利用する店舗や訪れる場所への案内が期待できます。
長年その土地で暮らしてきたシニアだからこそできるガイドは、旅行者に「本物の地域」の魅力を届けます。
シニアボランティアが活躍する国内観光地の事例4選
すでに、日本各地の観光地でシニアボランティアが重要な役割を担っています。鎌倉、山形、京都といった歴史ある観光地を中心に、地域の魅力を伝える担い手として多くのシニアが活躍中です。
また、各観光地では勉強会や実地研修など、シニアボランティアがより活躍できるよう独自の環境整備も進められています。
NPO法人鎌倉ガイド協会

NPO法人鎌倉ガイド協会は、平成3年よりガイド活動を続ける歴史ある団体です。
前身はもともとは「鎌倉シルバー・ボランティアガイド協会」という名で、当初はシニアボランティアを中心に活動していました。[5] 平成21年にNPO法人し、参加者の年齢制限がなくなったものの、現在でも多くのシニア世代が活動中です。
本団体には、総合商社勤務や教職経験者など、さまざまな経歴を持つ人材が集まっています。そのため、鎌倉の魅力を伝えるだけでなく、これまで出合う機会がなかった人たちがつながる「交流の場」としても機能しています。[6]
また、小中学校の校外学習ガイドなども実施しており、地域教育にも貢献しています。
山形シルバー観光ガイド

山形シルバー観光ガイドは、高齢者の生きがいづくりや社会参加促進を目的に始まった取り組みです。山形県内にある9つの観光地で、さまざまな団体によるガイド活動が行われています。
2026年1月時点では、以下の9団体が山形シルバー観光ガイドに登録しています。[7]
- きざはし会(山寺観光協会)
- おしょうしなガイドの会(米沢観光コンベンション協会)
- いでは観光ガイドの会(羽黒町観光協会)
- 鶴岡市観光ガイド協議会
- さくらんぼの里観光ボランティアの会(寒河江市観光物産協会)
- まほろばの里案内人(高畠町観光協会)
- 上山市観光ガイドボランティア協会(上山市観光物産協会)
- 大石田町観光ボランティアガイド虹の町案内人(大石田町観光協会)
- 河北町べに花ガイド(河北町観光協会)
山寺周辺はきざはし会、米沢上杉神社周辺はおしょうしなガイドの会といったように、地域ごとに各団体が活動している点が特徴です。各地域に精通したシニア世代が、これまで培ってきた豊富な経験や知識を活かして、深みのある観光ガイドを行っています。
また、本団体は、ガイドのための勉強会、現地での研修、他市町村の観光ガイドとの交流など、サポート体制が充実している点も特徴的です。ガイドとして参加する人にとっても、学びが得られる仕組みも整えられています。
京都SKY観光ガイド協会

京都SKY観光ガイド協会は、高齢者の生きがい事業の一環として発足された団体です。
平成5年より活動を開始し、京都を愛するシニアガイドが旅行者の希望に沿ったガイドを提供しています。主な活動は、以下のとおりです。[8]
- 同行ガイド:希望日・希望場所にガイドが同行して案内
- 募集型ウォーキングツアー:京都市観光協会と共催のウォーキングツアー
- ホテルガイド:市内のホテルと連携した宿泊者向けの観光ガイド
- 常駐ガイド:常時あるいは定期的に公開している寺社・施設での観光ガイド
- 京都SKYシニア大学講座:京都ならではの魅力を学ぶフィールドワーク・座学の講座
また、ガイド希望者に「シニア観光ガイド養成講座」も開催しています。そのため、ボランティアガイドに挑戦してみたいものの、ハードルを高く感じている方に参加しやすい団体といえます。
京都シニア観光ガイド俱楽部

京都シニア観光ガイド俱楽部は、2018年11月に有志を中心に発足した観光団体です。歴史や文化への探究心が強く、学習意欲の高いシニアが多数集まり、深い京都の観光体験を提供しています。[9]
観光場所の案内に加え、お土産・食事処、観光ルートの提案、特別拝観などの情報提供も実施。また、京都観光に関する相談に幅広く対応する、コンシェルジュとしての役割も果たしています。
本団体はとくに勉強・研究に力を入れている点が特徴的です。
京都学関連のセミナーやシンポジウムへの参加、他の観光ガイド団体との連携も積極的に実施。実地研修を行いながら、観光ルートや提案する交通機関の選択も日々改善しています。
旅行者に深い京都の体験を提供するだけでなく、参加者のスキルアップにもつながる活動を行っています。
シニアボランティアと連携した観光地づくりのポイント
シニアボランティアと連携し、より良い観光地をつくるためには、適切な体制整備が欠かせません。持続可能な取り組みとするために、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
- シニアボランティアが活躍しやすい環境づくりを行う
- 自治体・NPOとの連携を行う
- 「地域価値を高める戦略」として取り組む
シニアボランティアが活躍しやすい環境づくりを行う
シニアボランティアが長く活躍するには、無理なく参加できる制度設計が不可欠です。活動時間の柔軟性や体力に配慮した役割分担を設け、参加者それぞれの状況に合わせた環境づくりを行いましょう。
短時間や季節限定での参加など、多様な関わり方を用意することで、より多くのシニアが継続的に活動できるようになります。
また、サポート体制の整備も重要です。研修プログラムやマニュアルを整え、整備し、初めて参加する方でも安心してスタートできる環境を用意しょう。
デジタルテクノロジー活用のためのフォローも有効です。、時代に合わせた支援も合わせた支援を組み合わせることで、シニアボランティアが自信を持って活動できる基盤が築けます。
自治体・NPOとの連携を行う
シニアボランティアの活動を持続的に支えるには、自治体やNPOとの連携が欠かせません。
連携を進める際には、それぞれの役割分担を明確にすることが大切です。自治体が制度面や予算面でのバックアップを行い、NPOが日常的な活動運営を担うなど、それぞれの強みを活かした協力体制を築きましょう。
さらに、定期的な情報共有の場を設けることも重要です。情報共有により課題を早期に発見し、改善を続けることで、安心して活動できる環境につながります。
「地域価値を高める戦略」として取り組む
シニアボランティアの起用は、単なる人手不足対策として捉えるべきではありません。地域の魅力を最大限に引き出し、観光地としての価値を高める戦略として位置づけることが重要です。
長年、その地域で暮らしてきたシニアだからこそ伝えられる知識や物語は、他では得られない貴重な観光資源です。
また、シニアボランティアを単なる労働力として扱うのではなく、地域の魅力を伝える存在として尊重することで、参加者の意欲向上にもつながります。シニアボランティアの参加意欲が向上すれば活動の質も自然と高まり、結果的に地域の魅力向上が期待できます。
人材を確保するだけでなく、地域ならではの体験価値を生み出す取り組みとして、シニアボランティアとの連携を進めていきましょう。
まとめ | シニアボランティアと連携して持続可能な観光地づくりを
シニアボランティアは、これからの観光地づくりに欠かせない存在です。人材不足の解消にとどまらず、地域ならではの魅力を伝え、観光体験の質を高める重要な役割を担っています。
本記事で紹介した事例からもわかるように、適切な環境整備を行えば、シニアと観光地の双方にメリットをもたらす仕組みが構築できます。まずは、シニアが無理なく参加できる制度設計から始め、持続可能な観光地づくりを目指しましょう。
参考文献
[2] 統計トピックスNo.142 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-
[3] 「おてつたび」シニア利用者増|50代・60代が地方の人手不足解消に貢献|動機は“新しい経験”や“日本各地への旅” | 株式会社おてつたびのプレスリリース
[4] 2022年度(令和4年度) 市民の社会貢献に関する実態調査 報告書
[5] 古都鎌倉の史跡めぐり NPO法人鎌倉ガイド協会 協会のあらまし
