観光客から担い手へ。「田舎暮らし体験」×「短期滞在」が育てる関係人口

人口減少や人手不足が進む中、地域は「移住者」だけでなく、地域外から継続的に関わる人材を求めています。そこで注目されているのが、観光とお試し移住の中間に位置する「田舎暮らし体験の短期滞在プログラム」です。
短期滞在プログラムは、数日から数週間の滞在を通じて、地域の暮らしや仕事、人とのつながりを体感できる取り組みを指します。
本記事では、田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムが関係人口を育てる仕組みや、国内の具体的な事例について詳しく解説します。
田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムの効果

田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムは、地域と参加者の新たな関係性を生み出す取り組みとして注目されています。
短期滞在プログラムでは、従来の観光では体験できなかった「地域の日常」に入り込むことが可能です。プログラムを通じて参加者は地域との接点を持ち、継続的に地域と関わる「関係人口」へと成長していきます。
関係人口の創出につながる
田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムは、従来の観光とは異なり、地域との継続的な関係性を生み出すのが特徴です。
従来の観光は、名所を巡り、宿泊施設に泊まるといった「消費」が中心になりがちでした。しかし、短期滞在プログラムでは地域住民との交流や農作業、地域行事への参加など、地域の日常が体験可能です。
参加者は単なる「訪問者」ではなく、地域コミュニティの一員として過ごすため、地域への愛着や当事者意識が芽生えやすくなる傾向にあります。結果として、滞在後も地域の情報を追い続けたり、再訪したりする関係人口へと自然につながっていきます。
関係人口とはなにか?地域にとっての重要性
関係人口とは、定住人口でも旅行者でもない、地域と継続的に関わり続ける人々のことです。地域に住んでいなくても、訪問や交流、情報発信などを通じて地域を応援する存在を指します。
地域にとって、関係人口は地域活性化のための重要な存在です。イベントへの参加や商品・サービスの購入、SNSでの情報拡散など、さまざまな関わり方で地域活性化に貢献するからです。また、地域外の視点やスキルを持ち込み、活動を後押ししてくれる貴重な人材としても期待されています。
さらに、関係人口が将来的に移住や起業といった形で、地域の担い手になる可能性もあります。
田舎暮らし体験×短期滞在プログラムが担う「中間層」の役割
観光とお試し移住の間には、大きなギャップがあります。観光は地域を「消費」する行動が中心です。一方、お試し移住は「定住前提」で地域との深い関わりを求められます。結果として、両者の間を埋める選択肢が不足していました。
田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムは、この中間層を取り込む役割を担っています。地域の日常に触れる体験を提供しながらも、移住ほどの覚悟や時間的負担を求めません。そのため、幅広い層へのアプローチが期待できます。
旅行者とお試し移住のギャップ
旅行者と移住希望者の間には、地域との関わり方に大きな差があります。旅行者の行動は、地域の名所巡りや飲食、宿泊といった「消費」が中心になりがちです。そのため、参加へのハードルは低いものの、地域や住民との交流は限定的になりやすい傾向があります。
一方で、お試し移住は定住を前提とした取り組みです。参加にあたっては、仕事探しや住居の確保、地域コミュニティへの参加など、本格的な生活基盤を整える準備が求められます。そのため、参加へのハードルが高く、本格的に移住を検討している方以外は参加しづらいのが現状です。
このように、観光とお試し移住の間には心理的にも時間的にも大きな隔たりがあります。その「間」を埋める選択肢として、短期滞在プログラムが有効です。
田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムの国内事例5選
全国各地の自治体では、田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムが展開されています。農作業や地域行事への参加、地元企業でのインターンシップなど、プログラム内容は地域によってさまざまです。
中には子育てに焦点を当てたプログラムや、テレワーク環境を整備しているプログラムもあります。
下呂ふるさとワーキングホリデー | 岐阜県下呂市

下呂ふるさとワーキングホリデーは、岐阜県下呂市が実施する、約2週間の短期滞在プログラムです。参加者は市内の職場で働きながら、下呂市ならではの産業やまちづくりを学ぶことができます。
対象者や参加条件などは、以下のとおりです。[1]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者・参加条件 | 下呂市外に住んでいる方参加後のアンケート、報告書、SNSでの広報活動にご協力いただける方 |
| 支給されるもの | 勤務先からの賃金・作業着など宿泊費補助(補助上限額1日当たり5,000円)勤務に関わる交通費(宿泊場所~勤務場所) |
| 参加者が負担するもの | 期間中の飲食費自宅から下呂市までの往復交通費 ※その他、受入れ先によっては個人負担が発生する場合がある |
下呂ふるさとワーキングホリデーの特徴は、仕事を通して地域住民との深い関係を育める点です。過去には、職場の方やその家族とともに、観光スポットやイベントを訪れる参加者もいました。
単なる対話や交流にとどまらず、より深い地域住民とのつながりを求めている方に最適なプログラムです。
遠山郷ショート留学 | 長野県飯田市

遠山郷ショート留学は、長野県飯田市の山間部にある保育園で、自然保育を体験できるプログラムです。小規模な保育園で自然環境を活かした保育や、地域住民との交流を楽しめます。[2][3]
参加対象者や費用などの詳細は、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
| 参加対象者 | 2025年4月1日時点で3歳(年少クラス)〜就学前のお子さんのいる家庭 |
| 相談・体験受付日時 | 2025年4月22日〜2026年2月27日 |
| 費用 | 保育園の費用(給食費300円/1日、延長保育料250円/1時間)、滞在費用(宿泊費、生活費など) |
| 参加費補助 | 宿泊費補助(1泊上限5,000円)あり |
保育園の周辺は、大きな川と山がある自然豊かな環境です。また、園庭や近所の畑ではトマトやナス、さつまいも、地域の伝統産業である「お茶」などが栽培されています。
また、リモートワークなどを行う方向けには、フリーWi-Fiが完備された有料施設も用意。地域内の仕事や、農作業を体験することも可能です。
しごと暮らし体験 | 和歌山県

しごと暮らし体験は、地域の企業や農家の仕事を体験しながら、和歌山県での暮らしも体験できるプログラムです。本格的な移住はまだ検討しておらず、漠然とした興味があるだけという方も積極的に受け入れています。
本プログラムの特徴は、参加者の要望に応じた、以下の3つのコースが用意されている点です。[4]
- しごと暮らし体験コース(求人なし)
- しごと暮らし体験コース(求人あり)
- テレワーク体験コース
また、本プログラムでは、1年間に3ヶ所まで参加可能です。受入れ先の日程が合えば、一度の訪問で複数の受入れ先を組み合わせて参加することもできます。
しごと暮らし体験コース(求人なし)
しごと暮らし体験コース(求人なし)は、プログラム期間のみ仕事体験ができるコースです。プログラム終了後の求人募集はないため、自身で起業したい方や農業を始めたい方に適しています。
主な受け入れ先は農家や農園で、1泊2日から参加可能です。実際の農作業や農家の暮らしを体験しながら、将来の事業イメージを具体化できる貴重な機会となっています。
しごと暮らし体験コース(求人あり)
しごと暮らし体験コース(求人あり)は、実際に求人募集を行っている職場で仕事体験ができるコースです。事前に入社後の仕事を一部体験できるため「和歌山で就職したいがホームページや求人票の情報だけでは不安」という方に適しています。
1泊2日から参加でき、受け入れ業種は農業や小売業、宿泊業などさまざまです。入社前のミスマッチを防ぎ、安心して就職活動を進められるコースとなっています。
テレワーク体験コース
テレワーク体験コースは、県内のコワーキングスペースで自身のテレワークを行うコースです。
コワーキングスペースのほか地域のコミュニティスペースや古民家を活用したレンタルスペースも利用可能です。本コースには、1泊2日〜2泊3日の期間で参加できます。
リモートワークを行いながら、地方での生活や地域コミュニティとの関わり方を体験したい方におすすめのコースです。
養父市グリーンステイ | 兵庫県養父市

養父市グリーンステイは、兵庫県養父市で農業体験ができるプログラムです。
参加者は、農業を手伝いながら田舎暮らしを体験し、心身のリフレッシュや農業技術の習得、農家との交流ができます。
本プログラムの詳細は、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 参加要件 | 都市部に住む、18歳以上(代表者)の方。(団体の場合、1団体5人まで) |
| 応募締め切り | 体験希望日の2週間までに申し込み(※短期お試し住宅を希望する方は3週間前までに申込が必要) |
| 体験できる主な活動 | 堆肥作り、種まき、植付け、摘果、収穫など |
| 費用負担 | 宿泊費・食事代・現地までの交通費・保険・急な病気やけがなどにかかる医療費 |
| 宿泊施設 | 民間の宿泊施設を利用した場合、市から支援あり。また、体験受入れ農家もしくは短期お試し住宅に宿泊する場合は無料(※短期お試し住宅とは5泊6日まで宿泊可能な市所有の移住者専用のお試し住宅) |
| 食事 | 原則参加者が負担 |
| 参加期間 | 1泊2日、もしくは日帰り |
収穫作業だけでなく調理や食事まで体験でき、養父市の農業の生産から消費までを一挙に体験できるプログラムとなっています。
暮らし体感インターンシップツアー | 大分県竹田市

暮らし体感インターンシップツアーは、大分県竹田市で、仕事体験や地域体験ができる2泊3日の短期滞在プログラムです。
竹田市は大分県の南西部、九州のちょうど中央辺りに位置する地域です。雄大な山々に囲まれ、清らかな水と豊かな土壌に恵まれています。また、画家の田能村竹田や音楽家の瀧廉太郎など、さまざまな文化人を輩出した地域としても有名です。[7]
本プログラムでは、以下の2種類のツアーが用意されています。[8]
| インターンシップの種類 | 内容 |
|---|---|
| しごと型インターンシップツアー | 竹田市の企業にて、現場の仕事を体験。認定こども園での保育士体験・老舗和菓子屋での製造と販売の体験・リゾートホテルでの接客体験など |
| 地域体験型インターンシップツアー | 竹田市の「暮らし」を体感しつつ、まちづくりと地域課題解決のボランティアを実施。移住者との対話や交流・移住シミュレーション・ベテラン農家のもとでの就農体験など |
「しごと型」は、仕事を中心に「地域体験型」は、暮らしや地域活動を中心に体験できる設計です。
竹田市の産業やビジネスに触れたい方、竹田市の文化や風土に触れたい方にも最適なプログラムです。
田舎暮らし体験を活用して「参加者」を「地域の担い手」へと育てるポイント
体験が「一度きり」で終わると、プログラム終了と同時に参加者との関係性が途切れてしまいます。そのため、参加者が地域に愛着を持ち、継続的に関わりたくなる仕組みを用意する必要があります。
以下の2つのポイントを意識して「参加者」を「地域の担い手」へと育てるプログラムを設計しましょう。
体験を「参加」に変えるプログラム設計を行う
参加者を地域の担い手へと育てるには、見る・泊まるだけの受動的な体験では不十分です。参加者が、地域の仕事や意思決定に関わる機会を用意しましょう。
たとえば、以下のような活動が考えられます。
- 地域イベントの企画会議への参加
- 農作業における収穫の判断
- 地域課題を解決するワークショップへの参画
大切なのは、小さくても何かの役割を参加者に与えることです。
役割を与えられることで、参加者は「自分も地域の一員」という意識を持ちやすくなります。その結果、プログラム終了後も地域に関わり続けたいという思いが芽生え、関係人口へとつながります。
滞在後も関係が続く仕組みを作る
SNSで地域の最新情報を共有したり、地域イベントへの招待を行ったりと、参加者が地域とつながり続けられる導線を用意しましょう。
具体的には、以下のような取り組みが有効です。
- 参加者限定のオンライン交流会
- 地域の特産品の定期購入制度
- 地域イベントへの優先参加権の付与
滞在中に築いた関係性を維持し、参加者が「また戻りたい」「地域を応援したい」と思える仕組みが、関係人口の創出につながります。
まとめ | 田舎暮らし体験×短期滞在プログラムで関係人口を育てるために
田舎暮らし体験ができる短期滞在プログラムは、旅行者と移住希望者の中間層にアプローチする有効な手段です。参加のハードルが比較的低く、地域の日常にも触れられるため、関係人口の増加が期待できます。
プログラム参加者を将来的な地域の担い手へと育てるには、見る・泊まるだけで終わらせない工夫が必要です。地域の仕事や意思決定に関わる機会を用意し、「自分も地域の一員」と感じられる設計にしましょう。
地域と参加者の関係を育て、継続的に関わり続ける人を増やすことが、関係人口の創出につながります。
参考文献
[1] 【岐阜県下呂市】ふるさとワーキングホリデー[参加者募集]
[2] 「自然保育」と「お試し移住」を体験!〜遠山郷ショート留学の募集案内〜 – 飯田市移住ポータルサイト – 飯田市ホームページ
[3] 土に触れ、心と身体を育む!〜自然保育と移住体験のショート留学プログラム〜(長野県飯田市) | 地域とつながるプラットフォーム スマウト (SMOUT)
[6] 【2024年7月15日に開催】農ある暮らしを体験「とって、食べて、話そう 養父の暮らし」(兵庫県養父市) | 地域とつながるプラットフォーム スマウト (SMOUT)
