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観光は地域の負担を減らせるか|里山資本主義×リジェネラティブツーリズムという選択

2026 2/19
リジェネラティブツーリズム
サステナブルツーリズム 地産地消 持続可能な観光 里山資本主義
2026-3-3

エネルギー価格の高騰や食料供給の不安定さを背景に、地域の暮らしをこれからどう支えていくのかという問題が、各地でより身近なものになってきました。そうした状況の中で注目されているのが、地域の資源をできる限り地域の中で循環させるという考え方である「里山資本主義」です。

一方、観光の分野でも変化が起きています。観光客が訪れて消費するだけの関係ではなく、地域の自然や暮らしとどう関わるのかが重視されるようになってきました。そこで注目を集めているのが、地域を「より良い状態にして次へつなぐ」ことを目指すリジェネラティブツーリズムという考え方です。

今回の記事は、里山資本主義とリジェネラティブツーリズムがどのように結びつき、実践として成立しうるのかを考えていきます。

目次

なぜ今「里山資本主義×リジェネラティブツーリズム」なのか

画像出典:日本政府観光局(JNTO)

いま、里山資本主義とリジェネラティブツーリズムという二つの考え方が同時に注目されています。

日本総合研究所の分析によると、全国市町村の約51.5%が過疎市町村に指定されています。

過疎市町村では、人口減少が進み、高齢化によって地域を支える担い手が不足している状態です。結果として、産業や生活インフラの維持が難しくなるケースも増えています。[1]

地方で暮らしや仕事を続けていくこと自体が、多くの地域で課題となっているのです。

また、これまでの観光は、訪れた観光客が消費を行い、その対価として地域経済が潤うという構図が前提でした。しかし現在は、観光が地域や環境に与える影響そのものが課題として認識されるようになっています。

実際に日本政府観光局(JNTO)や国土交通省観光庁も、環境配慮や住民生活との両立を前提に観光を評価・管理する必要性を示しています。[2][3]

ここで注目されるのが、里山資本主義の考え方です。

エネルギーや食といった生活に欠かせない資源をできる限り地域の中で循環させることで、外部への依存を減らし、暮らしと経済の安定性を高めようとする発想です。

この考え方は、現代社会が直面しているエネルギー価格の変動や輸入に頼る食料供給の不安定さ、自然環境の変化といった将来の見通しが立てにくい状況の中で、地域の未来を支える重要な価値観として浮上しています。

だからこそ今、里山資本主義とリジェネラティブツーリズムを掛け合わせる視点が重要なのです。観光を一時的な消費で終わらせず、地域の循環に接続する。暮らしと経済を同時に支えるための、実装可能な選択肢として捉え直す必要があります。

里山資本主義を「経済安全保障」として捉え直す

里山資本主義は、しばしば「自然に囲まれた暮らし」や「地方移住」と結び付けて語られがちです。しかし本質は、暮らしの雰囲気やライフスタイルの話ではありません。地域が生活に欠かせない資源をどれだけ自分たちで確保できているかという思想です。

『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』の著者藻谷氏も、里山資本主義は、資本主義社会の欠点を里山の活用によって補う考え方だとしています。[4]

そもそも資本主義社会というのは、個々人が働いて得たお金で商品やサービスを購入し、必要な物を手に入れるという社会のことです。この仕組みでは、食料やエネルギーなど生活必需品の多くを外部の供給に頼ることになりやすくなります。

エネルギーや食料の多くを地域外に依存している状態では、価格の高騰や供給の停滞といった外部要因の影響を、そのまま受けることになります。

里山資本主義は、こうしたリスクを前提に地域の中にある資源を活かして外部依存を少しずつ減らし、外部の変化が暮らしや仕事に与える影響を減らそうとする考え方です。

この視点は、国全体の話として語られがちな「経済安全保障」を、地域の暮らしレベルに引き寄せたものだと言えます。

「経済安全保障」とは、つまり「国や社会がエネルギー・食料・資源などの生活や経済を支える土台を外部の状況で突然失わないように備える」という考え方のことです。

国や市場の動きに左右されすぎず、何をどこまで自分たちで支えていけるか。里山資本主義は、その現実的な方向性を示しています。

エネルギーと食の地域循環が地域にもたらす安定性

エネルギーと食を地域内で循環させることは、外部の状況が変わったときに、地域が受ける影響をやわらげます。電力や燃料、食料を遠方からの供給に大きく依存している場合、価格の上昇や物流の停滞の影響はすぐに地域の暮らしへ及びます。

一方で、地域の森林資源を活用したエネルギー供給や、地域で生産された食物を地域で消費する仕組みがあれば、外部からの影響を一定程度やわらげることができます。

ここで大切なのは、すべてを地域で完結させることではありません。一部でも地域内でまかなえる割合を増やすこと自体が、非常時に対する「余地」や「逃げ道」になります。生活の根幹を支える領域だからこそ、エネルギーと食は地域の持続性に直結します。

田舎暮らし礼賛と一線を画す理由

里山資本主義が誤解されやすい理由の一つに、「自然豊かな場所での丁寧な暮らし」といったイメージが先行しやすい点があります。しかし、里山資本主義の本質は、個人の価値観やライフスタイルの選択を称賛することではありません。

重視しているのは、地域としてどのような経済構造を持つかという点です。自然資源を活かすのは目的ではなく、外部に依存しすぎない経済の形をつくるための手段に過ぎません。そのため、里山資本主義は「田舎に移住できる人の話」でも、「スローライフを楽しむ人の話」でもないのです。

むしろ人口が減り地域の担い手が限られていく中で、森林や農地、エネルギー、人の手といった身近な資源をどう使えば、これまで続いてきた暮らしや仕事を無理なく維持できるのか。里山資本主義は、そうした現実的な問いに向き合うための視点です。

この点において、里山資本主義は感覚的な田舎暮らし礼賛とは明確に一線を画しています。

リジェネラティブツーリズムが観光の役割を変える

これまで観光は、地域に人を呼び込み、宿泊や飲食、買い物といった消費を通じて経済効果を生み出すものとして語られてきました。一方で、観光客が増えるほど、自然環境や地域の暮らしに負担をかける場面も出てきます。

こうした背景の中で注目されているのが、観光を「地域から何かを得る行為」から、「地域とどう関わるか」という視点へ切り替える考え方です。リジェネラティブツーリズムは、観光によって生じる影響を前提としたうえで、その関わりが地域の自然や社会をより良い状態へ導く可能性に目を向けます。

観光は、経済効果だけで評価される段階から、地域の状態にどのような変化をもたらすかが問われる段階に入りつつあります。

リジェネラティブツーリズムの基本的な考え方

リジェネラティブツーリズムの特徴は、環境や文化への悪影響を抑えることにとどまらない点です。関わることで地域の状態がより良くなることを目指します。

たとえば、自然環境の保全や回復、地域コミュニティの維持といった取り組みを、観光と切り離すのではなく、観光の中に組み込んでいく考え方です。滞在や体験が、結果として地域の営みを支える方向に作用することが理想になります。

ただし、リジェネラティブツーリズムは決まった手法や形式があるわけではありません。地域ごとに抱える課題や資源の状況が異なります。そのため、何が「再生」につながるのかは、地域自身が考えていく必要があります。

観光客が「消費者」から「循環の担い手」になる

リジェネラティブツーリズムでは、観光客の位置づけも変わります。従来の観光では、観光客はサービスを受け、その対価を支払う「消費者」として捉えられがちでした。一方で、自然管理や資源の活用、地域の仕事の一部に触れる体験を通じて、観光客は地域の外にいる存在ではなく、地域の循環に一時的に参加する存在になります。

短い滞在でも、地域の仕組みを知り、背景を理解することで、旅の質は変わります。観光客が単に「消費する人」ではなく、「関わる人」として位置づける点が、リジェネラティブツーリズムの特徴です。

体験が地域の負担を減らすという逆転の発想

観光体験は、来訪者が増えることで、運営や管理の負担が増えるものとして考えられがちです。しかしリジェネラティブツーリズムでは、体験の内容次第で、その負担を軽くする方向に働かせることができると考えます。

たとえば、地域が日常的に行っている自然管理や資源循環の工程を体験として共有する方法です。地域の作業と観光が重なれば、観光が新たな負担になるのではなく、既存の営みを補完する形になりえます。

観光を地域の外側にある特別な活動として切り離すのでなく、暮らしや仕事の延長線上に位置づける。この発想の転換が、リジェネラティブツーリズムの大きな特徴です。

「訪れること」で地域の負担を減らす観光ビジネスへ

ここまで見てきたように、里山資本主義とリジェネラティブツーリズムを掛け合わせることで、観光は単なる集客手段ではなく、地域の営みを支える仕組みの一部として再設計することができます。

重要なのは、理念で終わらせないことです。運営負担や管理コスト、人手不足に観光が地域の負担になるのか、それとも支えになるのかは、体験や滞在の設計次第で大きく変わります。

資源循環参加型・滞在モデル

画像出典:南信州観光公社

資源循環参加型・滞在モデルとは、観光客が地域の自然管理や資源活用の一部に関わることを前提とした滞在の形です。

観光のために新たな体験を用意するのではなく、地域が日常的に行っている営みを、そのまま滞在に組み込む点にあります。

たとえば長野県・南信州エリアでは、農家民泊や森林体験を通じて観光客が農作業や山の手入れ、薪づくりといった活動に参加する滞在が行われてきました。これらは観光向けに新設された仕事ではなく、もともと地域が必要としている作業です。[5]

このモデルでは、観光客の存在が必ずしも運営負担の増加につながるとは限りません。滞在と地域の仕事が重なることで、観光は地域の資源循環を補完し、訪れること自体が、地域の維持に寄与します。

地産地消×高付加価値ダイニングモデル

画像出典:金沢大学ユネスコチェア

ここでいう「ダイニング」とは、単に食事をする場ではありません。地域で採れた食材を使い、その土地ならではの食文化や背景ごとに味わう食の体験を指します。料理の味だけでなく、地域のストーリーを含めて提供する点が特徴です。

石川県・奥能登地域では、里山里海の資源を背景にした食の取り組みが、文化イベントや観光と結びついて展開されてきました。地元で採れた食材を使うだけでなく、「なぜこの土地でこの作物が育つのか」「どの季節にどんな恵みが得られるのか」といった背景も含めて伝えられています。[6]

たとえば、海と山が近い地形が生む食材の多様さや、冬と夏で大きく変わる献立など、土地の環境や季節の移り変わりそのものが体験の一部になります。こうした要素があることで、食事は単なる消費行動ではなく、その地域でしか成立しない時間として記憶されます。

このモデルのポイントは、「地元食材を使うこと」自体ではありません。価格競争に巻き込まれにくい形を作り、価格の基準を安さから体験へ移すことです。

結果として、観光による消費が地域の外へ流出しにくくなり、地域内での循環につながります。

企業のサステナビリティ研修としての活用

画像出典:とくしま移住交流促進センター

観光は、個人旅行だけでなく企業活動と結びつけることもできます。環境や社会への配慮が求められる中で、地域を舞台にした滞在型プログラムはサステナビリティを現場で考える研修の場として活用され始めています。

徳島県・神山町では、人口減少や地域資源の活用といった現実的な課題に向き合う現場を、企業研修の場として提供してきました。参加者は地域での仕事や暮らしに触れながら、自社の事業や働き方を見直す視点を得ていきます。[7]

このような取り組みは、地域にとっては新たな関係人口や収入源となり、企業側にとっては抽象的な理念にとどまらない学びになります。観光と研修を組み合わせることで、地域の循環と企業活動が交わる実践の接点が生まれるのです。

まとめ:観光が地域循環を加速させるエンジンになる

リジェネラティブツーリズムは観光を「訪れて消費する行為」から、地域の資源や営みの循環に関わる仕組みとして捉え直す考え方です。人が訪れること自体が負担になるのではなく、関わり方次第で観光は地域の日常を支える力にもなりえます。

里山資本主義が示してきたのは、エネルギーや食、労働をできる限り地域内で回し、外部依存を減らすことで「地域の持続性を高める」という考え方でした。そこにリジェネラティブツーリズムが加わると、「外から来る人」を地域循環の中にどう組み込むかを現場レベルで具体化できるようになります。

観光客は、資源を消費する存在から循環の一部に一時加わる存在へ。事業者は、集客数や単価だけでなく地域にどのような変化を残すかを設計する担い手へ。こうした役割の転換が進めば、観光は一時的な経済効果にとどまらず、地域の産業や暮らしが続いていくための土台を支えるものになります。

地域が実際に抱える課題や資源を踏まえながら、外部との関係をどう築いていくのか。その積み重ねていく先に、里山資本主義とリジェネラティブツーリズムが重なり合う、現実的な実践の形が見えてきます。

参考文献

[1]過疎法の意義を問い直す

[2]サステナブル・ツーリズムの推進

[3]持続可能な観光地域づくりのための体制整備等の推進

[4]里山福祉

[5]農家ホームステイ

[6]世界農業遺産「能登の里山里海」 | 活動領域 | 金沢大学ユネスコチェア

[7]令和6年度 神山町まちぐるみ研修生募集! | とくしま移住交流促進センター




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