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医療と観光がつくる「安心できる旅」。高齢化社会で選ばれるための地域戦略

2026 2/19
リジェネラティブツーリズム
エイジフレンドリーシティ サステナブルツーリズム シニア 各国の事例 持続可能な観光
2026-2-27


高齢化が進む日本では、観光地に求められる条件が大きく変わりつつあります。観光の主要顧客層が高齢者へと移行する中で、旅先選びの基準は「価格や話題性」から「安心して過ごせるか」へと変化しています。

高齢者は時間的な余裕がある一方で、健康面での配慮が必要な層です。そのため、バリアフリー対応だけでなく、医療機関へのアクセスや緊急時の対応体制といった「もしもの安心」が旅先選択の重要な判断材料となっています。

本記事では、高齢者層に対応した安心できる旅行モデルの考え方について解説。WHOが提唱するまちづくりや、海外の事例などを通じて、高齢化社会で選ばれる観光地づくりを学びましょう。

目次

高齢化社会が観光産業にもたらす課題

観光の主要な顧客層が高齢者へと移行する中で、従来の「短期・大量消費型」の観光モデルでは、多様化するニーズやリスクに十分対応できない状況が生じ始めています。

今後も選ばれ続ける観光地をつくるためには、こうした需要構造の変化を正しく理解し、新たな価値を提供することが必要です。

日本の高齢化の現状と将来予測

日本の高齢化は世界でも類を見ない速さで進行しています。2024年時点で高齢化率は29.1%に達し、2037年には33.3%にまで上昇すると予測されています。[1]

また、60代から70代にかけて旅行回数が大きく減少することから、70代以上のシニア層の旅行回数を増やす動きが国内では高まっている状況です。[2]

60代の旅行回数が年平均1.41回と20代に続いて2番目に多いのに対し、70代では年平均1.00回にまで減少。60代から70代にかけて旅行回数を維持できれば、国内の旅行者数が大きく増加すると考えられます。

そのため近年では、体力や健康面への配慮を前提に、70代以上の人が安心して旅行できるようにする取り組みが各地で進められています。

このように、観光産業にとって高齢者のニーズへの対応は、もはや選択肢ではなく必須の取り組みとなっているのです。

観光地が直面するニーズの変化

高齢者が観光の主要顧客層となったことで、求められる観光のあり方が「短期・大量消費型」から「安心・長期・質重視」へと変化しています。

高齢者は時間的余裕がある一方で、体力面や健康面への配慮が欠かせません。そのため、観光地選びの基準が、これまでの価格や話題性から「安心して過ごせるか」「自分のペースで滞在できるか」といった要素へと移りつつあります。

具体的には、アクティビティの豊富さよりも、医療機関へのアクセスや緊急時の対応といった滞在環境が重視される傾向が高まっています。

高齢化時代の観光に求められる新しい価値

バリアフリーやユニバーサルデザインの整備は、高齢者にとって快適な観光地の基本条件です。しかし、これからの時代、それだけでは選ばれる観光地にはなりません。

高齢者が安心して旅を楽しむためには、自治体や医療機関、事業者などが連携した旅行モデルの構築が重要です。

従来のユニバーサルツーリズムは、物理的なバリアフリー対応を中心としていました。具体的には、スロープや手すりといった環境の整備が挙げられます。[3]

一方、これからの時代に求められる「より安心できる旅行モデル」は、健康面や災害時などのサポート体制も組み込まれた、より発展的な旅の形です。

医療機関との連携による緊急時の対応体制や、高齢者が心地よく過ごせるまちづくりなど、包括的なサポートを提供することが求められます。

「もしもの安心」が旅先選択の基準になる

高齢者にとって、旅先での「もしもの安心」は、観光地選択を左右する重要な基準です。

持病を抱える高齢者や服薬が必要な高齢者は、旅行中の体調変化や急な症状悪化への不安を常に感じています。そのため、医療機関へのアクセスが確保されていない観光地は、選択肢から外れる傾向があります。

実際に、日本観光振興協会の調査では、高齢者が旅行を控える理由として「健康上の理由」が最も多く挙げられています。[4]

また、健康面だけでなく、災害時の避難体制や治安の良さも重要な判断材料です。緊急の災害への対応策や、夜間の街灯整備といった防災・防犯対策が整っていることは、高齢者に「何かあっても大丈夫」という安心感を与えます。

長期滞在を前提にした観光設計

高齢者を対象とした旅行モデルでは、長期滞在を前提とした観光設計が重要です。

具体的には、宿泊施設が医療機関と連携して緊急時の受入れ体制を構築したり、介護事業者が日常的な生活支援や服薬管理をサポートしたりする仕組みが考えられます。

ただし、医療機関が近くにあるだけでは不十分です。旅行者が加入している健康保険が適用されるか、クレジットカード払いに対応しているかといった実用性も重要になります。

WHOが提唱する「エイジフレンドリーシティ」と観光

画像出典:WHO

エイジフレンドリーシティとは、WHOが提唱する「高齢者が安心して暮らせる都市」あるいは、そうした都市をつくるためのガイドラインです。[5]

以下の8つの領域で、主要なサービスへのアクセス改善などを行い、高齢者が過ごしやすい環境を目指します。

  • 住居
  • 交通機関
  • 屋外スペースと建物
  • 地域支援と健康サービス
  • コミュニケーションと情報
  • 社会参加
  • 尊重と社会的包摂(居場所づくり)
  • 市民参加と雇用

住居や道路整備といったハード面での支援に加え、健康サービスの充実や社会参加のサポートなど、多岐にわたって高齢者を支援します。

高齢化社会に対応した観光地づくりとの親和性

エイジフレンドリーシティの考え方は、地元住民だけでなく高齢の旅行者にとっても、魅力的な地域づくりにつながります。

たとえば、地域支援や健康サービスの整備は、高齢者が旅先でも医療や介護と無理なくつながれる環境を構築。また、交通機関や屋外スペースと建物のバリアフリー化は、移動や滞在の安心感を高めます。

さらに、高齢者の尊重や居場所づくりを重視する考え方は、地域住民が高齢の旅行者を温かく受け入れる文化を育みます。

住民にとって暮らしやすい医療体制や交通網は、旅行者にとっても安心して滞在できる条件です。結果的に、観光地としての魅力を自然に高めることにつながります。

高齢者にやさしい観光地づくりの事例

高齢者にやさしい観光地にするためには、エイジフレンドリーシティの理念を取り入れた地域づくりが有効です。世界では、WHOのエイジフレンドリーシティグローバルネットワーク※に参加し、高齢者にやさしいまちづくりを進めている地域が増えています。

日本では高齢化の進展に伴い、高齢者による国内旅行が今後さらに活発になると予想されています。こうした状況を踏まえ、日本の各自治体や観光事業者にとって参考となる海外の事例を紹介します。

※エイジフレンドリーシティグローバルネットワーク:エイジフレンドリーシティの理念に沿ったまちづくりを行う自治体の国際的なネットワーク

観光アクセシビリティの総合推進 | 韓国・ソウル

画像出典:大韓民国公式電子政府

韓国のソウルは、2013年にエイジフレンドリーシティグローバルネットワークに参加した都市です。

表面的な施策だけでなく市条例の制定や実施委員会の設置など、エイジフレンドリーシティの理念に基づく本格的な都市づくりを実施。地元住民向けの施策にとどまらず、旅行者として訪れる高齢者にも優しい取り組みを多数展開しています。

たとえば、2018年には「Accessible Tourism Environment Plan(アクセシブル観光環境計画)」を策定。以下のような高齢者に優しい観光地づくりに取り組んでいます。[6]

  • 主要観光エリアの宿泊施設・レストランなどのユニバーサルデザイン推進
  • バリアフリー観光コースの開発
  • 観光アクセシビリティ情報(スロープのあるエリアや多目的トイレの場所など)の発信

また、観光環境計画の一環として「Seoul Danurim Accessible Tourism Center(以降ソウルアクセシブル観光センター)」の設置も行いました。

ソウルアクセシブル観光センターは、ソウル市とソウル観光財団が共同で設置した観光の総合窓口です。車いす対応車両(リフト付き車)や、補助機器のレンタルサービスなどを通して高齢者が安心して観光できる環境を整えています。

行政主導の高齢者向け観光戦略 | 台湾・台北

画像出典:Tourism Bureau, Republic of China (Taiwan)

台湾はエイジフレンドリーシティグローバルネットワークへの参加率がとくに高い国です。なかでも台北市は、高齢者向けの環境整備や政策がとくに進んでいます。

台北市の特徴は、観光局主導で観光環境全体のアクセシビリティ向上に取り組んでいる点です。

2026年1月時点で、バリアフリーに対応している観光ルートや施設は、178カ所以上にのぼります。[7]

また、政府主導で「Golden Years(凰金)」という高齢者向け旅行ブランドも運営。Golden Yearsでは、物理的条件や身体的な制約を考慮し、ゆったりと楽しめる観光ルート・施設の提案などを行っています。[8]

さらに、台北市の観光サイトには「Accessible Tourism(アクセシブル観光)」というカテゴリーを設置。[9] 環境整備を行うだけでなく、国や市が積極的に高齢者の観光をサポートしています。

高齢化社会で「選ばれる観光地」になるために

高齢化社会では、観光地選びの基準が「価格や話題性」から「安心して過ごせるか」へと変化しています。

高齢者が求める安心は、移動のしやすさなどの環境整備だけではありません。医療・介護へのアクセスや防災体制、治安の良さなど、さまざまな要素で構成されるものです。医療機関との連携や地域包括ケアシステムの整備などを通じて、総合的な「もしもの安心」を提供することが求められます。

WHOのエイジフレンドリーシティの考え方を取り入れた地域は、住民にとっても旅行者にとっても暮らしやすく訪れやすい環境になります。

高齢者が安心して旅を楽しめる地域づくりを進め、高齢化社会で選ばれ続ける観光地を目指しましょう。

参考文献

[1]1 高齢化の現状と将来像|令和6年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府

[2]車いす、足腰が不安なシニア層の国内宿泊旅行拡大に関する 調査研究

[3]ユニバーサルツーリズムの推進 | 新たな交流市場の開拓 | 国内交流拡大戦略 | 観光政策・制度 | 観光庁

[4]車いす、足腰が不安なシニア層の国内宿泊旅行拡大に関する 調査研究 

[5]WHO、エイジフレンドリーシティやコミュニティのための国家プログラム開発に関する新しいガイドを発表 | 公益社団法人 日本WHO協会

[6] 体の不自由な人や高齢者にも便利になったソウル観光 – ソウル市

[7] Convenient Travel Environment | Annual Report on Tourism 2024 Taiwan, Republic of China

[8] Brand to promote senior-friendly tours – Taipei Times

[9] Accessible Tourism in Taipei | Taipei Travel




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