ガイドが案内してくれるツアーなのに、なぜかつまらない。知識は豊富なのに、何も心に残らない。そんな体験をしたことはないだろうか。
逆に、同じ森を歩いても、あるガイドの説明を聞いた後だけ、木々の息遣いが違って聞こえた。川の流れの意味が見えた気がした。そういう体験も、ある。この差はいったい何から生まれるのか。その答えのひとつが「インタープリテーション」であり、それを地域・施設・ツアー全体として設計する「インタープリテーション計画」だ。
インタープリテーション計画とは、「その場所ならではの価値」の探求を基礎として、来訪者の体験とストーリーの共有を軸に、地域(または施設)と来訪者のコミュニケーションのあり方を、誰にでもわかりやすく可視化したものである。
インタープリテーションとは何か。「伝える」ではなく「気づかせる」技術

インタープリテーションとは、自然や歴史・文化の魅力や価値を紹介し、地域と来訪者を結びつける活動だ。自然公園や歴史遺産、観光地、ミュージアムなどで活動するガイドの仕事のなかで必要とされる技法であり、資源の保全や観光の振興にも重要な役割を果たすものとして注目されつつある。
この概念を体系化したのは、米国の研究者フリーマン・ティルデンだ。ティルデンはインタープリテーションを“単なる情報の提供でなく直接体験や教材を通し、事物や事象の背後にある意味や関係を明らかにすることを目的とした教育活動”と定義している。[1]
つまりインタープリテーションは、「説明する」行為ではなく、「気づきのきっかけをつくる」行為だ。インタープリターとは「解説者」ではなく、「気づきのきっかけをつくる人」ともいえる。インタープリテーションを活用することで、相手は知識の習得にとどまらず、自分ごととして深く理解・共感・行動につなげるきっかけを得ることができる。
この手法は、もともと公園を訪れる一般観光客の環境保護啓発を目的に、米国の国立公園から始まったもので、来訪者にメッセージを伝えることで、環境保護意識を高めようとするものだった。
現在は、世界遺産や観光地、国立公園、ビジターセンター、博物館といった世界中の施設や、エコツーリズム、教育現場などで効果的な技術として広く活用されている。
インタープリテーション計画の役割 | 個人の技術を「地域の設計」へ

インタープリテーションが「個人の技術」だとすれば、インタープリテーション計画はそれを「地域・施設・プログラム全体の設計図」として体系化したものだ。[2]
来訪者に提供する価値やストーリーを明らかにし、その提供方法などを定めたものがインタープリテーション全体計画であり、環境省の国立公園満喫プロジェクトにおいて各国立公園での策定が進められてきた。
計画に盛り込む要素は主に次の4つだ。
- テーマの設定 :
その地域・施設が伝えたい「核心的なメッセージ」を明確にする。単なる観光スポットの案内ではなく、「この場所が何を物語っているか」を言語化するプロセスだ - ターゲットの定義 :
誰に伝えるかによって、言葉も体験の設計も変わる。修学旅行の中学生か、環境意識の高いインバウンド旅行者か、地域住民か。受け手に応じたコミュニケーション設計が求められる - 媒体・手法の選択:
ガイドによる対話型ツアー、看板・サインボード、映像・音声ガイド、体験プログラム、インタープリテーションの「入れ物」は多様だ。計画では、テーマとターゲットに最適な媒体を選ぶ - 評価・更新の仕組み:
来訪者の反応やフィードバックをもとに、プログラムを継続的に改善するPDCAの設計も計画の一部だ
インタープリテーションの日本での活用事例

日本では、2000年代以降、環境教育促進法(2003年)やエコツーリズム推進法(2007年)の影響を受け、地域振興の手段としてのインタープリテーションが注目されるようになった。特に、自然公園やユネスコエコパークなどでの活用が進んでいる。
白神山地(青森・秋田) では、インタープリテーションを「参加する人々から上手に会話を引き出し、様々な物事と自然・文化・歴史を比較させたり、問いかけたりすることによって、参加者の思いを引き出し、自然や文化・歴史の裏側にある”メッセージ”を伝える活動」と定義し、ビジターセンターでのプログラムに活用している。 [3]

他にも日本全国のさまざまな地域で、インタープリテーションは活用されている。
一方、日本国内では無料のボランティアガイドが普及してしまった中で、ガイド養成時に知識の共有がメインになってしまい、参加者に気づきを与えるといった技術を持ち合わせていないケースが多い。一方的な情報の伝達になってしまっているのが大きな課題だ。
この課題を解消するために、インタープリテーション計画の策定が求められる。ガイド個人の力量に依存するのではなく、地域全体として「何を伝えるか」「どう伝えるか」を設計することで、体験の質を均一化・向上させることができる。
リジェネラティブツーリズムとの接点、「知る」が「変わる」につながるとき
リジェネラティブツーリズム(再生型観光)の思想は、旅人が訪れた場所をより良い状態にして帰ることを目指す。しかし、旅人が「この場所に何が起きているか」「自分の行動がどんな影響を与えるか」を知らなければ、行動は変わらない。
インタープリテーション計画は、その「知る」と「変わる」をつなぐ架け橋だ。
日本では、環境保護だけでなく、地域の課題解決や活性化と結びついたインタープリテーションが発展している。国立公園や世界遺産エリアにおいても、観光と環境保全のバランスを取りながら、地域住民の関与を促すプログラムが増えてきている。
旅人が木一本に宿る生態系の物語を聞いたとき、その木を守りたいという感情が生まれる。地域の漁師が里海の仕組みを語ったとき、旅人は消費者から「場を守る人」の一員になる。そのプロセスを意図的に設計するのが、インタープリテーション計画の本質だ。
これからのガイドは、単にそのまちの一つの施設やエリアを紹介するような立場から、暮らしや風土、それらを形成する自然そのものの在り方を伝えるような立場へと変わっていくことが期待されている。
地域が何を大切にしているか。それを旅人に「気づかせる」設計。それがインタープリテーション計画であり、リジェネラティブな観光地づくりの根幹でもある。
参考文献
[1]インタープリテーションとは – 一般社団法人日本インタープリテーション協会
