オーバーツーリズムが引き起こす重大な課題の一つがごみ問題です。ごみの量は観光客の増加に比例して増加し、不当に廃棄されることで観光地の景観を損ねています。
自治体や観光地では入域料の制度導入やスマートゴミ箱の設置などの対応に追われています。国内外の事例を参考に、ごみ問題と向き合う観光地において対応するためのヒントを探っていきましょう。
オーバーツーリズムによるごみ問題とは?観光地で何が起きているのか

近年、インバウンド需要の回復に伴い、多くの観光地ではオーバーツーリズムによるさまざまな問題が発生しています。なかでも深刻なのが「ごみ」に関する問題です。混雑や観光客のマナー違反でごみが大量発生したうえに、それらのごみがポイ捨てされて、住民生活や景観への悪影響が出ています。[1]
また清掃コストの増加や自然環境への負荷にもつながるため、観光地の持続可能性を脅かすとして問題視されています。
オーバーツーリズムで観光地のごみ問題が深刻化する主な原因

ごみ問題が深刻化している一番の原因は、受け入れ態勢の整備が追いついていないことにあります。それぞれの原因を紐解き、対処方法の足がかりにしましょう。
食べ歩き・テイクアウト文化の拡大
近年は観光地での食べ歩きやテイクアウト需要が拡大し、容器や飲料カップなどのごみが増加しています。とくに情緒ある景観が人気の鎌倉や京都などでは、ごみ問題による景観悪化が深刻な課題です。[2]
分別方法の知識不足
日本のごみ分別ルールは世界的に見ても細かく複雑なため、海外から訪れる旅行者が正確に把握するのは容易ではありません。そのため、可燃ごみやペットボトル、缶などが混在した状態で捨てられてしまうケースが多発しています。[3]
これにより観光地では再分別の作業負担や回収コストの増加が課題となっており、多言語表示など誰もが正しく分別できる環境整備が求められています。
観光地のごみ箱不足と処理体制の限界
観光地ではテロ対策や維持管理コストの問題から、ごみ箱を減らしている地域も多くあります。その結果、路上へのごみ放置といった問題が多発しています。
観光庁が行った訪日外国人のアンケートでも、「ごみ捨てに困った人」のうち「捨てたかったときにごみ箱が近くに無かった」と回答している人が9割にものぼりました。[4]
ごみ回収の人手不足
観光客の増加によってごみの量が急増する一方で、回収作業を担う人手は不足している状況です。食べ歩きやテイクアウト利用による容器ごみが短時間で大量に発生すると、清掃が追いつかないケースもあります。
自治体や観光地では回収頻度を増やしていますが、その分、人件費や運営負担が増加してしまっていることが課題です。[5]
オーバーツーリズムによるごみ問題が地域に与える影響

オーバーツーリズムによるごみ問題が深刻化すると、インフラへの負荷も高まります。
インフラが圧迫された状態では清掃などの対応も後手に回り、さらにごみ問題が深刻化する悪循環が発生。最終的に観光地としてのブランド低下につながる可能性もあります。
清掃コスト増加による自治体負担の拡大
観光客増加に伴い、ごみ回収や清掃頻度を増やすために清掃人員の増強や環境の整備が求められています。とくに観光シーズンには対応コストが急増し、地域運営を圧迫する要因になっています。
住民生活や観光体験の質への悪影響
ごみ問題の深刻化は、住民生活にも影響を及ぼします。悪臭や衛生環境の悪化などの生活ストレスに直結し、地域住民による観光への不満につながるケースも少なくありません。
持続可能な観光のためにも、地域住民と観光客の双方が快適に過ごせるごみや環境の整備が求められています。
景観悪化による観光地ブランドの低下
オーバーツーリズムによるごみ問題は、観光地の景観やイメージに大きな悪影響を与えます。路上に散乱した飲食容器やごみ箱からあふれたごみは、地域の魅力を損ない、観光客の満足度低下につながりかねません。
歴史的景観や自然環境を強みとする観光地ほど影響は大きく、ブランド価値の低下を招く恐れがあります。
海外の観光地で進むオーバーツーリズムのごみ問題と対策

世界各地の人気観光地でも、観光客増加による廃棄物の急増や景観悪化、自然環境への影響が深刻化しています。そのため近年は、単に観光客数を制限するだけでなく、観光収益を環境保全へ還元する仕組みや、観光客自身の行動変容を促す取り組みが広がっています。
なかでも入域料制度を導入したベネチアや環境教育を重視しているハワイの取り組みは、地域や観光の特性に応じた対策として注目を集めている事例です。
ベネチア|入域料導入による観光負荷の抑制
ベネチアでは、クルーズ船観光や日帰り観光客の増加によって、ごみ問題や景観悪化、清掃負担の増加が深刻化しています。とくに短時間滞在の観光客は、地域経済への貢献が限定的である一方で、ごみの排出や混雑など、地域に与える負荷が大きいことが課題でした。
こうした状況を受けて、ベネチアでは週末の日帰り観光客を対象に入域料制度を導入し、ピーク時の来訪抑制や混雑緩和を図っています(宿泊客は宿泊税を払っており免除)。[6]
徴収した収益は地域の清掃やインフラの改善、史跡の修繕維持、観光客数の管理などに使用し、持続可能な観光地づくりを進めています。[7]

ハワイ|観光客への環境教育を重視
ハワイでは、観光客増加による海洋ごみ問題やサンゴ礁への悪影響が課題となっています。とくに日焼け止めに含まれる化学物質がサンゴへ悪影響を与えるとして、リーフセーフな日焼け止めの利用を推進したり、一部成分を含む製品の規制を進めたりしています。
また、観光客に自然環境の大切さを伝えるために、環境保護に関する啓発活動やエコツーリズムを推進。[8] 単なる禁止や規制だけではなく「なぜ守る必要があるのか」を理解してもらうことで行動変容を促し、持続可能な観光地づくりにつなげています。
日本でオーバーツーリズムによるごみ問題が深刻化している地域と対策

日本の各自治体では、オーバーツーリズムによるごみ問題に対して、大量発生・大量廃棄の状況を打開すべく、さまざまな取り組みを展開しています。また、観光客数そのものを調整する仕組みや、観光客の行動変容を促す施策にも注目が集まっています。
持続可能な観光を目指す地域がどのようにごみ問題を解決して街の魅力を維持しようと進めているのか、例からヒントを探りましょう。
京都|地域の独自ルールと一斉クリーンアップ
京都は昔から日本らしい美しい街並みが外国人観光客から評価されてきた地域です。しかし、最近は嵐山など一部の地域でオーバーツーリズムによるごみ問題が発生し、景観の悪化が指摘されています。
そこで、嵐山では以下のような対策を行っています。
- 「ごみは買ったお店で必ず捨てる」という地域ルールを設け、多言語で啓発
- 買った店にごみを捨てた方に、記念品を渡す「ハートバック制度」を実施
- 毎日午後3時から3分間、嵐山商店街が中心になり「クリーンタイム」を実施
- 行政と地域が連携してスマートゴミ箱を含む、街頭のごみ袋を高頻度で交換
- ボランティア団体などによる、観光客へのマナー啓発や清掃活動の実施

観光客と地域住民が共存できる観光地づくりを目指し、持続可能な観光政策を進めている点が特徴です。また京都市は独自で「京都観光行動基準(京都観光モラル)」を策定して、観光客への啓発も行っています。[9]

東京都|植栽設置によるポイ捨て抑制
東京都も浅草などいくつもの人気観光地を抱えており、ごみ問題が深刻な地域です。
そこで、以前からポイ捨ての抑制に効果があると言われている「植栽」について、有効なパターンを確認するため実証実験を実施。その結果、以下のような成果が得られました。
- 植栽近傍1m以内でごみの量を平均48%抑制できた
- 植物の種類は草よりも花、植え方では疎植よりも覆土のほうが効果が高い
植栽は他者から見られているような気配を感じさせるため、ポイ捨ての抑制に効果があると言われています。抑制効果が得られる範囲が半径1m程度である点や、植栽の水やりなど維持管理・コスト負担は課題ですが、どの地域でも始めやすい手軽な方法として注目されています。

富士山|入山管理と環境保全強化
富士山では登山者の増加により、登山道の周辺で飲料容器や携帯食の包装などの放置が問題となっています。
こうした状況を受けて、登山者数の管理を進め、過度な混雑の抑制を図るために、山梨県と静岡県は入山料を導入しました。[10] 入山料は2024年に2,000円からスタートし、2025年には4,000円に値上げしています。さらに携帯トイレの利用促進や清掃活動も強化されており、環境保全と安全管理の両立を目指しています。
また富士山に近く、撮影スポットとして人気の富士吉田市でも、ごみの散乱が問題となっていました。そこで2024年にスマートごみ箱を設置する実証実験を実施し、以下の対応を行いました。
- Google Mapなどへの登録によるごみ箱の周知
- ごみ箱の自動判別装置による投入ごみの測定
- ポイ捨ての減少状況の調査

結果的にごみの散乱が減少。多言語表記を並行して行うようになってからは、異物混入数も減少しました。地域住民のアンケートでも「ポイ捨て・散乱が多い 」との回答が6割から3割に減少する効果が見られています。

奈良公園|観光マナー啓発による環境・景観保全
奈良公園では、観光客増加に伴ってポリ袋や包装ごみが散乱し、鹿が誤飲する被害が問題となっています。2025年には死んだシカの胃から4.3キロものプラスチックの塊が見つかりました。[11]
奈良市の職員や住民だけでは対応が追いつかないことから、実証実験としてスマートごみ箱を設置しました。[12] 以下の点を分析し、今後の対策に活用する方針です。
- ごみ量の計測
- ポイ捨ての減少状況
- 家庭ごみの混入有無
- 投棄時間や分別状況
オーバーツーリズムのごみ問題から考える持続可能な観光の視点
オーバーツーリズムによるごみ問題は、観光地のあり方そのものを見直すきっかけとなっています。近年は、観光客数の増加だけを目指すのではなく、地域環境や住民生活とのバランスを重視する「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」への関心が高まっています。
とくに重要視されているのが、観光客数よりも「観光の質」を重視する考え方です。長期滞在や地域文化への理解を促し、環境負荷を抑えながら地域経済へ貢献する観光が求められています。
今後は経済性だけでなく、環境保全や地域住民との共生といった持続可能な視点での観光地づくりが重要になるでしょう
参考文献
[1]観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組」
[2]環境省 廃棄物適正処理推進課「観光地におけるごみのポイ捨て・発生抑制対策実績と改善の事例集」
[3]早稲田大学「都市観光における訪日外国人観光客のごみ分別意識に関する研究」
[4]観光庁「令和5年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」調査結果」
[5]観光庁「観光地・観光産業における人材不足対策事業」の公募を開始します」
[6]VENEZIA UNICA「About the Access Fee」
[7]Visitvenezia「Venice access fee explained: how it actually works?」
[8]HAWAII TOURISM「Destination Stewardship Programs」
[9]京都市情報館「京都観光行動基準(京都観光モラル)の特設サイト」
[10]Mt.Fuji Climbing Office Website
[11]FNNプライムオンライン「死んだシカの胃に“最大4.3キロ”のプラごみ 奈良公園「スマートごみ箱」設置でシカの健康被害防止へ」
