銀山温泉は年間約30万人が訪れる人気の観光地です。多くの旅行者に注目される一方で、山に囲まれている限られたエリアのなかで、交通障害や外国人の受け入れ体制が不十分など、オーバーツーリズムによるさまざまな問題が発生しています。
山間の小さな温泉街がどのようにオーバーツーリズム対策に乗り出したのか。ほかの温泉街や観光地にもヒントとなる取り組みを探っていきましょう。
銀山温泉におけるオーバーツーリズムの現状【2026年最新】

銀山温泉は山形県尾花沢市にある、レトロで情緒漂う温泉街です。[1] ジブリの「千と千尋の神隠し」や「鬼滅の刃」のアニメの雰囲気に似ていることからも、SNSなどを中心に注目を集めています。
観光地としての認知度が高まるのは、メリットがある一方で、オーバーツーリズムという問題の発生にもつながっています。限られたエリアに年間約30万人の観光客が訪れることで、以下のような問題が生じています。[2]
- 狭い温泉街や道路インフラなど、地理的な制約で通行・交通に障害が発生
- 文化の違いから生じる、不適切な施設利用やマナー違反が発生
- 地域住民の生活や景観を阻害
銀山温泉はガス灯が点灯する夕方以降の時間帯がとくに美しく、フォトジェニックな風景を求めて、多くの日帰り観光客が集中して混み合います。
令和6年度の調査では、約40%の観光客が混雑によって「銀山温泉らしさが失われている」と感じていることが分かりました。
銀山温泉でオーバーツーリズムが発生した原因

銀山温泉でオーバーツーリズムが発生した原因は主に以下の2つです。
- 山間の狭小エリアのため受け入れ上限が限られる
- 特定時間帯での観光客の集中と外国人観光客の急増
原因①|山間の狭小エリアで受け入れ上限が限られる
銀山温泉は、山あいの奥深く、道路の行き止まりに位置しています。温泉街のエリア自体が小さいため、全ての宿泊施設の部屋数を合わせても約160室と、受け入れ上限が非常に限られています。
さらに、温泉街へ続く道路は道幅が狭く、交通アクセスにも課題があります。とくに冬季は除雪によって道がさらに狭くなるため、車両のすれ違いさえ困難なほどです。
原因②|特定時間帯での観光客の集中と外国人観光客の急増
銀山温泉では、ガス灯が点灯する夜間や、雪景色が美しい冬季、そして大型連休などに観光客が集中します。
またSNSでの話題をきっかけに、近年はインバウンド需要も高まりました。外国人観光客は令和4年の約3,000人から、令和5年には2万人へと急増しています。

銀山温泉のオーバーツーリズム対策事例3選

銀山温泉の位置する尾花沢市が実施している、旅行満足度に関するアンケート調査において、観光客の「大変満足」の割合を令和6年の時点の65.6%から70%まで引き上げることを目標に、オーバーツーリズム問題に取り組んでいます。[3]
交通障害に対応|パークアンドライド方式の導入

これまでは狭い温泉街にキャパシティを超えたマイカーが一斉に流入することで、すれ違いの困難や渋滞、歩行者との接触リスク、路上駐車などが発生していました。
そこで銀山温泉では、国土交通省と観光庁の支援を受け、令和6年12月23日から令和7年1月6日の期間にパークアンドライド方式の実証実験を行いました。
具体的な取り組みの内容は、以下のとおりです。
- シャトルバスの活用:日帰りのマイカー客に「大正ろまん館」でシャトルバスへの乗り換えを促す
- 有料パスによる需要調整:時間指定・有料の「プライオリティ・パス(優先乗車券)」を導入
- 大型バスの事前予約制:「大正ろまん館」への駐車(最大2時間)には事前予約を必須に
- 混雑予報の公開:カレンダーで混雑予測を可視化し、観光の日や時間の分散を促進
とくにプライオリティ・パスは、待たずに乗車できるメリットがあるため利用者も多く、大きな効果をもたらしました。これらの取り組みにより、もともと夜間に集中しがちだった観光客が、来訪の少なかった11~14時の時間帯へと分散する効果が見られました。
多様な観光客の受け入れ態勢づくり|外国人へのマナー啓発

インバウンド需要が急激に増える一方で、受け入れ体制が整っていないことによる、ごみのポイ捨てやトイレマナーなどが問題となっています。
そこで銀山温泉では、2つの対策を行いました。
1つ目は、シャトルバス内での多言語マナー動画の放映です。乗客の意識が集中しやすい空間で繰り返し放映することで、自然とマナー情報が視界に入るように工夫しています。
2つ目は、拠点施設のトイレへのデジタルサイネージ設置です。パークアンドライドの拠点となる「大正ろまん館」のトイレにデジタルサイネージを設置しました。ここでも、多言語による情報提供やマナー啓発を行っています。
財源の確保のための入域料導入への議論
このままオーバーツーリズムによって銀山温泉ならではの情緒が失われると、観光地としてのブランド価値低下や観光客離れを招きかねません。現在、銀山温泉は街の魅力を守るためにパークアンドライド方式などの対策を始めていますが、シャトルバスや交通整理などには多額の費用がかかります。
この課題を解決するため、尾花沢市は「入域料などのあり方を検討する会」を設立しました。持続可能な観光財源の確保を目指し、具体的な制度導入に向けた議論を本格化させています。
銀山温泉の事例から学ぶオーバーツーリズム対策の鍵

銀山温泉の取り組みでは、規制するだけでなく需要の分散に力を入れて取り組んでいることが特徴的です。
パークアンドライド方式の実証実験では、集中しやすい夜間の需要を下げてほかの時間帯の需要をあげようと、プライオリティ・パスの用意や時間帯別料金の設定を行いました。需要は人の心理的な部分と結びついているため100%の正解があるわけではなく、複数の仮説と検証を重ねることが大切です。
このような対策を練り実行するために、尾花沢市は住民の意見交換や連携も大切にしています。地域住民向けのワークショップや意見交換会を開催し、主体的に地域の価値を見出すことに参加してもらっています。

銀山温泉のオーバーツーリズムに関するよくある質問(FAQ)

銀山温泉のオーバーツーリズムについて調べている方の中には「入場規制は2026年も続くのか」など、他にも疑問を抱えている人もいるでしょう。ここでは、銀山温泉のオーバーツーリズムに関するよくある質問を、整理して解説します。
銀山温泉はなぜ人気がある?
大正から昭和初期にかけての木造多層の旅館が銀山川沿いに並ぶ「大正ロマン」の街並みと、夜のガス灯が織りなすノスタルジックな世界観が、銀山温泉の人気の理由です。
銀山温泉の入場規制は2026年まで続く?
2026年以降も続く可能性が高いです。
銀山温泉の入場規制・マイカー規制の恒久化は、正式に決定されたわけではありませんが、2026年も継続実施されており、今後も続く可能性は高いと見られています。
山形でインバウンドが最も多い地域はどこ?
山形県でインバウンドが最も多い地域は「村山地域」です。
村山地域には「蔵王温泉」「山寺(立石寺)」「銀山温泉」など、外国人観光客に人気の観光地が集中しています。
銀山温泉の未来への挑戦
銀山温泉は、観光客の受け入れに制限をかける一方で、観光産業の収益を落とさないようシャトルバスの一部を有料化するなど、観光産業の価値向上に挑戦しています。
また、オーバーツーリズムの問題に限らず、未来を見据えたサステナブルツーリズムの推進も始めています。地域住民や観光客の意見を聞き入れ、地域の魅力を守り・発展させるべく取り組む姿は、日本の観光産業の先駆者として今後も目が離せません。
参考文献
