近年、ビジネスや観光の現場で耳にする機会が増えた「MICE(マイス)」という言葉。国際会議や展示会といったイベントを指すのはわかるけれど、その全体像をつかむのは難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
MICEは単にイベントをまとめた呼び名ではありません。人・モノ・情報が一箇所に集まることで、新しいビジネスの種や交流が生まれる「仕掛け」そのものといえます。本記事では、MICEの基礎知識から分類、経済面でのメリット、国内の活用事例までを、わかりやすく解説します。
MICE(マイス)とは?基本や意味を解説

「MICE」とは、企業や研究機関などが主催する、多くの人が集まるビジネスイベントや学会の総称です。[1]
以下4つの英単語が、言葉の由来です。
- Meeting(会議)
- Incentive Travel(報奨・研修旅行)
- Convention / Conference(国際会議・学会)
- Exhibition / Event(展示会・イベント)
企業や研究機関などが主体となって開かれるこれらの催しには、国内外から多くの人が訪れます。単に人が集まるだけでなく、情報交換や商談、研究発表などが行われるため、新しいビジネスや研究につながることも多くあります。
MICEの4分類と具体例

MICEは、開催する目的や狙いによって、その特徴や内容が大きく変わります。それぞれの役割を把握するために、代表的な4つのタイプに分けて整理しましょう。
Meeting(会議)
Meeting(会議)は、企業や団体が行う社内外の会議や打ち合わせを指します。主に経営方針の共有、事業計画の策定、プロジェクトの進捗確認、取引先との商談など、ビジネス上の意思決定や情報共有を目的として開催されます。
参加人数は数十人程度の小規模な会議から、国内外の拠点が参加する大規模な会議までさまざまです。近年ではオンラインを組み合わせたハイブリッド形式も増えており、場所に左右されない新しい会議の形も広がっています。
Incentive Travel(報奨・研修旅行)
Incentive Travel(報奨・研修旅行)は、企業が従業員や販売代理店などの業績を称えるために行う旅行型のMICEです。参加者のモチベーション向上や組織力の強化を目的として実施されます。
Incentive Travelの代表的な例は、営業成績が優秀な従業員に対する海外での報奨旅行や、現地企業の視察を組み込んだ研修ツアーなどです。参加者同士の交流や学びをうながすプログラムの設計が多く見られ、今後の業務につながる内容となっています。
Convention / Conference(国際会議・学会)
Convention / Conference(国際会議・学会)は、学術団体や国際機関、業界団体などが主催する大規模な会議を指します。医療、科学、環境、ITなどの専門分野において、研究者や専門家が世界各国から集まり、最新の研究成果や技術的な知見を共有する重要な場となっています。
単なる情報共有にとどまらず、共同研究のきっかけや新しい技術開発につながることも少なくありません。また、分野ごとの国際的なネットワーク形成の場としても機能しています。
Exhibition / Event(展示会・イベント)
Exhibition / Event(展示会・イベント)は、企業や団体が自社の製品、サービス、技術などを広く発信するために開催する展示会や見本市です。業界内外の関係者が一堂に集まるため、新たな商談や協業のきっかけが生まれることも少なくありません。
また、製品やサービスの紹介に加えて、最新の市場動向の把握や競合分析など、情報収集の場にもなっています。さらに、企業にとっては自社の技術力やブランドを直接発信できる機会であり、参加者との対話を通じて実務的なフィードバックを得る機会にもなります。
なぜ今、日本でMICEが重要視されているのか

近年、日本ではMICEが大きく注目されています。単に人を集めるだけでなく、地域経済を力強く支える「戦略」としての価値があるからです。
ビジネスと観光が合わさるMICEは、高い消費を生むだけでなく、街のブランド力を高め、新しいイノベーションを生むカギにもなります。
宿泊・飲食など地域経済への効果が期待できる
MICEが重要視される大きな理由の一つは、その高い経済効果です。参加者は一般的な旅行者と比べて滞在中の出費額が高くなる傾向があり、地域の経済を潤す大きな力となります。
観光庁のデータでは、国際的な会議に参加した訪日外国人の一人あたりの出費は約67.8万円とされ、一般的な訪日外国人旅行者の平均である約22.7万円を大きく上回ります。[2] これは宿泊費や飲食費だけでなく、参加費や企業による移動費なども生まれるためです。
こうしたお金の動きは宿泊施設や交通機関、イベント事業者など幅広い分野に広がり、開催地全体の経済を活気づけます。
閑散期や平日の需要を生み出しやすい
MICEには、特定時期への旅行者の集中を和らげる役割が期待されています。一般的な観光の場合、夏休みや連休に人が集まりやすく、旅行者の季節的なかたよりが生じがちです。
一方、ビジネス目的のMICEは年間を通して計画的に開催されます。そのため、旅行者の少ない時期や平日であっても、安定した集客を見込めるのが大きな特徴です。
これにより、宿泊施設や飲食店、交通機関などが一年を通じて安定して利用されるようになり、地域経済を支える強い土台が作られます。
地域の産業・研究交流や知名度向上につながる
MICEは経済的な効果だけでなく、地域の魅力を国内外に伝えるチャンスでもあります。国際会議には多くの企業や研究者が世界中から集まるため、その街の産業や研究環境を知ってもらう絶好の機会になります。
たとえば、大学や研究機関が集まる地域なら学術系の会議、モノづくりが盛んな地域なら技術展示会など、地域の特色に合わせた誘致が可能です。会議を通じて街の知名度が上がれば、企業が進出してきたり、海外からの投資が増えたりといった効果が期待できます。
MICEと一般観光の違いとは

観光とMICEの大きな違いは、その「目的」です。
観光はレジャーや休養といった個人的な楽しみが中心ですが、MICEは会議、商談、研究発表、研修、展示などを通じて、ビジネスや専門分野の交流を生み出すことを目的としています。参加者はその土地をただ巡るのではなく、地域の産業や研究、文化資源にふれながら、具体的な議論や連携を進めていきます。
つまり、観光が「訪れる体験」だとすれば、MICEは「目的を持って集まり、次の活動につなげる場」といえるでしょう。地域の魅力や資産が、参加者の仕事や研究と結びついていく点が、一般的な観光とは大きく異なる特徴です。
日本の主なMICE都市と地域ごとの特徴

日本でMICEが開催される地域には、共通した特徴があります。大きな会議場や展示施設があるだけでなく、どんな産業が集まっているか、大学や研究機関が近くにあるか、海外から行きやすいかといった条件が揃っていることが重要です。
たとえばJNTOの2024年国際会議統計では、東京、京都、福岡、横浜といった都市で多くの国際会議が開催されています。[3]
主要MICE都市の比較
| 都市 | 主な強み | MICEの傾向 |
|---|---|---|
| 東京 | 日本最大の拠点 | 総合型(会議・展示会・イベント) |
| 京都 | 学術・文化の集積 | 国際会議・学会中心 |
| 福岡 | アジアへの玄関口 | 国際会議・ビジネスイベント |
| 横浜 | 産業基盤・国際性 | 展示会・企業間ビジネス交流 |
| 大阪 | 西日本の中心地 | 商談・産業交流 |
| 名古屋 | ものづくりの拠点 | 技術・産業展示会 |
| 仙台 | 地方の学術都市 | 学術・医療会議 |
日本でMICEが開催されている地域は、同じような役割で競い合うのではなく、それぞれの強みを活かして役割を分担しています。全体としてひとつのネットワークのように機能している点が大きな特徴です。
たとえば、東京は日本の中心として、多様なニーズに応える「総合型」の都市です。国際会議から大きな展示会まで幅広く網羅し、国内外のビジネスや情報が集まるハブとして機能しています。
一方で京都は、「学問の街」としての顔を持ちます。大学や研究機関が集まる環境を活かし、専門的な国際会議や学会を数多く開催。世界へ向けて新しい知見を発信する場となっています。
このように、日本のMICEは街ごとに個性を活かした役割分担が成立しています。それぞれの強みを伸ばすことで、全体として着実に成長を続ける仕組みといえるでしょう。
日本国内のMICE開催・誘致事例【2026年最新】

日本全国で、国際会議や見本市といったさまざまなMICEが開催されています。
最近では、ただイベントを誘致するだけでなく、その地域ならではの自然や文化を活かした工夫が広がっています。単なる一時的な「経済効果」にとどまらず、新しいビジネスや研究のつながりを持続的に生み出す場として、多くの自治体が力を入れているのです。
EXPO2025(大阪・関西万博)|大規模なExhibition / Eventの事例
2025年、大阪の夢洲を舞台に開かれたEXPO2025(大阪・関西万博)は、世界規模の展示・イベント型MICEの事例です。[4] 158カ国・地域と7つの国際機関が参加し、各国の技術や文化、未来へのメッセージを世界へ届けました。

EXPO2025の大きな特徴は、展示や対話を通じて企業や研究機関、政府関係者など幅広い層がつながるビジネスの場として機能した点です。
また、国内外から多くの来場者を迎え入れた経験は、日本のMICE開催能力の高さを世界に示す好機となりました。
CHI 2025|横浜の都市機能を活かした国際会議
2025年、パシフィコ横浜で「第43回人と情報システムの相互作用に関する国際会議(CHI 2025)」が開かれました。[5]

本会議には5,000人以上が訪れ、過去最多規模の参加者数を記録しました。[6]
横浜が、日本で初めて本会議の開催地として選ばれた理由は、その利便性の高さです。港や空港からのアクセスが良く、適度な落ち着きがある点が評価されました。
さらに、横浜が持つ産業や教育の基盤は、世界中の研究者から注目を集めています。数多くの開発拠点が集まる街の強みが、国内外から多くの支援を引き寄せ、会議の成功を支えました。
ICAR 2026|帯広の農畜産・研究資源を生かした国際会議
2026年6月に、北海道帯広市で「第20回国際動物繁殖学会(ICAR 2026)」が開催されました。[7] 本学会は、動物繁殖の分野では世界最大級の研究集会で、アジアでの開催は今回が初です。[8]

世界56か国以上から1,130人もの専門家が集まり、最先端の研究成果を分かち合う重要な機会となりました。
本学会の特徴は、その土地ならではの「地域ブランド」と「学術的な研究」を結びつけた点です。日本の優れた畜産技術を世界へ広く伝える、大きな第一歩となりました。
AOGS 2026|官民連携で誘致した福岡の国際会議
2026年8月には、福岡市で「アジア・オセアニア地球科学学会(AOGS)」の年次総会が予定されています。[9]

この大規模な国際会議の誘致は、福岡観光コンベンションビューローやJAXA、政府関係機関などが力を合わせ、官民一体となって実現したものです。[10]
世界約50か国から約4,000人が訪れる見込みで、気候変動やSDGsといった地球規模の課題について深い議論が交わされるでしょう。専門家だけでなく、市民が防災を身近に考えるきっかけづくりも進められており、福岡の国際的な存在感を高める絶好の機会として注目されています。
MICE誘致・開催で押さえたい3つのポイント

MICEを成功へと導くには、参加者が過ごしやすい環境づくりや、地域全体でイベントを支える体制が重要です。MICEの開催地域に選ばれるためには、物理的な環境と、その土地ならではのソフト面を組み合わせる総合力が求められます。
会場・宿泊施設・交通アクセスを確認する
MICE誘致を成功させる第一歩は、参加者をスムーズに迎え入れるための「基本環境」を整えることです。国際会議や大規模イベントには、収容人数の多い会場はもちろん、周辺の宿泊施設や空港・駅からの移動のしやすさが欠かせません。
さらに海外からの参加者が多い場合は、移動の負担が少ないか、多言語対応の案内があるか、同時通訳やオンライン配信といったデジタル環境が整っているかなども、開催地を選ぶ決め手となります。
地域産業や大学、文化資源との相性を活かす
MICEには、イベントと地域が持つ独自の資源をかけ合わせる視点が不可欠です。たとえば医療分野が盛んな街なら医学系、ものづくりが息づく場所なら技術系の展示会というように、テーマと地域特性を一致させると開催の価値が高まります。
また、地域の歴史的な建造物や文化施設をレセプション会場などに活用する「ユニークベニュー」などの取り組みも、参加者の満足度を高めるのに有効です。
自治体・DMO・事業者が連携し、持続可能な開催態勢を整える
MICEには自治体、DMO(観光地域づくり法人)、宿泊・交通機関、イベント事業者など、多くの関係者の連携が欠かせません。とくに規模が大きく、開催期間の長いMICEでは、地域全体で役割を分担し、無理なく受け入れを続けられる仕組みづくりが求められます。
また近年では、環境に配慮した運営や地域社会への貢献など、「持続可能なMICE」という考え方も重要視されています。一時的なにぎわいで終わらせず、長期的に街を豊かにするような活動を目指すことが、次の誘致へとつながるのです。
MICEの重要性と今後の展望
MICEは、一過性のイベント誘致にとどまらず、人や情報が集まることで新しい価値や経済を生む大切な仕組みです。地域を潤し、国際交流を深めるだけでなく、都市の魅力を高める原動力として注目されています。
これからのMICEはオンラインとリアルを融合させた形や、環境への配慮が進み、その姿はさらに広がると予想されます。各地域が個性を磨きながら連携し、持続可能な運営体制を整えることで、その可能性はこれからも広がり続けるでしょう。
参考文献
[1] MICEとは | MICE の推進 | インバウンド回復戦略 | 観光政策・制度 | 観光庁
[6] IkiCHI(イキガイ):「生きがい」の概念から共通の目的を見出す(CHI 2025) | 横浜市観光協会
