観光地が直面するオーバーツーリズムや、季節による集客のかたより。これらは、これまでの「とにかく人数を増やす」という観光地経営が限界を迎えているサインかもしれません。
そうした状況で、近年注目を集めているのが「MICE(マイス)」です。地域経済をより強く、持続可能なものにするための戦略として活用が広がっています。本記事では、MICEの基礎から、地域の実情に合わせた取り入れ方までをわかりやすく解説します。
MICE(マイス)とは?観光産業での重要性

MICEとは、ビジネスや研究発表などを目的に人が集まるイベントの総称です。企業会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention / Conference)、展示会・イベント(Exhibition / Event)の4つの言葉の頭文字をとって名付けられました。[1]
なぜ今、多くの地域がMICEに力を入れているのか、その理由を3つの視点から解説します。
観光経済を「量重視」から「質重視」へ変えられる
これまでの観光地経営は、来訪者数を増やすことが指標とされがちでした。しかし、これからの時代に求められるのは、一人あたりの消費額や滞在日数を伸ばし、「地域にどれだけ質の高い経済効果を生み出せるか」という視点です。
MICEは、来訪者の地域内での滞在や、消費の質を高めるきっかけとして有効です。実際に、ビジネスや学術目的で訪れるMICE参加者は、一般的な旅行者と比べて滞在期間が長く、宿泊や飲食、交通、体験サービスなどへの消費額も高い傾向があります。[2]
季節による集客の波を抑え、地域経済を安定させられる
多くの観光地では、特定のシーズンには旅行者が集中するのに、閑散期には一気に客足が減ってしまうというような、時期による集客の偏りが大きな経営課題となっています。こうした集客の波をおさえ、年間を通じて安定した収益を確保することは、地域で働く人々の雇用を支え、宿泊施設や観光関連事業者の経営基盤を維持するうえで重要です。
ビジネスイベントや国際会議は、企業や学術機関のスケジュールに合わせて計画されるため、平日や観光オフシーズンにも開催される特徴があります。そのためMICEを戦略的に誘致し、閑散期に新たな需要を生み出すことで、年間を通じた人の流れをつくり、地域内で安定した経済循環を生み出すことが可能になります。
一過性の旅行者を「地域のファン」として育てられる
これまでの観光地と旅行者の関係は、「一度訪れて終わり」という、その場限りのもので終わってしまうケースがよくありました。しかし、MICEを起点とした観光には、継続的な「関係人口」を育む可能性があります。
関係人口とは、仕事や地域活動などを通じて、地域外から継続的に関わりをもつ人々のことです。
国際会議などの参加者は、会議への出席だけでなく、地域の歴史や産業、文化、住民の暮らしに触れる機会を持ちます。そこで得た体験は、ビジネスでの再訪や共同研究、新たな交流のきっかけとなり、やがて地域を応援するファンへと発展する可能性があります。
MICEを活用した観光は、地域と人との継続的なつながりを生み出す重要な入り口です。一度訪れた人との関係を深め、長期的に地域を支える存在へ育てていくことは、持続可能な観光地経営における重要な視点といえるでしょう。
MICE×観光戦略を2つの事例から解説

MICEを観光地経営に活用する際、すべての地域が同じ方法を取る必要はありません。重要なのは、自地域の強みや目指す姿に合わせた戦略を選ぶことです。
異なるアプローチでMICEを活用している事例として、京都と横浜の2つの都市を比較するので、参考にしてください。
京都|地元の人々と歩む、街の魅力を深める戦略

京都のMICE戦略の特徴は、来訪者数や開催件数の拡大だけを目指すのではなく、地域の暮らしと調和しながら、京都ならではの価値を深く伝える点にあります。
「京都観光・MICE振興計画2030」でも、市民生活との調和や交流の質を高めることが重視されています。[3] 本計画が目指しているのは「量」の拡大ではなく、京都の歴史や文化、学術資源に触れながら、地域への理解を深める来訪者との関係づくりです。
たとえば、大学や研究機関が集まる「学術都市」としての強みを活かし、国際会議や学術イベントを誘致することで、産業やビジネスの発展につなげています。また、イベント開催を一過性のものにせず、地域に知識や経験、誇りを残す「レガシー」の視点も大切にしています。
横浜|都市機能を活かして人の流れを広げる戦略

一方、横浜の戦略は、観光・MICE産業の枠を超え、地域の魅力や市民生活の向上につながる「地域づくり産業」への発展を目指しています。[4]
その核心は、都心臨海部のウォーターフロントや音楽、スポーツ、歴史といった多様な資源を個別に留めず、街全体の「回遊性」を高めるピースとしてつなぎ合わせている点にあります。
具体的には、商業施設や宿泊施設、会場を連携させた周遊プランや共通チケットを整備し、エリア間をシームレスに移動できる環境を構築。さらに水上交通の活用で、陸路とは異なる快適な移動体験を提供しています。
また、イベント時には周辺店舗と連携し、ナイトタイム観光や早朝の朝市など時間を軸にした体験を街全体で設計。こうしたハードとソフト両面の連携により、滞在時間を延ばし、地域全体での消費拡大と経済循環をうながす「戦略的な都市経営モデル」を体現しています。
どちらの未来を目指す?成功に導くための見極め方
京都と横浜の取り組みは、どちらが優れているというわけではなく、目指す方向性が異なります。大切なのは、自地域が持つ資源と、将来目指す姿を踏まえて地域に合った方向性を選ぶことです。
歴史や文化、学術資源を活かし、地域との調和を重視する場合は、京都の取り組みが参考になります。地域独自の価値を磨き、高付加価値な交流を通じてブランドを育てる考え方です。一方で、都市インフラや多様な施設を活かし、経済波及効果を広げたい場合は、横浜型の取り組みが参考になります。複数の魅力を組み合わせ、街全体へ人の流れと消費を広げていくアプローチです。
地域の強みを正しく把握し、目指す未来に合った戦略を選択することが、MICEを観光地経営に活用する第一歩となります。
MICE活用で選ばれる観光地になるためのポイント

MICEの開催地域として選ばれるためには、施設やインフラの整備だけでなく、地域全体で価値を生み出す仕組みづくりが重要です。地域資源の活用や、滞在時間を伸ばすための設計など、具体的な戦略に取り組みましょう。
「会場」の枠を超えて|地域資源を「ユニークベニュー」として活用する
ユニークベニューを活用すると、参加者にその地域ならではの体験を提供でき、MICEの満足度や地域への理解を高めやすくなります。ユニークベニューとは、歴史的建造物や文化施設など、その地域ならではの施設や空間を会場として活用することです。
MICEにおけるユニークベニューは、特定の建物や施設に限られるものではありません。その土地に根ざした「知」や「人材」も体験として活用可能です。
たとえば、地域産業を支える職人の工房、大学の先端研究施設、地域課題に取り組む起業家コミュニティなどは、いずれもMICEのプログラムに組み込める地域ならではの魅力です。こうした場所を会場として活用したり、視察や交流プログラムに組み込むことで、参加者はその地域でしか得られない学びや刺激を体験できます。
滞在時間を延ばす工夫|「ブリージャー(ビジネス×レジャー)」を提案する
近年、仕事と余暇を組み合わせる「ブリージャー(ビジネス+レジャー)」という旅行スタイルが世界的に広がっています。MICE参加者の滞在を延ばすことは、宿泊需要の拡大や地域経済への波及効果につながる重要な取り組みです。
そのためには、多忙な参加者でも短時間で地域の魅力を体験できるプログラム設計が求められます。たとえば、早朝の寺院巡りや地酒のテイスティング、自然体験など、その土地の本質に触れられるコンパクトな体験をパッケージ化し、事前にわかりやすく提示することが効果的です。
限られた時間でも満足度の高い体験を提供できるかどうかが、選ばれる観光地になるためのカギとなります。
「点」から「面」へ|地域全体でつくる受け入れ態勢の整備をする
MICEの成功は、単独の施設や事業者だけでは実現できません。
自治体やDMO、観光事業者、地域住民などが連携し、地域全体で受け入れる態勢が必要です。関係者で情報を共有し、観光資源や産業、文化の担い手が一体となって誘致や運営に関わることで、リピーターの獲得や次の誘致につながる信頼関係が生まれます。
MICEを地域全体の取り組みとして捉え、官民の垣根を越えて協力する態勢を構築しましょう。
MICEと観光を組み合わせたプログラム設計は専門家に相談を

MICEの取り組みを成功させ、その価値を最大化するためには、戦略的なプログラム設計が欠かせません。私たちアスエクは、地域の魅力を経営やサステナビリティの視点から再構築し、高付加価値なプログラムを提供しています。
単なる旅行手配ではなく、サステナビリティに関する専門的な知見をもとに、現地の視察先選定から当日の運営、終了後の振り返りまでを一貫して支援します。
また、第2種旅行業登録に基づき、戦略設計から法令面を含めた安心・安全な手配まで対応できるため、スムーズなプロジェクト進行が可能です。
MICEと観光を組み合わせたプログラム設計を検討している方は、ぜひ一度ご相談ください。
MICEと観光でつくる、地域の新しい未来
MICEは、単なるイベント誘致ではなく、持続可能な観光地経営につながる重要な取り組みです。京都のように歴史や文化を深める方法もあれば、横浜のように都市機能や多様な施設を活かして人の流れを広げる方法もあります。
大切なのは、他地域の事例をそのまま取り入れるのではなく、自地域の強みや目指す姿に合わせて活用することです。まずは、地域にある資源や関係者とのつながりを整理し、MICEを通じてどのような交流や価値を生み出せるのかを考えることから始めてみましょう。
MICE(マイス)と観光に関するよくある質問(FAQ)
観光地経営にMICEを活用したいものの、何から手をつけてよいか迷うことはありませんか。
ここでは、多くの地域から寄せられる素朴な疑問や悩みにお答えします。少し視点を変えるだけで、今の地域資源が新たな魅力に変わるかもしれません。一歩踏み出すためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
Q. MICE誘致には大規模な施設がないと難しいですか?
必ずしも大規模な施設は必要ありません。地域の個性やストーリーを活かせば、小規模でも質の高い会議や、企業研修が行えます。施設規模よりも、どのような体験を提供できるかという「ソフト面での強み」を磨くことが重要です。
Q. 地域住民の理解を得るためにはどうすればよいでしょうか?
旅行者と住民の生活が摩擦を起こさないような「持続可能な管理」が不可欠です。MICEは一般的な旅行者と異なり、滞在目的が明確でコントロールしやすいため、丁寧な設計を行えば地域に負担の少ない受け入れ態勢が構築できます。
地域の文化や学びを参加者と共有するなど、MICEの開催が地域活性化につながることを示しましょう。
Q. サステナビリティを意識したMICEとはどのようなものですか?
地域の環境負荷を減らすことはもちろん、地域課題の解決に取り組む現場を視察したり、地産地消の食体験を通じて地域の産業を支えたりするような、地域に「貢献する」プログラムを指します。MICEを通じて、その地域が持つ物語に参加者が共感し、支援者として関われるような設計にすることが重要です。
参考文献
[1] MICEとは | MICE の推進 | インバウンド回復戦略 | 観光政策・制度 | 観光庁
