オーガニックな菜食主義者が増え続けるドイツで受け入れられる日本食とは?

世界のどこに行っても日本食レストランを発見することができると言っても過言ではないほど、日本食は世界規模で人気が高まり、日本食文化が広がり続けていると感じています。実際に、ドイツの首都ベルリンでは、新規参入するラーメン店が後を絶たず、現在では数え切れないほどの店舗数に発展しました。また近年では、居酒屋、讃岐うどん、おにぎり、スイーツなど、ラーメン以外の専門店も次々とオープンしており、その勢いは止まることを知りません。
日本食人気は飲食店だけに限りません。日本食品を扱うアジア系スーパーマーケットも同様に人気を博しています。店内は常に混雑しており、決して安くはない価格帯でありながら、インスタント食品、麺類、味噌や醤油をはじめとする調味料、お菓子、豆腐、納豆、冷凍食品、寿司や惣菜など、それぞれ好みの食品を手に取り、まとめ買いしていく人の姿もよく見られます。
ドイツの大手スーパー「REWE」では、アジア食品コーナーが設けられており、醤油や海苔、出汁、米、麺類などが常備されるようになりました。そんな世界的なムーブメントを起こしている日本食ですが、ドイツでは実際にどんな食品の需要が高まっているのでしょうか?
日本食がドイツで人気を博していることは嬉しい現象ですが、その一方で、規制や使用基準が異なる食品添加物について気になる点が多いのも事実です。日本では約830種類の食品添加物が認可されているのに対し、ドイツでは約320種類と半分以下になります。赤色102号のような合成着色料、防カビ剤、臭酸素カリウムなどは、日本では使用されていますが、ドイツでは禁止されているため、必然的にドイツへの輸出は不可能となります。

また、ドイツはオーガニック先進国、サステナブル先進国と呼ばれ、2021年のSDGsランキングでは世界第3位に位置しています。そんなドイツ市場に日本企業が進出するのは容易なことではないでしょう。
そこで、日本企業が海外進出を目指す際に様々なサポート業務を行っている「日本貿易振興機構(JETRO)」のベルリン事務所に話を聞かせてもらいました。JETROは、1962年に設立された日本の政府系機関であり、日本企業の海外進出や外国企業の日本市場進出を支援する役割を担っています。特に、農業、林業、水産業、食品産業に力を入れており、日本の経済成長を支えるために貿易や投資の促進、経済交流を推進することを目的としている行政機関です。
日本企業が海外進出するためにJETROが行うサポートとは?
_ドイツにおける日本食の需要は増えていますか?
はい、増えています。2024年1~10月の輸出統計ではドイツ向けは前年同期比で約4割増えています。ヨーロッパ全体を見ても増えていますが、特にドイツで伸びて、まだまだ伸びしろがあると言えます。
_どんな食品に需要が高まっているのでしょうか?
お菓子が人気です。特に、米が原料のお煎餅などが人気です。興味深いデータとしては、現代のデジタルコンテンツの普及によって、日本のアニメでおにぎりを食べているシーンを見て、海外でもおにぎりの文化が浸透し始めたことです。特に若い世代はデジタルコンテンツに影響を受けています。
_ドイツと日本では食品添加物の規制が違います。特に、オーガニック先進国であり、サステナブル先進国でもあるドイツにおいて日本食を展開するのは難しいと感じますが、その点についてはいかがですか?
日本にもJAS有機認証などのオーガニック認証があるので、ドイツの基準を満たしている場合は可能です。私たちは、ドイツやヨーロッパに進出したいという日本食品メーカーのサポート業務を行っていますが、その代表例がオーガニック見本市「BIOFACH(ビオファ)」です。JETRO主催の「JAPAN PAVILION」ブースに出展し、世界各国から訪れているインポーターやバイヤーとの橋渡しを行っています。
※「BIOFACH」とは、毎年ドイツ・ニュルンベルクで開催されている世界最大級のオーガニック食品・ナチュラル製品の見本市です。今年も2月11日から14日まで開催されました。過去には「Regenerative Organic(再生型オーガニック)」「カーボンニュートラル食品」「プラントベース食品」「オーガニックCBD製品」などが話題となりました。

_「BIOFACH」は、2022年に現地取材させて頂きましたが、世界中のオーガニック食品を一気に見ることができ、非常に興味深かったです。その年の「JAPAN PAVILION」ではお茶を打ち出していましたが、他にはどんな食品メーカーが出展していますか?
JETROは政府機関として農林水産省などの方針に合わせて、その年に打ち出したい食品に焦点を当てています。
お茶は引き続き需要がありますが、茨城のオーガニッククラフトビールが出展したり、バーやレストランからは漬物や発酵食品の調味料の引きが強いです。漬物はピクルスやオリーブのように扱えて、発酵食品は日本でしか作れない伝統的なものや希少価値が高いことが伝わると値段が高くても需要があります。
_日本企業が「BIOFACH」に出展するとどんなメリットがありますか?
大手企業は視察から取引まで自社で行えますが、中小企業はなかなか難しいのが現状です。私たちJETROが間に入ることによって、見本市への出展から通訳、商談、現地視察などのサポートを受けることが可能です。
「BIOFACH」以外にも食に特化した見本市はありますが、毎年ジャパンパビリオンとして出展することで、定点観測を行い、業績を見ることが大事なのです。JETROではデジタル化・コロナ禍の中で「Japan Street」というJETROが招待した優良バイヤーがいつでもどこでも商品情報を確認出来るオンラインシステムを開発し、当地では2023年度より本格的に導入し、出展企業に登録を促進しました。出展企業が自社の情報を登録することで、インポーターやバイヤーが事前にどんな企業でどんな商品を生産しているかを知ることができます。会社概要や商品だけでなく、輸出実績や価格、パッケージイメージなども事前にデジタル上で知ることができるため、バイヤーはある程度話すことを決めて展示会に訪れます。そのため、商談がうまくいく可能性が高くなるのです。単に日本の会社が出展しているだけでは意味がありません。海外で買える商品なのか、実際に説明を聞かなくてはどんな商品かも分からないですよね。
Japan Street
https://www.jetro.go.jp/germany/japan_street.html

_日本の企業がドイツ市場に進出する際にもやはりサステナブルな取り組みは重要な条件ですか?
そうですね。単に基準を満たしたオーガニックというだけでなく、サプライチェーン、バリューチェーン全体を考えている企業でないと進出は難しいです。ドイツのように意識が高い国で勝負するには足並みを揃えることは大切です。
「BIOFACH2025」でドイツなど海外企業に日本のサステイナビリティーのイメージについて質問してみたところ、まだまだ全体としての認知度は足りているとは言えません。総じて抹茶を始めお茶の印象は浸透しつつある様子ですが、特に過剰な包装に対しては厳しい意見もありました。他方で、政情が不安定な国・地域出身の方からは、日本は百年以上続いている企業が多いことや健康長寿といった声も聞かれました。

_ベジタリアンやヴィーガンといった菜食主義者に向けた商品も絶対必要不可欠になりますよね?
はい。ドイツには、学食にヴィーガンメニューがある大学があります。マーケット全体で見るとドイツの人口10人に1人が菜食主義者というデータは変わっていないかもしれませんが、ベルリンでは、特に、若年層の割合が増えていて、10代では半数近くとも言われており、そのうち菜食主義が主流になる可能性も否定出来ません。
最後に
菜食主義者の人たちは必然的にオーガニックな食材を選び、サステナブルな暮らしを好む傾向があります。筆者は肉も魚も食べますが、あえて食べない期間を設けたり、オーガニック食材を選んだり、添加物を気にすることは日常的になっています。そこに、日本の伝統的で良質な発酵食品をもっと手軽に取り入れることができたら、心身共により豊かな暮らしが実現することでしょう。

