車社会からの脱却を理念に掲げる2028年LAオリンピック。切り札は空飛ぶタクシー?

5月15日、2028年ロサンゼルス・オリンピック実行委員会の公式ウェブサイトは大会期間中に空飛ぶタクシーを運用する計画にArcher Aviation(以下、アーチャー社)を公式プロバイダーに選出したことを発表しました。
この計画が実現すれば、オリンピック訪問客はロサンゼルスの交通渋滞を回避して競技会場間を移動する手段を手に入れることになります。
アーチャー社が開発した航空機「Midnight」は一般的にはeVTOLと呼ばれるものです。Electric Vertical Take-Off and Landing aircraftの略で、ヘリコプターのように垂直離陸と着陸ができますが、電動であることが大きな特徴です。つまり、ガソリンやジェット燃料のような化石燃料を動力に使用しませんので、飛行時にCO2(二酸化炭素)を排出しません。脱炭素に貢献する乗り物でもあるのです。Midnightは最大4人まで搭乗可能で、従来のヘリコプターより静かに飛びます。
アーチャー社最高経営責任者のアダム・ゴールドスタイン氏は次のように述べています。
「私たちはロサンゼルスを移動する人々に変革をもたらし、さらにアメリカの未来の交通にレガシーを残したいと願っています。LA28オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間ほど、それを実現するのに絶好の機会はありません。チームUSAとLA28のロゴを機体に着けたMidnightが乗客を乗せてロサンゼルスの空を飛ぶ日を待ち遠しく思います」
ロサンゼルスのカレン・バス市長は2024年パリ・オリンピックの閉会式で五輪旗を引き継いだ直後に、2028年のオリンピックは”Car-Free”、つまり、すべての会場への行き来を公共交通機関に限ることを宣言しました。
ロサンゼルスの住民はもちろん、この都市を一度でも訪れた人には驚くべき宣言でした。なぜなら現在のロサンゼルスは極端な車社会で、街全体の仕組みが自動車での移動を前提としているからです。
もし”Car-Free”宣言が実現すれば、開催都市に最大の社会変革をもたらしたオリンピックになるかもしれません。その壮大な目標に比べると、当初に市長が語った計画は簡易的なものでした。たとえば、大会期間中に全米各都市から3,000台以上のバスを借りることや、リモートワークを地域企業に提唱するなどのアイデアです。現状から考えると現実的な対策ではありますが、一時しのぎの感は拭えないものでした。
その点、空飛ぶタクシーはゴールドスタイン氏が述べたようにオリンピックが終了した後もレガシーとして残る可能性があります。むろん、その道のりはけっして簡単なものではありません。
大阪万博の目玉のひとつである「空飛ぶクルマ」がデモ飛行中の事故により運航中止になりました。パリ・オリンピックでも空飛ぶタクシーの導入は計画されていましたが、欧州航空安全機関(EASA)の認証が間に合いませんでした。現在のところは技術的にも法制度的にも夢の段階にあると言えるかもしれません。
アーチャー社も米国連邦航空局(FAA)の認証をまだ取得していません。つまり、同社のMidnightは現時点では米国内での商業利用が合法ではないのです。まずは十分な安全基準を満たしていることを当局に証明することが同社のもっとも重要な課題になるでしょう。
大谷翔平選手らが活躍するロサンゼルス・ドジャースの本拠地ドジャー・スタジアムは現在も日本からの観戦ツアーで賑わっていますが、2028年のオリンピックでも野球競技会場となることが決定しています。広大な駐車場に囲まれたこのスタジアムは周辺の交通渋滞が起こることでも有名です。
はたして空飛ぶタクシーはその解決策になり得るでしょうか。価格について、ゴールドスタイン氏はライドシェアの高値オプションと同程度に抑える方針だと述べています。

