「植林をしてからホテルに泊まる」オークランド発の再生型ツアーとは?

「植林してからホテルに泊まる」——そんな発想から生まれたニュージーランド・オークランド発のツアーがあります。これは単なるエコ体験ではありません。宿泊と森の再生をひとつのストーリーとして設計した、再生型ツーリズムの具体例です。[1]
The Hotel BritomartとVelskov Forest Farmが共同で企画した「Nourishing Nature」は、原生林での植樹やフォレージングと、都市型サステナブルホテルでの滞在を組み合わせた半日ツアー兼宿泊パッケージです。[2]
本記事では、Velskovの森づくりとThe Hotel Britomartの再生型設計、そして両者を結ぶツアーの全体像を整理します。あわせて、日本の観光・宿泊事業者が自社の体験や企業研修にどう応用できるのか、そのヒントも探ります。[3]
Velskov Forest Farm ― 森を再生する「ネイティブフォレストファーム」
Velskov Forest Farmは、オークランド近郊のパラウに位置する原生林農場です。もともとの在来森林を再生しながら、訪問者の体験と気候変動対策を両立しています。[4]
農場では、再生型林業と生物多様性の保全を柱に、在来林の復元を進めています。あわせて、森の恵みを生かした食の体験を組み込んだプログラムも展開。ゲストは森を歩き、植物に触れ、収穫物を味わい、最後に苗木を植えることで、単なる見学者ではなく、森の再生プロジェクトの一員として関わることができます。
生態系「WF11」とカウリ・ポフツカワの森

Velskovの森づくりは、ニュージーランドの在来生態系を基盤とする「WF11」*と呼ばれるタイプの原生林の再生を目標としています。[5][6]
この生態系では、カウリやポフツカワなどニュージーランド固有の樹種を中心に、多様な在来植物が幾層にも重なり合う、豊かな森の姿が想定されています。再生された森林は、土壌を育み、水を蓄え、野生生物のすみかとなるなど、地域の自然環境を支える重要な役割を担います。
ゲストが植えるのも、こうした在来生態系に適した在来植物です。自ら植えた一本が、やがて森の一部となり、地域の食文化や生態系を支える存在へと育っていく。そのプロセスまでを体験として設計しています。
※WF11:オークランドの古い在来の森の種類で、大きなカウリという木が中心の豊かな森林。現在は伐採などで絶滅危惧種で、植樹などで元に戻す取り組みが進んでいる
提供している体験プログラム

Velskovでは、「Art of Foraging(フォレージング*体験)」やマオリスタイルのダイニング、「fern baths(フライト後のリカバリーを目的とした入浴体験)」など、少人数向けの自然体験プログラムを提供しています。
これらのプログラムは、ネイティブ植物や地域の生態系に関する知識を伝えると同時に、その資源を無理なく活用する方法を学ぶことを目的としています。体験に参加すること自体が、保全活動への資金や関心の循環につながる仕組みです。
また、最大約30名まで利用できるイベントスペースも備えており、チームビルディングや企業研修として実施される「Nourishing Nature」、コーポレートボランティアデーなども開催。ビジネスチームの学びや対話を、森の再生と結びつける設計となっています。
※フォレージング(Foraging):大自然の中で野生の植物やキノコ、食材を専門家のガイドと共に採取し、その場で調理して味わう体験型のアクティビティ
The Hotel Britomart ― 都市型ホテルの再生型設計
The Hotel Britomartは、オークランド中心部の歴史的倉庫街ブリトマート・プレシンクトに建つ、11階建てのブティックホテルです。ニュージーランドで初めて「5 Green Star」認証を取得したホテルとしても知られています。[7]
同ホテルは、単にエネルギー効率の高い建物というだけではありません。素材の選定から解体廃材のリサイクル、運営段階における温室効果ガス排出の削減まで、建築とオペレーションの両面で環境負荷を抑える設計が組み込まれています。[8]
さらに、ブリトマート一帯のレストランやカフェ、ショップと連携した立地を生かし、徒歩や公共交通機関、フェリーでの移動がしやすい環境も整備。ロケーションそのものがサステナブルである点も、この都市型ホテルの大きな強みです。[9]
ニュージーランド初の「5 Green Star」ホテル

The Hotel Britomart は、ニュージーランド・グリーンビルディング協議会(NZGBC)の Green Star 認証において、カスタムツールによる Design(設計)と Built(建設)の双方で 5 Green Star 評価を取得した、ニュージーランド初のホテルです。
この評価は、同ホテルの環境性能がニュージーランド建築基準法を満たす一般的な建物よりも高い水準にあることを示しています。運営時の温室効果ガス排出量も、従来型の建物と比べておよそ半分に抑えられる設計です。
さらに、グリーンスターのパフォーマンスツールを活用し、運営段階の環境指標も継続的に管理。認証を取得して終わりではなく、長期的に環境配慮を実践し続ける仕組みを整えています。
建築・エネルギー・水の工夫

建築面では、建設過程で出た廃棄物のうち業界ベンチマークである70%を大きく上回り、約80%を再利用またはリサイクルしています。新築部分には地域素材や地元職人の技術を積極的に取り入れることで、輸送や製造段階で生じる環境負荷を抑えています。
エネルギー面では、高効率設備の導入や断熱性能の向上により、同規模の一般的なホテルよりも少ない運用エネルギーで快適性を維持する設計です。その結果、温室効果ガス排出量の大幅な削減につなげています。
水資源についても、節水型設備の採用と適切な管理体制によって使用量を抑制。都市インフラへの負担を軽減する工夫が評価項目の一部となっています。目に見える空間デザインだけでなく、「見えない部分」まで配慮したサステナビリティが設計思想に組み込まれています。
サプライチェーンと素材選び

The Hotel Britomartでは、建築素材にとどまらず、インテリアや備品にもローカル素材や地元職人の製作物を積極的に採用しています。地域経済への貢献と、輸送に伴う環境負荷の低減を同時に実現する設計です。
ホテル内で提供される食品や飲料についても、ブリトマート地区のレストランやカフェ、周辺のサプライヤーと連携。地域の生産者や事業者を支えるサプライチェーンを構築しています。
こうして、サプライチェーン全体を「場所性」と「低インパクト」という軸で組み立てることで、ゲストは滞在するだけで自然とローカルビジネスを支援できます。体験を通じて、その価値を実感できる設計です。
第三者認証による透明性と信頼性

The Hotel Britomartが取得している5 Green Star認証は、第三者機関であるNZGBCによる評価です。環境性能を自己申告するのではなく、客観的な基準に基づいて審査・判定されています。
NZGBCの評価ツールは、設計や建設時の材料選定に加え、エネルギー・水・廃棄物の管理、室内環境の質など、多角的な項目から建物の持続可能性を総合的に評価します。
こうした第三者認証の存在は、環境やサステナビリティを担当する部門、企業の研修担当者にとって大きな裏付けになります。社内外に説明しやすく、宿泊先や研修施設を選定する際の重要な判断材料となるでしょう。
Nourishing Natureツアー「植林してから泊まる」体験とは?

「Nourishing Nature」は、The Hotel BritomartとVelskov Forest Farmが共同で企画した、約4時間の半日ツアーです。ホテル宿泊と組み合わせた滞在パッケージも用意されています。
ゲストはホテルから専用ドライバー付きの電気自動車でVelskovへ移動。ネイティブフォレストを歩き、食べられる植物を採取し、テイスティングを楽しんだ後、最後にネイティブツリーを植えるという流れで体験が進みます。
企業向けには、日時や参加人数に応じたカスタマイズも可能です。チームビルディングやサステナビリティ研修の一環として、宿泊と一体で導入しやすい設計になっています。
宿泊と保全をつなぐ循環モデル
このツアーの特徴は、移動から食事、植林に至るまでの一連の体験が、環境負荷の低減と地域コミュニティへの貢献を意識して設計されている点にあります。[10]
ゲストは電気自動車で移動し、現地では森で採取した植物や地域の食材を味わいます。そして最後に在来種を植えることで、自らの体験が将来の森や食文化へとつながっていく流れです。「楽しむこと」と「再生に関わること」が、ひとつのストーリーとして結び付けられています。
ホテル側にとっても、宿泊単体ではなく保全活動と組み合わせたパッケージとして提案できる点が強みです。価格以上の体験価値や、企業研修としての意義を具体的に伝えやすい循環モデルといえるでしょう。
植えた木がホテルの食材になる仕組み

Nourishing Natureでゲストが植えるのは、食べられる在来植物や樹木です。苗木は森の中で育ち、将来的にはその一部がテイスティング用の食材として活用されます。
ツアーでは専門ガイドの案内のもと、ハーブや在来植物を採取し、その場で味わうプログラムが組まれています。森からテーブルまでの距離が極めて短い「フォレスト・トゥ・テーブル」という発想を、体験として実感できる構成です。
自分が植えた一本が、将来の食体験や生物多様性を支える存在になる。その循環を理解することで、ゲストは単なる記念植樹を超えた、長期的な関わりを具体的に思い描きやすくなるでしょう。
ホテルの食と地域サプライヤーの連携

体験で提供されるフードは、森で採取した植物に加え、地域のチーズや肉、パンなどを組み合わせたテイスティング形式です。ローカルサプライヤーとの連携を前提に構成されています。
The Hotel Britomart自体も、ブリトマート地区に集まるレストランやカフェに近接しており、ゲストはツアー後の滞在中も徒歩圏内で多彩なローカルフードを楽しめる環境です。
森での体験、ホテルでの滞在、周辺の飲食店や生産者とのつながりが相互に補完し合う構造。こうして、宿泊・体験・食が循環するローカルエコシステムが形成されています。
日本の観光・宿泊事業者が学べること
Nourishing Natureの事例は、「自然保全」と「宿泊体験」を分断させず、ひとつの物語として結びつけている点が最大の魅力です。
自然豊かな地域に限らず、都市部のホテルや旅行会社であっても、以下の3つの視点はこれからのサステナブルツーリズムや企業向け研修(インセンティブトラベル)を企画する上で大いに応用できます。
1. 「宿泊+保全活動」のシームレスな設計
移動から保全活動(植樹など)、食事、宿泊までをひとつのパッケージとして提供することで、体験のストーリーが明確になります。
ゲストに「ボランティアをさせる」のではなく、地域の食や文化と絡めた「心地よい体験」として設計すること。これにより自然な行動変容を促し、導入のハードルも下げられます。
2. 循環型サプライチェーンの構築
「森で採れた食材」と「地域の生産者からの仕入れ」を組み合わせ、体験からホテルの食卓までを一貫した流れで繋ぎます。
ポイントは地元の農家や醸造所などと連携し、体験で使う食材と提供メニューをリンクさせることです。距離や環境負荷だけでなく「ストーリーの一貫性」を持たせることで、記憶に深く残る滞在となるでしょう。
3. 第三者認証の活用による信頼性の担保
「5 Green Star認証」のような客観的な評価は、取り組みの信頼性を高める強力な武器になります。
自社の現在地を測る「ものさし」になるだけでなく、企業研修などを手配するBtoBの顧客に対して、選ばれるための社内報告など説得力のある材料となるでしょう。
まとめ
オークランドの「Nourishing Nature」は、移動・食・体験を一体化させ、楽しみながら地域や環境に貢献できる優れたモデルです。
日本の事業者も、自社の地域資源やパートナーシップ、活用できる認証制度を改めて見直し、「宿泊+再生体験」という新しい物語をどう紡ぐか。そこに、これからの観光の価値を高めるヒントが隠されています。
参考文献
[1] Nourishing Nature — Velskov Native Forest Farm, Auckland, New Zealand
[2] Nourishing Nature: A Native Forest Farm Experience – The Hotel Britomart
[4] Introducing New Zealand’s First Hotel-Led Regenerative Travel Experience
[5] Kauri, podocarp, broadleaved forest ecosystem (WF11)
[6] Our Ecosystem — Velskov Native Forest Farm, Auckland, New Zealand[7] The Hotel Britomart
[8] The Hotel Britomart Sets the Standard for Sustainability
[9] The Hotel Britomart | Auckland NZ
[10] Nourishing Nature – A Native Forest Farm & Stay Experience – The Hotel Britomart
