自社でプラスチックストローを廃止する。施設の節電を進める。電気自動車を導入する。こうした取り組みは、いまや多くの企業にとって「当然のステップ」になっています。しかし、ニュージーランドの先進的な観光事業者たちは、すでにその先の段階へ進んでいます。
彼らがいま特に力を入れているのが、環境に配慮した取引先から優先的に仕入れるという、戦略的な調達の仕組みです。
現地で時に「エコひいき(Strategic Eco-favoritism)」とも呼ばれるこのアプローチは、自社の環境対策にとどまらず、仕入れを通じてサプライチェーン全体に変化を促す力を持っています。
本記事では、ニュージーランドを代表する観光事業者「RealNZ(リアル・ニュージーランド)」の事例をもとに、なぜいま「調達」がサステナビリティの最前線なのかを詳しく見ていきます。
なぜいま「調達」を変える必要があるのか?|スコープ3の壁

サステナビリティを考えるうえで、避けて通れないのが「排出の区分(スコープ)」という考え方です。自社の燃料消費(スコープ1)や電力使用(スコープ2)の削減には、すでに多くの企業が取り組んでいます。
しかし、本当の課題はその先にあります。
観光事業における環境負荷の多くは、実は事業者の外側で発生しています。たとえば、食材の生産、アメニティの製造、リネンのクリーニングと輸送、外部委託したアクティビティなどです。
こうした自社が直接管理していないサプライチェーン由来の排出は「スコープ3」と呼ばれます。
サプライチェーン全体を動かす「調達」の力
環境省のガイドラインや国際的な統計によれば、多くの企業では、スコープ3が排出量全体の7〜8割を占めるとされています。つまり、自社の内部をどれほどきれいに整えても、排出の大部分は手つかずのまま残ってしまうのです。[1]
だからこそ重要になるのが、「何を買うか」だけでなく「誰から買うか」という視点です。買い手が調達基準を見直せば、その影響は納入業者の設備投資や包装、物流設計にまで広がります。
調達は、単なるコスト管理ではありません。サプライチェーン全体を動かすための最強のレバーです。観光事業者にとって、まさに最前線のサステナビリティ施策だといえるでしょう。

「エコひいき」を戦略に変える3つの柱

「エコひいき」とは、環境・社会基準を満たした取引先を意図的に選び、優先する調達の姿勢を指します。これは、サステナブル調達の考え方にもとづき、調達を通じて市場全体の行動変容を促していく戦略的なアプローチです。
この「エコひいき」を、現場の業務にどう落とし込むべきか。そのヒントとなるのが、RealNZの取り組みから見えてくる以下の3つの柱です。
- 価格・品質に「環境・社会面」の評価軸を加える
- 排除ではなく「協働」によって育成する
- 認証をフィルターとして使い、客観性を担保する
1.価格・品質に「環境・社会面」の評価軸を加える
従来の仕入れ判断は、主に「価格」「品質」「安定供給」の3軸で行われてきました。サステナブル調達では、これに「環境への配慮」「地域経済への貢献」「社会的な倫理」といった観点を加えるのが特徴です。
こうした複数の視点でサプライヤーを評価することで、「安ければよい」という短期的な判断から、「自社の価値観に合う相手と長く取引する」という中長期の視点へと移っていきます。ESG投資が広がるなかで、こうした調達の見直しは、ブランド価値の向上や将来的な規制リスクの回避にもつながるとされています。
2. 排除ではなく「協働」によって育成する
サステナブル調達は、「基準を満たさない業者をすぐに切り捨てる」ことを意味するわけではありません。多くの先進企業が重視しているのは、既存の取引先とともに改善を進める「協働」のプロセスです。
たとえば、調達チームがサプライヤーと対話し、梱包材を減らす方法や容器の回収・再利用の仕組みを一緒に考えるといった積み重ねが、取引先の変化を促します。
「排除」ではなく「育成」という姿勢は、地域全体の持続可能性を底上げし、供給網を強くする土台にもなります。
3. 認証をフィルターとして使い、客観性を担保する
「環境に良さそうな会社」という主観的な印象だけで選ぶのでは、判断の透明性は保てません。そこで有効なのが、既存の第三者認証を調達の「ものさし」として活用する方法です。
認証を取得した事業者から優先的に調達するルールを設ければ、判断のぶれを抑えられます。さらに、第三者認証を取得している事業者は、すでに信頼できる機関による客観的な審査をクリアしています。そのため、自社で一社ずつ取引先の環境対策状況を確認する手間を大きく減らせるという実務上の利点もあります。
「なぜその取引先を選んだのか」を客観的な根拠で示せることは、顧客やステークホルダーへの説明責任を果たすうえでも重要です。

実践事例|RealNZが実現した「サプライヤーとの共創」

ニュージーランド南島で多様な観光体験を提供するRealNZは、「エコひいき」を実務レベルで実装している、ニュージーランドを代表する先進的な観光事業者です。
同社の特徴は、必要なものを仕入れるだけでなく、地域やサプライヤーと連携しながら、環境配慮や地域価値の向上につながる商品や仕組みそのものをつくっている点にあります。[2]
地元調達による価値創出
RealNZは、「可能なかぎり地元から調達する」という方針を掲げており、提供するワインとスピリッツもすべてニュージーランド産に切り替えています。[3]
これは単なる地産地消ではありません。地元産を選ぶことで、長距離輸送による環境負荷を抑えられるだけでなく、地域の生産者の利益にもつながります。さらにゲストにとっても、その土地で育まれた味や背景に触れられることが体験の価値を高める要素になります。
こうした「環境負荷の軽減」「生産者への利益」「ゲストへの体験価値」の3つを同時に実現する象徴的な事例が、セントラル・オタゴのワイナリー「Wet Jacket Wines」との連携です。

RealNZは2022年、フィヨルドランドのワインリストにWet Jacket Winesの「Putangi(プタンギ)」というコンサベーション・ワインを導入しました。このワインには、売上を通じて自然保護を支援する仕組みが組み込まれています。1本販売されるごとに10ドルが、ダウトフルサウンド、ミルフォードサウンド、クイーンズタウンの3カ所で進められている保全プロジェクトに寄付され、ニュージーランド自然保護省(DOC)もこの取り組みを支持しています。
ゲストがワインを一杯楽しむことが、フィヨルドランドの生態系を守ることにもつながる。この事例は、調達の選択が観光体験と自然保全をひとつの流れとして結びつけていることを示しています。
サプライヤーとの共創による循環モデル
RealNZの調達の特徴は、商品を仕入れて終わりにせず、使用後の回収・再資源化までを含めてサプライヤーとともに仕組み化している点にあります。
これを具体的に示しているのが牛乳容器の回収・再資源化の取り組みです。RealNZは牛乳の仕入れ先と連携し、使用済みの牛乳容器を配送のたびに引き取ってもらう仕組みを構築しました。回収された容器はプラスチックペレットに再生され、排水管などの製品へと生まれ変わっています。
こうした取り組みは、同社の調達が単なるコスト管理ではなく、サプライチェーン全体を変えていく実践であることを示しています。
カードローナの変革|小さな問いかけが2万4,000枚のプラスチックパッケージを削減する

サステナブルな調達への移行は、最初から大規模な仕組みづくりを目指す必要はありません。小さな見直しが、やがて大きな改革へとつながることもあります。
RealNZグループが運営するスキーリゾート「カードローナ・アルパイン・リゾート」の事例は、まさに現場の小さな決断が、10年以上にわたるサプライチェーン改革へと発展した好例です。[4]
きっかけは2013年、売店で販売していたパイに使われていたプラスチック包装を廃止すると決めたことでした。この判断によって、毎年2万4,000枚以上のプラスチックパッケージが廃棄物になるのを防ぐことに成功しました。この成功体験を出発点として、取り組みは次々と広がっていきます。
| 年 | 主な取り組み |
|---|---|
| 2014年 | プラスチックストローを全廃 |
| 2017年 | 飲食店舗で使い捨てプラスチックを撤去し、再利用可能な食器・カトラリーへ移行 |
| 2018年 | Wastebusters Wānakaやサプライヤーと連携し、使用済みユニフォームの寄付・再利用の仕組みを構築 |
| 2021年 | リゾート内にある2つの山の埋め立て用ごみ箱をすべて撤去し、生鮮食品のプラスチック包装廃止とコンポスト化を推進 |
| 2024年 | ポストミックスシステムを導入し、ソフトドリンク缶の廃棄物を年間3,000kg以上削減 |
カードローナでは、サプライヤーと連携しながら、販売するすべての商品から包装をなくす取り組みを続けてきました。こうした過程から見えてくるのは、廃棄物削減という課題は自社だけの努力では解決できないという事実です。
一つひとつの判断は小さなものだったかもしれません。しかし、それを10年にわたって積み重ねた結果、スキー場全体の廃棄物の流れを根本から変えることに成功しました。日々の小さな「調達の見直し」が、やがて環境への巨大なインパクトを生み出すことを、カードローナの歩みが証明しています。
「認証」を実務のツールとして使いこなす

サステナビリティに本気で取り組もうとすると、「どの会社が本当に信頼できるのか」という判断が難しくなります。全取引先の環境報告書を自社で精査するのは、現実的ではありません。
そこで活用できるのが、第三者認証というフィルターです。たとえばニュージーランドには、観光分野の公式品質認証機関「Qualmark(クォルマーク)」があります。これは独立した審査機関が以下の3つの観点から事業者を評価する仕組みです。
- Light footprint(環境負荷の最小化)
- Safe and sound(安全と安心の提供)
- Warm welcome(温かいホスピタリティ)
基準を満たした事業者のみがBronze・Silver・Goldの認定を受けられます。
Qualmarkの評価基準は、2023年にサステナブル観光の国際的な推進機関であるGSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)から承認されました。これにより、世界基準と同等の高い水準にあることが認められています。[5]
RealNZもQualmarkのSustainable Tourism Business Awardで最高位の Enviro Goldを取得しており、独立した審査によってサステナブルな観光事業者として認められています。
こうした認証の活用は、持続可能性の取り組みを属人的な判断にせず、組織的に支えるための土台として機能します。[6]
調達とは「誰と共に歩むか」の意思表示である
調達とは、単に「何を買うか」を決めることではありません。RealNZとカードローナの実践が示しているのは、調達が「誰と共に未来へ進むか」を表す意思表示になるということです。
買い手が基準を見直せば、サプライヤー側の改善や新たな工夫を促すきっかけが生まれます。そして、その変化はやがて地域全体のスタンダードを少しずつ変えていく可能性を持っています。巨額の投資がなくても、「もっと環境負荷を減らせないか」「地域の価値を一緒につくれないか」と問いかけることは可能です。
そうした小さな対話の積み重ねこそが、持続可能な観光と地域産業の未来を育てる第一歩になります。

参考文献
[1]企業のバリューチェーン(スコープ3) 算定と報告の標準
[3]‘Putangi’ Conservation Wine | RealNZ
