MENU
  • リジェネラティブツーリズムについて
  • カテゴリー別
    • リジェネラティブツーリズム
    • 社会
    • 環境
    • 経済
  • イベント
  • 用語集
  • 企業、自治体、DMO、観光事業者の皆様へ
  • メルマガ登録
  • English
お問合せ
リジェネ旅
  • イベント
  • 事業者の皆様へ
  • メルマガ登録
  • English
リジェネ旅
  • イベント
  • 事業者の皆様へ
  • メルマガ登録
  • English

サステナブルツーリズム先進国・タイの実践から学ぶ観光戦略

2026 5/15
リジェネラティブツーリズム
GSTC サステナブルツーリズム タイ 取材 持続可能な観光
2026-5-15
  1. ホーム
  2. リジェネラティブツーリズム
  3. サステナブルツーリズム先進国・タイの実践から学ぶ観光戦略

画像提供:GSTC

なぜ今、タイはアジアにおけるサステナブルツーリズムの先進地として注目を集めているのか。その答えを探るため、2026年4月、タイ・プーケットで開催されたグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)が主催するグローバル・サステナブル・ツーリズム・カンファレンスを現地取材した。

この国際会議には、世界60カ国以上から観光業界のプロフェッショナルが集結。行政、ホテル、旅行会社、DMO、認証機関など、多様な立場の関係者が、観光産業の持続可能な未来について議論を交わしていた。

そこで見えてきたのは、サステナビリティを単なる理念やスローガンとして掲げるのではなく、実際の制度や事業、地域運営へ落とし込む「仕組み」と、それを前進させる強い「リーダーシップ」の存在だった。

「量から質へ」、世界最大のサステナブルツーリズム会議を主催した国の意志

グローバルカンファレンスのオープニングセッションで、タイ国政府観光庁(TAT)のタパニー・キアットパイブーン(Thapanee Kiatphaibool)長官は、「量ではなく質、そして長期的なサステナビリティに基づいて観光産業の未来を築くべきだ」と強調した。この発言は、入込客数や外貨獲得額といった従来の指標から一歩踏み出し、観光がもたらす本質的な価値を問い直すものだった。

タイが目指しているのは、単なる「観光大国」ではなく「サステナブル観光のリーダー国」である。観光地の過負荷を避けつつ、地域社会や生態系を守りながら持続的に発展していくための、極めて実践的な視点が示されている。

入込客数の最大化に依然として重きが置かれがちな日本の観光行政と比べ、タイはすでに「どのように受け入れ、どのように分散し、どのように地域へ還元するか」という次のフェーズへと舵を切っている。

トップダウンとボトムアップが交差する構造的強み

出典:tamagawa.repo.nii.ac.jp アフターコロナに向けた 新たなタイの観光戦略に関する考察

タイの観光分野でいうDUSTAとは、「Designated Areas for Sustainable Tourism Administration(持続可能な観光のための指定地域開発機構)」を指す政府機関である。この組織は、持続可能な観光地域の開発と管理を担い、地域コミュニティと連携しながら観光モデルの構築を進めている。

また、GSTC基準に基づいた観光地づくりの支援や、オーバーツーリズム対策、観光客の地域分散の推進なども重要な役割としている。つまりDUSTAは、観光を地域にとって持続可能な形で実装していく中核的な存在であり、タイがサステナブルツーリズムをリードする背景の一つとなっている。

「なぜタイは実現できているのか」という問いの一つの答えがここにある。多くのアジア諸国では、サステナビリティ政策は省庁間の縦割りや予算の分断によって停滞しがちだが、タイはそうした構造的な障壁を一定程度乗り越える仕組みを持っている。

出典:Thailand Green Tourism Plan 2030

同時に、ボトムアップの実践も着実に進んでいる。観光庁が主導する「Thailand Green Tourism Plan 2030」には、Green DestinationsやTravelife、マヒドン大学などを含む49の機関が参画している。特徴的なのは、グローバル基準をそのまま導入するのではなく、タイの中小観光事業者(SME)が実際に使える形にローカライズしている点だ。GSTC基準をベースに、各種フレームワークを統合した「Green Scan System」というデジタルツールを開発し、自己評価から認証取得までを段階的に進められる仕組みが整えられている。

さらに、タイは「Thailand Good Travel」という独自のホワイトラベル認証も創設している。象の牙をチェックマークに見立てたロゴを持つこの認証は、デスティネーション、コミュニティ観光、50室以下の小規模宿泊施設、ツアーオペレーターを対象とし、国際基準と整合した国内の信頼指標として機能している。

これは、スロベニアの「Slovenia Green」が成功例として示したように、自国独自の認証体系を持つことで、グローバル基準に対応しながらローカルに根付いた観光戦略を実現できることを意味する。会議の現場でも「スロベニアモデルが最も野心的だ」という評価が聞かれたが、タイはそのモデルをアジアの文脈で実装しようとしている。

「マインドセット」と「リーダーシップ」、
セッションで繰り返された2つのキーワード

提供:GSTC

会議のセッションを通じて、タイ側の登壇者が最も強調した課題は「マインドセットの変革」だった。「サステナビリティとは、ロゴでもマーケティングソリューションでもない。未来に対する責任であり、倫理だ」ある登壇者が放ったこの言葉は、会場に静かな緊張感をもたらした。

タイが自らの課題として挙げていたのは、①人々のマインドセットの変革、②組織間で方向性を一致させること、③予算不足や経済危機の影響、④ガバナンス体制、⑤キャッシュフローの確保、という5つのテーマだった。

特に印象的だったのは、「サステナビリティへの対応は、現場ではどうしても優先順位が後回しになりやすい」という現実を、タイ側が隠さず共有していた点だ。その上でなお、「強いコミットメント」「リーダーシップ」「実践的な実行」にこだわり続けると明言していた姿勢は、単に成功事例だけを並べる会議とは一線を画していた。

理想論だけではなく、現実的な課題や制約を認めたうえで、それでも前に進もうとする。その誠実さこそが、いまタイがサステナブルツーリズム分野で存在感を高めている理由の一つなのかもしれない。

特に印象的だったのは、Dusit Internationalでタイ中部・南部エリア担当副社長を務めるプラチューム・タンティプラサーツック(Prachoom Tantiprasertsuk)氏の発言だ。

同氏は、ラグジュアリーホテルブランドにおいてサステナビリティを実装していく難しさを率直に語った。その上で、成功の鍵となるのは、「ゲストや従業員とどのようにコミュニケーションを取り、サステナビリティへの認知や共感を共有していくか」だと強調した。

単に環境データや数値を並べるだけでは、人の心は動かない。むしろ、サステナビリティを“ストーリー”として伝え、体験として感じてもらうことが重要だという。それは、ラグジュアリーとサステナビリティを対立する概念ではなく、「新しい価値」として結びつけていくための、非常に実践的な視点だった。

「スロートラベル」と「セカンダリーシティ」、大量消費型観光の変革へ

グローバルカンファレンスを通じて、タイがアジアでリーダーシップを発揮できるもう一つの理由が見えてきた。それは、タイの地理的・文化的多様性が「スロートラベル」と「セカンダリーシティ」という新しい観光モデルの実験場として機能できるという点だ。

「長く滞在してもらうことはタイにはできる」という発言は現地の自己認識を表している。しかし同時に、セカンダリーシティへの誘導には課題があることも認めていた。地元の交通インフラ、ステークホルダー間の連携、地域の受け入れ準備。これらが揃って初めてスロートラベルは成立する。Agodaの登壇者は「スロートラベルはトレンドではなく、私たちの戦略の核心だ」と言い切った。

「Hidden Gems in Thailand」というキャンペーンでセカンダリーシティの認知を高めようとしているタイの試みは、バルセロナやヴェネツィアのオーバーツーリズム問題に悩む欧州とは異なるアプローチだ。問題が深刻化する前に、分散型の観光構造を設計しようとしている点において、アジアの新興観光大国として学ぶべきモデルがある。

日本への問い、クリエイティビティとレスポンシビリティのバランス

海岸エコシステムと地域経済を学ぶエクスカーションツアー

今回のグローバルカンファレンスで、印象に残った言葉の1つが、「サステナビリティは、クリエイティビティとレスポンシビリティの両輪で成り立つ」という言葉だった。

コストや制約を乗り越えながら、新しい価値ある体験を生み出すのがクリエイティビティ。そして、未来や地域社会への責任を担うのがレスポンシビリティである。サステナビリティとは、単なる“我慢”や“規制対応”ではなく、創造性と責任感の両方を必要とする営みなのだ。

一方で、日本の観光産業を見渡すと、レスポンシビリティの議論がほとんどを占める。例えば排出量の算定、情報開示、認証取得といった領域は着実に進み始めている。しかしその一方で、「サステナビリティをどのように魅力的なゲスト体験へ昇華するか」というクリエイティビティの視点は、まだ十分に議論されていないようにも感じる。

タイのラグジュアリーホテル関係者が、「ゲストとのコミュニケーションこそが成功の鍵」と語っていたのに対し、日本では依然として、「何をどう開示するか」という段階に留まっているケースも少なくない。

今回のグローバルカンファレンスでタイがプーケットから世界へ発信していたのは、「基準や認証は、単なるコンプライアンスのために存在するのではない」というメッセージだった。それらは、観光産業が抱えてきた“大量生産・大量消費型”のビジネスモデルを変革するための“触媒”なのである。

今後、サステナビリティ対応が“当たり前”になる時代は確実に訪れるだろう。しかし、その先に問われるのは、「観光産業そのものの構造を、本当に変革できるのか」という、さらに根本的なテーマだ。

そして、GSTC 2027の開催地は、ナッソ(Nassau)へと引き継がれた。次のステージへバトンが渡された今、プーケットで耳にしたある言葉を改めて噛み締めたい。

「Tourism has the power to do it(観光には、それを実現する力がある)」

その力を信じ、次の一歩を踏み出せるかどうか。いま、観光産業そのものが問われている。

(取材・文:市川隆志/リジェネ旅編集部)

本記事はGSTC Global Conference 2026(2026年4月、プーケット開催)の取材に基づいています。

リジェネラティブツーリズム
GSTC サステナブルツーリズム タイ 取材 持続可能な観光