提供:株式会社今治.夢スポーツ
2023年1月、愛媛県今治市にFC今治のホームスタジアムとして「今治里山スタジアム(現:アシックス里山スタジアム)」が誕生した。
スタジアムが掲げるコンセプトは「文化・交流拠点として地域と人を繋ぐ。365日賑わうスタジアム」。施設内にはカフェやドッグランが設けられ、試合のない日も地域住民が足を運べる場所として設計されている。

筆者がその名称とコンセプトを知ったとき、自然に囲まれた丘の上に、山と調和するように建てられたスタジアムを思い浮かべた。リジェネラティブな理念を掲げ、綿密に設計された環境配慮型の施設が、そこにあるのだろうと。
リジェネラティブツーリズムを実践しようとする場合、まず必要になるのは「理念と戦略」ではないだろうか。目指すべきビジョンを言語化し、それを体現するための設計図を描き、十分なリソースを投じる。そうした意図的なプロセスを経て、はじめて「リジェネラティブな場所」は生まれる。
しかし、その前提は本当だろうか。取材を通じてわかったのは、潤沢な予算がなくとも、理念を形にすることはできるということだ。自治体からの財政支援が得られない中、制約の中で知恵を絞り続けた結果として、アシックス里山スタジアムは生まれた。
町と共に成長する「里山スタジアム」
FC今治が拠点とする愛媛県今治市は、瀬戸内海に面した人口約14万人の地方都市だ。かつては繊維産業で栄えたが、産業の空洞化とともに人口減少が続いている。若者は都市へ流出し、高齢化率は上昇する。地方都市が抱える構造的課題を、ほぼ全て内包している町だ。
そんな今治の町に、サッカー元日本代表監督・岡田武史さんが拠点を構えたのは20214年のことだった。岡田さんは、FC今治の運営会社である株式会社今治.夢スポーツの代表取締役社長に就任(現在は、代表取締役会長)。「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という企業理念を掲げてスタートした。サッカーを事業の柱としながら、地域に根ざした場所を作る。それがクラブの出発点だった。

しかし、四国リーグからJFL、J3、J2、J1への昇格を見据えた時、その理念を体現する場所が「そもそも存在しない」という壁に突き当たる。Jリーグの規定では、上位リーグへの昇格には観客席数や屋根の面積など、スタジアムの設備基準を満たすことが求められる。今治には、その基準に対応するスタジアムがなかったのだ。
愛媛県や今治市に建設を打診したものの、財政難を理由に支援は得られなかった。他に頼れる主体がない以上、クラブ自らが建設主体となるしかない。最終的な建設費は20億円超。その大半を借入で賄うという、リスクを丸ごと引き受ける決断だった。
資金を自ら調達する以上、どんなスタジアムを建てるかは自分たちで決められる。株式会社今治.夢スポーツの代表取締役社長である矢野将文さんはその時、「自分たちの企業理念を体現するようなスタジアムを作りたい」と考えた。
当初は「複合型スマートスタジアム」を目指していたという。スタジアムの下にテナントが入り、商業施設と一体化した大型の複合施設である。しかしデベロッパーからは「商圏が足りない」と判断され、実現には至らなかった。身の丈に合った形を模索する中で浮かび上がったのが、里山というコンセプトだった。

きっかけは、滋賀県にある菓子メーカー・たねやの複合施設「ラ コリーナ近江八幡」への訪問だった。田んぼが広がり、バウムクーヘンの工場があり、そこに人々が集い、賑わう。岡田さんは、自然が手入れされ、生き生きとしている光景を見て、「こういう場所を作りたい」と気づいた。
矢野さんにとっても、この「里山」というコンセプトを自然に受け入れられたのには、理由がある。金融機関での10年間、債券営業として有価証券運用のコンサルティングに従事していた矢野さんは、退職後に立ち止まって考えた。多忙な日々の中で、本当に大切にすべきものを後回しにしてきたのではないか、と。その気づきを胸に、「身近なものを大切にすることから始める」と決めた。
その第一歩として飛び込んだのが、農業の世界だった。地元の種苗会社が河川敷で営む堆肥作りの現場に入り込み、麦わらや米わら、畜産から出る有機物を積み上げて発酵させる工程を自ら体験した。農業関係者との交流が広がる中で、「私たちが田畑で作物を育てられるのは、山からミネラルが流れてくるからだ」という言葉が矢野さんの心に残った。その言葉に導かれるように、山へと足を向けた。
もともと大学院で資源工学を専攻していた矢野さんは、30代半ばに愛媛大学の「高度林業技術者養成コース」で林業の学び直しを決意した。愛媛だけでなく宮崎や和歌山の山々にも足を運び、各地の現場に飛び込んでいった。そこで出会った山主たちは、自分の「2世代前」の人間が植えた木を切って糧にしている。金利の動きに一喜一憂していた日々とは、時間の感覚がまるで違う。その驚きが、林業・山・森への関心をさらに深めていった。
矢野さんは「里山」の意味を、ドイツ語における定義まで遡って学んでいた。自然でありながら人の手が入り、賑わいがあり、安全が保たれている場所。その本質を知っていたからこそ、岡田さんが「里山スタジアム」という言葉を思いついた時、すぐさま「いいですね」と応えたのである。
今でこそクラブのビジョンとして定着している「365日人の賑わいがある場所」「成長するスタジアム」という言葉も、最初から理念として掲げられたわけではない。予算の制約があったため席数を増やせず、大型映像装置も最初から設置できなかった。しかし、それを「成長するスタジアム」と捉え、言い続けることで、少しずつ人々の共感を集めていった。

象徴的なエピソードとして、スタジアムの照明設備がある。一般的なスタジアムでは照明を四隅に配置するが、ピッチから距離が生まれる分、Jリーグが定める最低照度1500ルクスを全地点で満たすためには、LEDの性能を上げるか、数を増やすしかない。いずれもコストが跳ね上がる。
そこでアシックス里山スタジアムで選んだのは、ピッチに近い位置に、照明を横並びに配置する方式だった。コストを最小限に抑えるための判断だったが、結果としてアシックス里山スタジアムの特徴的な景観を生み出した。意図してデザインしたわけではない。予算という制約が、偶然その形を作り出したのだ。
ここに、アシックス里山スタジアムの本質が宿っているように思う。資金という制約の中で必死に考え続けたことが、結果として理念を体現した。リジェネラティブな場所は、十分なリソースがあるから生まれるのではないのかもしれない。何もない場所であっても、それでも前に進もうとした人たちの試行錯誤の中から、やがて姿を現すものではないだろうか。
コロナ禍が、資金調達の突破口になった
矢野さんがアシックス里山スタジアムの事業計画書を書き上げたのは、2020年2月の初旬のことだった。これから地元企業を回り、賛同者を募っていく。しかし、当初の描いていたプランをかき消すように2月下旬、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。
対面での営業活動は事実上、不可能になった。地元企業を訪問しようにも、先方も戦々恐々としている状況だ。仮にこのタイミングで訪問して断られれば、次にアプローチできるタイミングすら見えなくなる。矢野さんはそう判断し、地元への営業活動を一時凍結した。
しかし、手をこまねいているわけにはいかなかった。チームが結果を残しても、スタジアムがなければ上位リーグに昇格できないのだから、時間的な猶予はない。
そこで矢野さんが目を向けたのが、東京を拠点とする経営者や投資家たちだった。コロナ禍を機に、ZoomやGoogle Meetといったオンライン会議ツールが急速に普及し始めた頃だ。対面が難しいなら、オンラインで直接事業構想を語りかける。その逆転の発想が、資金調達の突破口を開いた。
オンラインミーティングで関心を持ってもらえた相手とは、改めて対面の場を設け、構想を丁寧に伝えながら理解と共感を育てていく。そうして一人ひとりと向き合いながら、資金を積み上げていった。
コロナ禍という危機が、皮肉にも、全国の経営者や投資家へのアクセスを劇的に容易にしたのだ。対面営業では、岡田さんのような影響力のある人物が同席する場を設けるにしても、スケジュール調整だけで膨大な時間を要する。しかし、オンラインなら短時間の面会設定が容易になり、次々と接点を作ることができた。
さらに、時代の追い風もあった。コロナ禍は、人々に「人間にとって本当に大切なものは何か」を問い直す機会を与えた。芸術やスポーツ、自然との触れ合いといった、数値化しにくい価値への再評価が起きていた時期だ。こうした場所を作りたいという構想を語った時に、共感を得やすい空気があったと振り返る。
矢野さんはこの経緯を「困難」とは表現しない。「難しい局面があれば、その状況でできることを考え続けただけ」と語るその姿勢に、どんな危機に直面しても、ただ耐えるのではなく、設計条件として読み替えてきたFC今治という組織の強さが見えてくる。
柵を設けない設計が、旅行者と地域住民の交流を生む
アシックス里山スタジアムを訪れて、まず気づくことがある。ピッチとスタンドの間に、柵がない。多くのスタジアムでは、観客がピッチに侵入しないよう、フェンスや柵が設けられている。それは安全管理上の常識であり、運営側がリスクをコントロールするための手段だ。しかし、アシックス里山スタジアムにはそれがない。「これより先は立入禁止」と書かれた看板が数本立っているだけで、それ以上の仕切りは存在しない。

看板を立てただけで、誰もピッチに入らないという興味深い事実に「ルールではなく、モラルで動いてくれている」と矢野さんは指摘する。管理によって秩序を作るのではなく、人々の自発的な判断に委ねる。その設計思想が、アシックス里山スタジアムのあらゆる場面に貫かれている。
動線の設計も同様だ。一般的なスタジアムでは、ホームとアウェイのサポーターが接触しないよう、入口から導線を分け、エリアを明確に区切ることが慣例となっている。
しかしアシックス里山スタジアムでは、その区切りを最小限にとどめている。矢野さんはその理由を「動線を管理しすぎてしまったら、FC今治が掲げる『心の豊かさを大切にする』という理念がなくなってしまう」と語る。
動線を管理しない結果、アウェイサポーターと地域住民との間では挨拶をきっかけに、小さくて豊かな交流が生まれている。試合後に、スタジアム周辺や町なかの飲食店で、いつのまにか打ち解けることもあるそうだ。SNSには、アウェイサポーターが「今治のホスピタリティに感動した」と投稿する声が絶えない。
今治はもともと、全国屈指の高校野球の強豪校を擁する「野球の町」だ。サッカー文化が根付いていなかったからこそ、応援の作法や慣習に縛られず、訪れる人を素直に迎え入れる土壌が育ったのかもしれない。
さらに、試合のない日もスタジアムは地域に開かれている。地元企業の経営者が友人を連れてきて、「今治で一番自慢したい場所」として案内する。家族連れが芝生の上でくつろぐ。犬を連れた住民がドッグランを使いながら、スタジアムの風景の中に溶け込んでいく。管理された「観光体験」ではなく、人々が自然に集まり、思い思いに過ごす中で、緩やかな関係性が生まれている。

画像出典:アシックス里山スタジアム
ここで起きていることは、リジェネラティブツーリズムが目指す「地域と旅行者の相互的な豊かさが自律的に生まれる」に、驚くほど近い。しかしそれもまた、意図して設計されたものではない。柵を作る予算を別の用途に充てた結果として、この場所はオープンになった。その余白が、人と人との予期せぬ出会いを生み、やがて地域全体の誇りへとつながっていった。
管理とは、リスクを減らすと同時に、可能性も減らす行為だ。柵を設けないという一見シンプルな選択が、人と人との予期せぬ出会いを生み、地域全体の誇りへとつながっていく。
身体が土地と向き合う、環境配慮の実践
アシックス里山スタジアムの敷地面積は、約57,400㎡。東京ドームのグラウンド面積のおよそ4倍の広さに相当するが、その多くは土のままだ。
芝生や舗装で覆われていない土の地面は、夏になると草が生い茂る。初夏から秋にかけて、スタッフたちはその草刈りに追われる。矢野さんが「11月から3月頃は、草刈りがないから穏やかに過ごせます」と苦笑いするほどだ。美しく整備された施設を維持するためではなく、大地と積極的に触れ合うことが、スタジアムの日常である。
-1024x683.jpg)
斜面にはぶどうの苗が植えられ、ワイン醸造を目指した栽培が続いている。2021年から育て始めたぶどうは、3年の歳月をかけてようやく実をつけ、昨年は「バリブルー」と名付けたワインが9本だけ完成した。収穫の喜びをスタッフ全員で分かち合い、1本はJ1昇格の瞬間のためにとってある。

また、雨水の処理も、アシックス里山スタジアムの思想を体現している。一般的なスタジアムでは雨水を暗渠に流し、地中のパイプで処理する。しかし今治では全て開渠にし、水が地表を流れる仕組みを残した。
その縁には少しずつ植物が根を張り、虫が集まり、カエルの卵が見られるようになった。設計の意図というより、水の流れに沿って生態系が自然に育まれていった結果だ。

こうした取り組みの背景には、気候変動に対する明確な問題意識がある。矢野さんはかつてライフサイクルアセスメントを研究しており、環境問題への関心は事業の出発点から一貫している。
その問題意識は、スタジアム運営の具体的な判断にも表れている。Jリーグが夏季の公式戦開催を見直し、6月・7月の試合を原則実施しない方針を打ち出したことに対し、FC今治はいち早く賛同を示した。実際に、夏の夜間試合でも熱中症による救急搬送が発生したことがあり、観客の安全という観点からも、シーズン移行の必要性を切実に感じていたからだ。
さらに今後のスタジアム増設では、ゴール裏のコンコースに日陰となる屋根付きの空間を設ける予定である。観客が炎天下にさらされない環境を整えることも、スタジアムが果たすべき責任のひとつと捉えている。
ここで注目したいのは、これらの取り組みが「環境配慮への姿勢を示すため」に始まったわけではないという点だ。FC今治のミッションステートメントには「地球環境に配慮して事業活動を行います」という一文があるが、矢野さんはそれを「当たり前にやること」と表現する。

理念として掲げるのではなく、土地と向き合い、草を刈り、水の流れを観察することの積み重ねが、気づけば環境への配慮になっていた。「この場所に職場があることで、太陽の力強さや季節の移ろいを、日常の中で自然と感じられるようになる」。矢野さんのその言葉が、アシックス里山スタジアムという場所の本質を言い表している。
サステナブルやリジェネラティブという言葉は、ともすれば「掲げるもの」になりがちだ。理念として言語化し、対外的に発信する。それ自体は重要なことだが、今治で目にしたのはその先にある姿だった。
言葉より先に、身体が土地を知っている。理念が実践を導くのではなく、実践の積み重ねが理念を鍛えていく。その順序の違いこそが、言葉では作り出せない誠実さを生んでいるのではないだろうか。
事業間送客が、消費者を地域コミュニティの当事者に変える
環境への配慮にとどまらず、FC今治が問い直しているのは、スタジアムの存在意義そのものだ。プロスポーツクラブの成功指標は、長らく「勝敗」と「動員数」で語られてきた。試合に勝ち、観客を集め、収益を上げる。その循環の中で、スタジアムはあくまでも「試合を見る場所」として機能してきた。
しかし、スタジアムに人が集まることと、地域が豊かになることは、本当に同義なのだろうか。今治が目指しているのは、その構造そのものの書き換えだ。
FC今治が現在手がける事業は、サッカーにとどまらない。2026年3月、イオンモール今治新都市内に「しまなみ木のおもちゃ美術館」がオープンした。全国に展開するおもちゃ美術館の15番目の施設として、今治市や運営団体との連携のもとFC今治が運営を担う。

木のおもちゃで埋め尽くされ、子どもたちが時間を忘れて遊び続けるその空間は、愛媛の地場産業である造船やみかん農業、サイクリングといった今治固有の文化を体験できるコンテンツとしても設計されている。全国でおもちゃ美術館を巡る熱心なファンも存在しており、この施設が新たな今治への来訪動機になる可能性も秘めている。

矢野さんが「事業間相互送客」と呼ぶこの発想の根底には、消費と生産の分断に対する問題意識がある。「社会が高度化すると、生産と消費の現場が分かれていく。消費する側が単なる“消費者”という言葉で括られてしまう」と、矢野さんは指摘する。
試合を観戦しに来た人がおもちゃ美術館を訪れ、農業体験に参加した人がスタジアムに足を運ぶ。その往来の中で、人々は単なる消費者から、FC今治が作り上げる地域コミュニティの当事者へと変わっていく。
その当事者化を促す仕掛けは、他にもある。スタジアムを舞台にしたキャンプイベントでは、スタンドの隣にテントが並び、参加者はスタジアムで朝を迎える。株式会社アーバンリサーチとの協働で生まれた「TINY GARDEN by URBAN RESEARCH」と名付けられたエリアでは、洗練された空間の中に人々が集い、思い思いの時間を過ごす。

さらに矢野さんが構想するのが、スタジアム内に「アトリエ」を設けることだ。施設内のサインや備品を来場者が自ら作り、場所を育てることに参加できる仕組みを作りたいという。消費しに来るのではなく、作りに来る。その体験の質の違いが、場所への愛着と当事者意識を育てていく。
FC今治が問いかけているのは、スポーツツーリズムのより根本的な可能性だ。矢野さんは「プロサッカークラブの強みは、多様な人々と日常的に出会いの場を作っていること」だと語る。年間20回、5000人規模のイベントを開催できるクラブは、単なるスポーツ施設ではなく、地域の多様な人々が偶発的に出会うプラットフォームになり得る。
その視点は、チーム強化の戦略にも一貫している。大都市圏のクラブと予算規模で競うことが難しい以上、今治が選んだ道は「地域で選手を育てる」ことだ。小学校・中学校・高校と一貫したクラブの育成組織の中で育った選手が、やがて、トップチームへと上がってくる。その循環が根付いた時、クラブと地域の結びつきは、資金力では代替できない強さを持つ。
短期的な勝敗を追いながら、中長期的な人材育成に投資する。その二つの時間軸を同時に持つことが、地方クラブが都市クラブと対等に渡り合うための、今治なりの答えだ。
アシックス里山スタジアムが体現する、リジェネラティブの本質
スポーツツーリズムを取り巻く環境は、今、大きな追い風の中にある。世界的な分断や地球規模の困難が増すほど、スポーツへの期待は高まっていく。移動の利便性向上と通信技術の発達により、旅の設計はかつてなく容易になった。旅行に行くきっかけとしてのスポーツの可能性は、これまでになく広がっている。
しかし、FC今治が示しているのは、その追い風に乗るだけでは足りないということだ。四国には古くから、お遍路の「お接待」という文化がある。見返りを求めず、訪れる人をもてなす。その精神は、制度や仕組みとして設計されたものではなく、人々の心と振る舞いの中にもともと宿っていたものだ。
FC今治がクラブとして「心の豊かさを大切にする」というスタンスを貫き続けることで、その土地に根付いていた精神が、スポーツという場を通じて再び姿を現し始めている。アシックス里山スタジアムを訪れるアウェイチームのサポーターを、地元のファンが温かく迎え入れる姿は、その最も身近な表れだ。
スポーツや教育にとどまらず、食、観光、芸術へと事業が広がっていく中で、FC今治が一貫して大切にしているのは「信頼と共感」だ。アシックス里山スタジアム自身が成長し、変化し続ける姿を見せることで、人々は何度もこの場所に足を運ぶ。その繰り返しの中で、旅行者と地域の間に、消費では生まれない関係性が育まれていく。
リジェネラティブツーリズムを「実践しよう」と構える前に、問うべきことがあるのかもしれない。自分たちは今、目の前の土地と、人と、制約と、誠実に向き合っているか。リジェネラティブな場所とは、宣言によって生まれるのではなく、誠実な実践の積み重ねによって育まれるものだ。FC今治はその過程をいま、私たちの目の前で体現している。

矢野 将文さん
株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役社長
愛媛県出身。中学・高校でサッカーを続け、東京大学運動会ア式蹴球部でも主将を務める。卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社し、約10年間、債券営業として有価証券運用のコンサルティング業務に従事。退職後、農業・林業の現場に飛び込み各地の山林現場で研鑽を積む。2014年、岡田武史氏との出会いをきっかけに株式会社今治.夢スポーツに参画。スタジアム建設から地域事業の展開まで、FC今治の経営を支える実務責任者として一貫して牽引している。
取材協力:株式会社今治.夢スポーツ
