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コペンハーゲン観光戦略2024-2030 — 観光の新しい価値方程式

2026 5/28
リジェネラティブツーリズム
コペンハーゲン サステナブルツーリズム ニュース 各国の事例 持続可能な観光 観光戦略
2026-6-5
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京都の混雑、富士山の登山規制、ニセコの地価高騰。日本の都市観光は、訪日客の回復とともに「歓迎すべきか、抑制すべきか」という揺れのなかにあります。観光客を呼べば地域は潤う。けれども、住民の暮らしは圧迫される。この二項対立から、私たちはなかなか抜け出せずにいるのではないでしょうか。

そんな日本の現状へのヒントが詰まった報告書があります。デンマークの首都コペンハーゲンの公式観光局Wonderful Copenhagen(ワンダフル・コペンハーゲン)が2024年に発表した中長期戦略 “Copenhagen, All Inclusive. Tourism in the Capital of Denmark 2024-2030” です。[1]

目次

Wonderful Copenhagenとはどんな組織か

Wonderful Copenhagen公式サイトのトップページ
画像出典:Wonderful Copenhagen | Official tourism organisation of the Capital Region of Denmark

本題に入る前に、戦略を発表したWonderful Copenhagenについて触れておきます。

この組織は1992年に設立された非営利の財団法人で、いわゆるDMO(Destination Management/Marketing Organization、観光地域づくり法人)にあたります。

国・地域・自治体・地元の観光事業者による「垂直型パートナーシップ」で運営されており、ビジネス出張や国際会議の誘致からレジャー旅行の促進まで幅広く担う組織です。日本でいえば、各地の観光協会や観光局の北欧版と考えるとイメージしやすいでしょう。

このWonderful Copenhagenが、観光局としての存在意義そのものを問い直す戦略を打ち出しました。そこに、日本のDMOや観光協会、ホテル・旅館などの宿泊施設、自治体観光部局が学ぶべき視点が詰まっています。

“All Inclusive” という言葉が持つ意味

Copenhagen, All Inclusive. Tourism in the Capital of Denmark 2024-2030公式サイトのトップページ
画像出典:Copenhagen – All Inclusive

戦略のタイトル 「Copenhagen, All Inclusive」 のオールインクルーシブと聞くと、食事もアクティビティも込みのリゾートパッケージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかしWonderful Copenhagenは、この言葉を「旅の良い面も悪い面も、目に見える影響も見えない影響も、すべて勘定に入れる」という意味として定義し直しました。

すべてが便利に用意される、受け身のオールインクルーシブから、ゲストと目的地が全体像を見据えて行動する能動的なオールインクルーシブへ。便利さの裏側にあるコストを見ないふりをせず、すべてを含めて設計し直す。そんな姿勢がタイトルに込められています。

戦略書ではミッションを 「あなたのコペンハーゲンへの旅が、家にいるよりも良い世界をつくることを保証する」と掲げています。つまり、あなたが旅をすることで、世界が少しだけ良くなるということです。一見すると壮大すぎる宣言にも聞こえますが、スローガンではなく具体的な数値目標と行動計画に裏打ちされた本気の宣言なのです。

コペンハーゲンの観光戦略を貫く3つのゴール

コペンハーゲンが発表した観光戦略は3つのゴールで構成されています。

ゴールテーマ具体的な目標・内容
GOAL #1コペンハーゲンの観光はグリーン化を地域的にも世界的にも加速させるCO2排出量を削減(2030年までに27%減、2035年までに37%減、2050年にネットゼロ達成)。排出量の53%を占める国際移動(航空等)への対応を業界全体で進める。
GOAL #2観光は豊かな出会いと持続する価値を生む観光客と住民の相互理解と出会いを増やす。平均滞在日数を2023年比で30%延長し、長く滞在することで交流や学びを深める。
GOAL #3コペンハーゲンの観光はより多くの人にとっての社会経済的価値を生む観光を雇用、地域経済、社会的包摂のエンジンとして再設計する。これら3つのゴールは相互に支え合う構造となっている。

日本にとって重要なGOAL #3

3つめのゴールを、なぜ日本の都市観光関係者がとくに注目すべきなのか。理由は、ここに「観光を呼ぶか、減らすか」という二項対立を超える視点があるからです。

戦略書は次のように述べています。

“今後、訪問者数だけが成功の指標であってはならない。訪問者がもたらす貢献の総量こそが焦点になるべきだ”。

この一文は、観光産業の前提を根本的に揺さぶります。2024年時点まで、多くの観光地は入込客数、宿泊者数、観光消費額といった「量の指標」を成功の物差しにしてきました。日本のDMOや自治体観光部局も例外ではありません。しかしコペンハーゲンは、その物差し自体を作り直そうとしています。

Copenhagen Compass — 観光の価値を測る新しい羅針盤

GOAL #3を支える測定の仕組みが、戦略書で提示されるCopenhagen Compass(コペンハーゲン・コンパス)です。これは観光が地域社会にもたらす広範な価値を、6つの座標軸で捉えるための新しい羅針盤です。

6つの座標軸の具体的な内容は、以下のとおりです。

  1. People:教育・スキル・健康で、観光が住民とゲストの双方にどんな学びを残したか
  2. Social:雇用・コミュニティ・寛容性で、観光が社会の多様性受容をどれだけ高めたか
  3. Innovation:ビジネス開発・産業の強み・知識で、国際会議が大学や企業をつなぎ新しい知やビジネスをどれだけ生んだか
  4. Socioeconomics:事業経済・ブランド価値・福祉経済で、観光が税収を通じて福祉や都市整備にどう還元されたか
  5. City Life:文化・小売・食体験で、観光が街の文化的厚みをどう支えているか
  6. Environment:グリーン化・グリーン交通・グリーンインスピレーションで、観光がゲストの環境意識をどう変えたか

2024年以前のDMOのKPI(重要業績評価指標)は、入込客数、消費額、稼働率といった経済指標が中心でした。Copenhagen Compassは、そこに「住民の学び」「労働市場周縁層の雇用」「都市文化の厚み」「ゲストが持ち帰った環境意識」までを公式の評価軸として組み込んでいる点が特徴的です。

抽象的な理念で終わらせず、観光局として何を測るかという実務レベルまで落とし込んでいる点で、日本の自治体観光部局やDMOがそのまま参照できる実用的なフレームといえます。

DMOからDWOへ — 組織の存在意義を書き換える

戦略書のなかで、Wonderful Copenhagen自身が組織のあり方を問い直しています。

2024年以前、観光局は世界的にDMOと呼ばれてきました。役割は文字どおり、目的地のマーケティング、つまり「いかに自分たちの地域に人を呼ぶか」です。

しかしWonderful Copenhagenは、この呼称をDWO(Destination World Organisation、目的地世界組織)へと書き換えました。集客のためのマーケティングから、より良い世界をつくることに資するマーケティングへ。観光局の存在意義そのものを再定義したのです。

戦略書には、Wonderful Copenhagenで働く職員自身の言葉も掲載されています。

“私たちはステークホルダーを共通のストーリーと方向性、そして共同の行動のもとにまとめます。現場に近づき、耳を傾け、行動し、新しいことを試します。私たちは野心的で、いつも簡単な解決策ではなく、正しい解決策を選びます。そして私たちはそれを、コペンハーゲンとデンマーク観光を発展させ、持続可能な世界に貢献するために行うのです”。

簡単な道ではなく、正しい道を選ぶ。この姿勢こそが、リジェネラティブツーリズムを実装する組織文化の核にあるものではないでしょうか。

日本の都市観光は何を持ち帰れるか

ここまで読んでくださった方のなかには、「コペンハーゲンだからできるのでは」と感じる方もいるかもしれません。たしかにデンマークは社会保障が手厚く、市民の環境意識も高く、観光局の独立性も日本とは異なります。すべてをそのまま真似することはできません。

それでも、すぐに取り組める実装のヒントはあります。たとえばDMOや自治体観光部局であれば、自組織のKPIに「労働市場周縁層の雇用比率」「オフシーズン収入比率」「ゲストの学び実感」といった新しい指標をひとつでも加えてみる。宿泊施設であれば、ゲストと住民が出会える共用空間やイベントを設計してみる。マーケティング担当であれば、繁忙期の集客ではなく、閑散期に注力してみる。

観光客を「呼ぶか、減らすか」ではなく、「観光を通じて地域社会に何を還元できるか」。コペンハーゲンの戦略が私たちに投げかけているのは、この問いです。

日本の都市が独自の文脈でこの問いに答えを出すとき、Wonderful Copenhagenの実践は道しるべになるはずです。

コペンハーゲン観光戦略に関するよくある質問(FAQ)

コペンハーゲンの観光戦略に関するよくある質問をまとめました。

Q1. Wonderful Copenhagenとはどのような組織ですか。

1992年に設立された、デンマーク首都圏の観光振興を担う非営利の財団法人です。日本でいうDMO(観光地域づくり法人)にあたり、国・地域・自治体・地域の観光事業者による垂直型のパートナーシップで運営されています。ビジネス出張や国際会議の誘致から、レジャー旅行の促進まで幅広く担当しています。

Q2. DMOとDWOの違いは何ですか。

DMO(Destination Marketing Organisation)は、集客を中心とした目的地マーケティング組織を指す世界共通の呼称です。Wonderful Copenhagenは、観光振興を通じて「より良い世界をつくる」ことを使命とする組織への進化を表現するため、自らをDWO(Destination World Organisation)と再定義しました。集客中心から、社会的価値創出中心への転換を示すキーワードです。

Q3. ネットゼロとはどういう意味ですか。

温室効果ガスの排出量から吸収・除去量を差し引いて、実質的にゼロにすることを指します。Wonderful Copenhagenの定義では、2019年比で少なくとも90%を実際の排出削減で達成し、残り10%までを排出量取引などの相殺で補うとしています。

Q4. Copenhagen Compassは日本のDMOでも使えますか。

6つの座標軸(People / Social / Innovation / Socioeconomics / City Life / Environment)は、観光が地域社会に生む広範な価値を捉えるためのフレームです。地域の文脈に合わせて指標を読み替えれば、日本の自治体やDMOのKPI再設計にも応用可能と考えられます。たとえば「住民の観光支持率」「労働市場周縁層の雇用比率」といった項目から取り入れるのが現実的でしょう。

Q5. GOAL #3の数値目標はいつ時点のものですか。

戦略書は2024年に公表され、対象期間は2024年から2030年です。雇用15,000人増、オフシーズン収入120億クローネ増といった数値は、いずれも2030年時点の目標として設定されています。

参考文献

[1] Copenhagen – All Inclusive

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