予約サイトをスクロールしていると、目に入る言葉があります。「環境にやさしい宿泊施設」「サステナブルな観光」「地球のことを考えたホテル」。どれも誠実な取り組みの発信だと感じるでしょう。しかし、時折「具体的に何をしているの?」「本当に?」と思ってしまうこともあります。
その「なんとなくエコ」な表現が、2026年9月27日以降、EU消費者向けのB2Cマーケティングでは違法と判断される可能性があります。日本の宿泊施設も、欧州のゲストを意識した発信をしているなら、他人事ではありません。
この記事では、避けたほうが良い表現・認められる表現の線引きを整理しながら、安心してサステナビリティをPRするための方法をお伝えします。「環境への取り組みをやめよう」ではなく、「正しく伝えよう」、これが、この記事のメッセージです。
「なんとなくエコ」な発信が、信頼を失うリスクになる

取り組みは本物なのに、伝え方が曖昧なせいで疑われる。それが、グリーンウォッシングの怖さです。
グリーンウォッシングとは、根拠のない環境・サステナビリティの主張をマーケティングに使うことを指します。実は悪意がなくても、表現が漠然としているだけで該当してしまうケースがあります。
たとえば以下のような言葉です。
- 環境にやさしい宿泊施設です
- サステナブルな旅をご提供します
こうした言葉は、一見誠実に見えます。しかし、「何が」「どれくらい」「どうやって確認できるのか」が示されていなければ、ゲストにとっては「確かめようのない言葉」でしかありません。
こうした発信の問題点は、信頼を損なうだけでなくSNSでの批判拡散や、レビューサイトでの低評価につながるリスクもあることです。とくに環境意識の高い欧州のゲストは、サステナビリティの主張に敏感なため、正しい「伝え方」が問われます。
欧州で「環境表現の法規制」が始まる「EmpCo Directive」とは

2024年2月、EUは「EmpCo Directive(Directive 2024/825)」を採択しました。正式名称は「グリーントランジションに向けた消費者エンパワーメント指令」。EU版グリーンディールの一環として制定され、グリーンウォッシュを禁止する法的な拘束力がある制度です。
各EU加盟国は2026年3月27日までに国内法への転換を完了し、2026年9月27日より施行・執行が始まります。この日以降、EU市場に向けたサステナビリティ訴求は新しいルールに従わなければなりません。違反した場合、国内売上高の最大4%の罰金が加盟国ごとに科される可能性があります。[1]
ここで大切なのは、この指令の発想の根っこです。「環境への取り組みを発信するな」ではなく、「証明できないことを言うな」がEmpCo Directiveのメッセージです。
何がNGで、何がOKなのか?EmpCo Directiveの具体的なルール

では実際に、どのような表現が「NG」となり、どう伝えれば「OK(信頼される発信)」になるのでしょうか。宿泊施設に関係の深い4つのポイントに絞って、整理します。
NG① 根拠のない汎用的な環境表現
まず押さえておきたいのが、「なんとなくエコ」を印象づける言葉を根拠なく使うことです。
以下のような表現が対象になります。
- 「eco-friendly(環境にやさしい)」
- 「sustainable(サステナブル)」
- 「green(グリーン)」
- 「natural(ナチュラル)」
- 「responsible(責任ある)」
- 「conscious(意識の高い)」
これらは単体で使うと、何が・どの範囲で・どれくらい改善されているのかが消費者にはわかりません。そのため、禁止対象になっています。
ただし、具体的な事実と数字を伴えばOKです。禁止されるのは「証明できない言葉」であって、「事実」ではありません。
| NG表現の例 | OKな言い換えの例 |
|---|---|
| 環境にやさしい宿泊施設 | 2024年より全客室のアメニティをプラスチックフリーに切り替えました |
| サステナブルな滞在 | 食品廃棄物を前年比30%削減しました(2025年実績) |
| グリーンな体験を提供 | 施設の電力の80%を再生可能エネルギーでまかなっています |
「何をどれくらい」が伝わる表現に変えるだけで、グリーンウォッシングのリスクは大きく下がります。
NG② カーボンオフセットだけを根拠にした「カーボンニュートラル」主張
CO2をオフセット購入してきた施設にとって、少し耳の痛い話をします。「カーボンニュートラルを実現しています」という主張も、オフセット購入だけを根拠にしている場合はEmpCo Directiveで禁止されます。
具体的には以下のような表現が対象です。
- カーボンニュートラル
- 気候中立
- CO2ゼロ
- CO2補償済み
オフセットが「実際の排出削減」を伴わない「見せかけの中立」になりやすいという問題意識がその背景にあります。
EmpCoの適用前から、欧州では既存の広告規制や不正競争法に基づき、カーボンニュートラル表示が規制の対象になっています。例えば、2025年8月、ドイツの裁判所はAppleの「Apple WatchはCO2ニュートラル(カーボンニュートラル)」という広告表示は誤解を招くとして、差し止めを命じました。短期間の植林プロジェクトへの資金拠出だけでは、カーボンニュートラルの根拠として不十分と判断されたのです。[2]
根拠の示し方が不十分であれば大手企業であっても問題視されてしまうのです。自己申告のオフセット訴求は相当に慎重である必要があるでしょう。
NG③ 根拠のない将来目標の宣言
「2030年までにカーボンニュートラルを目指します」という一文だけの発信も、EmpCo Directiveの規制対象になります。
「目指す」「取り組む」「移行中」といった将来的な目標を発信する場合、具体的な実施計画と独立した定期モニタリングの存在がセットで必要になります。
ただ、それは「目標を発信してはいけない」ということではありません。「いつまでに」「何を」「どうやって確認するか」が明示されていれば、進行中の取り組みを正直に伝えることは問題ありません。
曖昧な夢を語るのではなく、具体的な道筋を見せる。それが求められているのです。
NG④ 自社で作った「エコバッジ」や独自ラベル
「当施設独自のサステナブル認定」「社内審査で環境優良施設に選出」。こうした表現に心当たりはありませんか?自社内で完結したマーク・バッジ・スコアは、EmpCo Directiveのもとで全面的に禁止されます。
なぜなら、第三者による検証がなければ、そのラベルが何を意味するか消費者には判断できないからです。「誰かが確認した」という担保があって初めて、ラベルは信頼のサインになります。逆に言えば、独立した第三者認証を取得した施設は、その認証の範囲内でのPRが合法的・公式に行える立場になります。
EmpCo Directiveが認めるサステナビリティラベルの条件は、ISO 17065などの国際基準に準拠している独立した第三者認証機関による審査スキームに基づくこと、認証基準・プロセスがオンラインで公開されていること、そして違反時のラベル使用停止措置が整備されていることなどです。
日本の宿泊施設が他人事ではない理由

「これはEUの話でしょう?」そう思った方もいるかもしれません。でも、少し考えてみてください。
EmpCo Directiveは、EU域内に居住する消費者に向けた発信に適用されます。つまり、日本にある宿泊施設であっても、欧州のゲストに向けて発信していれば対象になりうるのです。
具体的には、英語や欧州言語に対応した公式Webサイト、Booking.comやExpediaなどの国際OTA上の施設説明文、英語でのSNS投稿などが対象として考えられます。
「今は欧州ゲストが少ない」という施設でも、将来的なインバウンド拡大を見据えれば、今から発信の土台を整えておく価値があります。
日本国内には、EmpCo Directiveのように一般的な環境主張を明示的に禁止する包括的な規制はありません。しかし、グリーンウォッシング批判がSNSで拡散するリスクは、国内でも同じように存在しています。法律が追いかけてくる前に、発信の「誠実さ」を整えておくことが、長期的な信頼につながります。
安心してPRするために。今日からできる3つのステップ

環境への取り組みを正直に、正確に伝えることは、決してむずかしいことではありません。以下の3つのステップを参考にしてみてください。
- 現在の発信内容の「棚卸し」
- 「数字・範囲・時期」の明示
- 第三者認証の取得の検討
まずはStep1として、WebサイトやSNSで使っている環境関連の表現を洗い出し、「客観的な根拠を示せるか」を一つずつ確認しましょう。「なんとなくエコ」な表現は要注意です。
次にStep2では、表現を具体化します。「エコな施設」という言葉を、「2024年1月より館内照明を100%LED化」のように、実績や事実ベースの表現に書き換えます。目標を発信したい場合は、具体的なロードマップとセットで発信しましょう。
最後にStep3として、第三者認証の取得も視野に入れてみましょう。認証ロゴはゲストへのわかりやすい証明になります。すぐには取得できなくても、「取得に向けて動いているプロセス」自体を発信することで、施設の誠実さを伝えることができます。
発信の「正確さ」が、ゲストとの本当の信頼をつくります。
サステナビリティ発信に関するよくある質問(FAQ)

環境に関する表現方法を調べていると、「サステナビリティの発信で気をつけるポイントは?」といった疑問を持つ方も多いはずです。ここでは、記事を読んだあとに気になりやすいポイントを、よくある質問として整理して解説します。
Q. 第三者認証を取得していなくても、サステナビリティの発信はできますか?
可能です。ただし、具体的な事実・数字・時期を伴う表現にすることが前提です。「〇〇に取り組んでいます」という発信は、内容が具体的であれば問題ありません。一方で、根拠のない汎用的な言葉(「サステナブル」「エコ」など)を単体で使うことは、認証の有無にかかわらずリスクになります。
Q. 取り組みを始めたばかりの施設は、どのように発信すればよいですか?
「始めたばかり」であることは、正直に伝えて構いません。「2025年4月より食品廃棄物削減の取り組みを開始しました」のように、事実ベースで発信することが最もリスクの低いアプローチです。
目標を発信したい場合は、具体的な実施計画とセットにしましょう。取り組みの途中であることを誠実に伝えることは、グリーンウォッシングにはなりません。
参考文献
[1] European Parliament and of the Council, Directive (EU) 2024/825, EUR-Lex
[2] Steptoe, “Green Claims Regulatory and Litigation Focus Intensifies in the EU and UK”
