NASAが発表した「予測を上回るペースの海面上昇」の意味。

米航空宇宙局(NASA)は宇宙開発だけではなく、人工衛星を利用した地球的規模のさまざまな環境調査を行っています。そのうちのひとつ、海面上昇についての公式ウェブサイトに2025年3月13日付で新たなレポートが公開されました。
同レポートによると、2024年に世界の海面は0.59センチ上昇しました。予測されていた0.43センチをはるかに上回るペースだということです。
人工衛星による海面の観測は1993年に始まりました。その後の約30年間でずっと海面上昇が続き、ここまでの合計で10.1センチの増加となっています。センチ単位の数値にあるいは拍子抜けするかもしれませんが、その右肩上がりのトレンドはレポートの線グラフを見るとはっきりと分かります。
NASAジェット推進研究所(JPL)のジョシュ・ウィリス氏は次のように述べています。
2024年に私たちが見た上昇スピードは予測を上回っていました。毎年少しずつの変動はありますが、海面が上昇し続けていて、そのペースがますます速くなっていることは明らかです
レポートはもうひとつの興味深い分析結果を紹介しています。近年の海面上昇をもたらしている主原因は2つあると考えられています。3分の2は氷床や氷河が溶けて陸地から海に水が流入すること(氷解)であり、3分の1は海水の熱膨張によるものでした。ところが、2024年ははその比率が逆転したとのことです。
2024年が気候観測史上、もっとも暑い年であったことはすでに知られていましたが、海水の熱膨張もそれに合わせて過去最大になった可能性があることを、ワシントンにあるNASA本部の物理海洋学プログラムおよび統合地球システム観測所の責任者、ナディア・ヴィノグラドヴァ・シファー氏は述べています。
海面上昇が進行すると、地球上のさまざまな地域や環境に深刻な影響を及ぼすことが考えられます。ノンフィクション作家のジェフ・グッデル氏は2017年の著書「The Water Will Come」において、今世紀末までには海面上昇によって世界各地の島国や沿岸都市が水没し、数百万人単位の人が住む土地を失った難民になると警告しました。むろん、四方を海に囲まれた日本も危険な地域に含まれます。
今のところ、都市水没は現実的な脅威というよりはむしろSFの物語のような印象を受けますが、けっして楽観も見て見ぬふりもするべきではありません。気温や降水量のような目に見える気候現象とは異なり、海面上昇は多くの人にとって実感することが難しい変動です。その意味においても、NASAの調査レポートが提供するデータは私たち人類全体にとって貴重ではないでしょうか。

