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サステナブルツーリズムの成功事例|南チロル認証の仕組みと日本へのヒント

2026 5/15
その他 リジェネラティブツーリズム
サステナブルツーリズム 各国の事例 持続可能な観光
2026-5-20
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  3. サステナブルツーリズムの成功事例|南チロル認証の仕組みと日本へのヒント

イタリア最北端の自治州、南チロル。世界遺産ドロミテを抱えるこの地は、現在、世界で最も持続可能な観光地への歩みを加速させています。その核となるのが、国際基準を地域の実情に合わせてローカライズした「南チロル・サステナビリティ認証」です。

なぜ、抽象的になりがちなサステナビリティを具体的な地域の認証制度へと落とし込む必要があったのか。そして、それがどのようにして観光事業者や住民の誇りへと変わっていったのか。

本記事では、南チロル地域振興・マーケティング機関(IDM Südtirol-Alto Adige。以下、IDM)が主導する認証制度の仕組みと各地の取り組み事例を解説し、日本の観光地が「量から質へ」と転換するためのヒントを探ります。

目次

サステナブルツーリズムの先進事例「南チロル・サステナビリティ認証」とは

画像出典:IDM Alto Adige | Innovators, Developers & Marketers

「南チロル・サステナビリティ認証(Sustainability Label South Tyrol)」は、国際基準GSTCをベースに、地域の実情に合わせて再設計された“観光地全体の持続可能性を評価・改善する認証制度”です。[1] 

単に環境に配慮した取り組みを示すものではなく、地域の観光を長期的に、持続させるためのマネジメントツールとして機能している点に特徴があります。

国際基準を地域に合わせて再設計した評価制度

南チロル・サステナビリティ認証制度を主導しているのは、南チロルの経済と観光を担う組織「IDM」です。[2] 

IDMはGSTCが定める以下の4つの柱をもとに、南チロルの自然環境や産業構造、小規模事業者の実態に合わせて具体的な評価項目へと落とし込みました。

  • 持続可能なマネジメント
  • 社会経済への影響
  • 文化への影響
  • 環境への影響

その結果、地域全体で同じ方向を目指しながら取り組みを進められる仕組みが整えられています。

段階的に取り組める「3つのレベル」

南チロル・サステナビリティ認証制度のもう一つの特徴が、以下の3段階で評価する仕組みです。[3]

  • Level 1(Starter / 始動)
    サステナビリティへの取り組みを宣言し、現状を把握したうえで、CO2削減やエネルギー管理などの基本的な計画を立てるレベル
  • Level 2(Advanced / 進展)
    Level 1の取り組みに加え、従業員の働く環境や、地元生産者との連携といった社会・経済面での取り組みを強化するレベル
  • Level 3(Expert / 実践)
    GSTCの国際基準に完全に対応し、第三者機関による監査を経て認証される最上位レベル。このレベルに認定されると国際的にも持続可能な観光地として評価されるレベル

最初から高い水準を求めるのではなく、段階的に取り組みを進められる設計になっています。

地域全体とあらゆる滞在スタイルを網羅する認証

本認証制度は、個別の宿泊施設だけでなく、市町村といった地域全体(デスティネーション)を対象としているのが特徴です。

ホテルや農家民泊に加え、2026年時点では特にキャンプ場での取得が加速しています。[4] 滞在の形を問わず、地域一丸となって国際基準のサステナビリティを実践していることを証明しています。

なぜ“地域独自の認証”が必要だったのか

画像出典:IDM Alto Adige | Innovators, Developers & Marketers

世界にはすでに「GSTC」という国際的な基準があります。それにもかかわらず、南チロルが時間とコストをかけて独自の認証制度をつくった背景には、現場に根ざした明確な理由がありました。

国際基準と現場のあいだにあったギャップ

GSTCは、国や大規模な観光地にも対応できるように設計された、幅広いテーマをカバーする国際基準です。その一方で、南チロルに多い家族経営の小規模な宿や人口数百人の村にとっては、内容が抽象的で、何から始めればよいのか分かりにくいという課題がありました。

具体的な行動が見えない状態では、取り組みは進みにくくなります。そこで南チロルは、国際基準の考え方を活かしながら、地域の事業者が実行しやすい形に基準を再設計しました。日々の業務の中で取り組める行動レベルまで落とし込むことで、現場と基準の距離を縮めたのです。

この「国際基準と地域の実務をつなぐ役割」が、独自のサステナビリティ認証を設けた大きな理由です。

取り組みを「見える価値」に変える

サステナビリティは、環境に配慮するといった姿勢だけでは評価が難しく、取り組みの実態が外部から見えにくいという課題があります。その結果、実態が十分に伴っていないにもかかわらず環境配慮を装う「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)」が評価されてしまうリスクも生まれます。

こうした課題に対して南チロルは、認証制度を通じて取り組みを数値で把握・可視化できるようにしました。たとえば、以下のような具体的な指標を用いることで、活動の成果を客観的に示せます。

  • 廃棄物がどれだけ削減されたか
  • 地元食材の利用割合がどの程度高まったか
  • エネルギー使用量やCO2排出量がどのように変化したか  

こうしたデータは、事業者にとっては取り組みの成果を裏づける根拠となり、地域全体としては信頼性の高いブランドの形成に役立ちます。

サステナビリティを意識や姿勢にとどめるのではなく、測定可能な価値として示すこと。その仕組みを制度として組み込んでいる点に、この認証の大きな意義があります。

住民の暮らしを軸にした設計

南チロルの制度で特徴的なのは、旅行者だけでなく、地域で暮らす人々の生活を重視している点です。基準の中心には、住民の生活の質(QOL)が置かれています。

「住みやすい地域であることが、訪れる価値のある地域につながる」という考え方に基づき、評価項目には以下のような視点が含まれています。

  • 観光産業で働く人の労働環境が適切に守られているか
  • 観光による騒音や交通混雑が、住民の生活に過度な負担を与えていないか
  • 地域の文化や伝統の継承が、観光によって損なわれることなく維持・継承されているか

観光を地域の負担にするのではなく、暮らしを支える仕組みに変えていく。この考え方が、制度全体の方向性を形づくっています。

【ケーススタディ】南チロル各地に見る認証実装のかたち

画像出典:IDM Alto Adige | Innovators, Developers & Marketers

南チロルのサステナビリティ認証は、すべての地域にアプローチを求める制度ではありません。各地がそれぞれの地形や歴史を活かしながら、自分たちに合った方法で持続可能な観光をかたちにしています。

ヴァッレ・アウリーナ|エネルギーと歴史を活かす取り組み

「水の谷」と呼ばれる北部のヴァッレ・アウリーナ地域では、豊富な水資源を活かした小規模な水力発電が広く使われており、地域内でのエネルギー自給が進んでいます。 [5] 

特徴的なのは、かつての銅山を新たな形で活用している点です。使われなくなった坑道を、空気の質を活かした療養施設へと転換し、健康志向の観光に結びつけています。地域の歴史を大切にしながら、新しい価値を生み出している好例です。

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ラチーネス|静けさを価値にした観光

アルプスの観光ネットワーク「アルパイン・パールズ」に加盟するラチーネス地域 [6] は、環境への負荷を抑えた観光を進めてきました。特に力を入れているのが、車に頼らない移動手段の整備です。

この地域では「静けさ」そのものを観光の魅力と捉えています。大規模な開発を避け、自然の地形を活かしたハイキングやウィンタースポーツを提供することで、自然環境を守りながら観光の価値を高めています。

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メラーノ|都市と自然を両立させる取り組み

かつて保養地として発展したメラーノ [7] は、都市機能と自然環境のバランスを大切にしてきた地域です。

南チロル・サステナビリティ認証の導入後は、宿泊施設だけでなく、レストランなど市街地の事業者にも取り組みが広がっています。地元食材の活用やプラスチック削減といった取り組みが進み、歴史ある保養地としての魅力に加え、環境への配慮も地域の個性として定着しつつあります。

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エッゲンタール|車に頼らない移動の仕組み

ドロミテの麓にあるエッゲンタール地域 [8] では、旅行者の移動のあり方を見直す取り組みが進められています。

宿泊客には公共交通機関を無料で利用できるゲストパスが提供され、観光地を結ぶシャトルバスも頻繁に運行されています。これにより、自家用車がなくても安心して移動できる環境を整えました。こうした取り組みは、CO2排出の削減に寄与するだけでなく、地域本来の静かな自然環境を守ることにもつながっています。

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ドロミテ・エリア|旅行者の集中をコントロールする取り組み

世界遺産ドロミテを含む地域では、旅行者の集中を防ぐための対策が進められています。[9]

具体的には、混雑する時間帯に自家用車の乗り入れを制限するほか、駐車場やシャトルバスを事前予約制とするなどの工夫が行われています。これらの取り組みによって、自然環境の保全が図られると同時に、訪れる人々が落ち着いて景観を楽しめる環境も整えられつつあります。

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南チロルのサステナブルツーリズムを支える5つの成功要因

画像出典:IDM Alto Adige | Innovators, Developers & Marketers

南チロルの取り組みは、単発の施策ではなく、制度・運用・現場での実装が連動した「仕組み」として機能しています。その背景には、共通して見られるいくつかの成功要因があります。ここでは、他地域でも応用可能な視点として、そのポイントを整理しましょう。

1.地域DMO(IDM)による一体的なマネジメント

南チロルの取り組みを支えているのが、「IDM Südtirol-Alto Adige」という地域DMOです。IDMは観光プロモーションにとどまらず、行政・事業者・住民のあいだをつなぐ調整役を担っています。

立場や利害の異なる関係者をまとめ、共通のルールのもとで方向性をそろえる。この役割を一貫して果たしてきたことが、地域全体の取り組みを前に進める原動力となっています。

2.サステナビリティを経済価値につなげる発想

南チロルでは、環境への配慮を経営として扱うのではなく、価値創出の一部として一体的に捉える考え方が基本となっています。

近年は、旅行者のあいだでも環境や地域社会への配慮を重視する意識が高まっており、認証を受けた施設は「信頼できる選択肢」として、質の高い体験を求める旅行者から選ばれやすい状況です。

結果として、認証ラベルは、信頼を裏づける指標として、競争力の向上に結びついています。

3.競い合いから協力し合う関係へ

南チロル・サステナビリティ認証制度の導入をきっかけに、事業者同士の関係にも変化が生まれました。以前は競争関係にあった宿泊施設や地域が、互いに知見を共有するようになっています。

背景にあるのは、観光体験の質や環境配慮の水準といった、地域全体の品質が問われるという認識です。一部の事業者の成功だけではブランドは成り立ちません。こうした認識のもと成功例に加えて課題も共有されるようになり、結果として地域全体の底上げが進んでいます。

4.行政主導による基盤の整備と実行環境の構築

南チロルでは、取り組みを個々の努力に委ねていません。行政が主体となり、公共交通や再生可能エネルギーなどの基盤整備を進めてきました。

こうした環境が整うことで、事業者は無理なくサステナブルな運営に取り組めます。制度とインフラが連動することで、現場での実行力が大きく高まりました。

5.認証を活かしたブランドづくり

南チロルでは、地域全体のサステナビリティへの取り組みを「南チロル・サステナビリティ認証」という共通のラベルに一本化しました。 これにより、本来は見えにくい環境・社会への配慮を誰の目にも見えるかたちにして示し、 地域の姿勢を外部へ分かりやすく伝えるブランド戦略として活用しています。

この独自の仕組みは世界的に評価されており、2026年3月の旅行展示会「ITB Berlin」でも大きな注目を集めました。高く支持されている最大の理由は、 「世界に通じる信頼性」と「地域の実情に合わせた柔軟さ」をどちらも犠牲にせず運用している点にあります。[10]

公平な基準に基づいて、偽りのない情報をオープンに発信し続けること。 この誠実な積み重ねが確かな「信頼」を生み出し、結果として持続可能な観光地としての価値を高め、世界中の旅行者を惹きつける力となっているのです。

南チロルから学ぶ日本の観光地が「量から質」へ転換するためのヒント

画像出典:IDM Alto Adige | Innovators, Developers & Marketers

ITB Berlinで南チロルが高い評価を受けた事実は、日本の観光のあり方を見直すきっかけになります。地域の個性を深く掘り下げることは、内向きになることではありません。むしろ、その土地ならではの文脈を磨くほど、世界に届く価値へと変わっていきます。

認証取得はゴールではなく地域住民との対話を深めるツール

日本でもサステナブルツーリズムへの関心は高まりつつありますが、認証の取得自体が目的になってしまう場面も見られます。

南チロルの取り組みが示しているのは、認証制度の使い方です。制度は評価のためだけに存在するのではなく、地域がどのような姿を目指すのかを共有するための共通言語として機能しています。

そしてこの共通言語を地域全体に浸透させるための工夫が「段階的に参加できる仕組み」です。まず関わることから始め、対話を重ねながら方向性を整えていく。そうした積み重ねが、地域の合意形成を支える土台になっています。

オーバーツーリズムを乗り越え価値を向上させるKPIの再設定

訪問者数の多さは、観光地の経済規模や集客力を示すうえで、これまで広く用いられてきた重要な指標です。一方で、その数値だけでは、地域社会への影響や観光の質までは十分に捉えきれません。そのため持続可能な観光の分野では、訪問者数に加えて、より多面的な指標が必要とされています。

南チロルでは、住民の生活の質や旅行者一人あたりの消費額、滞在日数といった指標が重視されています。観光が地域にもたらす変化を、複数の視点から分析するためです。

では、日本の観光地では何をKPI(評価指標)とするべきでしょうか。地域にとって望ましい状態を定義し直すことが、次の一歩になります。数を追うだけでは見えなかった価値が、そこで初めて浮かび上がります。

日本版DMOが担うべき「調整と教育」の役割

ITB Berlinでも、個々の施設ではなく「地域全体」で取り組む重要性が繰り返し示されました。

この視点に立つと、DMOの役割も変わってきます。情報を発信するだけでなく、関係者の意見をすり合わせ、知識や経験を共有する場を整える必要があります。

地域の方向性をそろえ、学びを循環させる仕組みをどう築くか。その設計が、今の日本の観光でも問われています。

観光ブランドを地域産業全体の付加価値へと昇華させる

南チロルの取り組みは、観光の枠にとどまらず、地域産業全体の信頼性を押し上げています。「持続可能な山岳地域」というブランドへの評価は、農産物や建築技術、さらにはハイテク分野にまで広がり、今では国際市場で戦うための重要な基盤です。

近年では、韓国のような品質志向の高いニッチ市場においても、南チロルブランドの存在感が着実に高まっています。[11] 現地では製品そのものの性能に加え、自然との共生やサステナビリティを重視する地域の姿勢が、付加価値として評価されているためです。

観光を通じて地域の価値を磨き続けることは、その土地で生まれる製品や技術の評価を高めることにもつながります。こうしたブランドの波及効果による経済循環こそが、南チロルが世界のニッチ市場で独自の地位を築いている理由といえます。

南チロルに学ぶ|サステナブルツーリズムは思想ではなく設計である

南チロルの成功は、特別な資源によるものではありません。

  • 国際基準を現場で実行できる形にしたこと
  • 段階的に取り組める仕組みを作ったこと
  • 観光と地域の暮らしを一体で考えたこと

これらの設計により、サステナビリティは理念ではなく競争力として成立しています。

日本に求められるのは、新しいスローガンではなく実装の設計です。どの指標を重視し、誰と合意し、どの順番で進めるのか。その設計が問われています。

そして最も重要な問いは次の一点です。

旅行者の満足度を中心にした地域設計から、住民の生活の質(QOL)を軸にした地域設計へ移行できるか。

観光が経済だけで語られる時代から、地域の持続性で評価される時代へ。その転換点にあります。

参考文献

[1]Sustainability certification

[2]IDM South Tyrol

[3]Marchio di Sostenibilità Alto Adige – Il nostro impegno responsabile | IDM Alto Adige

[4]I campeggi dell’Alto Adige diventano sempre più sostenibili | IDM Alto Adige

[5]Vacation in the Holiday area Ahrntal valley – South Tyrol, Italy

[6]Your holiday in Ratschings: 3 valleys full of experiences

[7]Official homepage of Merano, Historical Spa Town in South Tyrol

[8]The South Tyrolean valley Eggental in the Dolomites

[9]The Development, Sustainable Tourism and Mobility Network

[10]Il Marchio Sostenibilità Alto Adige sulla scena internazionale

[11]Corea del Sud: le aziende scoprono un interessante mercato di nicchia | IDM Alto Adige

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