これら急激な観光客集中が交通渋滞や農地侵入、住民生活への支障を生み出し、「オーバーツーリズム」として深刻な社会問題化しています。
こうしたオーバーツーリズムの激化を受け、2026年4月1日には北海道宿泊税も導入され、対策は「マナー啓発」から「財源確保と地域運営」を含む段階に進みました。また同年3月には第5次観光立国推進基本計画も閣議決定され、国と自治体の方針が「量の拡大」から「持続可能性と需要分散」へ軸足を移しています。[4]
本記事では、観光事業者やサステナビリティ担当者に向けて、北海道各地の最新事例と先進的な対策を詳しく解説します。
北海道オーバーツーリズムの現状|深刻化する問題

観光客の急増により、北海道では受け入れ能力を超える地域が出ています。特に美瑛町、ニセコ町、小樽市では、住民生活や農業など基幹産業への影響が深刻化し、持続可能な観光地づくりが急務となっています。
オーバーツーリズムとは?定義と北海道での特徴
オーバーツーリズムとは、特定の観光地に観光客が過度に集中することで、地域社会や環境に悪影響を及ぼす現象です。日本語では「観光公害」とも呼ばれ、地域住民の日常生活への支障、環境破壊、文化遺産の損傷などを引き起こしています。
北海道では、東アジア系大型バスツアーによる特定地域への極端な集中が特徴的です。
また、農業地域での観光とのトラブルという他県にはない独自の問題を抱えています。
北海道の観光客数増加の背景|インバウンド回復と集中化
2024年度の北海道運輸局の統計によると、訪日外国人延べ宿泊者数は892.5万人泊で、全体の約20.1%を占めています。2023年度(673.3万人泊)から2024年度(892.5万人泊)にかけて、外国人延べ宿泊者数は約32.6%増加しました。
特に外国人宿泊客は道央圏に集中しており、この偏在が交通渋滞や住民生活への負荷を招いています。[5]
一方、2025年4〜9月の北海道の観光入込客数は物価高などを背景に前年同期比で減少したとの報道もあり、オーバーツーリズムは「道内全体の総量」よりも、「どの時期・どの地域に集中するか」の偏在が本質的な問題となっています。[6]
主な問題地域の概観|美瑛、ニセコ、小樽
北海道で最も深刻なオーバーツーリズム問題を抱える3つの地域を概観します。
伐採の背景には、路上駐車や無断立ち入りで生活道路が通行困難になり、危険が増した点があります。加えて、白樺が畑の日照を遮り、農作物の生育に影響を及ぼす懸念も重なりました。住民の要請を受け、町は安全確保と農業保護のため並木を撤去する判断を下しました。
北海道各地のオーバーツーリズムの事例紹介
北海道の各地域では、それぞれ異なる要因でオーバーツーリズムが発生し、独自の対策を講じています。美瑛町では農業景観、ニセコ町では世界有数の雪質、小樽市では映画ロケ地というそれぞれの魅力が、予想を超える観光客を呼び込み、地域住民の生活に深刻な影響を与えています。ここでは、3つの地域の具体的な事例と対策を詳しく見ていきます。
美瑛町のオーバーツーリズム事例

美瑛町は、現在年間約238万人もの人が訪れる人気観光地です。当地域に観光客が集中する大きな理由は、SNSで拡散された美しい自然景観です。
波状丘陵の農村風景や、Apple社のデスクトップにも採用された「白金青い池」。近年ではシンボル的な「クリスマスツリーの木」「セブンスターの木」などが韓国などで“映える”スポットとして紹介されています。

美瑛町の最も深刻な問題は、特定観光スポットでの混雑・交通渋滞と観光客のマナー違反です。
セブンスターの木では同一時間帯にバス6〜7台が路上駐車し、近隣農家の作業に支障をきたしています。また、白金青い池ではトイレ待ちで100人ほどの行列が発生し、駐車場待ちの車両が周辺道路に列をなす状況です。
こうした課題に対応するため、美瑛町は「美瑛町オーバーツーリズム対策協議会」を設立し、以下の5つの対策を実施しました。
- セブンスターの木駐車場を改修し、バス駐車台数を4台から10台に増設
- クリスマスツリーの木周辺に警備員を配置し、違法駐車やマナー違反を抑止
- 白金青い池にトイレを増設し、利用者の待ち時間を緩和
- 観光マナーを表示するデジタルサイネージを3か所に設置
- 混雑状況を可視化するカメラ増設のための調査を実施
これらの施策は、交通渋滞の緩和と観光マナー啓発の両面から対策を進める取り組みです。
しかし、2025年夏の北海道新聞の報道では、町民アンケートで約7割が「混雑は緩和していない」と回答しており、施策と住民の体感との間にギャップが残っています。
美瑛町ではさらに一歩踏み込んだ対策として2026年7月1日から白金青い池の駐車場利用料を値上げしています。[9]
ニセコ町のオーバーツーリズム事例

ニセコ町は2000年代から外国人観光客が急増している地域です。2001年から2023年の間に外国人延べ宿泊数は約135倍に拡大。2023年には年間約290万人が訪れ、そのうち外国人は約49万人を占めました。
観光客がニセコに集中する理由は、上質なパウダースノーと雄大なニセコ連峰という圧倒的な魅力にあります。
その結果、冬季と夏季の観光客数の差が大きく、延べ宿泊者数の比率は「冬10:夏4」となっています。

ニセコエリアでは観光客急増により、次の3つの課題が深刻化しています。
- 冬季のタクシー不足
- リゾートエリアでの交通渋滞
- 観光マナーの悪化
冬季には飲酒を伴う食事後にタクシーが捕まらず、帰宅困難になる観光客が続出。また、ニセコひらふ地区では約2kmの渋滞が発生し、宿泊施設数に比べて飲食店が少ないため「夕食難民」も生じるなど、地域住民の生活にも影響が出ています。
隣接する倶知安町では、交通やマナー改善のため次の施策を導入しました。
- ニセコモデル(タクシー増強)
- ひらふ無料シャトルバスの運行
- スマートごみ箱の設置
さらにニセコ町では、2026年度から導入される宿泊税の使途にオーバーツーリズム対策を含む地域内交通の充実が明示されました。道内では珍しい定率制を採用しており、観光収益を住民の移動環境改善にも還元する仕組みとして注目されています。[10][11]
小樽市のオーバーツーリズム事例

映画「Love Letter」のロケ地として船見坂が中国や韓国の観光客に人気の撮影スポットとなったことが大きな要因となっています。
小樽市の最も深刻な問題は、観光客による重度のマナー違反です。
2025年1月には、朝里駅近くで写真撮影のために線路内に立ち入った中国人観光客が、列車にはねられ死亡する事故が発生しました。さらに、路線バスが観光客で満員となり、市民が乗車できない事態も発生しています。[12]
対策として、小樽市は警備員を配置し、朝里駅や銭函駅など市内3か所に警備体制を構築しました。2026年1月時点では、船見坂3名、銭函駅周辺3名、朝里駅周辺2名、三本木急坂2名へと配置を拡充しています。[13]

また、地元の若者グループ「Otaru Next 100 実行委員会」約150人が忍者に扮したマナー啓発動画をSNS向けに制作。「DO NOT ENTER!私有地に入らないで!住民が困ってるでござる」というメッセージで訪日外国人観光客への注意喚起を行っています。
この創意工夫を凝らした取り組みは第10弾まで展開予定で、楽しみながらマナーを伝える新しいアプローチとして注目されています。[14]
さらに、小樽市は2025年6月、小樽駅前や運河周辺など市内の観光拠点にデジタルサイネージ(電子看板)を設置するマナー啓発業務を委託することを決定しました。
看板では撮影時のマナーや安全注意をリアルタイムで案内し、現場での情報発信を強化します。これにより、観光客の行動変容を促し、撮影マナー違反の抑止効果を狙います。[15]
加えて小樽市は、2024年1月〜2025年12月のGPS人流データを用いたデジタル技術活用オーバーツーリズム実態調査を実施し、時間帯・エリア・居住地別の来訪パターンを可視化。2025年度には、混雑の少ない時間帯に市内を巡る「おたるモーニングツアー」などの実証事業も行われ、参加者の約8割が好評と回答しています。[16]
各地で始まる対策の最新動向
北海道では、オーバーツーリズム問題の解決に向けて革新的な対策が始まっています。特に注目すべきは、以下の新しい取り組みです。
- AI技術を活用した混雑制御
- 地域住民参加型のマナー啓発活動
- 農業と観光の共存への新たな試み
これらの対策は、単なる問題対処ではなく、持続可能な観光地域づくりに向けた戦略的アプローチとして展開されており、観光事業者にとって重要な参考事例となっています。
AI技術活用による混雑制御

美瑛町では、日本でも先進的なAIカメラによる観光地混雑状況可視化システムを導入しています。以下の人気スポット、4か所にAIカメラを設置し、3分ごとに混雑状況を更新しています。
- クリスマスツリーの木
- 白金青い池
- 道の駅びえい「白金ビルケ」
- 十勝岳望岳台
「混雑中」「やや混雑」「混雑なし」の3段階で表示され、観光客は事前に混雑状況を確認できるようになりました。このシステムの特徴は、プライバシーに配慮し個人を特定する情報は一切表示しないこと。
さらに、美瑛町公式ホームページや観光拠点に設置したデジタルサイネージでリアルタイム情報を提供することで、観光客の分散効果を狙っています。[17]
美瑛町ではAIカメラ設置地点を段階的に拡大する方針で、可視化されたデータは警備やパトロールの重点化にも活用され始めています。
マナー啓発とパトロール体制の強化

地域住民参加型のマナー啓発として、「美瑛観光ルールマナー110番」を開設しました。観光客のマナー違反を目撃した際の写真や映像情報を収集し、重点的なパトロール地域の選定や観光関連会社への指導に活用されています。
小樽市では、地元の若者グループ「オタルネクスト100実行委員会」が忍者に扮したマナー啓発動画を制作し、SNSで拡散する創意工夫を凝らした取り組みを実施。これらの活動は、行政だけでなく地域住民や若者世代も巻き込んだ持続可能なマナー啓発体制の構築を目指しており、観光事業者にとっても参考になる地域一体型のアプローチです。[18]
農業と観光共存への新たな試み

美瑛町の若手農家・大西智貴氏が立ち上げた「ブラウマンの空庭。」は、農業と観光の共存を目指す先進的なプロジェクトです。[19]
畑には農家の顔写真入りの看板を設置し、QRコードから農作物の購入サイトへアクセスできる仕組みを構築しました。名称には「土を耕す人」という意味と、丘が空に広がる美瑛の景色、そして「畑は農家にとって庭」という思いが込められています。観光客に景観が農家の努力によって守られていることを伝えることが狙いです。単に「立入禁止」とするのではなく、農家の思いを共有する形で理解を促しています。
国や自治体の取り組み

オーバーツーリズム問題の根本的解決には、国や自治体による制度的支援と財源確保が不可欠です。
2026年4月1日には北海道宿泊税が実際に導入され、観光庁は158億円規模の支援事業を展開中です。さらに2026年3月には第5次観光立国推進基本計画も閣議決定され、これらは観光事業者の資金調達機会であり、持続可能な観光地域づくりの制度基盤として注目されています。
2026年4月1日に導入された北海道宿泊税は、1人1泊の料金に応じた段階課税制度です。
ニセコ町は定率制、美瑛町は独自新税を検討するなど、市町村ごとに設計思想の違いが生まれています。[20]
2026年3月に閣議決定された第5次観光立国推進基本計画では、観光の持続的な発展、地方誘客促進、観光と交通・まちづくりの連携、新技術活用が柱に掲げられました。
国の姿勢が「量の拡大」から「持続可能性と需要分散」へ明確にシフトした点は、北海道の現場対策と方向性が一致しています。[22]
オーバーツーリズム対策の今後の課題
北海道でのオーバーツーリズム対策は、ようやく第一歩を踏み出した段階です。政府が掲げる2030年訪日観光客6,000万人という目標達成に向けて、供給体制の強化と需要の分散化が急務となっています。北海道では、以下の三つの大きな課題に直面しています。[23]
- 人手不足の深刻化
- 観光客の地方分散の実現
- 持続可能な観光モデルの構築
観光事業者にとって、これらの課題は同時に新たなビジネス機会でもあり、長期的な視点での戦略策定が求められる状況です。
2030年までに現在の約1.7倍となる6,000万人の訪日観光客受入れには、根本的な供給体制の見直しが不可欠です。特に深刻なのは人手不足で、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少しており、観光産業では他業界と比べてもより厳しい状況となっています。北海道の観光関連業界では、コロナ禍で削減した人員をまずコロナ前の水準に戻す必要があり、その上で更なる拡充が求められます。
需要の分散化も重要な課題です。
観光庁では全国35の国立公園への高級リゾートホテル誘致を進めていますが、宿泊施設の充実だけでは十分でなく、観光コンテンツの充実が不可欠でしょう。[25]
2026年時点でもう一つ重要なのが、住民の体感と施策のギャップです。美瑛町で対策を複数打っても「混雑は緩和していない」と感じる住民が多いように、施策の件数ではなく生活改善の実感を指標にする必要があります。観光事業者にも、集客KPIだけでなく地域との関係性KPIを持つ姿勢が求められます。[26]
北海道のオーバーツーリズムから考える持続可能な観光
北海道におけるオーバーツーリズムは、美しい自然や文化が持つ魅力の裏返しともいえる現象です。観光客の急増は地域経済に恩恵をもたらす一方で、住民生活や環境への負担も増しています。美瑛やニセコ、小樽といった人気観光地では、交通渋滞やマナー違反など具体的な問題が顕在化しました。
それぞれの地域では、AI技術の導入やマナー啓発活動など創意工夫を凝らした対策が始まっています。小樽ではGPS人流データを使った実態調査や早朝観光ツアーなど、需要の分散を狙う施策も広がってきました。農業と観光の共存を目指す取り組みは、新しい観光モデルのヒントとなるでしょう。
また、国や自治体による宿泊税や補助事業も、持続可能な観光の実現に向けた重要な基盤です。2026年4月からは北海道宿泊税が実際に導入され、同年3月には第5次観光立国推進基本計画も閣議決定されるなど、制度面の整備が一段進みました。
2030年に向けて、供給体制の強化と観光需要の分散が欠かせません。人手不足の解消や地域格差の是正も大きな課題といえるでしょう。
観光の恩恵を広く共有し、住民と旅行者が共に心地よく過ごせる地域づくりを目指すことが、北海道が持続的に輝き続けるための道筋です。
問われているのは「観光客を増やすか減らすか」ではなく、「地域が受け止められる形にどう再設計するか」であり、北海道の先進事例はそのヒントを観光事業者と自治体の双方に示しています。


参考文献
[1] 日本経済新聞|北海道の24年宿泊者数、13%増の4462万人泊 過去最多
[2] 美瑛町|オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光地域づくり(先駆モデル地域) | 事例集・支援ツール | 観光庁
[3] 倶知安町|オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光地域づくり(先駆モデル地域) | 事例集・支援ツール | 観光庁
[6] 日本経済新聞|北海道の25年4〜9月、観光客11%減 物価高で国内客落ち込み(2026年2月)
[8] 毎日新聞|小樽の観光客数、8年ぶりに400万人突破 25年度上半期(2025年12月)
[9] 青い池駐車場の利用料金が令和8年7月1日(水)から変更となります :: 一般社団法人 美瑛町観光協会
[11] 日本経済新聞|宿泊税広がる北海道 ニセコは定率制、住民への恩恵還元カギ(2026年1月)
[12] UHB北海道文化放送|忍者が”オーバーツーリズム”対策で動き出した!「マナー違反はダメでござる」地元を愛する若者たちがSNSに”注意喚起の画像” 第10弾まで発信予定 北海道・小樽市
[13] 持続可能な観光地域づくりへの取組み(オーバーツーリズムの未然防止・抑制) | 小樽市
[14] Otaru Next 100 実行委員会 – ワクワクする小樽をつくろう!
[15] 旅マエ旅ナカにおける注意喚起・マナー啓発業務に関する公募型プロポーザルの選考結果について | 小樽市
[16] 小樽市|デジタル技術活用オーバーツーリズム実態調査(2026年2月公表)
[18] 美瑛観光ルールマナー110番 :: 一般社団法人 美瑛町観光協会
[21] 観光庁|オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業 一次公募の採択事業を決定しました
[22] 国土交通省観光庁|第5次観光立国推進基本計画(2026年3月閣議決定)
[23] 7月長官会見要旨 | 観光庁長官会見 | 組織情報
[24] SOMPOインスティチュート・プラス|2030年の訪日外客数6,000万人は実現可能か
