これまで砂漠は新たなリゾート建設などの開発対象として捉えられてきました。しかし、近年は「自然を生かすことが経済価値を生む」という考えが広がっています。デザートリジェネレーションツーリズムは、観光を通じて砂漠を本来の姿に再生する取り組みです。観光客が主体となって再生のためのツアーに参加したり、集めた観光収益が生態系の回復などに充てられます。
本記事では「再生」という新しい概念を取り入れた「デザートリジェネレーションツーリズム」の背景や事例を解説していきます。

デザートリジェネレーションツーリズムとは

デザートリジェネレーションツーリズムは、劣化した砂漠環境を再生させるための新たなツーリズムモデルです。 [1]
近年、持続可能な観光への関心が高まっています。デザートリジェネレーションツーリズムは砂漠環境をそのまま観光地として生かしつつ、あるべき自然の姿に戻そうとする取り組みです。
観光客の関わり方
デザートリジェネレーションツーリズムにおいて、観光客は単なる訪問者でありません。砂漠再生のプロセスをともに担う主体者としても役割を担います。具体的には、観光客はツアーのなかで、再生のための活動として苗木の植え付け作業に参加したり、その地域の歴史や文化を学んだりします。
また、体験ツアーや宿泊施設などで出た観光収益は、その地域の生態系を再生する活動に使われています。
新しい観光が期待されている背景

デザートリジェネレーションツーリズムが注目され始めた背景には、砂漠の再生において、長期的なプロセスが求められることにあります。。
劣化した砂漠地帯における生態系の再生には、在来植物の再生、水資源の管理、土壌の回復など複数のプロセスと長い時間、高いコストが必要です。つまり継続的な資金の確保が求められます。[2]
そこで「観光」という要素を取り入れて、観光収益から資金源を確保して、砂漠を再生する仕組みができました。
砂漠は開発対象ではなく「守るべき自然資産」に
特に中東地域では、石油依存からの脱却を目指すポスト石油戦略の中で、観光産業に力を入れてきました。そのなかで砂漠地帯などの自然環境は、新たなリゾートの建設など開発対象と捉えられてきましたが、同時に見過ごせない環境問題も起こっています。[3]
こうした反省から、現在では砂漠のありのままの自然こそが「守るべき資産」であり、経済価値をもたらすという新たな認識が生まれました。自然環境を回復させながら収益を生む観光産業は、新たな成長分野として期待されています。[4]
砂漠で起きている危機的状況

砂漠地帯はもともと水不足などの課題がありました。そこに気候変動の影響などが重なり、いま、さまざまな危機に直面しています。これらの危機の解決に早期に乗り出さなければ、砂漠環境の劣化はこの先さらに進む恐れがあります。
気候変動による深刻な影響
砂漠地帯は、世界の平均よりも早いペースで気温上昇が進んでいます。また、気候変動による異常気象も見過ごせません。長期的な降雨不足による乾燥で砂漠化が急速に進む一方、極地的な集中豪雨など不安定な降水が増えることも懸念されています。[5]
水資源の極端な不足
砂漠はもともと降水量が少ない地域で、高温のため蒸発量が非常に多く、地下水に依存しています。こうした地域が気候変動の影響を受けると、干ばつの長期化や降水の不安定化が起き、さらに水不足に陥る可能性があります。
極端な水不足は、農業の崩壊による食料危機や、それによる社会の崩壊、経済の崩壊など連鎖的な崩壊を引き起こす危険性があり、見過ごせない問題です。
生物多様性の喪失
砂漠の慢性的な水不足は植生の減少を招きます。それは単なる緑の消失に留まらず、樹木などをすみかにしている動物や微生物の生息地を奪うことを意味します。その結果、動物や微生物が減少し、生物多様性が失われています。[6]
中東を中心としたデザートリジェネレーションツーリズム
砂漠の多い中東やアフリカ地域では、これらの危機に対して長期的に取り組むための一つの施策として、デザートリジェネレーションツーリズムを取り入れ始めています。
観光収益を資金源にしながら本来その砂漠にあった自然を呼び戻す取り組みは、自然環境を観光地にしている日本の観光産業にも通じるところがあるはずです。
AlUla(サウジアラビア)|観光収益を再生資金に

サウジアラビアは2016年に発表した国際戦略「Vision2030」で、外国人観光客を増やすという施策を掲げました。観光ビザ制度の開始や、女性のヒジャブ着用などの緩和を行い、観光客を積極的に呼び込んでいます。[7]
その中心であるAlUlaプロジェクトでは観光客を単なるゲストではなく、再生の「参加者」として位置づけています。観光客が植林や野生生物の観察活動を体験できたり、オアシス周辺の苗木を植えたり、砂漠の清掃活動にも参加できたりします。ガイドツアーや文化体験を通じて自然・歴史・再生のプロセスを理解して観光客がリアルに体験できる点が特徴です。
観光によって得られた収益は、資源や生態系の回復を最優先にした開発に充てられています。具体的な柱となる取り組みは、以下のとおりです。
- 資源の回復:水資源の管理を見直し、持続可能な農的景観を再構築
- 在来植物の回復:1,000万本の植林でナツメヤシなどの在来植物を再生し、オアシス環境を修復
- 生態系全体の回復:アラビアオリックスなどの絶滅危惧種を再導入して生態系のバランスを回復させる
従来の砂漠緑化プロジェクトは、植林や土壌改善で砂漠を緑に変えることが目的でしたが、AlUlaプロジェクトは砂漠の緑化に留まりません。生態系そのものを回復させ、在来種を復元し、野生動物を再導入するなど、本来の砂漠の生態系を取り戻すことを目的としている点が画期的です。[8]
また観光のデータは生態系を管理する一貫として、観光ルートのデータ解析や、動物の生息地に合わせたトレイルの変更、訪問者数の調整などに活用されています。
AlUlaプロジェクトは、2035年までに年間200万人の観光客を誘致することを目標にしています。[9]
Namib Desert Rewilding & Eco-Tourismt(ナミビア)|自然システムによる自己回復

ナミブ砂漠では、野生動物・観光収益・人のほどよい関与で、砂漠の自然システムを自己回復させる仕組みが進んでいます。
この地域では、過放牧・野生動物の減少・生態系バランスの崩壊が長年の課題でした。そこで、捕食者や草食動物を再導入し、生態系の食物連鎖の回復を目指す取り組みを開始。自然の力で砂漠を再生させること(rewilding)に注力してきました。[10]
草食動物は、植生の更新や種子の散布を担い、捕食者は個体数を調整して過放牧を減らします。さらに、動物の移動による土壌のかくはんや、排出物による栄養循環で自然再生の流れを創り出しています。
野生動物を戻すことが、砂漠の植生や土壌の回復につながり、土壌の保水力が向上することで水循環の回復にもつながるという仕組みです。
観光客はモニタリング・保全活動に参加します。このツアーは旅行費用を環境保護に役立てたいと考えている旅行者から支持を得ています。[11] 観光の収益源は観光客のサファリツーリズムやエコロッジへの宿泊です。こうした収益は保護区の維持費や再生プロジェクトに再投資しており、観光客が増えるほど自然が回復する仕組みになっています。
デザートリジェネレーションツーリズムがもたらす観光の未来
いま、砂漠は「消費する観光」から「回復させる観光」へと移りつつあります。観光客は訪問するだけでなく参加型の体験を通じて地球環境の課題に向き合い、その解決をともに支える立場となります。砂漠における危機の解決には膨大な時間と労力が必要です。
その過程においては、実態が伴わず見せかけの環境配慮である「グリーンウォッシュ」のリスクも否定できません。そういった面でも観光客が主体的に参加することで、表面的ではない、実効性のある問題解決につながることが期待できます。


[1]linkedin「Eco-tourism in the desert: Is the Gulf’s sustainable tourism」
[2]Scott R. Abella「Restoration of Desert Ecosystems」
[4]World Bank Group「Nature-Based Tourism」
[5]SIGMAEARTH「How Is Global Warming Impacting The Desert Climate?」
[6]MILLENNIUM ECOSYSTEM ASSESSMENT「ECOSYSTEMS AND HUMAN WELL-BEING」
[7]The News International「Saudi Arabia to offer tourist visas for first time, abolish abaya rule」
[8]ARAB NEWS「Restoring AlUla’s natural balance, advancing sustainable desert tourism」
[9]Saudigazette「AlUla’s families at the heart of Vision 2030: A model for regenerative growth」
[10]GEOGRAPHIC EXPEDITIONS「Conservation in Namibia」
[11]Shore Africa「Namibia gains global spotlight through digital and responsible tourism」
