台東区の観光客数は、コロナ禍以前の水準に戻りつつあり、それに伴ってオーバーツーリズム問題を抱えています。
なかでも浅草は、住民の居住エリアと観光の中心地が近接しているエリアです。その結果多くの観光客が押し寄せることにより住民が日常生活でストレスを感じる事態が起きています。
そこで、台東区はごみのポイ捨て禁止の啓発活動や、観光客分散などの対策を始めました。東京のような大都市では、住民の居住エリアと近接している観光地は多くあります。
台東区の取り組みから、観光と住民の暮らしを両立させるヒントを探っていきましょう。
世界的に発生しているオーバーツーリズム問題とは?

観光客の増加は地域の経済発展をもたらしますが、その規模が一定の値を超えると、その地域の環境や住民の生活に悪影響を及ぼします。こうした観光客の過度な増加による問題を「オーバーツーリズム」と呼び、現在世界各地でさまざまな問題を引き起こしています。
オーバーツーリズムにより発生する具体的な課題や世界的な動向については、こちらの記事をご覧ください。

台東区・浅草のオーバーツーリズムの現状【2026年最新】

台東区の観光客数はコロナ禍から急速に回復しており、2024年(令和6年)には4,121万人に達しました。[1] 台東区の人口、約20万人(2024年時点)と比較しても、観光客の規模の大きさがうかがえます。
なかでも浅草は浅草寺を中心に、国内からの観光客に加えて、東京観光の玄関口として訪日外国人の観光客が集中する人気エリアとなっています。

問題なのは、そのほとんどが日帰り観光客であることです。2024年の観光客数のうち、宿泊者は531万人のみでした。日帰り観光客が多いと、日中の公共交通機関の混雑や、街路が歩きにくくなる状況が起こります。[2]

特定エリアや季節への過度な集中
浅草のオーバーツーリズム問題を深刻化させている背景には、「場所」と「時期」に対する観光需要の過度な集中があります。
浅草のなかでも、とくに雷門から仲見世通りにかけては人流が集中し、過度な混雑を発生させています。該当エリアには写真スポットやSNS映えスポットが多く、人々が滞留しやすいためです。
また、週末や桜、年末年始などタイミングや季節によっては、さらに極端な混雑が発生します。
台東区・浅草のオーバーツーリズムがもたらす問題

浅草では、オーバーツーリズムによって観光客によるごみのポイ捨てなど、深刻な問題が起きています。主に以下の5つが深刻な問題です。[3]
- ごみのポイ捨てなどマナー違反の増加
- 店舗等の過度な混雑による通行の妨げ
- 文化・景観の毀損リスク
- 生活圏の重複による住民との摩擦
- 観光体験の質の低下
たとえば宿泊施設の前に捨てた生ごみにネズミが集まったり、衣類やスーツケースが捨てられたりといった報告があります。また観光客が下町らしい風景を撮るために住宅を無断で撮るなど、地域住民の生活景観が被写体化されることも問題です。
ルールや節度を守らない観光客がいることで、オーバーツーリズムの問題は深刻になってきています。
台東区・浅草のオーバーツーリズム対策事例4選

このまま課題を解決せずにオーバーツーリズムが加速していくと、住民のみならず観光客の体験の質も低下し、観光地としての魅力も損なわれる恐れがあります。
そこで浅草は、台東区民や訪日外国人の意識調査、観光客の動きのデータ分析などを行いながら、オーバーツーリズムの課題と解決策を検証し、適切な対策を実施しています。
ごみのポイ捨て禁止の啓発活動

浅草では観光客の増加に伴うごみのポイ捨て問題に対し、単にルールを押し付けるのではなく、観光客や子どもにも参加してもらえるゲーム形式のごみ拾いイベント「清走中」を実施して、ポイ捨てへの意識改善を図りました。[4]
本イベントはアプリから配信されるミッションをチームでクリアしていく設計で、楽しみながらポイ捨てへの意識を高めるよう工夫されています。イベント後は、8割以上の参加者が環境への意識が高まったと回答しました。
また、浅草らしい和装などのコスチュームを身にまとった担当者が清掃活動を行い、観光客との記念撮影などに応じつつ、日ごろから啓発活動を行っています。
多言語対応のマナー啓発スローガン「EDO IT!」

台東区は観光マナーを知り、守ることを“良きおこない”として楽しんでもらいたいという想いから「DO IT!(やろう)」の意味も込めて「EDO IT!」のスローガンを作成しました。[5]
「EDO IT!」のスローガンのもと、同区では以下の取り組みを行っています。
- 持ち帰り用の専用ごみ袋の配布(2024年12月~2025年1月)
- トイレ・公衆喫煙所を探せるデジタル案内マップの提供
- 店頭行列の緩和実験
同取り組みで観光マナー啓発のリーフレットが配布されており、そのなかで浮世絵タッチの「EDO IT!」のビジュアルは、観光客に興味を持ってもらうきっかけとなっています。
観光分散の取り組み

まだ知られていない魅力あるスポットを紹介し、観光場所が分散するように促すため、台東区および浅草観光連盟が共同で、多言語対応のデジタルマップを配信開始しました。有名な観光スポットだけでなく、点在するディープな観光スポットを紹介することで、地域全体の回遊性を高めることが狙いです。[6]
また、東京観光財団と台東区が共同研究を行い、浅草周辺の人流ヒートマップ分析も行っています。
オーバーツーリズム問題を解決するために重要な観点

オーバーツーリズム問題の解決には、観光客の分散やデジタル技術の活用、マナーの啓発などさまざまなアプローチがあります。
なかでもとくに重要な観点は以下の3つです。
- 「量から質へ」の観光戦略:高付加価値・長期滞在型の観光へ転換し地域への負荷を軽減する
- 地域住民との共生:住民参加型の観光設計を行い、観光収益を地域へ還元する
- テクノロジーの活用:アプリなどを活用しつつ、必要に応じて規制を設けて行動変容を促す
ただし、オーバーツーリズムの解決策に「すべての地域に通用する正解」はありません。重要なのは、自地域が抱える独自の課題を分析し、それに適した対策をとることです。
戦略を立てるうえで、同じ課題を抱えている地域の取り組みは非常に参考になります。具体的なオーバーツーリズム対策の事例については、以下の記事をご覧ください。

浅草のオーバーツーリズムから考える持続可能な観光の形
浅草のオーバーツーリズム対策で注目すべきは、住民や観光客のリアルな声を集め、求められている問題解決に対して、的確な対策を打っている点です。
さらに、人流ヒートマップ分析などのデータも活用して街の実態を把握することで、必要な場所に必要な資源を分配する仕組みも構築しています。
オーバーツーリズム対策や、持続可能な観光地域づくりにおいては、浅草のように観光客だけでなく地域の住民や事業者の声を聞き、関係者が一体となって観光に取り組む態勢が求められます。
参考文献
[2]台東区ほか「令和5年度共同研究:報告書オーバーツーリズムを防ぐために~東京・台東区での検証を踏まえて~」
[3]観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業 取組み事例集 16. 東京都台東区」
[4]株式会社Gab「ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」」
[5]台東区「観光マナー啓発をはじめとした新たな取り組みを実施します!~浅草地区における持続可能な観光地づくりについて~」
[6]浅草観光連盟「【訪日外国人観光客向け・オーバーツーリズム対策】多言語のデジタルマップで❝リアルなイマーシブ体験❞「奥浅草ガイドマップ~物語で知る、もうひとつの浅草~」」
