八甲田山を訪れるインバウンド旅行客

東日本大震災が発生した2011年以降、コロナ禍だった2020〜2021年を除き、日本を訪れる外国人観光客の数は増加し続けています。
青森県も例外ではなく、特にアジア圏からの観光客が多く訪れます。2023年に青森県内で宿泊した外国人の数を見ると、中国・香港・台湾の3地域が全体の57%を占めています。1月末から2月初旬にかけての旧正月の期間中にも、これらの国・地域から多くの観光客が訪れています。
観光資源としての八甲田山
十和田八幡平国立公園に含まれる八甲田山は、青森市中心部から南東へ約20km、車で約30分の距離に位置します。周辺には、豪雪地として名高い酸ヶ湯温泉をはじめ、趣の異なる温泉地が点在。また、スキー場やパークゴルフ場などの観光施設も充実しており、四季を通じて豊かな自然を満喫できる観光地として人気があります。
中でも、1〜2月にかけては美しい樹氷が見られるほか、スキー場の管理区域外でスキーやスノーボードで楽しむ「バックカントリー」ができることも特長です。
この八甲田山の麓と頂上を結ぶのが、八甲田山ロープウェーです。八甲田山ロープウェーは八甲田山麓駅と田茂萢岳(たもやつだけ)の山頂公園駅間を約10分で結び、眼下には青森市内や陸奥湾を一望できる絶景が広がります。冬にはロープウェーからも一面に広がる樹氷を眺めることが可能です。
八甲田山には冬季、樹氷やバックカントリーを目的に、特に海外から多くの観光客が訪れます。青森県が発表した2023年の統計資料によると、八甲田山ロープウェーや八甲田パークなど、八甲田山周辺の観光施設の入込客数は、軒並み前年比100%以上を記録しており、その人気ぶりが伺えます。
青森市の冬の八甲田山観光への取り組み
冬の八甲田山観光のハイライトは、雪と氷が織りなす神秘的な芸術「樹氷」です。厳しい寒さの中で木々に雪や氷が吹き付けられ、時間をかけて成長していくその姿は、まるでモンスターのようにも見えることから「スノーモンスター」とも呼ばれています。
八甲田山の樹氷観光は、2018年以降、青森市が主導する国際的なプロモーション活動によって、その魅力を世界に発信しています。青森市は、山形市や北秋田市といった樹氷の名所とともに「国際樹氷サミット」を開催。各都市が連携して樹氷の魅力をPRするとともに、八甲田山ならではのバックカントリーといったアクティビティも積極的にアピールしました。サミットには、韓国の旅行会社や台湾の人気ブロガーも参加し、アジア市場における八甲田山の認知度向上に大きく貢献しました。
こうした取り組みが実を結び、八甲田山にはアジアをはじめとする世界各国からの観光客が増加。八甲田山の樹氷やウインタースポーツは、外国人観光客に人気のコンテンツとして定着しました。
冬の観光の危険性
しかしながら、冬の八甲田山は、雪道での運転、路面凍結による転倒、そして安易なバックカントリーによる遭難といったリスクも潜んでいます。特にバックカントリーでの遭難は深刻な問題です。2018年からは八甲田山岳スキー安全対策協議会が「Mt.八甲田ローカルルール」を運用し、コース外での遭難者に対し救助費用を請求することで、危機意識の向上を図っています。しかしながら、読売新聞オンラインの記事によると、このルールが導入されて以降も八甲田山周辺では2020年に10件12人の遭難者があり、その半数は外国人でした。
2021〜2022年はコロナ禍による入国制限もあって外国人観光客の遭難者はいませんでしたが、2024年に日本を訪れた外国人旅行者は3600万人以上と、年々増加しています。今後は観光客誘致とともに、更なる安全対策を講じることが必要です。。「Mt.八甲田ローカルルール」のように明確なルールを確立し、多言語での情報発信や注意喚起を徹底することで、観光客自身が安全な行動を選択できる環境を整備することが、持続可能な観光地づくりにつながるのではないでしょうか。
参考文献