提供:buoy株式会社
海に流れ着いたプラスチック。かつては「厄介者」として燃やされるか埋め立てられるしかなかったその存在が、今、工芸品のような美しさを纏い、私たちの生活に彩りを添えています。
今回お話を伺ったのは、海洋プラスチックを100%使用したプロダクトブランド「buøy(ブイ)」の小林さん。プラスチックメーカーとしての責任と、海を愛する地域の人々の想いが交差する場所で生まれた、新しい「再生」の物語を紐解きます。
海洋プラスチックを“価値”に変える挑戦

buøyの母体は、長年プラスチック製造に携わってきた「株式会社テクノラボ」です。「人々の生活を豊かにするために作ってきたはずのプラスチックが、いつの間にか悪者扱いされている。」その現状に、メーカーとして強い衝撃と責任を感じたことがブランド立ち上げのきっかけでした。
プラスチックそのものが悪いのではなく、問題の本質は「大量生産・大量消費」という私たちの生活習慣にある。それならば、プラスチックという素材の可能性を信じ、捨てられないほど愛着の持てるプロダクトを作ろう。そんな議論を重ね、辿り着いたのが海洋プラスチックを100%使った唯一無二の工芸品作りでした。
大量生産から一品物へ。ものづくりの思想転換
かつてプラスチックは、安価に大量生産するための「動脈側」の技術として発展してきました。しかしbuøyが取り組んでいるのは、回収後の「静脈側」の仕組み作りです。

海洋プラスチックは、種類も違えば溶ける温度も異なり、フジツボや砂がついていたり、劣化や汚れもひどかったりするため、これまではリサイクルが不可能とされてきました。しかし、buøyはプラスチックメーカーとしてのノウハウを活かし、独自の製造技術を開発し、特許を取得。100%海洋プラスチックのみで、着色剤も一切使わずに製品化することに成功したのです。効率を追い求める大量生産の対極にある、職人の手作業による一点物の生産。それがbuøyの誇るものづくりの形です。
ビーチクリーン団体とつくる「持続可能な」循環

buøyの活動を支えているのは、全国30以上のビーチクリーン団体との繋がりです。注目すべきは、buøyがごみを「材料」として買い取っている点。そこには切実な現場の課題がありました。
「海を綺麗にしたい」という善意でごみを拾っても、その処理には多額の費用がかかります。さらに、回収されたごみの多くは最終的に埋立処分されますが、その受け皿にも限りがあります。処分場がひっ迫すれば、地域全体のごみ処理にも影響が及びかねません。埋め立てる場所がなくなれば、地域住民の生活ごみを出すスペースすら圧迫してしまう。そんなもどかしさを抱える団体に利益を還元することで、活動を持続可能なものにしていくことも、buøyが大切にしている考え方の一つです。

「buøyはあくまで脇役。主役は地域で活動する団体の方々です」と小林さんは語ります。買取という仕組みによって、これまで回収して処分するしかなかった活動が、今では「製品になる宝物を探している気分」というポジティブな声も聞かれるようになりました。
偶然が生む、唯一無二の色と模様

「buøyの美しさとは何か」という問いに、小林さんは「偶然の出会い」だと答えます。 製品の色は、拾われた場所や時期によって全く異なります。九州では海外からの漂着物による鮮やかな色が、太平洋側では生活ごみによる淡い色が混ざり合うといいます。
「桜の時期はピンクのごみが届いてほしいけれど、ごみが増えることを願ってはいけない」というメーカーならではの葛藤もあるとか。そんな背景から生まれる一期一会の模様に、手に取る人は自分だけの美しさを見出し、ワクワクを感じるのです。それは、均一な製品にはない、素材そのものが持つ「物語」の輝きです。
絶望から始まった、対島(つしま)での誓い

小林さんがbuøyに入社した直後、日本で最も海洋漂流ごみが深刻な場所の一つ、長崎県・対島を訪れました。そこで目にしたのは、砂浜が見えないほどに埋め尽くされたプラスチックの山。
「海ごみの問題をどうにかしたい、その一心で入社したけれど、目の前の光景に『私一人の力では何もできない』と初めて虚無感に襲われました」と小林さんは振り返ります。
しかし、その圧倒的な現実は、小林さんにとって、buøyの活動の意味をあらためて見つめ直す大きなきっかけになりました。
地域(産地)の魅力を届ける“お土産”として

buøyでは、ごみを拾った場所を「産地」と呼び、製品に産地名を表示しています。
海ごみを一つの手段として、地域の良さを広めていきたい。海ごみを入り口に、製品のQRコードを通して「この地域にはこんな美味しいものがあるんだ、今度行ってみよう」と思えるような繋がりを作りたいです。
実際に、購入されたbuøyをきっかけに、その土地を訪れてみたいと感じる人も増えています。モノを売るだけでなく、都市と海を繋ぐ新たな接点にもなっている。QRコードが「再生の旅」への招待状の役割を担っているのです。
QRコードが繋いだ、福岡・糸島(いとしま)への旅
buøyの製品に添えられたQRコードが、単なる情報源ではなく「招待状」でもあるという素敵なエピソードがあります。
ある時、製品を手にしたお客様が「ここ(糸島)の団体がレストランも経営していると知ったので、実際に行ってきました!」と報告してくれたことがあったのです。
ごみを拾う人と、それを手にする人。本来出会うはずのなかった両者が、一つのプロダクトを通じて「旅」という形で繋がった瞬間です。海ごみという課題が、地域を訪れるポジティブな動機に変わる。それこそがbuøyが理想とする「再生の旅」の姿です。
「ごみがなくなる未来」へ。buøyの描く展望

2025年に株式会社化したbuøy。今後はさらに大きな循環を目指しています。 現在はキーホルダーなどの雑貨が中心ですが、椅子や机といった家具など、より大きな製品の製造にも着手。一度により多くのごみを社会へと戻す技術開発を進めています。また、現在は横浜と千葉にある工房を全国に広げる構想もあるとか。
各地で拾ったごみを、その土地で製品化し、その土地で売る。輸送コストや環境負荷を抑えた「地産地消の循環」を全国に根付かせたいと考えています。
「やっぱり海っていいよね」と言い合える未来のために

近年進む「海離れ」。海との距離が遠のく中で、buøyが守りたいのは「海は美しい、海は楽しい」という根源的な感動です。
みんなが遊びに行きたいと思う海、綺麗な海を守り続けたい。
buøyが考えるリジェネラティブ(再生)とは、単にごみを形に変えることではありません。捨てられたものに新しい役割と物語を付与し、人と地域を再びつなぎ直すこと。 「いつか拾えるごみがなくなって、buøyが作れなくなる日が来ることが一番の理想です。」
そう語る彼らの挑戦は、私たちの旅のあり方や、ものとの向き合い方をそっと問い直してくれます。
ビーチクリーンにすぐ行けなくても、海ごみのことを10分話してみる、タンブラーを持ってみる。自分の心地よい範囲で、小さな輪を広げることから始めてみませんか?
取材協力:buoy株式会社
