スポーツと観光が交差する場面が、ここ数年で増えてきた。Jリーグが2018年に立ち上げた社会連携プロジェクト「シャレン!」を機に、スポーツクラブを単なる観戦コンテンツではなく、地域のハブとして活用しようとする動きが広まっている。
「スポーツツーリズム」という言葉も広く聞かれるようになり、試合観戦を旅の目的とする人が増えるなかで、スポーツはいま、旅先を選ぶ理由になりつつある。
そうした流れのなかで、山口県を本拠地とするJリーグクラブ・レノファ山口FCが、新たな一歩を踏み出した。2026年3月、クラブ創設20周年の節目に開催された「第1回レノファ山口FC サステナセッション」は、プロスポーツクラブのリソースを活用したCSV・ESG事業の探索を目的に、地域企業・行政・金融機関など多様なステークホルダーを集めた試みだ。
スポーツを軸に、地域とどう関わるか。その問いをクラブ自身が真剣に考えはじめている。スポーツと地域再生の交差点を探りに、「リジェネ旅」編集部も会場へ向かった。

20年の繋がりを、次の武器へ
会場には、製造業、自治体、旅行会社、スタートアップなど、業種もポジションも異なる参加者が集まっていた。レノファ山口FCが20年かけて築いてきた「繋がりの太さ」を、そのまま可視化したような顔ぶれだった。
開会の挨拶に立った株式会社レノファ山口FC 代表取締役・渡部 博文社長の言葉は、「 “協賛・看板をお願いします” という営業スタイルは限界だと感じています」と、率直なものだった。 組織と地域、双方の課題を共に解決できる「共創パートナー」へと進化できるかがクラブに問われている。スポンサーシップのあり方 “そのもの” を問い直す、宣言のように聞こえた。

続いて登壇した内山 遼祐専務取締役は、この日に合わせて公開した「クラブのインパクトレポート」に触れながら、レノファ山口FCの最大の強みを「繋がりの太さ」と定義した。

山口県内19市町すべてと包括連携協定を締結しているクラブは、Jリーグ60クラブ中でレノファ山口FCだけ。地域金融機関や環境省との協定も含めたこのネットワークの密度を「社会関係資本」と整理したうえで、内山専務は今後の事業モデルとして二層構造を提示した。
企業と具体的な事業を共創する「レノファ山口FCESG/CSVパートナー」と、対話を通じてその可能性を育てる場「レノファ山口FCラボ」である。
「応援されるクラブから、地域と価値を共創するクラブへ」。内山専務のこの一言が、クラブの20年間の蓄積をどこへ向けようとしているのかを、端的に表していた。
今回のセッションは、クラブが企業に「サステナビリティの取り組み」を説明する場ではない。参加者それぞれが、自社の課題や強みを持ち寄り、レノファ山口FCが築いてきたネットワークと掛け合わせながら、まだ形になっていない「可能性の芽」を一緒に探り出す。そんな場として設計されているように感じた。
スポーツクラブの存在意義を、問い直す
渡部社長・内山専務の言葉を受けて、オンライン基調講演に登壇したのはJリーグ特任理事・夫馬賢治さん。サステナビリティ経営のアドバイザーとして企業や行政に関わりながら、スポーツと社会課題の接点を国レベルで設計してきた人物である。

夫馬さんはまず、Jリーグ全体の収益構造を示した。スポンサー収入が全体の45%を占め、レノファ山口FCが属するJ2でも48%に上る一方、入場料収入は14%に過ぎない。実は、スポーツクラブの経営を支えているのは、チケット・グッズ収入よりもスポンサーシップなのだ。

さらに長期的には、人口減少によって観客数を増やし続けることにも、やがて限界が訪れる。観客数の増加だけを頼りにはできない時代が、山口県に限らず、Jリーグ全体に近づいている。
立ちはだかる厳しい現状を前に、夫馬さんは改めて「スポーツは何のためにあるのか」という問いを立てた。運動や健康のため、子どもたちの育成のため、街の賑わい創出のため。スポーツの役割はさまざまに語られてきた。しかし、Jリーグが1996年に掲げた「100年構想」の理念は、それとは少し違う場所に向かっている。

「クラブに地元の人が集まること」「スポーツを通して地域が活気に溢れ、豊かな人間形成が行われるチャンスになること」。30年前の言葉を、今あらためて大切にしようとしているのだという。
こうした構造を踏まえて夫馬さんが提示したのが、スポンサーシップの価値再定義だ。経産省とスポーツ庁の合同会議でも、スポーツの未来は「地方創生や社会課題解決への貢献」にあると示されている。
そこで注目されているのが、スポーツ界が持つ「結びつける力」だ。レノファ山口FCのもとには、すでに県内の有力企業がほぼ集まっており、このネットワークを使って自治体や金融機関と連携し、社会課題を解決していく。それが新しいスポンサー価値のモデルとして提示されていた。
企業側にも、動き出す理由がある。2027年3月期から、上場企業を対象に「サステナビリティ情報開示」の法定制度が始まる。中長期的な社会・環境課題が自社の財務に影響を与えると自覚し、主体的に対処してその結果を開示することが求められる。
だからこそ、一社ずつ行政の門を叩いて個別に動くよりも、企業が結集し、すでに自治体との距離が近いスポーツ界と一緒に取り組むほうが、現実的でもある。

講演後の質疑でも、印象的なやりとりがあった。「サステナビリティへの取り組みは、コストではなく投資として捉えるという理解で正しいか」と問われた夫馬さんは、こう答えた。
「自分たちに影響を与える課題であれば、ジリ貧になるのを待つのではなく、自ら世の中を変えていく側に回ること。それが投資という考え方です」。サステナビリティを「義務」から「積極的な選択」へと捉え直すこの視点は、この後の登壇者たちの話にも共鳴していた。
行政が期待する、スポーツの「感情を動かす力」
基調講演に続き、山口県産業労働部・産業脱炭素化推進室の末廣 一水さんが登壇した。県のGX(グリーン・トランスフォーメーション)戦略を推進する立場からの参加だ。

末廣さんはまず、山口県が抱える脱炭素化の難しさを率直に語った。県内には大量のエネルギーを消費するコンビナート企業が多く、「2050年カーボンニュートラル」宣言が都道府県の中で44番目になったのも、慎重な判断を要した背景がある。
現在は「やまぐち産業脱炭素化戦略」のもと、コンビナートのカーボンニュートラル化を筆頭に複数の先行プロジェクトを推進している。ただ、脱炭素化には巨額の初期投資が必要で、GX製品は既存製品との価格競争で不利になりやすく、需要の見通しも立てにくい。
県として「産官学金」が連携したファンドの創設も検討しているが、制度や資金を整えるだけでは人はなかなか動かない、と末廣さんは語る。
そこで期待を寄せるのが、レノファ山口FCとの連携だ。脱炭素への共感を広げるには、データや政策だけでなく、人の感情に届く回路が必要だという。
経済合理性だけでは、物事が進まない実態があります。そこを打破する鍵になるのが、「ファン心理」という感情の力ではないでしょうか。スター選手やクラブへの思いが、脱炭素の加速に繋がると信じています。
好きなクラブが脱炭素に取り組んでいると知れば、サポーターはその活動に関心を持つ。応援しているスター選手が環境問題を語れば、普段その話題に触れない人の心にも届く。義務や数字では動かない人を動かす力が、スポーツには備わっているのだ。
地域に根ざす企業が、レノファ山口FCに見た可能性
続いて登壇したのは、株式会社トクヤマ・動力部技術課の友村 浩二郎さん。周南市にある徳山製造所に勤務し、自家発電所の運営を本業とする一方、社内の自主プロジェクト制度「トクヤマ・チャレンジ(通称 とくちゃれ)」に個人として関わりながら、レノファ山口FCとの連携活動に取り組んできた。

友村さんが語ったのは、レノファ山口FCと関わる中で見えてきた可能性についてだ。クラブを単なる応援や支援の対象としてではなく、関わり方次第で自分たちの仕事や会社の価値を高めていける存在として捉え、スポンサー料についても施策の中身や得られる効果を踏まえた上で、価値に見合うものとして向き合ってきたという。
こうした活動を通じて、友村さんが現場での経験の中から強く意識するようになった課題は、大きく二つある。一つは地域からの信頼、もう一つは脱炭素だ。
なぜ、自社だけで完結させるのではなく、レノファ山口FCと組むのか。その背景には、「1社で取り組むよりも、クラブが持つ社会関係資本と掛け合わせることで、より大きな効果につながるのではないか」という考えがある。コストを抑えながら効果を高め、地域からの信頼獲得や脱炭素にかかる負担の軽減につなげていく。自社単独では届きにくい領域にアクセスできる点に、連携の価値を見出している。
周南市に工場を構えるトクヤマの存在は地域に知られているものの、実際にどのような事業を行い、どのような人が働いているのかまでは、十分に伝わっていないのではないか?と感じる場面も多かったという。地域との間に、どこか顔の見えない距離感が残っていることへの課題意識があった。
そうした中で、社内で掲げられている「もっと未来の人のために」というスローガンを、自身の立場からどう具体的な取り組みに落とし込めるかを考えるようになった。化学や発電を通じて地域に価値を届けている会社であることを、より実感をもって知ってもらえないか。その試みの一つが、レノファ山口FCとの連携だった。
例えば、毎試合スタジアムに設置している竹で作った鳥居を飾った神社型の「必勝祈願ブース」では、周南市で深刻化している竹害と、それを活用した「竹チップのバイオマス発電」を紹介している。来場者の約5%が立ち寄るなど、想像以上の反応が得られているという。
また、周南市の小学5年生を対象にした環境学習プログラムでは、竹を使った応援楽器「竹クラーベ」の制作から工場見学、竹チップ発電の仕組みの理解までを一連の体験として設計した。


プログラム後には、それまで環境への取り組みを知らなかった子どもたちが内容を理解し、将来トクヤマで働きたいと手を挙げてくれた児童もいた。こうした反応は、地域との新たな接点をつくる手応えとして印象に残っているという。
もう一つのテーマである脱炭素についても、日々の業務や活動を通じて感じている課題意識がある。これまでは主に海外から石炭を調達して発電していた。しかし脱炭素の時代を迎え、CO2排出そのものがコストとして意識されるようになっている。
代替となる燃料は価格も高騰しており、燃料費として海外に流出する。さらに地政学リスクも重なり、燃料調達のあり方そのものを見直す必要性が高まっていると感じていた。
再生可能エネルギーの活用も選択肢になるが、工場内に設置できる土地には限界がある。そこで着目しているのが、地域の家庭や施設との連携だ。ただしBtoB企業である以上、地域住民との直接的な接点はほとんどない。そこで、自治体やサポーター、地域市民と日常的に接点を持つレノファ山口FCを介することで、新たな可能性を探るという発想が生まれた。

家庭の屋根の太陽光や地域施設の再生可能エネルギーを、自社のエネルギーとして活用できる余地があるのではないか。そうした構想は、スポーツクラブが持つ社会関係資本を、自らが直面している課題の解決に結びつけようとする発想の延長線上にある。
この取り組みが示しているのは、スポンサーシップの一つの可能性だ。クラブの社会関係資本を活用し、単なる追加コストではなく、資金や価値の流れそのものを転換していく。企業とクラブの関係を「支援と感謝」から「課題をともに考え、動かす関係」へと変えていく。そんな姿が、ここから見えてくる。
※本セクションに記載された考えや課題意識は、株式会社トクヤマの公式見解ではなく、友村浩二郎さん個人の視点に基づくものです。
子どもの問いが、大人の事業を動かす
続いて登壇したのは、株式会社shikakeru 代表取締役の上井 雄太さんと鈴木 光希さん。スポーツを起点に企業・行政・地域をつなぐ共創プロジェクトを手がけるお二人が、この日はJリーグ各クラブでの実践事例を交えながら「サステナトレセン」の取り組みを紹介した。
参照:Jリーグ 5クラブが参画!2030年までに1万人の「サステナプレイヤー」を育成する「サストレジャパンプロジェクト」始動 | 株式会社shikakeruのプレスリリース↗

サステナトレセンは、サステナビリティをテーマに地域の子どもたちと企業・行政が一緒に考え、行動するプログラムだ。「みんなが住み続けたくなる街って、どんな街だろう?」というシンプルな問いを、子どもたちに投げかけることから始まる。
すると「発電するサッカーコート」「ゴミを入れるとチケットが出る自販機」など、大人では思いつかないようなアイデアが次々と出てくる。その声を地域の企業や行政が引き取り、実際の事業や政策へと発展させていく。

湘南ベルマーレでの活動では、フードロスを学んだ子どもたちの「サステナ給食を作りたい」という声が、実際に学校給食を変え、さらにスタジアムでの提供へと発展した。
地元レストランの料理長、循環型食器のベンチャー企業、再エネ電力会社など6社が集まり、ゼロカーボンのキッチンカーを運営するまでに広がった事例だ。子どもの問いが、大人の行動を動かした。
上井さんが強調したのは、このプログラムが「教育」と「事業創出」を同時に動かすという点だ。子どもたちの探究活動が入口となり、その声を受け取った企業や行政が新しいビジネスの芽を探す「サステナ・イノベーション・ハブ」へとつながっていく。参加企業の中にはCSR担当だけでなく、事業開発系の担当者も多い。子どもたちの視点が、新規事業のヒントになりうるという発想だ。

こうした活動を通じて鈴木さんが気づいたのは、スポーツクラブとの関係が広告やCSR担当者との接点にとどまっている企業が多いという現実だ。しかし新規事業部門との繋がりが生まれた途端、連携の可能性は大きく広がる。レノファ山口FCのパートナー企業においても、まだ開かれていない扉があるかもしれない。
レノファ山口FCとも既にトライアルが進んでおり、今年2月には周南市で第一回のセッションが実施された。「みんなが住み続けたくなる山口って、どんな街?」という問いのもと、子どもたちが地元の大人や企業と対話する様子が、会場でも動画として紹介された。次年度以降は「サステナトレセン山口」として本格展開を目指しているという。
子どもの純粋な問いが、大人の事業創造を動かす。ただ、上井さんは「子どもだけでなく、大人側の学びの場も同様に重要だ」と指摘する。サステナビリティに取り組みたい気持ちはあっても、学ぶ機会がなく、繋がりも見つからないまま止まっている大人は少なくない。
そこでshikakeruでは、パートナー企業向けに「サステナビリティ×フットボール×ビジネス」を学ぶ研修プログラムの立ち上げも予定しているという。サステナビリティ人材の育成から新規事業の創出、共創ネットワークの形成まで、子どもの探究活動と大人の学びを両輪で回していく。
そのプロセスでは、スポーツクラブがハブとして機能する。このセッション全体を通じて見えてきた「共創」の姿を、 もっとも鮮やかに体現しているように感じた。
参照:【サストレコーチ研修 第一期生募集開始】Jリーグ5クラブが参画!”サステナ×スポーツ”から生まれるイノベーションを社会実装へ | 株式会社shikakeruのプレスリリース↗
0から1を生み出す、アイデアワークショップ
登壇者による講演が終わると、参加者同士による対話ワークが始まった。問いはシンプルだ。「自社の解決したい課題は何か」。そして「レノファ山口FCを使った課題解決のアイデアを考えよ」。

筆者が加わったグループには、旅行会社、ゴミ拾いアプリの起業家、通信会社の担当者が集まった。はじめは、互いのビジネスの輪郭を確かめるような会話だったが、話が進むにつれ、具体的なアイデアが出始めた。
「試合に絡めた前日からのイベントを仕込めば、レノファ山口FCを知らない人も呼び込める」「アウェイ遠征と山口の観光を組み合わせたら、サポーターにとっても地域にとっても面白いことができそうだ」。
福岡から参加した筆者にとって、このワークは予想以上に刺激的だった。参加者の口からは、レノファ山口FCへの「愛着」や「応援」の気持ちが自然と滲み出てくる。山口の企業にとってレノファ山口FCは、単なるスポーツクラブではなく、地域の一部として深く根付いた存在なのだと実感した。
異なるセクターの人間が、同じテーブルで具体的な言葉を交わし、自社の課題とレノファ山口FCの可能性を重ね合わせていく。この場で生まれたアイデアはまだ荒削りだが、それぞれが持ち寄った課題が少しずつ輪郭を帯びていく様子は、確かに何かが動き始めた瞬間のように感じた。

レノファ山口FCが目指す、次の20年
締めの挨拶に立った内山専務は、この日のセッションを振り返りながら、クラブとしての思いをシンプルな言葉で語った。
山口県をもっと良くしていきたい。今いる子どもたちが「ずっと住み続けたい」あるいは、一度外に出ても「帰ってきたい」と思えるような県にしたい。その一部を、クラブがしっかりと担って貢献していければと思います。
クラブだけでできることは限られている。しかし、クラブにしかできないこともある。内山専務はそう続けたうえで、J1昇格・定着の重要性にも触れた。クラブの規模が大きくなるほど、社会関係資本の広がりと発信力が増す。強くなることと地域に貢献することが、矛盾なく一体の戦略として設計されている。
レノファ山口FCが描く次の20年は、応援してもらうクラブから、共に課題を解くパートナーへの転換だ。今日のセッションは、その第一歩だったように思う。今後、ここで生まれたアイデアの種がどう育っていくか、引き続き注目していきたい。
取材協力:レノファ山口FC
