あなたの身近にある里山、企業が管理する森、市街地の小さな緑地。そうした場所が、今、地球規模の目標を担う「認定地」になりつつある。
「自然共生サイト」という言葉を聞いたことがあるだろうか。環境省が2023年度から認定を開始したこの制度は、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を国が認定する仕組みだ。企業の社有林からゴルフ場、都市公園まで、多様な場所が対象となる。
そして今、この制度と「観光」が交差しはじめている。
自然共生サイトが生まれた背景 | 「30by30」という世界的な約束

自然共生サイトが発足した背景には、2021年のG7サミットにて約束された「30by30」という国際的な目標がある。これは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標だ。 [1]
日本は現在、国立公園などの保護地域だけでは、この目標を達成できない。そこで注目されたのが、民間や地域が守る「保護地域以外」の場所だ。
英語ではOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)と呼ばれ、認定区域は、保護地域との重複を除き、OECMとして国際データベースに登録される。 つまり自然共生サイトとは、「誰かが丁寧に守ってきた自然を、世界との約束につなげる」仕組みなのだ。
自然共生サイトにはどんな場所が認定されているのか

自然共生サイトの対象は幅広い。企業が管理する里山、NPOが再生に取り組む湿地、地域住民が手入れを続ける棚田。いずれもが候補になりうる。
申請主体は企業が約半数を占め、地方公共団体やNPOなどさまざまな主体が参画している。2026年3月時点での認定数は、合計569か所に達している。
認定にあたっては、生物多様性の価値に関する基準を満たす必要がある。注目すべきは、手つかずの原生自然だけが評価されるわけではない点だ。里地里山のような二次的な自然環境も対象となっており、人工林であっても豊かな生物多様性を証明できれば認定される。
また、2025年4月には制度が大きく刷新された。生物多様性増進活動促進法の施行と合わせて制度が一本化され、保全「場所」を認定する仕組みから、より幅広く「活動」を認定する仕組みへと再構築された。
これにより、既存の豊かな生態系を維持する取り組みだけでなく、荒廃した土地で生物多様性を回復・創出する活動も認定の対象となっている。
認定対象区域の例

生物多様性の保全が図られている区域とは、本来の目的にかかわらず、事業者・民間団体・個人・地方自治体などの取り組みによって生物多様性の保全が図られている場所を指す。具体的には以下のような区域が含まれる。
| カテゴリー | 具体的な区域の例 |
|---|---|
| 自然・保全・教育に関する区域 | ナショナルトラスト、バードサンクチュアリ、ビオトープ、自然観察の森、里地里山、森林施業地、水源の森、環境教育に活用されている森林、研究機関の森林、試験・訓練のための草原など |
| 都市・生活・企業活動に関する区域 | 企業の森、企業敷地内の緑地、屋敷林、緑道、都市内の公園・緑地、建物の屋上、遊水池、河川敷、水源涵養や炭素固定・吸収を目的とした森林、防災・減災目的の森林など |
| 文化・レジャーに関する区域 | 社寺林、文化的・歴史的価値を有する地域、風致保全の樹林、ゴルフ場、スキー場など |
旅行者にとっての自然共生サイトの意味

エコツーリズムの基本理念は、自然環境の保全・観光振興・地域振興・環境教育の4つを実現させることにある。自然共生サイトを旅の目的地とすることは、この理念と重なる。
訪れた旅行者が自然の価値を知り、帰ったあとも「守りたい」という感情を持ち続ける。そのプロセスがあってこそ、保全は持続する。自然共生サイトは、旅行者が「生物多様性の番人」の一員になれる入口でもある。
さらに、令和7年度から自然共生サイトの所有・管理者と支援者をマッチングする「支援証明書制度」が開始された。[2]

これにより企業はTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示やCSR活動の証明として、自然共生サイトへの支援が活用できる。旅が「消費」から「再生への投資」に変わる、その萌芽がここにある。
リジェネラティブな視点から見た自然共生サイトの価値
リジェネラティブツーリズムが目指すのは、旅によって訪れた場所がより良い状態になること。自然共生サイトは、その舞台として非常に相性が良い。
保全活動を実践している主体(企業・NPO・地域住民)と旅人が出会う場所。それが自然共生サイトだ。旅行者はそこで「誰かが守ってきた自然」と向き合い、その価値に気づく。そして気づきが行動を生む。
自然を見るだけの旅から、自然と関わる旅へ。そしてその関わりが、保全の力になる旅へ。
自然共生サイトは、そのための地図上の一点ではなく、リジェネラティブな旅の思想が地に足をつけるための「場所」そのものだ。
参考文献
