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【前編】「住民のための観光」が世界を惹きつける。美山町の歩みと持続可能な観光

2026 6/09
リジェネラティブツーリズム
DMO サステナブルツーリズム 京都 取材 持続可能な観光 美山町
2026-6-17
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近年「サステナブルツーリズム」や「リジェネラティブツーリズム」といった概念が注目を集める中で、その本質を静かに体現し続けてきた地域がある。京都府南丹市美山町だ。

かやぶき屋根が立ち並ぶ日本の原風景や、京都大学芦生研究林をはじめとする日本の原生的な自然が残るこの地域は、2021年にUN Tourismの「Best Tourism Villages」にも選ばれ、世界的な評価を受けている。

この評価の裏には、住民たちの30年以上にわたる努力の歩みがある。単なる利益の追求ではなく、自分たちの暮らしを守り、未来へつなぐための手段として観光まちづくりに取り組んできたのだ。

なぜ、人口3,000人ほどの京都の中山間地が今、国内外から注目を集め、多くの人を惹きつけることができるのか。

本記事では、一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会(以降、美山DMO)のCFO兼総務企画部長の青田真樹さんと事務局の長高御堂和華さんへのインタビューを通して、美山町が実践してきた観光のあり方を紐解きながら、これからの時代に求められる観光の形を探っていく。

青田真樹さん

美山DMOの青田真樹さん
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

兵庫県出身。2017年美山に移住。(一財)京都ユースホステル協会にて、世界的なユースホステルのネットワークの中で国内外のツーリストに対応。観光地域マーケティングについて高い知見と能力を持つ。設立準備期から協会業務に携わり、行政関係窓口や各種申請資料作成、DMP構築等幅広い業務に従事。 CFOと総務企画部長の他、南丹市地域創生会議委員、南丹市観光協会理事も務める。総合旅行業務取扱管理者資格保有。

高御堂和華さん

美山DMO事務局長の高御堂和華さん
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

美山町出身。大学卒業後、一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会に就職し、協会設立時から2024年8月まで在籍。2024年9月よりグラスゴー大学MSc Sustainable Tourism and Global Challenge留学、2025年卒。2025年9月よりサステナビリティコーディネーター、2026年4月より事務局長を務める。英語全国通訳案内士、総合旅行業務取扱管理者資格、GSTC Professional Certificate in Sustainable Tourism保有。

美山町の「暮らし」が人を惹きつける理由

京都府南丹市美山町にあるかやぶきの里
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

美山町の観光を語るうえで欠かせないのは、古くからある景観や日常の暮らしを強みと捉え、住民と行政が一体となって知恵を絞ってきた歴史である。

もちろん、かやぶきの里に代表される風景は、長い時間をかけて育まれてきた人々の営みそのものだ。しかし、そうした「農村の当たり前の日常」を活かし、外から人を呼び込むために戦略的な観光まちづくりを進めてきた点に美山町の真髄がある。

行政が交流拠点の整備などでバックアップを行い、住民がソフトパワーで応える。この二人三脚のたゆまぬ努力が積み重なったからこそ、国内外から多くの人を惹きつける現在の姿が形作られているのだ。

四季の移ろいと前向きに暮らす人々が織りなす空気

─── 早速ですが、美山町の一番の魅力や、観光の特徴について聞かせていただけますか。

青田さん:美山町の魅力は、四季折々の自然や季節感を肌で感じられること、そして何より「暮らしに対して前向きな人が多いこと」だと私は感じています。

これまで住み慣れたこの景観をどう守っていくか、という想いが生活にしっかりと根付いている。それが美山町の一番の特徴ではないでしょうか。

辺境だからこそ育まれた、競争ではなく「共存」の地域力

高御堂さん:美山町は地理的に京都市内からも離れた、いわば「辺境の地」にあります。だからこそ、昔から住民と行政が知恵を出し合い、一丸となって課題解決に取り組んできた土台があります。

たとえば明治時代から、地域でお金を出し合って奨学金のような仕組みを作り、医者や先生を育てるという取り組みがあったと聞いています。お金はなくても、知恵と協力で地域を存続させようとする基盤があるんです。

今の住民の方々もそれを引き継ぎ、青田さんがおっしゃったように前向きな気持ちで住み続けているのだと思います。

美山町における重要な特徴の一つは「共助」を前提とした地域文化だ。外部資本や大規模開発に頼るのではなく、地域内で知恵と資源を持ち寄りながら課題を解決してきた歴史がある。

この土台があるからこそ、観光においても“競争”ではなく“共存”が前提となる。結果として、それが持続可能性を支える強い基盤となっているのだ。

住民の強い意志と行動が紡いだ景観

美山町にある芦生の森
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

─── 美山町にはかやぶき屋根や芦生の森※1など、他では見られない原風景が数多く残っています。こうした景観が守られてきた背景には、どのような取り組みや住民の方々の思いがあるのでしょうか。

青田さん:基本的には、仕組みというより「自分たちにとって心地よい空間を守る」という文化の積み重ねだと思います。ここで暮らしていくことを大切にしてきた結果、今の景観がある。

芦生の森に関しても、西日本最大のブナ・ミズナラの原生的な森ですが、実は人の手がかなり入っています。そうしたことを考えると、美山町は人と自然の距離が非常に近い場所ともいえます。

里と川、自然環境と人がうまく融合して暮らしてきた。そこに鯖街道※2などの人の往来があり、文化と自然がつながった結果として自然が残っているのだと感じます。

※1 芦生の森:京都府南丹市に広がる広さ約4,200haの原生的な森林。本州に分布する全ての大型哺乳類や、木本類243種・草本類532種・シダ類85種など数多くの動植物が生息する。[1]

※2 鯖街道:福井県小浜市から京都につながる街道。若狭(現在の福井県)から海産物をはじめとしたさまざまな物資を京都や奈良に運ぶために利用されていた。[2]

ありのままの景観が、国内外に認められる「地域の誇り」へと変わるまで

高御堂さん:もう一つ、かやぶき屋根が残った背景としてよく言われるのは、実は「屋根をトタン屋根に葺き替える経済的余裕がなかった」という側面です。

お金がなくてトタン屋根にするなどの改修ができず、結果として残ってしまった。当時はそれを少し恥ずかしく思っていた住民もいたそうです。

しかし、今ではそれが観光資源となり、国内外からの評価※を受けることで「美山出身であること」に誇りを持てるようになったとおっしゃる方もいます。

※美山町は2021年12月2日、スペインのマドリードで開催された第24回総会で、UN Tourism(国連世界観光機関)から「Best Tourism Villages(ベスト・ツーリズム・ビレッジ)」の認証を受けた。[3]

経済的な制約によって“残ってしまった”かやぶき屋根は、時代を経て評価され、今では地域の象徴となっている。つまり、価値はつくるものではなく、文脈によって“変わる”ものでもある。

そして外部からの評価が加わることで、地域の内側の認識も変わっていく。かつては誇れなかった景観が、今では誇りへと転換されている。

このプロセスこそ、リジェネラティブな観光の重要な要素といえる。

美山町の多様な魅力と、象徴としての「かやぶきの里」

京都府南丹市美山町にあるかやぶきの里
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

美山町では、豊かな自然を活かしたエコツーリズムや農泊など、町全体で多様な観光まちづくりが進められている。その中で、美山の魅力を象徴する地域の一つとして広く知られているのが「かやぶきの里」だ。

─── かやぶきの里で特徴的な、かやぶき屋根の景観が守られている要因として「北村かやぶきの里憲章」※1が大きく影響していると思います。この憲章が生まれた背景やきっかけは何だったのでしょうか。

青田さん:大きなきっかけの一つとして「重要伝統的建造物群保存地区(以降、重伝建)」※2への選定があります。景観や古さを住民としてどう捉え、どう守っていくか。住民の皆さんが議論を重ねた結果が、憲章という形になったと伺っています。

※1 「北村かやぶきの里憲章」は、かやぶきの里で定められた住民主体の行動指針。「(土地や家屋を)売らない」「(集落全体を)汚さない」「(集落の景観や自然を)壊さない」といった原則を掲げ、住民自らが景観と暮らしを守ることを目的としている。[4]

※2 重要伝統的建造物群保存地区(重伝建):文化財保護法に基づき、歴史的価値の高い建造物群とその周辺環境を一体的に保存するために国が選定する地区。美山町北地区にあるかやぶきの里は1993年12月に重伝建に選定された。[5][6]

─── 住民の方々が自発的に、自分たちの暮らしを守るルールを設けられたのですね。

青田さん:そうですね。家や土地を他人に貸したり売ったりせず、自分たちの暮らしを第一に置きながら、おもてなしをしていく。そうした住民の方々の主体的な取り組みが、単なる観光地ではない、生きた営みが続く持続可能な地域としての姿を支えているのだと思います。

多くの観光地では、経済合理性に従って「活用」が優先されがちだ。しかし美山町には、まず守るべきは暮らしであり、観光はその延長に位置づけるという共通のスタンスがある。かやぶきの里は、そうした美山町の精神を体現する一つの事例と言えるだろう。

観光とは誰のためのものか

美山DMOのメンバー7名
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

観光業は本質的に、地域の外に向けた産業である。美山町も例外ではなく、外から来訪者を呼び込むために戦略的な努力を重ねてきた。

ただ、美山町の人々が大切にしているのは「外からたくさん人を呼ぶこと」自体が最終目標ではないという点だ。では、彼らにとって観光とは一体「誰のため」のものなのだろうか。

自分のために楽しむ

─── お二人にとって、観光とは誰のため、あるいは何のためのものでしょうか。

高御堂さん:私は美山で生まれ育ったので、純粋に「自分のため」だと思っています。誰かのためにやってあげているという感覚はありません。

自分が楽しく暮らし、同級生がいつか帰ってきた時に、楽しい美山を見せ続けたい。そのための観光だと思っています。

観光はしばしば「地域外の人のため」に設計されがちだ。しかし美山町では、外の人を呼び込むことと、自分たちの暮らしを豊かにすることの「両方」に起点がある。

自分たちが楽しく暮らせること。その延長線上に、訪れる人の価値が生まれる。こうした内発的な動機こそが、無理のない持続可能性を支えているのだろう。

目的は豊かな暮らし

青田さん:組織(美山DMO)としては「まちづくりのための手段」が観光であり、その目的は「暮らしている人たちのため」です。

ただ、個人としては、自分たちの居心地の良さのためにやっているという側面もあります。

やはり組織人としての観光なのか、個人としての観光なのかといったように主語が変わると意味合いや目的は変化しますね。

ここには、観光を捉える二つの視点が共存している。

一つは、地域経営の手段としての観光。もう一つは、個人の暮らしの質を高めるための営みとしての観光である。

重要なのは、そのどちらにおいても目的が「外」ではなく「内」に向いている点だ。観光はあくまで手段であり、中心にあるのは暮らしである。

この構造こそが、美山町の観光を単なる消費型ではなく、地域そのものを豊かにし続ける仕組みへと昇華させている。

消費から循環へ | 美山町が示す観光の原点

美山町で行われているしめ縄づくり体験の様子
画像提供:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会

美山町の取り組みを振り返ると、そこにあるのは単なる「持続可能性」を超えた視点である。多くの地域で語られる持続可能な観光は、「いかに今あるものを壊さず維持するか」という守りの発想が中心だ。

一方で美山町の実践は、その一歩先にある。「暮らしを守る」という行為を起点にしながらも、それを外部に開き、価値として伝え、次の担い手や関係人口を生み出していく構造となっている。

ここで重要なのは、観光が目的化していない点だ。あくまで軸にあるのは地域に暮らす人々の生活であり、その延長線上に観光が存在している。だからこそ、無理に拡大するのではなく、自分たちのペースで関係性を育てていくことができる。

さらに、外部から訪れる人々もまた、単なる消費者ではない。暮らしに触れ、背景を知り、地域との関係性を持つことで、価値の担い手へと変化していく。

こうした関係の循環こそが、結果として地域の文化や景観を“再生”し続ける力となる。

誇りを更新し続けるリジェネラティブな観光の視点

美山町の観光は、資源を消費する仕組みではなく、価値・関係性・誇りを更新し続けるプロセスそのものといえるだろう。

そしてこの視点は、次に問われるべきテーマへとつながっていく。

——その思想を、いかにして具体的な仕組みや経済、地域運営として実装しているのか。

続く記事では、美山町が実際に取り組んできた「持続可能な観光の実践」と、その裏側にある課題について掘り下げていく。

参考文献

[1]芦生の森とは – 芦生もりびと協会

[2]鯖街道とは – 鯖街道

[3]美山町がUNWTO (国連世界観光機関) の「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」の認証を受けました! | 京都 美山ナビ | 京都 美山ナビ | 日本の原風景が残る京都・美山町の観光情報サイト

[4]北村 集落の教科書 第1版20160331

[5]伝統的建造物群保存地区 | 文化庁

[6]かやぶきの里 | 京都 美山ナビ | 京都 美山ナビ | 日本の原風景が残る京都・美山町の観光情報サイト

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