持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業

観光地の課題解決を目指す「持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業」を詳しく解説。補助金活用の方法や申請手続きを理解できます。
観光客の急増による自然破壊や地域住民の生活への影響に悩む自治体・や観光関係者も多いのではないでしょうか。そんな課題に応えるのが「持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業」です。[1] 地域資源を守りながら観光の質を高め、将来世代にも魅力ある地域を残すことを目的とした本事業は、補助金を活用しながら多様な整備を進められる貴重な制度です。本記事では、事業の概要や補助対象、申請手続きまでをわかりやすく解説します。地域と観光客の双方がメリットを享受できる、未来につながる観光のあり方を実現するための重要な取り組みを始めてみませんか。
なぜ今、持続可能な観光のための環境整備が必要なのか

かつて、観光は地域経済の活性化に大きく貢献してきました。しかし、特定の地域に観光客が集中する「オーバーツーリズム」は、自然環境の悪化、交通渋滞、騒音問題、地域住民の生活環境への影響など、さまざまな問題を引き起こしています。また、気候変動や生物多様性の喪失といった地球規模の課題も、観光のあり方に変革を求めています。
持続可能な観光は、これらの課題に対応し、長期的に地域の魅力を守りながら、観光客にも質の高い体験を提供することを目指します。そのためには、自然環境や文化といった地域資源を持続的に活用し、オーバーツーリズムを未然に防ぐための環境整備が不可欠となるのです。
持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業

日本においても、持続可能な観光の重要性が認識され、様々な取り組みが進められています。観光庁は、その中心的な役割を担い、地方公共団体や観光事業者、地域住民と連携しながら、持続可能な観光の実現に向けた様々な支援策を展開しています。
「持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業」は、オーバーツーリズムの未然防止や自然環境・文化等の地域資源の保全・活用を通じて、地域と観光客の双方がメリットを享受できる、持続可能な観光を促進するための受入環境の整備を支援することを目的としています。さらに、持続可能な観光推進に係る国際認証等を受けた地域における面的な設備導入や施設改修等も支援するものです。
この事業は、地域の特性や課題に応じた柔軟な取り組みを支援するため、「一般型」と「国際認証・表彰取得型」の2つの類型で公募が行われています。
補助対象となる経費
補助金の交付対象となる経費には、以下の条件が全て当てはまる必要があります。
- 使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費であること
- 補助金交付決定後に、契約・発注により発生した経費であること
- 証拠書類・見積書等によって契約・支払金額が確認できる経費であること
また、原則として国による固有の補助金等との重複はできません。ただし、都道府県等自治体からの補助金を受けることは可能ですが、その財源が国費である場合は除きます。国の財源により整備・管理されている施設も原則として補助対象となりません。整備計画区域が国立公園・国定公園に含まれる場合は、事前に環境省や都道府県の自然公園部局への相談が必要です。
事業の類型:一般型
「一般型」は、地方公共団体、観光地域づくり法人(DMO)、その他の持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業を実施する者(民間事業者等)が対象です。この類型では、オーバーツーリズム対策や地域資源の保全・活用といった観点から、11の補助メニューが用意されています。
整備計画策定者
一般型の整備計画策定者は、以下のいずれかの主体となります。
- 地方公共団体
- 観光地域づくり法人(DMO)
- その他の持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業を実施する者(民間事業者等)
補助対象事業者
補助対象事業者は、策定された整備計画に記載された事業を実施する者となります。整備計画の策定者と補助対象事業者は、同一であっても差し支えありません。また、一つの計画申請に複数の事業者を含めることも可能です。
補助対象事業(補助メニュー)
一般型で補助対象となる事業(補助メニュー)は、以下の11項目です。
No | 整備内容 | 目的・概要 |
---|---|---|
1 | トイレの有料化に係る整備 | 清潔なトイレ環境を維持するための有料化に必要な設備整備 |
2 | 入域料・協力金徴収のためのオンライン等による徴収システムとその整備 | 入域料や協力金をオンラインで徴収するためのシステム・設備整備 |
3 | 自然保護のための保護柵、遊歩道等の整備 | 自然環境を保護しつつ観光客の安全を確保 |
4 | 景観に配慮した工作物の整備 | 景観と調和した案内板や休憩施設の設置 |
5 | 光害防止のための照明の整備 | 星空観賞等のため光害を防止し、必要最小限の照明を設置 |
6 | バイオトイレ等の整備 | 環境負荷の少ないバイオトイレの設置 |
7 | ペットボトル削減のための給水機等の整備 | マイボトル利用促進とプラスチックごみ削減 |
8 | パークアンドライドのための駐車場の整備 | 郊外駐車場を整備し公共交通への乗り換えを促進 |
9 | マナー啓発のためのコンテンツ制作、設備整備 | 観光客に地域ルールやマナーを周知 |
10 | 混雑平準化・解消のための予約システムの整備 | 施設利用の分散・混雑解消のための予約システム導入 |
11 | 混雑平準化・解消のための混雑状況の可視化に資するシステムの整備 | リアルタイム混雑状況の把握・情報提供 |
補助率と補助対象外経費
一般型の補助率は、補助対象経費の2分の1です。ただし、以下の経費は補助対象外となります。
- 土地の取得、賃借に要する費用
- 故障、老朽化等に対応するための機能の明確な向上を伴わない修理修繕、代替更新にのみ要する費用
- 光熱費、通信費、保険料、人件費等の事業実施後の設備維持、運営に関する費用
- レンタル・リース契約に関する費用
- 工事等に要する設計費のうち、基本設計に係る費用
- イベント等による一時的な設置のための費用(常設または一定期間定期的に設置される場合は補助対象)
- 消耗品費
事業の類型:国際認証・表彰取得型
「国際認証・表彰取得型」は、整備計画提出時に、持続可能な観光に関連した国際認証・表彰制度であるGreen Destinations(GD)、Best Tourism Villages(BTV)等の認証・表彰を受けている地方公共団体、観光地域づくり法人(DMO)が対象です。
整備計画策定者
国際認証・表彰取得型の整備計画策定者は、以下の条件を満たす地方公共団体または観光地域づくり法人(DMO)となります。
- 整備計画提出時に、Green Destinations(GD)、Best Tourism Villages(BTV)等の持続可能な観光に関連した国際認証・表彰を受けていること
補助対象事業者
補助対象事業者は、策定された整備計画に記載された事業を実施する者となります。一般型と同様に、整備計画の策定者と補助対象事業者は、同一であっても差し支えありません。また、一つの計画申請に複数の事業者を含めることも可能です。
補助対象事業
国際認証・表彰取得型では、持続可能な観光地域形成に向けた受入環境整備・施設改修が補助対象です。一般型のような特定の補助メニューは設けられていませんが、面的な設備導入や施設改修等により、地域全体で持続可能な観光の促進のための効果が発揮できる整備内容であるかが総合的に審査されます。明らかに持続可能な観光の促進につながるとは言えない整備は対象外になるため、注意が必要です。なお、一般型の補助メニューとの複数実施も可能です。
補助率と補助対象外経費
国際認証・表彰取得型の補助率も、補助対象経費の2分の1です。ただし、補助対象外経費は一般型と一部異なり、以下のものが挙げられます。
- 土地の取得、賃借に要する費用
- 光熱費、通信費、保険料、人件費等の事業実施後の設備維持、運営に関する費用
- レンタル・リース契約に関する費用
- 工事等に要する設計費のうち、基本設計に係る費用
- イベント等による一時的な設置のための費用(常設または一定期間定期的に設置される場合は補助対象)
- 消耗品費
- プロモーション費用
計画認定における加点評価

整備計画の認定にあたっては、以下のいずれかの要件を満たしている場合に加点評価が行われます。
- 整備計画策定者が「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」ロゴマークを取得していること
- 整備計画策定者が「先駆的DMO」として選定されていること
これらの加点措置は、より積極的に持続可能な観光に取り組む地域を支援する狙いがあります。
申請手続きとスケジュール

令和7年度の公募期間は現時点で未定ですが、令和6年度の公募は以下のスケジュールで実施されました。令和6年4月26日(金)から6月21日(金)までの期間で募集が行われ、応募締切は17時00分(必着)でした。なお、予算が上限に達し次第、募集は終了となるため注意が必要です。
事業の実施期間は交付決定後から令和7年3月までとされており、整備を実施したうえで、会計年度末(令和7年3月)までに自己評価を行い、完了実績報告書は事業完了後1ヶ月以内、または令和7年4月10日のいずれか早い日までに提出する必要がありました。
申請手続きのおおまかな流れは、以下の通りです。
画像出典:観光庁
詳細な応募要領や提出資料については、観光庁のウェブサイトで確認することができます。[2]
まとめ|持続可能な観光の実現に向けて
持続可能な観光のための環境整備は、単に観光客を受け入れるための設備を整えるだけでなく、地域の自然、文化、そして生活を守りながら、未来の世代にもその魅力を引き継いでいくための重要な 取り組みです。
「持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業」は、その実現に向けた具体的な一歩を支援するものであり、地域が主体的に考え、創意工夫を凝らした取り組みを後押しします。この機会を活かし、日本各地で持続可能な観光の取り組みが広がり、地域と観光客の双方にとってより豊かな観光の未来が築かれることが期待されます。