「観光で疲弊しない地域」へ──観光庁が推進する持続可能な地域づくり

観光庁は2025年度、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」の一環として、「地域一体の観光地域づくりに関わる事業」を推進しています。この事業は、観光による地域活性化と、自然・文化資源の持続的保全の両立を図ることを目的としており、地域が主体となって持続可能な観光地マネジメントを実現するための包括的な支援を行います。
地方公共団体や観光地域づくり法人(DMO)などが中心となり、地域住民や関係事業者と連携しながら、協議の場を設け、地域の課題や将来像を見据えた対策計画を策定します。特に、住民の声を反映した地域計画が重要視されており、観光による一部の利便性だけでなく、生活環境や資源保全とのバランスに配慮したアプローチが求められています。
本事業では「地域一体型」と「実証・個別型」の2つの申請類型が用意されており、それぞれで対象者や補助要件が異なります。地域一体型では最大8,000万円の補助が受けられ、特にJSTS-D(日本版持続可能な観光ガイドライン)のロゴ取得が条件となる場合には補助率が2/3に引き上げられます。実証・個別型では民間事業者の参加も可能で、特定の課題に対する先進的な取り組みを支援します。
また、地域一体型事業においては、JSTS-Dロゴマークの取得有無に関わらず、地域全体で行う計画策定支援にかかる費用(最大400万円)については1/1の補助が認められています。この点は、制度の柔軟性を示すものであり、多様な地域が参加しやすい設計となっています。
単なる資金支援にとどまらず、専門家の派遣やKPI設定支援、研修の実施なども行い、地域の自律的な観光マネジメント体制の構築を後押しします。計画の精査や磨き上げ支援も用意されており、事業終了後も継続的な発展が期待されています。
一次公募の選定傾向
令和7年2月に実施された一次公募では、有識者による審査を経て「地域一体型」が30地域、「実証・個別型」が88件選定されました。
地域一体型では、観光客の集中に悩む地域が多く採択され、オーバーツーリズム対策や地域住民との共生を重視した計画が高く評価されている傾向が見られます。札幌、鎌倉、京都など、既に多くの観光客を抱える地域が混雑緩和や環境負荷軽減の取り組みを明確に示しており、持続可能な観光の観点から注目されました。また、自然や歴史文化を保全しながら観光活用を進める計画も選ばれています。
一方、実証・個別型では、交通混雑の緩和や観光客の行動分散を促すためのデジタル技術の活用が多く見られました。例えば、マップアプリの開発や公共交通の効率化、自然観光地でのマナー啓発などが挙げられます。さらに、地域住民の生活環境を守りながら快適な観光地を目指す取り組みも多数選定されており、特に都市部周辺での受入環境の整備が評価されました。
これらの結果から、観光庁は、明確な課題意識と地域内での合意形成、そして持続可能性への配慮がなされた計画を重視していることが分かります。
二次公募は4月以降に予定されています。各地域は申請主体を中心としつつも幅広い関係者の協力を得て、持続可能な観光の在り方を地域ごとに模索することになりそうです。
環境負荷の低減や地域住民との共生をテーマに、持続可能な観光は今後ますます重要性を増していきます。本事業は、そうした課題に対して地域が自ら取り組む機会を提供し、「観光によって地域が疲弊するのではなく、観光を通じて地域が元気になる」未来を描く、大きな一歩といえるでしょう。
参考資料