米国ハワイ州が宿泊税を引き上げへ。気候変動対策の財源確保が目的。

2025年5月2日、米国ハワイ州議会はホテルやバケーションレンタルなどの宿泊税を一律0.75%引き上げる法案SB1396を可決しました。法的手続きとしては2025年7月9日までに州知事の署名が必要になりますが、ジョシュ・グリーン知事は既にこの法案に賛成を表明しており、2026年1月1日からの施行は確実と見られています。
この法案により、ハワイ州の宿泊税は現在の10.25%から11%へ引き上げられます。また、クルーズ船の乗客にも、ハワイの港に停泊中の滞在日数に応じて11%の課税が行われます。さらに郡ごとに定められた宿泊税(3%)と一般消費税(4.712%)を上乗せすると、宿泊に対する合計税率は最大で約19%になります。
この増税による税収は年間約1億ドル(*約145億円)に及ぶと見込まれています。それらの資金は環境保護のために行うさまざまなプロジェクトの財源に充てられるとのこと。たとえば、砂浜再生、ハリケーンに強い住宅の建設促進、山火事のリスクを高める外来種の草木の除去、サンゴ礁の保護などです。
*1 ドル145円で計算。以下全て同じ。
ハワイ州は2023年のラハイナ火災で大きな被害を受けたことは記憶に新しいでしょう。気候変動への備えの重要性はますます高まっています。グリーン知事はこの法案を「世代を超えた土地(ʻāina)へのコミットメント」と位置づけ、ハワイが全米で初めて、観光税を気候変動対策に直接充てる州となることを強調しました。
観光産業からは、税率の引き上げが観光客数の減少につながるのではないかとの懸念も示されています。しかし、グリーン知事は、「多くの人々がハワイの自然環境を楽しみに訪れており、その保護に資金が使われることを歓迎するだろう」と述べ、持続可能な観光への理解を求めています。
観光客の立場からすると、0.75%の値上げはさほど大きな負担増ではないように思えます。しかし、ただでさえハワイ州のホテル代は高騰を続けています。同州観光局のデータによれば、2024年には州全体で1泊の税抜き平均価格は364ドル(約52,780円)にも達しています。確かに、ホテルの価格帯は幅広く、超高級リゾートが平均値を引き上げている側面もあります。それでも仮に1泊2万円前後のホテルを探したとしても、そこに4千円くらいの税金が加算されると知れば、心安からぬ思いをする人は少なくないでしょう。
ハワイ州へは年間約1,000万人の観光客が訪れると言われる一方で、人口は約140万人に過ぎません(米国国勢調査のデータ)。州経済に対する観光の依存度がきわめて高いと同時に、自然環境への影響も深刻です。観光から得られる収益を環境保護に再投資する仕組みを構築することは、受益者負担の観点からも理にはかなっているのではないでしょうか。
もっとシンプルに、訪問者1人あたり50ドルの入島料を徴収する案が検討されたこともありました。しかし、この案は旅行の自由を定めた米国憲法に抵触するという理由で実現しませんでした。今回の宿泊税引き上げは、より現実的な代替案とも言えるでしょう。
ハワイ州の取り組みは、観光と環境保護の両立を目指す新たな一歩として注目されます。