太平洋諸島、観光業の新たな地平を拓く!持続可能性への挑戦

息をのむような自然の美しさと豊かな文化をもつ太平洋の島々は、長年にわたり世界中の旅行者を魅了してきました。しかし近年、気候変動の影響が深刻化する中で、観光業は経済を支える大切な柱であると同時に、環境や文化への負担も大きな課題となっています。こうした中、太平洋の国々では、自然や文化を守りながら観光を続けていくために、より持続可能な観光のあり方への転換が進められています。
環境負荷を最小限に抑える革新的な実践
フィジーのバヌアレブ島にあるヌクンバティは、その先駆的な取り組みで注目を集めています。このリゾートは、広大なバリアリーフの隣に位置しながら、太陽光発電を導入し、冷房やプールの設置を控えることで、炭素排出量を抑制しています。食事は敷地内の菜園や近海で獲れる食材を優先し、従業員はすべて地元から雇用されています。ヌクンバティのディレクター、ジェニー・リーワイ・バーク氏が語るように、彼らの目標は「地球環境を改善する」ことにあります。これは、フィジーの観光事業者が推進する、観光が地域の環境と文化遺産を豊かにすべきという理念を体現するものです。
【主な取り組み:自然資源への配慮】
- 再生可能エネルギーの活用: 太陽光発電の導入など、化石燃料への依存を減らす取り組み。
- 節水: 水資源の効率的な利用と節水対策。
- 廃棄物削減: 使い捨てプラスチックの段階的廃止やリサイクル推進など、廃棄物の発生抑制。
観光モデルの多様化と課題

パンデミックからの回復期にある太平洋諸島の観光産業は、今、大きな変革期にあります。バヌアツやクック諸島では、地域社会と環境に良い影響をもたらす「再生型観光」を推進。フランス領ポリネシアでは、長期滞在や文化体験を重視する「スローツーリズム」に力を入れています。
タヒチのボラボラ島のように、観光客数に上限を設けることで、独自の文化と自然を守ろうとする動きも見られます。パラオでは、観光客に環境保護への誓約書への署名を求めるユニークな「パラオ・プレッジ」を導入しています。
【主な取り組み:観光量の制御】
- 入島制限: 特定の島や地域への観光客数を制限し、環境への負荷を抑制。
- スローツーリズムの推進: 長期滞在や地域に根ざした体験を促し、移動に伴う環境負荷を軽減。
しかし、これらの革新的な試みには課題も伴います。専門家たちは、環境への影響を正確に測定するための監視体制の不足、ガバナンスの脆弱さ、そして限られた資源が、進歩の妨げになっていると指摘します。
オーストラリアの西シドニー大学で持続可能な観光を研究するジョセフ・チアー教授は、現在の持続可能性に関するガイドラインや枠組みの多くが法的な強制力を持たず、自主的な遵守に委ねられていることが最大の問題点だと指摘しています。
進む認証と求められる法的裏付け
太平洋観光機構(SPTO)は、持続可能な観光の枠組みを策定しており、各国政府も独自に戦略や環境関連法を整備しています。国際的な認証機関である世界持続可能観光協議会(GSTC)も、観光地や観光事業者への認証を通じて持続可能性の向上を支援しており、フィジーではこのGSTC基準が国の観光ガイドラインとして採用され始めています。バヌアツもまた、GSTC認証の取得を目指すなど、積極的な取り組みを進めています。
しかし米国・セントラルフロリダ大学の観光研究者スティーブン・プラット氏は、政府の人的・財政的リソースの不足や、遠隔地における監視の難しさから、太平洋地域全体で「民間セクターによる自主規制は限定的である」と指摘しています。
一方で、各地域ではそれぞれの特色を生かした再生型観光のモデルも発展しています。たとえば、フランス領ポリネシアでは、ハイキングやサイクリングを楽しみながら地元住民と交流し、地域文化を学ぶ機会を提供しています。
また、バヌアツの元観光局長ジェリー・スプーナー氏は、農業と観光を融合させた「アグリツーリズム」が、地域の食文化に対する誇りを育み、輸入食品への依存を減らす効果があると述べています。さらに、クック諸島では、環境保護に配慮した事業者を認定する「マナティアキ」制度を導入し、観光客に地元産品の消費を促す取り組みが進められています。
【主な取り組み:海洋保全】
- サンゴの移植・養殖: 破壊されたサンゴ礁の再生を支援
- 海洋生物調査: 地域の海洋生態系の健全性を監視し、保護活動を実施
【主な取り組み:文化・地域社会支援】
- 地元文化体験の提供: 伝統舞踊、料理教室、工芸品作りなどを通じて、観光客が地域文化に触れる機会を創出
- 記念品生産支援: 地元の職人による伝統工芸品の生産を支援し、地域経済を活性化
- 教育プログラム: 観光客や地域住民に対し、環境保護や文化継承に関する意識向上を促すプログラムを提供
豪州・グリフィス大学のサザン・ベッケン教授は、小規模な地元経営のビジネスは大量観光モデルとは異なるものの、それが必ずしも地域住民にとって不利益ではないと指摘します。また、マナティアキやパラオ・プレッジのような自主的な取り組みは重要ですが、使い捨てプラスチックの段階的廃止のように、法律や基準による裏付けが不可欠であると訴えています。
観光客の意識が未来を左右する
太平洋諸国が排出する温室効果ガス(GHG)は、世界全体のGHG排出量と比べ、非常に限定的であるものの、遠隔地であるために不可欠な航空・海上輸送からのGHG排出量削減は大きな課題です。SPTOのクリストファー・コッカーCEOは、観光産業が真に「グリーン」になるためには、運輸部門の変革が不可欠だと述べています。
サモアの気候変動活動家、ブリアナ・フルーアン氏は、観光客に対し、「私たちは島の守護者であり、皆さんをゲストとして迎える際には、皆さんもまた守護者であり、良きゲストであるべきです」と、観光客の責任ある行動を求めます。
フィジーのドゥアバタ・コレクティブに属するリチャード・マーカム氏は、環境に配慮した旅を望むなら、旅行者自身が情報収集を怠るべきではないと語ります。また、「グリーンウォッシング」(見せかけだけの環境配慮)に騙されず、地域社会や環境に真剣に取り組む事業者を選ぶことが、観光業界全体の変革を促す原動力となると強調しています。
翻訳元記事:
The Guardian, Paradise cost: the Pacific islands changing the future of tourism
https://www.theguardian.com/world/2023/dec/12/pacific-islands-tourism-the-price-of-paradise