泊まる選択が、旅と街を豊かにする。福岡で見つける、新しい旅のカタチ「サステナブルホテル」のすすめ

旅の目的が、観光地を巡るだけではなくなった今。自分の選択が、訪れる土地や人々にどんな影響を与えるのかを考える「サステナブルな旅」が、新しいスタンダードになりつつあります。
アジアの玄関口であり、豊かな食と文化が息づく街である福岡が、サステナブルな旅の目的地として世界から注目されています。
この記事では、なぜ福岡でサステナブルなホテルが盛り上がっているのかを紐解き、福岡での旅を忘れられない体験に変える、サステナブルホテルについて紹介します。
なぜ今、福岡のサステナブルホテルが面白いのか?
福岡のホテルが実践するサステナビリティは、一過性の流行ではありません。その背景には、福岡ならではの以下のような特徴があります。
- 都市と自然が近い「コンパクトシティ」
- 「食の都」が育む、地産地消の精神
- 全国に先駆けた福岡市のリーダーシップ
これらの背景が結びつき、福岡の観光産業にユニークで意義深い、サステナブルな動きを生み出しているのです。
都市と自然が近い「コンパクトシティ」
福岡の大きな魅力は、都市機能と豊かな自然が驚くほど近く、歩いて楽しい「ウォーカブル・コンパクトシティ」であることです。
都心からわずかな移動で、美しい海や緑深い山々に触れられるこの地理的特性は、まさにサステナブルな観光の理想的な土壌と言えるでしょう。
市内の宿泊施設もこの恵まれた環境を活かし、地域の自然と連携したアクティビティを積極的に提案。都市の利便性と自然の癒やしを両立させる、新しい旅のスタイルが次々と生まれているのです。
「食の都」が育む、地産地消の精神
福岡が「食の都」と呼ばれる理由は、単に美味しいものが多いからだけではありません。豊かな自然が育む質の高い食材と、それを大切にする「地産地消」の文化が根付いているからです。
市内の飲食店や宿泊施設にとって、地域の生産者から旬の食材を仕入れ、利用者へ提供することは、ごく自然な選択と言えるでしょう。
宿泊客は最高の味を堪能でき、ホテルや旅館は輸送エネルギーの削減や地域経済への貢献といったサステナビリティを実践できる、皆にとって嬉しいサイクルが生まれています。
全国に先駆けた福岡市のリーダーシップ


福岡でサステナブルホテルの動きが活発な背景には、行政の先進的な取り組みがあります。
福岡市が掲げる「福岡型サステナブルツーリズム」のもと、宿泊施設と行政が一体となり、持続可能な観光モデルを推進しています。とくにユニークなのが「福岡市Well-being&SDGs登録制度」です。[1]
つまり、宿泊施設にとって、従業員の働きがいや顧客の満足度といった「人々の幸福」を追求することは、社会貢献になるだけではありません。
金融支援を受けやすくなったり、優秀な人材が集まったりと、経営そのものに大きなメリットをもたらす賢明な戦略になり得るのです。
福岡のおすすめサステナブルホテル
都市と自然が共存し、豊かな食と先進的な取り組みが交差する。そんな福岡ならではの土壌から生まれた、個性あふれるサステナブルホテルを厳選してご紹介します。
HOTEL GREAT MORNING

HOTEL GREAT MORNINGは「泊まれば泊まるほど、人も星も健康になる」というユニークなコンセプトを掲げています。
訪れる「人」の健康を考え抜いた、心と身体が喜ぶ空間
館内の壁や天井には漆喰や珪藻土、木部には竹材といった自然素材をふんだんに使用し、化学製品に囲まれた日常から心身を解放します。
また、エアコンを使わない輻射式冷暖房「F-CON」を導入しており、風も運転音も一切ない驚きの静けさが、脳を休ませる上質な睡眠へと誘います。

未来につながる「地球」の健康を育む、サステナブルな仕組み
HOTEL GREAT MORNINGは環境配慮にも徹底しています。使用電力は100%自然エネルギー由来のため、宿泊することで、年間約2900本分の杉の木に相当するCO2削減に貢献。[2]
電気代の一部は発電所を増やす基金となり、滞在が未来への投資につながります。
また、館内では、食品ロス削減を目指す「#捨てないステイ」を実践。生ゴミから作った堆肥で屋上のハーブを育て、ウェルカムドリンクとして提供するなど、宿泊を通して「食の循環」を実感できます。

さらに、ペットボトルを廃止し、飲料水は瓶で提供するといった取り組みも行っています。
ほかにも、リサイクル可能な寝具を導入したり、伝統織物「久留米絣」をスタッフの制服や客室ベッドカバーに活用するなど、あらゆる備品が「循環」を前提に選ばれています。

ホテルオークラ福岡

博多のランドマークとして、最高のおもてなしを提供し続けるホテルオークラ福岡。その伝統と格式に安住することなく、サステナビリティの領域でも真摯な取り組みを進めています。
国際認証「サクラクオリティグリーン」の取得
Sakura Quality An ESG Practice(通称:サクラクオリティグリーン)は、「安心・安全・誠実」な取り組みを実施している宿泊施設を証明するものです。[3]
2025年5月には更新調査の結果、上位ランクである「4御衣黄(ぎょいこう)ザクラ」の認証を受けており、その取り組みが世界基準で認められた客観的な証となっています。
プラスチック削減に向けた、全館での取り組み

環境負荷を低減するため、ホテル全体でプラスチック製品の利用削減を着実に進めています。
客室では、ヘアブラシや歯ブラシといったアメニティを、再生可能資源や再生プラスチックを使用した「環境配慮型製品」へと段階的に切り替え。
また、レストランやテイクアウトで使うストローやカトラリーは、紙や木を原料とした製品への切り替えを完了しています。
地域との「パートナーシップ」で価値を生む
ホテルオークラ福岡は、コロナ禍で需要が落ち込んだ際に、行き場を失った「地元の和牛」や「水産物」を使ったフェアを次々と開催し、生産者を支えてきました。
また、ホテルオークラ博多の目玉商品となっていた「クラフトビール」が、コロナ禍において消費急減の危機に直面した際には、酒造「喜多屋」と連携してオリジナルジンを開発。

ほかにも、近隣の博多座と協力し、オリジナルラベルでビールを販売するなど 、地域との「パートナーシップ」を力に変え、廃棄されるはずだったものに新たな価値を与えています。
ザ・リッツ・カールトン福岡

世界最高峰のラグジュアリーを体現するザ・リッツ・カールトン福岡。そのおもてなしは、地球環境と地域社会への深い配慮に支えられています。
2023年6月の開業からわずか2年足らずの2025年4月には、環境に配慮した宿泊施設を示す国際認証「グリーンキー」を取得。[4]
世界が認める確かな取り組みが、滞在のあらゆる場面で感じられます。
ラグジュアリーと環境配慮の両立
客室での体験は、心地よさとサステナビリティが共存しています。アメニティには、循環資源である竹製の歯ブラシやくし、ボディスポンジには自然素材100%のヘチマを使用するなど、プラスチック削減に努めています。
ほかにも、下記のような取り組みを行っています。
- アメニティは、FSC認証紙のパッケージを採用
- 飲料水は館内でろ過した純水を、再利用可能なガラス瓶で提供
また、リネン類は2日ごとの交換を基本とすることで水やエネルギーの節約に努めるなど、快適さを損なうことなく環境負荷を低減する工夫が凝らされています。
九州の恵みを大切にする、食と体験のデザイン
サステナビリティへの想いは、食やアクティビティにも及びます。館内のレストランやバー、宴会場では、福岡・九州産の食材を優先的に使用。地域経済を支え、輸送エネルギーを削減しながら、最も新鮮で豊かな味わいをゲストに届けます。
さらに、使用済みのアメニティやコーヒーの出し殻を、新たな製品へ生まれ変わらせるアップサイクルも推進しています。無料のレンタサイクルで周辺を散策すれば、ホテルが大切にする地域の魅力を肌で感じられるでしょう。
地域社会に貢献する「コミュニティフットプリント」
ザ・リッツ・カールトンの取り組みは、ホテルの中だけにとどまりません。グローバルな文化である「コミュニティフットプリント」の一環として、従業員が主体となり、下記のような取り組みを定期的に実施しています。
- 大濠公園でのガーデニング
- 子ども食堂の手伝い
- 近隣の清掃活動など
地域社会の一員として、その活性化と人々の幸福に貢献することを目指しています。
都ホテル 博多

博多駅直結という最高のロケーションを誇る 都ホテル 博多は、その利便性だけでなく、環境への深い配慮と実践でサステナブルな滞在を提案しています。
ホテル全体での地道な環境負荷削減の取り組みから、食を通した海洋保全への独創的な挑戦まで、その活動は多岐にわたります。
環境負荷を減らす、全館での着実な取り組み
都ホテルズ&リゾーツでは、ホテル全体でプラスチックごみの排出量削減を徹底しています。
歯ブラシなどの客室アメニティやカトラリー類を代替素材・軽量化製品へ切り替えることで、宿泊者一人あたりのプラスチック使用量を大幅に削減。2024年度には、従来比43%減を達成しています。[5]
さらに、都ホテル 博多では、客室のシャンプー類をプラスチック使用量が64.77%少ない「パウチ型ディスペンサー」に変更するなど、細やかな改善を積み重ねています。

また、連泊するゲストには清掃不要の協力を呼びかけ、環境負荷の低減に努めています。
食を通して海の豊かさを守る、独創的な挑戦
都ホテル 博多のサステナビリティは、とくに豊かな海の未来を守る活動に表れています。
持続可能な水産物の消費を推進する「ブルーシーフードパートナー」に加盟し、科学的根拠に基づいたサステナブルなシーフードをゲストに提供しています。
その象徴と言えるのが「FARMER YOUプロジェクト」です。海藻を食べ尽くし「磯焼け」の原因となる魚「アイゴ」を、美味しく味わえるメニューとして館内レストラン「CAFÉ EMPATHY」で提供しています。
厄介者とされていた魚を美食に変えることで、海の環境問題解決に貢献するという、ユニークで前向きな挑戦を続けています。
クロスライフ博多天神・クロスライフ博多柳橋

2025年、クロスライフ博多天神・クロスライフ博多柳橋は、福岡県で初めて、サステナブルな宿泊施設の国際認証「サクラクオリティグリーン」における上位ランク「4御衣黄ザクラ」を2館同時に獲得しました。[6]
天神と柳橋、それぞれ異なる魅力を持つ地域に根差しており、どちらも「Play with Local(地域と一緒に)」の精神で続けてきた地域連携や環境配慮への取り組みが、世界レベルで評価されています。
環境に配慮した代替素材の「アメニティバー」
クロスライフホテルでは、ブランド全体でプラスチックごみ削減に取り組んでおり、全館で提供するアメニティを、環境に配慮した代替素材の製品へと切り替えました。

さらに、クロスライフ博多(天神・柳橋)ではその取り組みを一歩進め、ゲスト自身が必要なものだけを自由に選ぶ「アメニティバー」方式を採用。

素材の変更だけでなく、提供方法も見直すことで、未使用のまま廃棄される「もったいない」まで削減し、環境負荷の低減を徹底しています。
廃棄物から生まれるアート「CROSS for the BLUE」
クロスライフホテルを運営するオリックスホテルマネジメントは「100年後も旅が楽しめる未来のために」というビジョンを掲げています。
創造的なアップサイクルにも挑戦しており、5つのホテルが共同で行う「CROSS for the BLUE」プロジェクトが行われました。

ホテルから出た使用済みアメニティや、水族館の協力で回収した海洋プラスチックなど約51kgもの廃棄物を、専門企業の技術で一枚の板へと再生。
そこから、各ホテルのために作られた世界に一つだけのアート時計が生まれ、館内のパブリックスペースに展示されています。
ANAクラウンプラザホテル福岡

世界的な信頼を誇るANAクラウンプラザホテル福岡は、そのブランド力を活かし、環境と社会に対する多角的なサステナビリティを実践しています。
テクノロジーを駆使した廃棄物削減から、地域経済の活性化、そして多様性を尊重する社会貢献活動まで、その取り組みは細部にまで及びます。
テクノロジーで実現する、徹底した廃棄物削減
ANAクラウンプラザホテル福岡では、ホテル運営のあらゆる場面で、廃棄物削減を徹底しています。
客室のバスアメニティには、オーガニックブランド「ANTIPODES」のポンプ式ボトルを採用。使い捨てミニボトルを廃止し、大幅なプラスチックごみの削減を実現しました。

製品自体も、生分解性ボトルや野菜由来インクを使用するなど、環境負荷の低減に貢献しています。
また、レストランのキッチンには食品廃棄物を自動追跡するツール「WINNOW」を導入し、食品ロスを40〜70%削減。[7]

さらに、使い捨てプラスチック製ストローやマドラー、カトラリー類を廃止し、紙や木などの代替素材へ切り替えるなど、着実な取り組みを積み重ねています。
地域の恵みを味わう「地産地消」への貢献
館内のレストランでは、ANAグループの「ANAあきんど株式会社」と連携し、地元の旬な食材を活かした特別メニューを定期的に提供しています。
メニューに使われる食材の多くは、「ANAのふるさと納税」の返礼品としても選ばれている地元食材・地場産品です。
宿泊や食事を通して、ゲストが福岡・九州の豊かな食文化に触れ、その魅力を堪能する機会を創出しています。
多様性を尊重し、より良い社会を目指す取り組み
従業員スペースには、障がいのある作家が描いたアートで彩られた「寄附型ラッピング自動販売機」を設置しています。

この自動販売機で商品を購入すると、収益の一部が作家の活動支援のために還元されるため、従業員一人ひとりが、気軽に社会参加できる仕組みとなっています。
この活動を通して、日常の中から多様性を尊重し、支え合う文化を育んでいます。
まとめ
今回ご紹介した福岡のサステナブルホテルは、単に「環境に優しい」という言葉だけでは括れません。それぞれのホテルが独自の哲学とアプローチで、サステナブルな旅の新しい形を提案しています。
これらの動きは、福岡という都市に「都市と自然の近さ」や「豊かな食文化」そして「先進的な行政」といった土壌があるからこそ、豊かに花開いています。
ぜひ「泊まるホテルを選ぶ」という行為を「自分の価値観を表現するアクション」と捉えてみませんか。
その選択一つで、旅は忘れられないほど意義深いものとなり、未来の観光をより良くしていくための一歩につながるでしょう。

参考文献
[2] 環境への取り組み | 【公式】HOTEL GREAT MORNING(ホテル グレートモーニング)~福岡の都市型リフレッシュホテル
[3]サクラクオリティ|会社概要|【公式】ホテルオークラ福岡 Hotel Okura Fukuoka(博多座隣り、中洲まで徒歩2分)
[4] 福岡天神のラグジュアリーホテル|ザ・リッツ・カールトン福岡
[6] クロスライフ博多天神・クロスライフ博多柳橋 2館で宿泊施設品質認証制度「Sakura Quality An ESG Practice (通称:サクラクオリティグリーン)」 4御衣黄ザクラを獲得