オーバーツーリズム問題とは?原因や地域に与える影響を事例とともに解説

近年、世界中の観光地で「オーバーツーリズム」という問題が深刻化していることをご存知でしょうか。
オーバーツーリズムとは、観光客が特定の地域に集中しすぎることで、さまざまな問題を引き起こす現象です。自然環境や地域住民の生活、観光客の体験価値などに悪影響を与えるため、国際的な問題になっています。
本記事では、オーバーツーリズム問題の原因や具体的な影響について、国内外の事例を交えながら詳しく解説していきます。
オーバーツーリズム問題とは?
オーバーツーリズムとは、特定の観光地に人が集中しすぎることで、地域住民の生活や環境に悪影響を与える現象です。[1]
観光客の急増により、過度な混雑や文化の違いによるマナー問題などが観光地で発生し、国際的な課題となっています。
観光客の増加は地域経済にメリットももたらしますが、それ以上に悪影響が大きいため、観光客の増加を抑える動きが各観光地で高まっています。
オーバーツーリズムによって発生する具体的な問題については、記事後半で解説するのでぜひ最後までご覧ください。

オーバーツーリズム問題が起こる5つの原因
オーバーツーリズム問題は、さまざまな原因が重なって発生しています。根本的な解決策を見つけるためには、まず原因を正しく理解することが重要です。
オーバーツーリズム問題が起こる以下の5つの原因について解説します。
- 交通手段やデジタル技術の発達による旅行ハードルの低下
- SNSの普及による急激な情報拡散
- 民泊の増加
- 為替の影響
- インフラ整備や規制導入の遅れ
交通手段やデジタル技術の発達による旅行ハードルの低下
交通手段の発達やデジタル技術の進歩は、オーバーツーリズムを加速させている原因の一つです。[2]
従来は時間と費用がかかっていた旅行が、安価な交通手段の登場やデジタル技術の発達により、手軽に楽しめるようになりました。
具体的には、以下のようなサービスの登場がオーバーツーリズムを加速させている要因として挙げられます。
- 格安航空会社の台頭
- 鉄道網の整備
- 航空券や宿泊施設のオンライン化
こうした要因により、旅行の計画から予約、移動までのハードルが格段に下がり、国内外問わず旅行する人が増えました。その結果、オーバーツーリズムが加速しています。
SNSの普及による急激な情報拡散
SNSの発達により、世界中の観光情報が瞬時に共有されるようになったことも、オーバーツーリズムが発生している原因の一つです。
従来の雑誌やWeb記事と比較して、SNSの拡散速度は圧倒的に速く、これまで知られていなかった場所が、観光地として突如人気を集めるケースが増えました。
とくに美しい景観や珍しい食事などの視覚的にインパクトのあるコンテンツは、SNSで拡散されることがよくあります。
SNSの拡散により、インフラが整備されていない地域に観光客が集中し、過度な混雑や交通渋滞といった問題を引き起こしています。
民泊の増加
民泊の増加も、オーバーツーリズム問題を引き起こしています。
民泊とは住宅を宿泊施設として貸し出すサービスです。ホテルや旅館といった一般的な宿泊施設よりも安価で利用できることが多く、近年人気を集めています。
民泊では、アパートやマンションの一室を提供するケースもあり、住民が暮らしている生活空間に観光客が入り込む機会が増えました。
その結果、観光客による騒音やゴミのポイ捨てが目立つようになり、地域住民の生活に悪影響を与えています。
為替の影響
為替相場の変動も、オーバーツーリズムを引き起こす重要な原因の一つです。とくに日本でオーバーツーリズムが発生している要因には、為替の変動が大きく関係しています。
近年は過度な円安基調が続いており、外国人観光客にとって日本旅行は手頃で魅力的なものになりました。円安は対ドルだけでなく、ユーロや他のアジア通貨に対しても進行しているため、世界各国から日本を訪れる観光客が増加しています。
その結果、観光地の収容能力を超える観光客が集中し、オーバーツーリズムを引き起こしています。
インフラ整備や規制導入の遅れ
インフラ整備や規制導入が追いついていないことも、オーバーツーリズム発生の重要な原因です。[3]
多くの観光地では、増加した観光客数に対してインフラの整備や規制導入が追いつかず、交通機関の混雑や渋滞が深刻化しています。
とくに、以下のような整備や規制の遅れが大きく影響しています。
- 観光地周辺の駐車場不足
- 公共交通機関の輸送力不足
- 観光客数を制限するための料金やシステムの設定
- 民泊に対する適切な規制や管理体制
オーバーツーリズムによる即時的な問題
オーバーツーリズムは観光地にさまざまな問題を引き起こします。その中でも、地域住民の生活や観光体験に直接影響する、以下の2つの問題について詳しく解説します。
- 渋滞や混雑の発生
- 観光客によるマナー問題
渋滞や混雑の発生
オーバーツーリズムが発生している多くの地域では、交通渋滞や過度な混雑が慢性化しています。[4]
地方の観光地などはあまり公共交通機関が発達しておらず、マイカーやレンタカーで来訪する観光客が数多くいます。
地域住民に加えて車で移動する観光客が増えることで、慢性的な交通渋滞が発生。地域住民の日常移動や緊急車両の通行を妨害するといった問題が生じています。
また、多くの観光地では観光客の増加に対して整備や入場制限が間に合っていません。これにより、歩道や観光施設でも過度な混雑が発生。地域住民の徒歩移動が妨げられたり、観光客の体験の質が落ちたりするといった問題につながっています。
観光客によるマナー問題
観光客の急増に伴い、悪質なマナー問題も深刻化しています。国内外から観光客が訪れることで、文化の違いや地域ルールへの理解不足による問題行為が多発。住民の生活に悪影響を与えています。
具体的には以下のような問題が多くの観光地で報告されています。
- ゴミのポイ捨ての増加
- 夜間の騒音問題
- 不適切な場所や人に対する写真撮影
オーバーツーリズムによる長期的な問題
オーバーツーリズムは混雑や騒音だけでなく、地域社会や環境に対する、長期的かつ深刻な問題を引き起こします。以降では、地域の持続可能性を脅かす以下の5つの問題について、詳しく解説します。
- 自然環境・文化財の損傷
- 地域負担の増大
- 観光依存による地域経済の衰退
- 地域住民向け店舗の減少・モノカルチャー化
- 地域住民向け住宅の不足・賃料の高騰
自然環境・文化財の損傷
オーバーツーリズムは、観光地の自然環境や貴重な文化財に深刻な影響をもたらしています。
具体的には以下のような問題が挙げられます。
- トレッキングなどの自然体験アクティビティによる自然環境の変形
- ゴミのポイ捨てによる自然環境汚染や生態系の破壊
- 事故または故意による文化財の損傷
たとえば、タイの観光地「ピピレイ島」では、観光客の急増によりゴミの増加やサンゴ礁の破壊が進み、環境保護のため一時閉鎖を余儀なくされました。[5]
また、沖縄県宮古島市では地元の祈りの場として使われている鍾乳洞が傷つけられるトラブルも発生しています。
地域負担の増大
観光客の急増により地域のインフラ整備にかかる費用が増加し、地域経済の負担が増大しています。
観光客による利用量の増加に対応するため、自治体では以下のようなインフラ整備を行っています。
- ゴミの処理
- 上下水道の整備
- 公共トイレの増設
- 道路の補修
これらの費用を負担するのは自治体であり、。その財源の大部分は地域住民の税金です。結果として、観光客によって増えた費用を地域住民が負担する構造になっています。
たとえば、和歌山県高野町では、観光客の増加に伴い、公衆トイレの維持管理やゴミ処理、医療体制の整備といった費用が増加。インフラ整備のための十分な財源が確保できず、今後も増加する観光客を受け入れられるかが問題視されています。[6]
観光依存による地域経済の衰退
観光産業への過度な依存は、長期的に地域経済を衰退させるリスクがあります。
観光地としての需要が高い時期なら、観光産業中心の経済構造は効果的です。しかし、観光地としての魅力が失われた際、他に地域経済を支える産業がなければ地域経済が急激に衰退する危険があります。
日本でも過去に温泉街として栄えた地域が、現在では客足が遠のき、打撃を受けているケースを多数見かけます。たとえば、栃木県の鬼怒川温泉では、1993年には年間約341万人の利用者がいましたが、その後は景気の低迷や団体旅行の衰退などにより、宿泊客数が大幅に減少しています。[7]
地域住民向け店舗の減少・モノカルチャー化
オーバーツーリズムにより地域経済が観光産業中心になると、地域のモノカルチャー化と地域住民向け店舗の減少が進行する可能性があります。
オーバーツーリズムが発生している地域では、土産店や観光客向け飲食店が増加する一方で、地域住民の生活を支える店舗が減少する傾向にあります。[8]
たとえば、京都の錦市場では、15年間でインバウンド向けの飲食店が倍以上に増加しました。一方で、昔ながらの生鮮食品店などは次々と閉店しています。[9]
地域住民向け店舗の減少は住民の生活を不便にするだけでなく、地域特有の景観や文化を失わせ、モノカルチャー化を進める深刻な問題です。
地域住民向け住宅の不足・賃料の高騰
オーバーツーリズムが進んだ多くの観光地では、地域住民向け住宅の不足と賃料の高騰が深刻な問題となっています。[10]
急激に増加した観光客に対応するため、各観光地では民泊が増加しています。その結果、宿泊施設用の住宅が増える一方で、地域住民向けの住宅が減少。さらに、地域住民向けの住宅が不足することで賃料の高騰を招いています。
事例から見るオーバーツーリズムの問題5選

オーバーツーリズムの問題は世界各地で発生しており、それぞれの観光地が異なる課題を抱えています。各地の具体的な事例を通じて、オーバーツーリズムがもたらす問題について学びましょう。
京都府 京都市 | バスの混雑と観光客のマナー問題
京都では、オーバーツーリズムによる市バスの過度な混雑と、観光客の悪質なマナーが深刻な問題となっています。具体的には、以下のような影響が生じています。[11][12]
- 市バスの混雑により地域住民が乗れない事態が発生
- ゴミのポイ捨ての増加
- 舞妓・芸妓への無断撮影や追跡行為
京都市では問題解決に向けて、観光客専用バスを新設し、市民利用と観光客利用の棲み分けを図りました。また「マナーを守って行動する」「ゴミのポイ捨てをしない」などの、観光にまつわる行動基準をまとめた「京都観光モラル」を策定。
住民の生活を守りながら、持続可能な観光のための取り組みを進めています。
岐阜県 大野郡 白川村 | 駐車場不足と交通渋滞
岐阜県の人気観光地である白川郷周辺では、オーバーツーリズムにより駐車場不足と深刻な交通渋滞が問題になっています。[13]
白川郷周辺の駐車場収容台数を大幅に超える観光客が来訪することで、駐車場不足が慢性化。さらに、駐車場待ちをする車が車道で長時間待機するため、白川郷へ向かう主要道路で深刻な渋滞が発生しています。
また、渋滞を回避するために観光客が生活道路に侵入することで、生活道路においても交通渋滞が起きている現状です。
こうした問題に対し、白川村では以下のような対策を取り入れています。
- 交通ライブカメラによる駐車場や渋滞状況の可視化
- 混雑予報カレンダーによる混雑時期の周知
- 交通規制状況やマナーを周知する特設Webサイトの開設
沖縄県 八重山郡 竹富町 | 自然環境の損傷
沖縄県八重山郡竹富町では、オーバーツーリズムによる自然環境の損傷が深刻です。[14]
観光客の増加に伴い、トレッキングなどの自然体験が行われる機会が増えました。その結果、岩場や樹木の形状が変化するなど、自然環境への影響が現れています。とくに、人気観光地であるピナイサーラの滝周辺では、観光客の集中により自然環境の損傷が激しく進行しています。
また、観光に使用されるカヌーの放置といったマナー問題も発生。
こうした問題に対処するため、竹富町では以下のような取り組みを行っています。
- 入域管理システムによる特定エリアの入場者数制限
- 観光客のマナーとモラル向上を目的とした講習プログラムの作成
スペイン・バルセロナ | 地域住民向け住宅の不足と賃料の高騰
バルセロナでは、オーバーツーリズムによる住宅問題が深刻化しています。
2015年にホテルの新規建設が凍結されたことから、バルセロナでは民泊が急激に増加。宿泊用マンションが増加する一方で、一般市民向けのマンションが大幅に減少しました。[15]
加えて、地域住民向け住宅の不足により賃料も急激に上昇し、地域住民の生活に深刻な影響を与えています。
こうした問題に対して、バルセロナ市では2017年1月に「観光宿泊施設特別都市計画(PEUAT)」を可決し、民泊を含む宿泊施設の新規建設規制を開始しました。
さらに、2024年には民泊ライセンスの新規発行と、既存ライセンスの更新停止を発表。民泊のライセンスは2028年11月に全て失効する予定です。
イタリア・ベネチア | 地域住民向け店舗の減少と賃料の高騰
イタリア・ベネチアでは、観光客の増加により地域住民の生活にさまざまな影響を与えています。
オーバーツーリズムにより、ベネチアでは観光客向けの土産店や飲食店が増加。その一方で、スーパーマーケットなど地域住民の生活に欠かせない店舗が次々と減少しました。[16]
さらに、マンションやアパートが観光客向け宿泊施設に置き換えられることで、地域住民向け住宅が不足し、賃料の高騰を招いています。
こうした問題により、近年ではベネチアを離れて近くの町に移住する住民も増えています。
オーバーツーリズム対策として、ベネチアでは土日の日帰り旅行者に対し、2024年4月から1日5ユーロ(2024年10月時点の為替レートで約800円)の入域料の徴収を開始しました。

オーバーツーリズム問題への3つの対策ポイント
オーバーツーリズム問題の解決には、さまざまなアプローチがあります。以降では、具体的な3つの対策ポイントについて詳しく解説します。
- 観光客の分散を促す
- 規制の強化や調整を行う
- インフラを整備する
観光客の分散を促す
観光客の分散は、オーバーツーリズム対策の基本的な手法です。
オーバーツーリズム問題は、観光客が特定の場所・時期・時間帯に集中し、地域の受け入れ能力を超えてしまうことで発生します。そのため、観光客を効果的に分散させられれば、公共施設の混雑や道路の渋滞といった即時的な問題を解消できます。
観光客の分散には、以下のような取り組みが効果的です。[17]
- 場所の分散:人気観光地以外の周辺地域の情報を発信するなど
- 時間の分散:早朝や夜間など混雑しない時間帯の観光を案内するなど
- 時期の分散:オフシーズンにイベントを開催するなど
- 交通手段の分散:カーシェアリングの整備など
規制の強化や調整を行う
規制の強化や調整も、オーバーツーリズム問題への有効な対策です。地域の受け入れ能力に応じて、直接的に観光客数をコントロールしたり観光地域を制限したりできます。
とくに環境保護や文化財の保全が必要な地域では、迅速な対応が不可欠であり、、そのためには強制力のある規制の導入が必要です。
規制には以下のような種類があり、地域の特性に応じて適切な手法を選択し、組み合わせることでより高い効果を発揮します。
- 人数制限:施設やエリアに入れる人数を制限する
- 入域制限:観光客が立ち入れるエリアを制限する
- 入場時間制限:施設やエリアに入れる時間を制限する
インフラなどの受け入れ体制を整備する
インフラなどを整備して観光客の受け入れ体制を強化することも、オーバーツーリズム問題への有効な対策です。
オーバーツーリズムは、観光地の受け入れ能力を超えた人数が押し寄せることで発生します。そのため、増加した観光客数に対応できる体制を整えることができれば、問題を軽減することが可能です。
具体的な整備内容としては、以下のような施策が考えられます。
- 観光客専用の交通機関の導入
- 乗り合いタクシーやカーシェアリングなど新たな移動手段の提供
- 道路や歩道の整備
- ゴミ箱やトイレの設置
- 配送サービスによる手ぶら観光の推進
また、受け入れ体制の整備にかかる費用は、宿泊税の導入や駐車場の有料化など、観光客が負担する形にすれば地域住民の負担も大幅に軽減できます。
まとめ|オーバーツーリズム問題を解決し持続可能な観光へ
オーバーツーリズムは、混雑や渋滞といった即時的な問題だけでなく、自然環境や文化の喪失、地域コミュニティの崩壊といった深刻な問題も招きます。
オーバーツーリズムが世界各地で問題となっている今、観光には短期的な経済効果だけではなく、地域と観光客が共存できる持続可能性が求められています。
本記事で紹介した事例や対策を参考に、地域の特性に合った解決策を検討し、持続可能な観光地づくりを実現しましょう。


参考文献
[1] オーバーツーリズムとは 観光客増え、住民に負の影響 – 日本経済新聞
[2] オーバーツーリズムとは? 原因や影響、問題点や対策を具体例付きで解説:朝日新聞SDGs ACTION!
[3] オーバーツーリズムとは?解決策や自治体の対策事例を紹介 | ジチタイムズ
[5] 環境と観光の両立のための 持続可能な観光客受入手法に関する調査業務
[9] 市場の役割薄れゆく、京の台所 訪日客向け飲食店増、生鮮食品店減 | 毎日新聞
[11] 京都府京都市 | オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光地域づくり(先駆モデル地域) | 事例集・支援ツール | 観光庁
[12] 京都市民が嘆く「舞妓パパラッチ」の悪行三昧 観光客は舞妓にとって「危険な存在」でもある | レジャー・観光・ホテル | 東洋経済オンライン
[13] 岐阜県白川村 | オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光地域づくり(先駆モデル地域) | 事例集・支援ツール | 観光庁
[14] 沖縄県竹富町 | オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光地域づくり(先駆モデル地域) | 事例集・支援ツール | 観光庁
[15] 特集3 「観光都市」から「観光とともに生きる都市」へ 阿部 大輔 – 観光文化
[17] オーバーツーリズムとは?外国人観光客が押し寄せ日本の街が変貌!このままでいいのか | コメチャンネル | 公明党
