スペイン・ウルダイバイ生物圏保護区から見える持続可能な観光モデル

スペイン北部のバスク地方に位置する「ウルダイバイ生物圏保護区」をご存知でしょうか。
保護区内には、湿地帯や森林、海岸線といった多様な生態系が広がり、250種以上の鳥類が生息。こうした自然や生物の多様性を守りながら、地域住民による持続可能な農業や漁業も営まれています。
本記事では、ウルダイバイ生物圏保護区の概要や、持続可能な観光モデルとしての取り組みについて詳しく解説します。
ウルダイバイ生物圏保護区とは?

ウルダイバイ生物圏保護区は、スペイン・バスク地方に位置し、豊かな自然環境と地域文化が調和した地域です。自然や生態系の保護活動が行われ、持続可能な観光の仕組みが高く評価されています。
スペイン・バスク地方にあるユネスコ生物圏保護区
ウルダイバイ生物圏保護区は、1984年にユネスコによって指定された生物圏保護区です。スペインのバスク地方に位置し、約22,000ヘクタールの広さを誇ります。[1]
ウルダイバイ生物圏保護区の特徴は、豊かな自然と多様な生物が共存し、約45,000人の住民がその地域で生活している点です。自然保護と地域経済の発展を両立させ、人と自然が共生する持続可能な地域モデルとして注目されています。
豊かな生態系と多様な景観が特徴
ウルダイバイがユネスコ生物圏保護区に指定された理由は、地形的な特徴と豊かな生物の多様性にあります。ウルダイバイには川と海が出会う河口、湿地、森、農地がまとまって存在し、250種以上の鳥類をはじめとする多くの生物が暮らしています。
とくに渡り鳥が多く集まる場所として知られ、バードウォッチングの名所としても有名です。また、内陸部は森や岩山、水生植物が豊かで、珍しい植物や哺乳類も多数生息。[3]
人が住むエリアには農地や牧草地も豊富にあり、昔ながらの農業が景観と生き物の多様性を守る役割を果たしています。
このように、わずかな範囲に海岸、湿地、森、農地といった異なる環境が集まり、渡り鳥をはじめとしたさまざまな生物が共に暮らしている点が、ウルダイバイ最大の魅力といえます。
「ウルダイバイ鳥類センター」の役割

ウルダイバイ鳥類センターは、鳥類の科学研究や観測を行う施設です。多種多様な渡り鳥やウルダイバイの豊かな湿地帯の生態を観測できます。
このセンターは単なる研究施設ではなく、生態系の保護や観光客への教育といった重要な役割をになっています。観光客や地域住民に対して自然保護の意識を高める活動も行われており、ウルダイバイの自然と観光になくてはならない存在です。
渡り鳥と湿地を守る「生きた博物館」
ウルダイバイ鳥類センターは、保護区内の湿地帯に位置し、渡り鳥の観察と生態系保全を両立させる「生きた博物館」として機能しています。[4]
センターには複数の観察小屋や展望デッキが設置され、野鳥に影響を与えることなく至近距離での観察が可能です。館内には湿地の役割や渡り鳥の生態に関する展示が行われ、専門スタッフも常駐しているため、鳥類の識別方法や生態系の重要性について学べます。
また、センターは湿地の水位管理や植生の維持にも取り組んでおり、観光施設でありながら実際の保全活動の拠点としても重要な役割を果たしています。
鳥類観察を通じた観光と環境教育
ウルダイバイ鳥類センターは、鳥類観察をきっかけに、訪問者に環境保全の重要性を伝える役割も担っています。
通常の観光では、訪問者は個人で自由に見学できるほか、専門ガイドによるツアーにも参加できます。自身の興味や関心に合わせて、より深い体験が可能です。[5]
また、鳥類標識調査や気象学、地域の生物多様性について学べる活動も定期的に実施されています。[6] こうした科学的な研究活動を一般に公開することで、訪問者の自然への関心を高め、興味や保全活動への理解と酸化を促しています。
地域住民を巻き込んだ保全・普及活動
ウルダイバイ鳥類センターは、地域住民と協働しながら環境保全や環境教育に取り組んでいます。地域に根ざした活動を通じて、保全への意識を高めることを目的としています。
代表的な取り組みの一つが「Hegazti eskola」と呼ばれる教育プログラムです。[7]
以下のような活動を通して、子どもたちがウルダイバイの鳥類を観察し、生態系を学べる環境を提供しています。
- 地域の学校への巣箱やえさ台の設置
- 学校での授業と鳥類研究を組み合わせたカリキュラムの作成
たとえば、鳥類の移動経路を通じて地理学を学んだり、巣箱や餌台からのデータ分析を用いて数学や統計学を学んだりできるよう設計されています。
また、センターではボランティアプログラムも実施。[8] 参加者は以下のような実務を経験を通じて保全活動への理解を深め、直接環境保全に貢献しています。
- 鳥類の観察記録
- 標識の調査
- 来訪者への案内
- 土地の管理作業
地域の子どもたちから国際的なボランティアまで幅広い人々が関わることで、保護区の価値が地域社会全体に浸透する仕組みを構築しています。
ウルダイバイがサステナブルな観光のモデルとされる理由
ウルダイバイ生物圏保護区は、自然環境の保全と地域経済の発展を両立させるサステナブルな観光のモデル地域として注目を集めています。
保護区が実践する以下の3つの要素について詳しく解説します。
- 自然保護と観光体験を両立するデザイン
- 地域住民の声を受け入れる環境づくり
- 現実的な資金計画
自然保護と観光体験を両立するデザイン
ウルダイバイ生物圏保護区では、自然環境への影響を最小限に抑えながら訪問者に質の高い観光体験を提供する仕組みが整えられています。
また、センターは年間約20,000人の訪問者を受け入れながら、ボランティアの募集や教育も積極的に実施。さらに、湿地管理や外来植物の除去、在来種の植栽といった環境改善活動にも取り組んでいます。
地域住民の声を受け入れる環境づくり
ウルダイバイが持続可能な観光のモデルとされる大きな理由の一つは、地域住民の意見を積極的に取り入れているからです。
たとえば、保護区は2020年に、欧州持続可能な観光憲章(持続可能な観光活動に取り組む観光地としての認定)への加盟を目指すために以下の3つを住民参加型で作り上げました。[9]
- 地域の観光状況の分析
- 質の高い観光を目指すための戦略
- 今後5年間の行動計画
その際、持続可能な観光常設フォーラム、憲章作業グループ、技術パネルという3つの組織を設け、観光に関わる全ての人々が意見を述べられる場を用意しています。
現実的な資金計画
ウルダイバイ鳥類センターは、複数の資金源を組み合わせることで持続可能な運営を行っています。
たとえば、多くの費用が必要な活動には欧州連合からの補助金を活用しています。2022年には欧州連合のNext Generation EUファンドから482,000ユーロの補助金を受け、ガウテギス・アルテアガ湿地の生物多様性向上と復元作業に充てました。[10]
また、センターは公式サイトで寄付も積極的に受け付けており、環境保全に関心を持つ個人・企業からの経済的支援を得ています。[11]
他にも地域金融機関のスポンサーシップを受けるなど、公的資金、民間支援、入場料収入を組み合わせて資金源を確保し、現実的な運営を行っています。
ウルダイバイから学ぶサステナブルツーリズムの実践方法

ウルダイバイ生物圏保護区と鳥類センターの取り組みは、自然保護と観光を両立させる具体的な方法を示しています。保護区から学べる以下の3つの観点から、サステナブルツーリズムの実践方法について詳しく解説します。
- 保全活動を観光につなげる事業の策定
- 観光と教育を組み合わせた体験づくり
- 地域資源の活用
保全活動を観光につなげる事業の策定
保全活動を観光につなげることで、効率的に資金の確保や取り組みの周知を図れます。
ウルダイバイ鳥類センターは、保全活動そのものを観光コンテンツとして提供することで持続可能な事業モデルを構築しています。単に自然を守るだけでなく、その過程を訪問者が体験できる仕組みを設計している点が特徴です。
イベントでは専門家による講演やガイド付き観察ツアーを実施し、参加者は湿地保全の現場を直接体験しました。
また、鳥類標識調査の見学プログラムや湿地管理作業への参加機会も提供しており、観光客が保全活動の一部を担う仕組みを整えています。訪問者が単なる見学者ではなく、保全プロジェクトの支援者として関与することで、より深い学びと満足感を提供しています。
観光と教育を組み合わせた体験づくり
サステナブルツーリズムでは、訪問者が楽しみながら学べる環境を整えることが重要です。観光と教育を組み合わせれば、訪問者の自主的な学びを促すことが可能です。
ウルダイバイ鳥類センターは鳥類や湿地帯の観察を楽しみながら、地域の生態系や保全活動について学べる環境を整えています。
具体的には、以下のようなサービスや展示が提供されています。
- 専門家による予約制のガイドツアー
- 生態系の重要性と鳥類保全の取り組みが学べる展示
- 季節や場所ごとに異なる渡り鳥を観察できる環境の整備
また、自然体験や教育プログラムなど、より深い学びを得られる機会を提供することも重要です。
ウルダイバイ鳥類センターでは、地域の複数の学校で環境教育プログラムを開発。生徒たちはウルダイバイの鳥類について学ぶ機会を得ています。
観光体験に学習要素を組み込むことで、訪問者や参加者を楽しませながら、環境への意識向上を促進できます。
地域資源の活用
サステナブルツーリズムを実践するには、地域資源の有効活用が効果的です。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
- 地域のスポットを観光地化する
- 利用されていない施設を再利用する
- 地域住民にガイドを依頼する
ウルダイバイ鳥類センターは、まさに地域資源活用の優れたモデルケースです。
もともと魚の缶詰工場だった建物を改修して運営され、2012年に一般公開されました。豊かな湿地や季節ごとに異なる渡り鳥が訪れる特性を活かし、現在ではウルダイバイを代表する魅力的な観光地となっています。
まとめ|ウルダイバイ生物圏保護区が示すサステナブル観光の未来像
ウルダイバイ生物圏保護区は、自然保護と地域経済の発展を両立させる持続可能な観光モデルです。保護区では訪問者を楽しませる観光プログラムを提供するとともに、生物多様性の保全と環境教育も積極的に行っています。
今後、世界中で重要になるのは、単なる観光や単なる保全活動ではなく、観光と保全活動を両立させた事業形態です。ウルダイバイ生物圏保護区やウルダイバイ鳥類センターの取り組みは、そんな未来の観光の指針となる貴重な事例です。
本記事で解説したウルダイバイの取り組みを参考に、自然と人が共生する新しい観光のあり方を考えてみましょう。

[1] LOCATION / Urdaibai Biosphere Reserve – Urdaibai Bird Center
[3] Urdaibai Biosphere Reserve in Spain | spain.info
[4] INTRODUCTION / Urdaibai Bird Center – Urdaibai Bird Center
[5] Urdaibai Bird Centre in Gautegiz Arteaga (Biscay) | Basque Country Museums | Tourism Euskadi
[6] Programa de visitas para centros educativos – Urdaibai Bird Center
[7] Urdaibai Bird Center – Wetland Link International
[8] Urdaibai Bird Center Volunteer Program, summer 2024 – Wetland Link International
[11] COLLABORATE WITH US – Urdaibai Bird Center
[12] Restoration work in the Orueta marsh brings spectacular results – Urdaibai Bird Center
