欧州、「再生型観光」を観光戦略の中心に据える動き

欧州経済・社会委員会(EESC)が「再生型観光」を欧州(EU)の観光戦略の中心に据えるよう提案。単なる持続可能性だけでなく、地域の自然・経済・コミュニティを実際に回復・強化する観光モデルの導入を呼びかけています。これには、循環型経済支援や法整備、観光働き手のスキル育成も含まれ、「量」ではなく「質」を重視する評価指標への移行を提言しています。
欧州経済社会委員会(EESC)は、EUの観光が単なる経済成長の推進役から、環境と社会の回復を積極的に目指す「再生型観光」へと進化すべきであると力強く提言しました。これは、観光地がただ存続するだけでなく、真に繁栄する未来像を描くものです。
なぜ今、「再生型観光」が求められるのか?
観光産業は欧州経済にとって極めて重要であり、特に観光業への依存度が高い地域ではその傾向が顕著です。EESCは、「EUの観光:長期的な競争力の原動力としての持続可能性」と題された意見書の中で、持続可能な観光への移行を加速し、より先進的な再生型観光戦略への転換を強く促しています。
意見書の報告者であるイザベル・イグレシアス氏は、「欧州の競争力を回復させる上で、観光の役割は非常に重要です。多くの加盟国や地域のGDP、そしてバリューチェーンにおける観光の貢献度を考えると、この視点は不可欠」と述べ、観光の持つ経済的影響力を強調しました。
この意見書は、2024年後半にスペインが議長国を務めた際に採択された「パルマ宣言」を基盤としています。同宣言は、観光の未来において持続可能性を中核に据えることについて、広範な合意形成を促進しました。この目標達成のためには、欧州の機関、各国政府、地方自治体が観光分野の変革を積極的に支え、全ての関係者との対話を継続し、社会的な対話を深めることが不可欠です。
パンデミックがもたらした課題と「再生型観光」へのシフト
観光産業における持続可能性への努力はこれまで進展してきましたが、パンデミック後の観光需要の急増は、多くの人気観光地に新たな重圧を与えています。この急激な観光客増は、地域が経済成長と持続可能な開発を両立させるのを困難にし、同時に人材不足や雇用と労働者のスキルのミスマッチといった問題も顕在化させています。
これらの課題に対応するためにも、EESCは「再生型観光」への移行を強力に提唱しており、欧州委員会が今後数ヶ月以内に発表する予定の「持続可能な観光のための欧州戦略」にこの概念を組み込むよう求めています。
「再生型観光」の真意:従来の「持続可能性」との相違点

従来の持続可能な観光が、環境への悪影響を軽減することに主眼を置いていたのに対し、再生型観光は、自然資本、社会資本、経済資本を積極的に回復し、強化することを目指します。この革新的なアプローチは、循環型経済の原則を取り入れ、観光地と地域社会に永続的なプラスの影響をもたらすことを目的としています。
EESCは、EUの新たな立法サイクルにおいて、単なる被害の抑制にとどまらず、積極的な「再生」目標を推進する政策を優先するよう要求しています。これはまた、時代遅れの観光客数といった量的指標のみを重視する成功基準から脱却し、自然環境と地域社会を積極的に再生し、生態系と訪問者の体験の両方を考慮した包括的な戦略に焦点を移すことを意味します。
「再生型観光」実現に向けた具体的なロードマップ
EESCは、この変革を推進するため、より強力な法整備、財政的な優遇措置、そして国境を越えた協力の強化が必要であると主張しています。
さらに、EESCは、専用の資金、研究プログラム、そして社会政策や研修政策に裏打ちされた、再生型観光の導入を加速するための明確なガイドラインと具体的な対策を推奨しています。
この戦略の核心は、観光産業で働く人々が持続可能性と循環型経済に関するスキルを習得することです。人材のスキルアップへの投資は、雇用の質を高めるだけでなく、この変革に不可欠な人材を確保し、長く業界に定着してもらうことにも繋がります。
この転換において、消費者の積極的な関与も欠かせません。EESCは、経済的なインセンティブ、誰もが利用しやすい観光モデル、そして年間を通じた観光を促進する戦略を活用することで、再生型観光の普及を促すことを提案しています。EESCは、より責任感と回復力のある観光産業を育成することで、EU全体の地域とコミュニティの長期的な繁栄を確保しながら、その競争力を高めることを目指しています。
観光産業はEU経済の主要な牽引役であり、GDPの9.7%を占め、ホスピタリティ、運輸、小売などの産業で11%以上の雇用を支えています。経済活性化に加え、地域全体の雇用創出や社会開発においても極めて重要な役割を担っています。
欧州の観光産業がこの「再生型」への転換をどのように進めていくのか、今後の動向に注目が集まります。旅行者の選択が、新たな観光の未来を形づくるかもしれません。
【参考記事】