MSCクルーズ、海洋と未来のための包括するサステナビリティ戦略

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MSCクルーズは、持続可能性を企業戦略の中心に据え、環境保護と社会貢献の両立に積極的に取り組んでいます。2050年までに海上事業における温室効果ガス(GHG)の排出を実質ゼロにするという高い目標を掲げ、最新技術の導入や運航の効率化、徹底した廃棄物管理、そして地域社会との連携など、さまざまな側面からサステナビリティの実現を目指しています。
環境への配慮:地球と海の未来のために
MSCクルーズのサステナビリティ戦略において、環境保護は最も重要な要素の一つです。特にGHG排出量の削減、海洋生態系の保全、そして資源の有効活用に注力しています。
1. GHG排出量の削減と燃料転換
MSCクルーズは、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出を実質ゼロにすることを目指し、燃料の転換とエネルギー効率の向上に注力しています。従来の燃料と比べてCO2排出量を最大25%削減し、硫黄酸化物(SOx)はほぼ完全に、窒素酸化物(NOx)は85%削減できる液化天然ガス(LNG)を燃料とする船舶の導入を推進中です。
2022年末に就航した「MSCワールド・エウローパ」は、同社初のLNG燃料船であり、これを皮切りに今後はLNGに加え、低炭素燃料や合成・バイオメタノールなどを使用する新造船の導入も計画しています。
MSCクルーズは、燃料転換を段階的に進めることで、ゼロエミッションの実現を目指しています。短期的にはLNG(液化天然ガス)を活用し、中期的にはより低炭素な燃料へ、そして長期的には合成燃料やバイオメタノールなどのゼロカーボン燃料への移行を見据えています。また、こうした次世代燃料の開発と普及を加速させるため、産業内でのパートナーシップ強化にも取り組んでいます。
エネルギー効率の向上にも注力しており、さまざまな先進技術を導入しています。たとえば、船体の水面下部分には特殊塗料を使用し、海洋生物への影響を抑えながら水の抵抗を減らし、燃料効率を高めています。もちろん、環境に有害なTBT(トリブチルスズ)を含まない塗料を採用しています。
さらに、船内にはスマート暖房・換気・空調システム(HVAC)が整備され、エネルギー使用の最適化が図られています。エンジンから発生する熱を回収して電力や熱として再利用する仕組みも導入されており、総合的なエネルギー効率の向上に貢献しています。
運航面では、風や波の影響を考慮したルートを計画し、燃料消費の最小化を図っています。また、停泊中には陸上から電力を供給する「コールドアイアニング」技術を導入。これにより、港でのエンジン停止が可能となり、排出ガスをゼロに抑えることができます。実際にMSCベリッシマでの試験導入では、平均で10〜15%の燃料削減と排出量削減が確認されています。
2. 海洋生態系の保護
海を主な活動の舞台とするクルーズ会社として、MSCクルーズは海洋環境の保全に特に力を入れています。船内で発生する排水は、先進的な排水処理システムによって浄化され、国際海事機関(IMO)が定める厳しい基準を満たした上で排出されます。これにより、排水を通じて水生生物が特定の海域外へ運ばれることによる、現地の生態系への悪影響リスクを排除しています。
最新のIMO基準に準拠したバラスト水処理システム(Ballast Water Treatment System, BWTS)を導入し、海洋生態系への外来種の侵入を防いでいます。バラスト水処理システムとは、船舶が運航の安定性を保つために取り入れたり排出したりするバラスト水に含まれる外来生物や病原菌などを除去・無害化する装置・技術のことです。
さらに海洋生物への影響を最小限にするため、水中騒音を低減する技術を船体設計に取り入れているのも特徴です。地中海東部で絶滅の危機に瀕しているマッコウクジラの保護活動に協力するため、特定の海域で航路を変更するといった取り組みも支援しています。また、使い捨てプラスチック製品の使用を段階的に廃止し、代替品の導入を進めることで、プラスチック廃棄物を大幅に削減しています。
3. 廃棄物管理の徹底
船内で発生する廃棄物の適切な管理とリサイクルにも、積極的に取り組んでいます。廃棄物はすべて、プラスチック、紙、段ボール、ガラス、アルミニウム、その他の金属類などに細かく分別され、寄港地のリサイクル施設へ運ばれます。
また、納入される商品の梱包材などから出る廃棄物を削減するため、サプライヤーとの協力体制も強化しています。一部の船では、客室内のゴミ箱を「紙類」「食品廃棄物」「プラスチック」の3種類に分け、乗客にもリサイクルへの参加を促しています。
社会貢献:人々との共生

MSCクルーズは、企業としての社会的責任を果たすべく、地域社会や人々への貢献にも力を入れています。
1. MSC財団(MSC Foundation)の活動
MSC財団は、MSCグループの支援のもと、海洋環境の保護、人道支援、地域社会の発展を目的に、さまざまな活動を展開しています。2021年には、同財団による新たな海洋保護センターの設計および開発が発表され、海洋生態系の保全に向けた研究や啓発活動の推進にも力を入れています。また、自然災害の被災地支援や、貧困地域への支援などを通じて、世界中の困難な状況にある人々に対する幅広い人道支援にも積極的に取り組んでいます。
2. ユニセフとのパートナーシップ
MSCクルーズは長年にわたりユニセフと連携し、世界中の支援を必要とする子どもたちへの意識を高め、その活動を支援しています。クルーズ船内での募金活動などを通じて、子どもたちの教育機会の提供や、衛生環境の改善など、ユニセフの様々なプロジェクトに資金を提供しています。たとえば、ブラジルの恵まれない子どもたちが質の高い教育を受けられるよう支援する地域プロジェクトにも貢献しています。
3. 持続可能な観光の推進
寄港地での観光活動においても、持続可能性を意識した取り組みを積極的に進めています。提供されている寄港地観光ツアーの約70%は、地域経済への貢献、文化遺産の保護、自然環境への配慮を重視した「プロテクトツアー」として実施されています。これらのツアーでは、地元のサプライヤーからの調達や現地ガイドの雇用を通じて、地域経済の活性化にも貢献しています。
4. クルー(乗務員)の福祉と成長
MSCクルーズは、クルーが安全で快適に働ける環境を整備し、彼らの専門能力開発を支援しています。乗組員(クルー)のスキル向上を目的とした定期的な研修プログラムを実施し、サービス品質の向上とキャリアパスの支援を行っています。多様な国籍のクルーが働く環境において、それぞれの文化を尊重し、包摂的な職場環境の構築に努めています。
透明性と情報公開
MSCクルーズは、サステナビリティへの取り組みに関する透明性を重視し、定期的にサステナビリティレポートを発行しています。これにより、環境負荷軽減への具体的な進捗状況や、社会貢献活動の成果を公開し、すべてのステークホルダーへの説明責任を果たしています。2023年版サステナビリティレポートは2024年6月に公開され、同社の取り組みと成果が詳細に報告されています。
まとめ
MSCクルーズは、地球の海と環境の保護に強くコミットし、2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを達成することを目標としています。その実現に向けて、LNG燃料船の導入、エネルギー効率の向上、廃棄物管理の徹底など、最先端の技術と革新的なアプローチを積極的に採用しています。
また、MSC財団を通じた海洋保護活動や、ユニセフとの連携による子どもたちへの支援など、社会貢献にも力を入れています。こうした幅広い取り組みは、MSCクルーズが単なるクルーズ会社にとどまらず、持続可能な未来の実現に向けて行動する、責任ある企業市民であることを示しています。
今後も技術革新とパートナーシップの強化を通じて、MSCクルーズはサステナブルなクルーズ業界のリーダーとしての役割を果たしていくことが期待されます。
【参考記事】https://www.msccruises.com/int/sustainability