猛暑を涼しく過ごす!鉄道で行く新しいスタイルの「避暑旅」とは?

猛暑が続く日本では「避暑旅行」への関心が高まっています。
とくに鉄道で巡るスタイルは、車や飛行機と比べてCO2排出量が少なく環境にも優しいと注目されており、持続可能な旅のスタイルとして、今改めて注目されています。
気候変動により、日本の夏は過酷化している

2024年の日本の夏(6~8月)は、観測史上初となる平均気温偏差+1.76℃を記録し、全国各地で記録的な高温が続きました。[1]
東京都の7月の最高気温は連日35℃を超え、7月29日には栃木県佐野市で41.0℃を観測しています[2]。また、福岡県では30日もの猛暑日を記録し、熱中症での救急搬送者は全国で9万人を超えました[3]。
とくに2025年は、ラニーニャ現象の影響により太平洋高気圧が強まり、日本付近は暖かい空気に覆われやすくなると予想されています。そのため、全国的に気温が平年を上回り、猛暑となる可能性が高いと考えられます。

このような過酷な気候条件の中、「避暑旅行」は単なる観光ではなく、自身の体調管理を兼ね、安全に過ごせる旅の選択肢としてますます重要性を増しています。
鉄道で行く「避暑旅」が注目されているのはなぜ?

近年、「避暑旅行」に鉄道を利用する旅行者が増えています。鉄道はただの移動手段ではなく、旅そのものを楽しめる手段として再評価されています。
とくに環境意識の高まりから、旅行会社でも、移動手段として鉄道でアクセス可能な旅行先については、環境負荷の少ない鉄道の利用を推奨する動きが広がりつつあります。
また、鉄道は涼しい地域へスムーズにアクセスできるため、都市部の猛暑から逃れて、自然豊かな高原地帯や海沿いの涼しい土地へ快適に移動できます。
目的地に到着する前から、車窓の景色を楽しみながら徐々に「非日常」へと切り替えられることも魅力の一つです。
環境への配慮と、移動時間を楽しむ豊かなライフスタイル。この2つの要素を満たす手段として、「鉄道×避暑旅」は注目を集めています。
CO2の排出量が少なく、環境負荷がおさえられる

鉄道は、他の交通手段と比べてCO2の排出量が圧倒的に少ないことが特徴です。
このように、鉄道は移動するだけで環境に貢献できる「サステナブルな交通手段」と言えます。とくに避暑旅行のような長距離移動では、選ぶ交通手段がそのまま環境負荷に直結します。
また、鉄道網が整備されている日本では、主要な避暑地に電車でアクセスできる点も利点です。単に目的地へ行くだけでなく、環境にやさしい選択をしたという安心感も得られます。
観光と環境意識を両立できる手段として、鉄道は今後さらに注目されていくでしょう。
猛暑のエリアを離れて涼しい場所でリフレッシュできる
都市部のコンクリートジャングルでは、日中の気温が40℃近くに達することもあり、外出自体が健康リスクになることがあります。
そうした中で、標高が高く、気温が10℃以上も低い地域へ移動する「避暑旅行」は、心身の回復手段として効果的です。
たとえば、長野県や北海道などの高原エリアでは、朝晩は冷房がいらないほど涼しく、自然の音と風に包まれて過ごすことができます。
高温多湿な環境から一時的に離れることで、熱中症や睡眠障害のリスクも軽減され、心身ともにリフレッシュすることが可能です。
また、涼しい場所での森林浴や川辺でのアクティビティなど、自然とふれあう時間はストレス軽減にもつながります。旅そのものが「癒し」となり、再び日常へ戻るためのエネルギーをチャージする場となるのです。


鉄道の旅ならではの体験ができる

鉄道での避暑旅行は、単に「移動する」だけの手段ではありません。車窓から眺める風景、駅弁を味わう楽しみ、途中下車して地元の名物を楽しむといった、五感を使った旅の体験が魅力です。
とくに、ゆっくりと移動する鉄道旅では、季節の移り変わりや地形の変化を感じながら目的地へ向かうことができます。車や飛行機では見過ごしがちな風景に出会えることが、鉄道旅の醍醐味です。
最近では、ローカル線の魅力が再評価されており、観光列車では地元の特産品が提供されたり、車内イベントが行われたりと、列車そのものが旅のハイライトとなることも少なくありません。
たとえば、九州の「或る列車」では、地元の食材を使った本格的なコース料理が楽しめるほか、上質な内装やホスピタリティも魅力です。
また、長野県を走る「ろくもん」では、信州の旬の味覚を堪能できる食事に加え、沿線の景観や伝統工芸の紹介など、地域の魅力を五感で味わう演出が用意されています。
このような体験型の旅は、SNSなどでの発信とも相性が良く、旅の記録を残す楽しみも広がります。移動そのものが“思い出”になるのが、鉄道による避暑旅の最大の魅力です。
関東圏でJR東日本も「避暑旅」をPR

JR東日本の「避暑旅」は、酷暑の夏を避け、心地よい高原や温泉地を鉄道で訪れる新しい旅の提案です。
例年8月の某日平均気温では、東京など都市部が30℃台なのに対し、避暑地では20〜27℃台です。函館や軽井沢、草津、那須塩原など、涼しい気候で自然や温泉、グルメを楽しめます。
JRのダイナミックレールパックなどお得な鉄道パック商品も用意され、夏の快適な旅をサポートしています。
避暑旅で人気のエリアとリジェネラティブな効果
避暑旅行の魅力は、気温の低い土地で快適に過ごせるだけでなく、地域の文化や自然にふれながら、その土地の未来に貢献できることです。
最近では「リジェネラティブツーリズム(再生型観光)」という考え方が注目されており、旅行者が訪れることで地域の自然や文化の保全に寄与する旅のスタイルが広まりつつあります。
地域の飲食店を利用すること、地産地消の食事を楽しむこと、環境保護活動に参加することなど、小さな行動の積み重ねが地域を元気にします。
ここでは、そんなリジェネラティブな旅の視点から、避暑におすすめの鉄道で行ける人気エリアをご紹介します。

釧路|自然と湿原を堪能できる釧路
北海道・釧路は、日本でもっとも夏が涼しい地域の一つとして知られています。釧路湿原国立公園では、広大な湿地帯に広がる草原と川が美しく、絶滅危惧種のタンチョウをはじめとする多様な生物の生息地となっているのです。
地域では「釧路湿原自然再生協議会」が中心となり、外来種の除去や湿原の水質保全に取り組んでいます。また、地元の小学校やボランティア団体も自然学習や環境保全活動に積極的です。[5]
観光面では、釧路名物の炉端焼きや海鮮丼など、地域の食材を使った料理が豊富で、漁業や農業に根ざした食文化を堪能できます。阿寒湖温泉ではアイヌ文化体験や手工芸など、地域に根ざした文化にふれられる場もあり、心身の癒しと知的刺激の両方を得られるのも魅力です。
さらに、地元産のお土産やクラフト製品を購入することは、地域の伝統工芸や文化活動の維持にもつながります。釧路への避暑旅は、自然と文化の再生に貢献できる旅のかたちと言えるでしょう。

草津|温泉と伝統文化が合わさった草津
群馬県にある草津温泉は、標高約1,200mに位置し、夏でも涼しく過ごせる避暑地として古くから親しまれてきました。温泉街を歩けば、湯畑の湯けむりと硫黄の香りに包まれ、情緒ある街並みに癒されます。
草津では、地域資源である温泉を守るため、温泉の適正利用や地熱エネルギーの活用を研究しています[6]。また、草津町はごみの分別や水質保全など、観光地としてのサステナビリティにも力を入れており、訪れる人が気持ちよく過ごせる環境を整えているのです[7]。

観光を通じて地域に貢献できる仕組みも充実しています。たとえば、草津節の踊りを体験できる「熱乃湯」の公演は、地域の文化や職人技術の継承につながるでしょう[8]。
また、草津温泉の泉質は日本でも有数の強酸性で、殺菌効果や美肌効果があるとされ、湯治を目的に訪れる人も多くいます。体を内側から整えるこの体験は、日々のストレスから解放される大きな癒しとなるでしょう。
地域の宿に宿泊し、地産地消の料理を味わい、伝統文化にふれる。草津での避暑旅は、快適な気候と文化体験を両立でき、地域の持続可能性を支える旅のモデルとも言えます。
野辺山|星空と独自のアクティビティが楽しめる
長野県・野辺山高原は、標高1,300mを超える場所に広がる高原地帯で、夏でも涼しく、湿度も低いため、快適な避暑旅行先として人気があります。特に有名なのが、日本でも屈指の星空観測スポットとしての魅力です。

野辺山には国立天文台野辺山宇宙電波観測所があり、天体観測イベントや宇宙について学べるプログラムが用意されています[9]。こうした取り組みは地域の自然環境の暗さ(光害の少なさ)を守る努力のたまものであり、地域住民と研究機関が連携して観光と環境保護を両立させていると言えるでしょう。
また、地元農家による有機野菜や高原野菜の直売所では、収穫体験や農業体験も行われており、訪れる人が自然の恵みと触れ合える場を提供しています。これは地域の農業経済を支えると同時に、食の大切さを学ぶ教育的な側面も兼ね備えているのです。
野辺山では、標高差を活かしたトレッキングやサイクリング、乗馬などのアクティビティも充実しています。自然の中で心と体を動かす時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれるでしょう。
地域のチーズ工房やクラフトショップで買い物をすれば、それが地域の小さな経済循環をつくり、文化的・自然的資源の維持にもつながります。野辺山での避暑旅は、夜空と自然に包まれる“癒しと学び”の時間になるでしょう。
那須|雄大な自然と景観
栃木県・那須高原は、東京から新幹線で約70分とアクセスが良く、豊かな自然と涼しい気候が魅力の避暑地です。那須岳や那須高原牧場など、山々と草原が織りなす雄大な景観の中で、日々の疲れを癒せる場所として人気です。
地域では、「那須高原自然学校」などの団体が中心となり、森林保全活動やエコツアーを展開しています。間伐や清掃活動、自然観察会などを通して、観光と環境教育を両立させた取り組みが評価されています[10]。
観光客向けには、那須の湧水を使った手打ちそばや、地域の新鮮な野菜・乳製品を使ったグルメが楽しめます。こうした食の体験は、地域の農家や酪農家の生計を支え、那須の農業文化を次世代へとつないでいくのに役立つはずです。
また、那須にはさまざまな泉質の温泉があり、自然の音に耳をすませながらゆったりと湯に浸かれば、心身の疲れがほぐれ、深いリラクゼーションを得られるでしょう。
地域のアートクラフトや那須材を使った雑貨の購入も、地域の職人や林業の活性化につながります。自然・食・文化の三拍子が揃う那須の避暑旅は、訪れるだけで地域の再生を支援できる、価値ある時間になるといえます。
軽井沢|文化や芸術を堪能するなら
長野県・軽井沢は、日本有数の避暑地として長年親しまれてきた場所です。標高約1,000mに位置し、夏でも平均気温は20度前後と涼しく、自然と文化が融合する町として、多くの観光客を魅了しています。
軽井沢では、美術館や音楽ホールなどの文化施設が充実しており、「軽井沢千住博美術館」や「軽井沢大賀ホール」では、芸術や音楽を身近に感じる体験ができます。これらの施設は、地域の芸術文化の発展に寄与するとともに、観光収益を通じて文化の維持・育成にも貢献しているのです。
地域ではまた、別荘文化を活かした景観保全や、軽井沢町の「まちづくり基本条例」に基づく自然環境の保護活動が進められています。これにより、訪問者が豊かな自然と美しい街並みを楽しめるだけでなく、持続可能な観光地としての軽井沢の価値が高まっているのです。
食の面でも、信州野菜や地元ワイナリーのワインを使った料理などが味わえるレストランやカフェが点在しており、地産地消が観光を通じて支えられています。これにより、地域経済の循環が生まれ、農家や生産者の自立にもつながっています。
自然の中で芸術にふれ、美食を楽しむという贅沢な時間は、日常から一歩離れたいと感じる人にとって格別なものとなるでしょう。軽井沢での避暑旅は、知的好奇心と感性を満たす、大人のためのリジェネラティブな旅です。
函館|新鮮な海の幸と地産地消
北海道・函館は、夏でも比較的涼しく湿度も低いため、快適に過ごせる避暑地のひとつです。加えて、海と山に囲まれたこの街は、自然と共存する文化が今も色濃く残り、食と景観を通して心を癒す旅先として注目されています。
函館の大きな魅力は、新鮮な海の幸にあります。朝市では、漁師や地域の生産者が直接販売する場面も多く見られます。観光客が地元の魚介類を購入したり味わったりすることで、水産業や市場経済を直接的に支えることができるのです。また、近年ではサステナブルな漁業を意識し、獲りすぎを防ぐ漁獲管理や、環境に配慮した加工方法も導入されています。[11][12]
地域内では、市民団体が連携し、海辺の清掃活動や、縄文染め体験講座といった地域文化の継承ワークショップなど、観光と環境教育を結びつけるプロジェクトも展開中です。[13]これにより、旅行者が単なる消費者ではなく、地域と共に価値を生み出す参加者になることが可能です。
函館の街並みには、明治時代の洋風建築や石畳の坂道が多く残されており、歴史の重なりを感じさせます。観光による収益の一部は、こうした文化資産の保存活動にも活用され、まちぐるみで景観の保全に取り組んでいます。
縄文人の暮らしや精神文化にふれる展示も充実しており、旅の中で太古の営みに触れられる貴重な体験となるでしょう。
こうした歴史的な景観と、地元で水揚げされた新鮮な海の幸、そして人々の暮らしが息づくまちでの時間は、心と体をそっとほどいてくれます。
猛暑は鉄道で自分と地球をいたわる旅を
鉄道は、車や飛行機と比べてCO2の排出量が格段に少なく、移動そのものがサステナブルです。さらに、鉄道で訪れる涼しい高原や海辺のまちでは、地域の自然や文化、食を楽しみながら、地域経済や環境保全にも貢献することができます。
リフレッシュしながらも、地域や地球とのつながりを感じられるのが、鉄道で行く避暑旅の魅力です。今年の夏は、心地よい涼しさとやさしい移動手段を選び、自分と地球をいたわる旅に出かけてみませんか。

参考文献
[3]令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況(総務省)
[5]釧路湿原自然再生協議会 トップページ |釧路開発建設部
[6]2. 温泉水中の希少金属吸着材 – 量子科学技術研究開発機構