【報告レポート】オーバーツーリズムからの脱却。京都観光の未来について、若者の視点から考えるワークショップ

世界的な観光地として知られる日本の古都、京都市。その一方で、観光客の集中による地域住民への影響や環境負荷の増大など、ツーリズムによる負の影響も顕在化しています。
株式会社アスエクが京都府、京都観光アカデミー、一般社団法人Green innovationとの共催で、京都観光の未来について若者の視点から考えるワークショップを開催しました。
京都市で局地的に発生しているオーバーツーリズムの問題を乗り越え、持続可能な観光を実現するためには、次世代を担う若者たちの柔軟な発想、そして積極的な行動が不可欠です。
今回は、京都府庁旧本館旧議場にて開催されたワークショップの内容をお届けします。京都に住む学生ならではの視点や発想に、持続可能な観光開発へのヒントが隠されているかもしれません。

専門家による講義セッション
ワークショップ前半では講義セッションを設け、日本におけるGX政策や脱炭素の重要性、観光産業で取り組むべきサステナビリティについての理解を深めました。
日本のGX政策について
一般社団法人Green innovation代表理事の菅原氏が登壇し、日本のGX(グリーントランスフォーメーション)政策について講演しました。
講演では、カーボンニュートラル実現に向けた日本の取り組みとして、温暖化対策を「経済成長の機会」と捉える政府の姿勢が示されました。特に、エネルギー、輸送、製造といったインフラ産業が重点分野として挙げられ、観光との密接な関わりが強調されました。

ほかにも、GXを通じて経済成長やエネルギー安全保障を図るとともに、次世代技術の研究開発を目指す、日本の未来像を提示。その実現に向けて、私たち一人ひとりが省エネの徹底、再生可能エネルギーの活用、環境負荷の少ない移動手段の選択といった行動変容を起こすことが重要であると訴えました。
菅原氏は「小さな変化が大きな変化につながる」という言葉で、学生たちに行動変容の重要性を伝えました。
リジェネラティブツーリズム推進の重要性
続いて、株式会社アスエクの代表取締役 市川氏が「リジェネラティブツーリズム推進の重要性」と題して講演。持続可能な観光のさらに先にある、地域を積極的に再生・向上させる「リジェネラティブツーリズム」について解説しました。
また、観光産業のカーボンニュートラル化の重要性にも触れ、COP29(気候変動枠組条約締約国会議)での議論を踏まえ、観光産業が気候変動に脆弱でありながらも、世界のGDPの約8%を占める重要な産業であることを示しました。

市川氏は「リジェネラティブツーリズムは、ネガティブな影響を最小限に抑えつつ、柔軟なアイデアと対応によってポジティブな影響を生み出す可能性を秘めている」と述べ、ハワイの事例を参考に、観光客を単なる消費者としてではなく、地域文化や環境保全に貢献する存在として捉えるアプローチを紹介しました。
さらに、本ワークショップのテーマである「オーバーツーリズム」について、日本の外貨獲得の手段はこれまで主に工業製品の輸出であったのに対し、観光による外貨獲得は生活圏内での消費を生み出し、結果として、自分たちの住む地域が観光地化していく可能性があることを示唆しました。
最後に、観光産業の成長と地域住民の幸福の「両立」の必要性を訴え、そのために本ワークショップで共に考えることの意義を強調しました。
グループディスカッション

講義セッション後、参加者はグループに分かれ、以下の3つのテーマについてディスカッションを行いました。
- 何度でも足を運びたくなる観光地とその魅力
- 何度でも訪れたくなる、京都の本当の魅力
- 京都を何度でも訪れたくなる魅力的な街にするための課題とその解決策
各グループは、与えられたテーマについて自由な発想で意見を交換し、具体的なアイデアや解決策について議論を交わしました。
1. 何度でも足を運びたくなる観光地とその魅力
それぞれが個人的に「魅力を感じる観光地」について共有するディスカッションでは、ハワイ、小豆島、石垣島など国内外さまざまな観光地の名前が挙げられました。
- シンガポール(街の美しさ)
- 北海道(食の豊かさ)
- 雲仙普賢岳(温泉、硫黄の香り、人の魅力)
- 兵庫県 新温泉町(観光客と地元民の交流)
ある学生の参加者は長野県神城村を挙げ「特に何もない田舎だけれども、建物がない開放感が素晴らしい」と述べました。ほかにも、インドを挙げた学生は「都会と田舎、それぞれの魅力があり、ギャップが良かった」と語り、同じ国でも地域によって異なる魅力があることを共有しました。

観光地の魅力は、景観、食、文化、人の温かさ、そして、個人的な体験や感情に深く結びついています。
観光客が求めるものは多様であり、それぞれのニーズに合わせた観光体験を提供することの重要性について、理解がより一層深まったことでしょう。
2. 何度でも訪れたくなる、京都の本当の魅力

本セッションでは、京都を単なる「人気観光地」として消費するのではなく、その奥深さ、多様性に着目し、真の魅力を再発見するための議論を行いました。具体的には、以下のような視点が共有されました。
- 日本らしさ:歴史的な建造物や伝統文化が色濃く残る
- 歴史と新要素の融合:古いものと新しいものが調和している
- 写真映えするスポット:竹林など、SNSで発信しやすい魅力的な場所が多い
- ブランド力:「京都に行く」という行為自体に価値がある
- 都市部と自然の融合:都市部に文化財や観光地があり、自然も楽しめる
- ウォーカブルシティ:観光地間を徒歩で移動できる
京都の魅力は、歴史的な建造物や伝統文化はもちろん、豊かな自然が織りなす景観、京野菜や京料理に代表される食文化にも深く根ざしています。都市機能との融合もまた、京都ならではの魅力と言えるでしょう。
3. 京都を「何度でも訪れたくなる魅力的な街」にするための課題とその解決策
京都は魅力あふれる街ですが、観光客の増加に伴い、様々な課題も顕在化しています。ワークショップの核となるテーマで、京都が抱える課題の解決に向けた施策を検討します。まず、グループワークを通じて、以下の課題が共有されました。
- マナー問題、景観の悪化
- 公共交通機関に乗れない
- 住民生活への影響
- 京都市内へ観光客集中
マナ―問題や景観の悪化、さらには地域住民の生活への悪影響。これらの課題は、京都市内への観光客集中に起因する部分が大きいと考えられます。観光客が特定エリアに殺到し、混雑や騒音、ゴミ問題など、オーバーツーリズムによる様々な問題が発生しているのが現状です。

また、京都市内に住んでいるという参加者からは「通学時、外国人観光客が多くてバスに乗れない」といった切実な声が聞かれるほか、観光客増加によってありきたりなコンテンツが増えることで「地元の良さが失われつつある」という懸念も示されました。
オーバーツーリズムの解決策
こうした状況を改善するために、観光客の分散化を推進し、京都府全体の魅力を発信していくことが重要であるという意見が、多くのグループで飛び交いました。
例えば、京都府北部にある宮津市には、日本三景の一つである「天橋立」があり、百人一首にも詠まれたその景観は、息をのむ美しさです。しかし、その魅力はまだ十分に観光客に認知されているとは言えません。
また、現状の京都観光は、神社仏閣巡りや自然鑑賞といった「観る」要素に偏重しており、観光客の滞在時間が短いという課題があります。
地域分散化と並行して、伝統工芸体験や地域文化に触れるツアーなど、体験型観光を充実させることで、観光客はより深く京都の魅力を堪能し、滞在期間の長期化が期待できます。

グループディスカッションの中では、入場制限や二重価格を導入するといった意見も上がりました。
一方で、こうした施策は「観光を最大限に楽しみたい観光客にとって、最善策と言えるのか」という反論も上がっています。例えば特定の施設で入場制限をかけることは、短期的には有効な手段にはなるものの、観光客の満足度低下や観光客数の減少を招く可能性も否定できません。
さらに、観光客の分散化の切り口として、参加者からは「やり残しを感じてもらう」というユニークな声も上がりました。一度の訪問では味わいきれない奥深さを感じさせることで、継続的な観光需要を喚起できると考えられます。
観光客のニーズに応えながらも、持続可能な観光を実現できる、新たな観光戦略を検討することが大切です。冒頭で挙げられた「リジェネラティブツーリズム」は、今後の観光産業における持続可能性について重要な手がかりとなるでしょう。
京都府商工労働観光部 観光室長による講評
ワークショップの最後に、京都府商工労働観光部 観光室長である西田氏から、現場の課題を熟知した視点からの講評がありました。
西田氏はまず、参加者の発表内容が、京都府が日々取り組んでいる課題そのものであると述べ、改めて現状認識を共有しました。その上で、分散型観光を推進するために、以下の3つの重要なポイントを挙げました。
- 情報発信の強化
- 多様な交通手段の活用
- 滞在型観光の推進と地域連携
分散観光を目指す上で、情報発信の不足は喫緊の課題です。まだ知られていない魅力的な場所を発掘し、積極的に情報発信することで、観光客の満足度向上を目指すことが期待されます。特に、海外の旅行会社からは「常に新しい情報、京都の隠れた魅力を知りたい」という要望が多く、情報発信の重要性が高まっていることが述べられました。
また、交通アクセス改善の必要性は認識しているものの、京都市内はバス運転手不足による増便の困難さが課題となっていることが指摘されました。しかし、タクシー運転手は増加傾向にあり、若手も増えていることから、タクシーを有効活用した新たな交通システムの構築に期待を寄せているようです。

さらに、西田氏は、滞在型観光推進における京都府域との連携の重要性も強調しました。観光客の7割が京都市内を訪れる一方、3割は市外である京都府域にも足を運んでいます。
しかし、観光消費額は京都市に集中しており、府域での消費を促す施策はまだ十分と言えません。そのため、京都市外での魅力的な宿泊プラン開発や、観光客が少ない京都市内地域と周辺地域が連携した、観光ツアーの造成が重要であると述べました。現在、名産品プレゼント等の誘客策が一定の効果を上げており、今後の展開に期待を寄せているようです。
最後に西田氏は、ツアーの集客に偏りがある現状を踏まえ、今後は旅行者の心理を詳細に分析し、データに基づいた戦略を立てていく重要性を強調しました。
「今回のワークショップをきっかけに、京都の観光課題解決に向けて共に取り組んでいきたい」と述べ、より具体的な連携を進めていく展望を示し、ワークショップを締めくくりました。
まとめ

オーバーツーリズムを防ぎ、持続可能な観光を実現するためには、サステナブルツーリズム、ひいてはリジェネラティブツーリズムへの理解と実践が不可欠です。
Green innovationの菅原氏は冒頭で、観光の語源である「国の光を観る」という言葉を紹介しました。これは中国儒教の経典『易経』にある言葉で「観光とは本来、その国の一番良いところ(光)をしっかり観て、国王の役に立たせることである」と説いています。
観光のあり方が問われる現代だからこそ、今一度「観光」という言葉が持つ本来の意味に、立ち返ることが必要なのかもしれません。
単に景勝地を巡るだけでなく、その土地の文化や伝統を守ろうとする人々の努力を理解し、尊重する。それこそが、持続可能な観光を実現し、地域社会に貢献する本来の観光の姿と言えるでしょう。
今回のワークショップを通して、日本の未来を担う若者たちが、持続可能な観光の実現に向けて主体的に行動するための、力強い原動力となることを期待しています。


ワークショップ開催概要
日時:2025年2月25日(火)14:00〜17:00
会場:京都府庁旧本館旧議場(京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町)
対象: 定員 :京都府内の大学、大学院、短大、専門学校に通う学生
主催: 株式会社アスエク
共催:京都府、京都観光アカデミー、一般社団法人Green innovation