ブルーゾーンから読み解く、ウェルビーイングなライフスタイル

世界には、100歳を超えても健康を維持し、長生きする人々が集中して暮らす「ブルーゾーン」と呼ばれる地域が5つ存在することをご存知でしょうか。
それらの地域は世界中に点在していますが、共通する一定の生活パターンがあることが研究により明らかになってきました。
今回の記事ではブルーゾーンにある地域から見えてくる、健康で精神的に豊かである「ウェルビーイング」なライフスタイルについて解説します。
ブルーゾーンとは

ブルーゾーンとは、世界の中でも特に長寿者が多く、健康的な生活を送る人々が集中して暮らしている地域のことです。アメリカのジャーナリスト、ダン・ビュートナーによって2005年に提唱された概念で、2025年現在、下記にある5つの地域が認定されています。
- サルディーニャ島(イタリア)
- イカリア島(ギリシャ)
- ニコヤ半島(コスタリカ)
- カリフォルニア州ロマリンダ(アメリカ)
- 沖縄県(日本)
これらの地域に共通するのは、100歳以上まで健康的に生活する人々の割合が、世界平均と比べて著しく高いという特徴です。ブルーゾーンの住民たちは、質の高い生活を送りながら、心臓病や癌などの生活習慣病の発症率が低く、平均寿命も長いことが研究により明らかになっています。[1]
ブルーゾーンという名称の由来は、研究チームが長寿地域を青い円で囲んだことから始まりました。各地域では、伝統的な食生活、適度な運動、強いコミュニティの絆、自然との調和した暮らしなど、サステナブルな生活様式が世代を超えて継承されています。
ブルーゾーンの各地域について

世界には5つのブルーゾーンが存在し、各地域で独自の長寿の秘訣が受け継がれています。
イタリア・サルデーニャ島
サルデーニャ島は地中海に浮かぶイタリア第2の島で、特に山岳地帯のバルバージャ地区で100歳以上の長寿者が多く暮らしています。住民は伝統的な羊飼いの生活を営み、毎日の山歩きで自然と運動習慣が身についています。
食生活の特徴は全粒粉のパン、豆類、野菜、そして適度な赤ワインの摂取です。また、家族や地域の絆が強く、高齢者が社会で重要な役割を担っています。
ギリシャ・イカリア島
イカリア島は「死ぬことを忘れた島」と呼ばれ、のんびりとしたライフスタイルが特徴です。住民は地中海式の食事を実践し、オリーブオイル、野菜、豆類、山羊のミルク、そして適度なワインを日常的に摂取します。昼寝の習慣があり、ストレスの少ない生活を送っています。
コスタリカ・ニコヤ半島
ニコヤ半島の住民は「プラン・デ・ビーダ」(人生の目的)を持って生きることを重視します。伝統的な食事は穀物や豆を中心とし、地元で採れる新鮮な果物も豊富に摂取します。家族との強い絆があり、高齢者は子や孫と同居して活発な社会生活を送っています。
アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ
ロマリンダはセブンスデー・アドベンチスト教会の信者が多く住む地域です。信仰に基づく健康的な生活習慣が特徴で、菜食中心の食事、定期的な運動、禁煙・禁酒を実践しています。コミュニティ活動が活発で、住民の多くがボランティア活動に参加し、社会貢献を通じて生きがいを見出しています。
日本・沖縄

沖縄は世界で最も長寿な女性が多い地域として知られています。伝統的な食事は、野菜中心の低カロリーで栄養バランスに優れ、特に紫芋や豆腐、海藻類を多く取り入れています。「イチャリバチョーデー」(出会えば兄弟)という言葉に表されるように、地域コミュニティのつながりが強く、助け合いの文化が高齢者の健康と幸福を支えています。
ブルーゾーンに住む人の9つの習慣

それぞれの地域性から特色ある生活を営むブルーゾーンの5地域ですが、ダン・ビュートナーの分析により共通した9つの習慣があることが分かってきました。
[習慣1] 自然な運動
ブルーゾーンの人々は、わざわざジムなどに通うことなく日常生活の中で自然と体を動かしています。庭仕事、畑仕事、徒歩での移動など、生活に組み込まれた運動習慣が特徴です。特に、坂道の多い地形を活かした歩行が日常的な運動となっています。
[習慣2] 適度な食事
食事量の調整を心がけ、腹八分目を意識しています。特に沖縄では「腹八分目」という言葉が長寿の秘訣として伝承されており、食べ過ぎを防ぎ、消化器系への負担を軽減しています。夕食は軽めにとることも特徴的です。
[習慣3] 植物性食品中心の食生活

食事の95%以上を植物性食品で構成しています。豆類、全粒穀物、季節の野菜、果物を中心とした食生活を送り、肉類の摂取は月に数回程度に抑えています。特に豆類は重要なタンパク源となっています。
[習慣4] 適度な飲酒
ワインを中心とした適度な飲酒習慣があります。特にサルデーニャ島やイカリア島では、食事と一緒に1日1~2杯のワインを楽しむ文化が定着しています。過度な飲酒は避け、社交の一環として捉えています。
[習慣5] 人生の目的をもつ
沖縄の「生きがい」やニコヤ半島の「プラン・デ・ビダ」のように、、人生の目的や使命を持って生きています。目的意識を持つことで、朝目覚めた時の活力となり、長寿にポジティブな影響を与えています。
[習慣6] ストレス解消
定期的な休息とストレス解消法を持っています。イカリア島での昼寝の習慣や、沖縄の「ユイマール」(相互扶助の精神に基づく助け合いの習慣)など、コミュニティでのストレス解消方法が確立されています。瞑想や祈りの時間も大切にしています。
[習慣7] 社会的なつながり
地域コミュニティへの積極的な参加が見られます。相互支援グループなどに所属し、定期的な交流を持つことで、メンタルヘルスの維持と社会的なサポートを得ています。
[習慣8] 家族を大切にする
多世代同居や頻繁な家族との交流が特徴です。高齢者が子や孫の世話をすることで、社会的役割を維持し、家族との絆を深めています。子育てや家事の分担も自然に行われています。
[習慣9] 良好な人間関係
信頼できる友人や仲間との関係を大切にしています。定期的な交流を持ち、お互いの健康や幸せを気遣い合う関係性を築いています。この社会的なネットワークが精神的な健康を支えています。
沖縄人のライフスタイルに学ぶ

ブルーゾーンのひとつに、日本の沖縄が含まれていることは誇らしいことです。
沖縄の人々の暮らしぶりから、長寿の秘訣を探ってみましょう。
心と体を支える食文化
沖縄の伝統的な食生活は、自然の恵みを主体としています。旬の野菜や海藻類を積極的に取り入れる食習慣は、健康維持に貢献すると考えられています。特に、ゴーヤー、ウコン、海ぶどうなど、抗酸化作用が高いとされる食材が日常的に食卓に並ぶのが特徴です。
この食生活の背景には「なんくるないさ」の精神が関わっていると考えられます。「なんくるないさ」とは、よく「なんとかなる」と解釈されますが、実は、ただの楽観主義な言葉ではありません。
本来の意味は「人として正しい行いをしていれば、自然とあるべきようになる」という意味があります。
この精神こそが自然への信頼、そして調和を重んじる姿勢を生み出しているのではないでしょうか。食生活においても、自然の恵みに感謝し(正しい行いをする)、その恩恵を最大限に活かす(自然とあるべきようになる)という考え方につながっているのかもしれません。
絆を育む地域のつながり
沖縄は琉球王国時代から中国や東南アジア、日本との交易が盛んで、多様な文化が流入し、おおらかで協調的な社会が形成されました。
また、沖縄戦の悲惨な経験から「命どぅ宝(ぬちどぅたから)=命こそ宝」という価値観が根付き、人々が助け合う精神が強まりました。
沖縄では地域のつながりが強く、高齢者も孤立しにくい環境があります。祭りや行事を通じて世代間交流が活発に行われ、生きがいを持ちやすくなります。
また、「模合(もあい)」といわれる相互扶助の制度が精神的・経済的な支えとなり、仲間同士で助け合うことで安心感が生まれています。
このような地域のつながりが、沖縄の人々の健康と長寿を支えているのです。
伝統が紡ぐ生きがい
高齢者は生きがいを持ち続け、地域の行事や伝統芸能の伝承に積極的に関わっています。ブルーゾーの提唱者ダン・ビュートナーは著書「ブルーゾーン 世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ 健康と長寿のルール」で、そういった生き方を「ikigai」として紹介しました。
沖縄の高齢者は三線の演奏や琉球舞踊などの文化活動を通じて、心身の健康を保っています。このように、食、人間関係、生きがいの3つの要素が、沖縄の人々の豊かな暮らしを支えています。
ブルーゾーンとウェルビーイング

ブルーゾーンに住む人々のライフスタイルは、これからの時代に誰もが取り入れたいウェルビーイングな生き方につながります。ここで言うウェルビーイングとは、単に病気ではない状態を指すのではなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味します。


各地域で実践されている生活習慣は、健康寿命を延ばすだけでなく、幸福感や充実感といった心の豊かさをもたらす重要な要素となっています。
特に注目すべきは、持続可能な生活リズムです。なぜなら、急がず焦らず、自分のペースで生活することで、慢性的なストレスを軽減し、心の安定を保つことができるからです。また、日々の食事は地域で採れる旬の食材を活用し、環境への負荷を抑えながら、体に必要な栄養を摂取しています。
人とのつながりも重要な要素です。世代を超えた交流や、共に過ごす時間を大切にする文化は、孤独や不安を軽減し、心の健康を支えています。地域の伝統行事やコミュニティ活動への参加は、所属意識と生きがいを生み出しています。
さらに、自然との調和を重視する暮らしは、現代社会が直面する環境問題への示唆を与えています。歩いて用事を済ませる習慣や、地産地消の実践は、カーボンフットプリントの削減にもつながっています。
このように、ブルーゾーンの人々が実践する生活様式は、個人の幸福感と社会の持続可能性を両立する知恵を私たちに教えています。現代社会に合わせてこれらの習慣を取り入れることで、より豊かで健康的な生活を実現できるでしょう。
まとめ
ブルーゾーンの人々の生活は、豊かな自然の中で自然を尊重し、共生しながらサステナブルな暮らしをしていることが分かりました。都会で暮らす多くの人々の中にも、環境問題や気候危機などの観点からサステナブルな生き方を模索したり、日常から離れて心身を癒すリトリート体験をする人が増えています。
サステナブルツーリズムの観点からも注目されているブルーゾーンに生きる人々の暮らし。ウェルビーイングなその暮らしから私たちの生き方のヒントが得られるのではないでしょうか。


参考文献