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観光客があふれる沖縄でいま何が起きている? 地域が進めるオーバーツーリズム対策

2025 11/28
リジェネラティブツーリズム
オーバーツーリズム サステナブルツーリズム 地域の事例 持続可能な観光 沖縄
2025-12-11

沖縄は日本を代表する観光地として、国内外から多くの観光客を迎え入れています。

美しい海や独自の文化、温暖な気候が魅力ですが、その一方で近年オーバーツーリズム(観光公害)が深刻化しています。観光による経済効果と同時に、住民生活や自然環境への負荷が問題になっているのです。

この記事では、沖縄で進むオーバーツーリズムの現状と要因、そして地域が実践する対策事例を詳しく解説します。

目次

沖縄で深刻化するオーバーツーリズムの現状

沖縄では、観光客数の急増により、地域ごとにさまざまな問題が生じています。とくに宮古島や石垣島、那覇市などでその影響が顕著です。

宮古島・石垣島で続く観光客ラッシュ

近年、宮古島と石垣島では観光客数が島の人口を大きく上回る状況が続いています。

宮古島市の統計によると、2024年度の入域観光客数は約119万2,871人に達し、人口約5万5,000人のおよそ22倍にのぼりました。[1]石垣島を含む八重山圏域でも年間約122万人が訪れており、島の受け入れ能力を超える来訪が続いています。[2]

宿泊施設の建設は進んでいるものの、上下水道やごみ処理などの生活インフラが追いついていません。観光客の増加によって、生活排水量の増大やごみの不法投棄が目立ち、地域住民の生活にも負担を与えています。[3]

国際通りや真栄田岬の渋滞と違法駐車問題

那覇市の国際通りでは、観光バスや送迎車両の路上駐車が慢性的な渋滞を起こしています。とくに観光シーズンには、乗降のために停車するバスが車線をふさぎ、周辺道路の交通が滞る状況が続いています。[4]

また、恩納村の真栄田岬や「青の洞窟」周辺では、観光客の急増により駐車場不足と違法駐車が深刻化。夏場には一日に数千人規模の観光客が訪れ、路肩駐車や二重駐車が常態化しています。これにより、通行の妨げや救急車両の遅延といった問題が発生し、地域住民の生活にも影響を及ぼしています。[5]

サンゴ礁の海で進む環境破壊

沖縄の観光を象徴するサンゴ礁は、観光客の増加によって、人為的な損傷が深刻化しています。

沖縄県の調査では、主要海域のサンゴ被度(サンゴが生育している割合)は、かつての50〜60%から30%以下にまで低下していることが明らかになりました。[6]

とくにダイビングやシュノーケリング中の踏みつけや器材接触、観光船のアンカーによる破損が問題視されています。環境省も、こうした観光利用による物理的損傷が全国的な課題であると指摘しており、持続可能な観光の仕組みづくりが求められています。[7]

沖縄でオーバーツーリズムが起きる主な要因

沖縄でオーバーツーリズムが深刻化している背景には、観光のあり方や地域インフラに関する構造的な課題があります。

レンタカー依存により交通渋滞が起きている

沖縄で深刻な交通渋滞が発生している最大の要因は、観光客の移動手段がレンタカーに偏っていることです。

沖縄県の調査によると、観光客の約8割がレンタカーを利用しており、交通渋滞を引き起こす要因とされています。とくに那覇空港から北部リゾートエリアへ向かう国道58号線などでは、観光シーズンに通常の2倍以上の移動時間がかかることもあります。[8]

背景には、沖縄には鉄道がなく、公共交通が那覇市周辺に限られているという構造的な課題があります。主要観光地の多くが郊外や離島に点在しており、バスの便数も限られるため、観光客は自由度の高いレンタカーを選びやすいのです。

その結果、空港周辺や観光地の駐車場では混雑が常態化し、交通マナーや事故をめぐるトラブルも増加。こうした車依存の観光スタイルが、地域の交通負荷を高め、オーバーツーリズムを加速させる一因となっています。

SNSやメディアによる人気スポットの集中

沖縄では、観光客が特定の地域やスポットに集中することが、オーバーツーリズムを加速させる要因のひとつです。

沖縄県の観光統計によると、2024年度の来訪者数は那覇市と恩納村だけで県全体の36%以上を占めています。さらに石垣市や宮古島市も上位に入り、離島への集中も進行している状況です。[9]

背景には、交通インフラや宿泊施設が整っているエリアに観光客が集中していることが挙げられます。とくに恩納村や古宇利島などは、SNSやテレビ番組で頻繁に取り上げられ、話題性が高まることでさらに観光客が増える傾向にあります。

結果として、人気エリアでは道路渋滞や駐車場不足、自然環境への負荷が常態化。一方で、中南部や離島では観光需要が伸び悩み、地域間の格差が拡大しています。

宿泊施設や公共設備の整備遅れ

観光客の急増に対して宿泊施設や公共インフラの整備が追いついていないことも、沖縄におけるオーバーツーリズムの深刻化を招く要因です。

沖縄県の宿泊施設実態調査によると、宿泊施設は那覇市や恩納村、北部リゾートエリアに集中しており、中南部や離島では受入体制の整備が遅れているとされています。[10]

宮古島や石垣島では観光客の増加に伴い新規ホテルの建設が進んでいますが、上下水道やごみ処理施設の整備が追いつかず、生活インフラへの負担が課題となっています。[3] 

こうした受け入れ環境の整備遅れは、観光客と住民の双方に負担を与え、オーバーツーリズムを助長する要因となっているのです。

地域が進めるオーバーツーリズム対策

沖縄では、観光客と地域が共存できる仕組みづくりが進められています。ここでは、交通・地域連携・環境・教育の4つの側面から、具体的な対策を紹介します。

レンタカー依存の抑制と公共交通の利用促進

画像出典:国土交通省

オーバーツーリズムの要因のひとつであるレンタカー依存を解決するため、県と那覇市は公共交通の利用を促す取り組みを進めています。[11]

那覇市では、モノレール「ゆいレール」と路線バスを共通ICカード「OKICA」で乗り継げるよう整備し、空港から市内や首里方面への移動をよりスムーズにしました。

また、モノレール駅周辺では「パーク&ライド」の実証実験を実施しています。パーク&ライドとは、自家用車を駅周辺の駐車場に停め、鉄道やバスなどの公共交通に乗り換えて目的地へ向かう仕組みのことです。これにより、渋滞緩和と公共交通の利用促進を同時に図っています。[12]

さらに那覇市や石垣島では、電動キックボードやシェアサイクル「HELLO CYCLING」「GO SHARE」などの導入も進行中です。[13]

こうしたモビリティの多様化は、車に頼存しない観光スタイルへの転換を支える大切な取り組みといえるでしょう。

地域連携による周遊ルートの開発

画像出典:やんばる3村観光連携サイト

沖縄県では、観光客の集中を防ぎ、地域の魅力を広く伝えるために「観光の分散化」を進めています。

中心的な役割を担うのが、沖縄県の観光推進をリードする公的組織「沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)」です。OCVBは、県内各地の観光協会や自治体と連携し、地域ごとの特性を活かした観光ルートを開発しています。[14]

南部地域では、糸満市・南城市・与那原町などが協力し「南部文化回廊ルート」を整備。平和祈念公園や斎場御嶽を巡るバスツアーを通じて、地元ガイドによる文化解説や地域食材の体験プログラムを提供しています。[15]

一方、北部では「やんばる3村(国頭・大宜味・東)」が連携し、世界自然遺産エリアの自然体験プログラムを共同で開発。やんばるの森ガイドツアーや環境教育型プログラムを展開し、観光収益の一部を保全活動へ還元しています。[16]

こうした自治体や観光団体の協働による取り組みは、観光地の集中を防ぎながら、地域経済を面的に支える仕組みとして注目されています。

恩納村「サンゴの村宣言」による環境保全活動

画像出典:恩納村公式サイト

沖縄本島中部の恩納村は、2018年に「サンゴの村宣言~世界一サンゴにやさしい村~」を掲げ、海洋環境の保全と観光の両立を進めています。

観光客の増加により海域環境の悪化が懸念されるなか、行政・事業者・住民が一体となり、サンゴ礁の再生活動や環境教育を推進しています。[17]

代表的な取り組みが「サンゴの植え付け体験プログラム」です。地元のダイビング事業者やホテルが協力し、観光客が体験料を支払ってサンゴ苗を移植する仕組みを整えています。

これまでに累計で約1万株以上のサンゴが再生され、観光による収益が自然環境の回復に還元されています。[18]

また、恩納村は環境啓発にも力を入れています。村内の子どもたちにサンゴの役割や保全の大切さを伝えるため、オリジナル教材として海洋アニメ「サンゴの村の物語」を制作し、学校や地域イベントで活用しています。[19]

こうした活動は、観光と環境保全の両立に加えて、子どもから大人までが一緒に自然を守る意識を育む仕組みとして広がっています。

石垣島・宮古島での観光マナー・教育推進

画像出典:石垣市

石垣島と宮古島では、観光客と地域住民・自然との共存を図る取り組みが進められています。

石垣市では、観光客の行動に向けたガイドライン「ツーリストシップ石垣島4ヶ条」を策定。

「海岸利用時の配慮」や「御嶽など神聖な場所への立入り禁止」など地域の文化と自然を尊重する行動を呼びかけています。[20]

一方、宮古島市では、環境に配慮した観光を推進する「エコアイランド宮古島」を展開しています。その取り組みの一環として、事業者を認定する「エコアクション・カンパニー制度」を導入。この制度では、プラスチック削減や省エネ、リユース活動などに取り組む事業者を市が登録・認定しています。認定事業者は、ステッカーを掲示して観光客に環境への取り組みをわかりやすく伝えています。[21]

まとめ

沖縄では、観光による恩恵と課題が共存する中で、持続可能な観光への転換が着実に進んでいます。

レンタカー依存を抑え、公共交通やシェアモビリティを活用する動きは、交通渋滞の緩和だけでなく、地域の生活環境を守る第一歩となっています。また、南部地域で進む地域連携型の周遊ルート開発は、観光客の分散と地域経済の循環を促す仕組みとして定着しつつあります。

一方で、恩納村の「サンゴの村宣言」や石垣・宮古両市のマナー教育のように、観光客自身が自然保全に関わる動きも広がっています。観光客の行動が地域資源の保全につながる仕組みづくりは、観光を「消費」から「再生」へと転換させる重要な取り組みです。

観光を通じて自然や文化が再び息を吹き返す——。そんな循環を目指す沖縄の姿は、今後の日本の観光政策における新しい指針となるでしょう。

参考文献

[1]宮古毎日新聞「観光客 過去最高119万人(2024年度入域観光客数)」
[2]沖縄県「令和6年度 入域観光客数まとめ」
[3]宮古毎日新聞「ごみ排出量が大幅増/観光客数に連動」
[4]琉球新報「観光バスの路上駐車防ぎ、渋滞緩和へ 那覇に待機場を整備」
[5]琉球新報「青の洞窟/真栄田岬の駐車・海域過密対応実験」
[6]沖縄県「沖縄県のサンゴ礁の現状」
[7]環境省「サンゴ礁保全行動計画2022–2030」
[8]沖縄県 観光振興課「観光交通実態調査」
[9]沖縄県「令和6年度分析レポート(国内観光客概要版) 」
[10]沖縄県「宿泊施設実態調査(令和5年度)」
[11]沖縄県「沖縄県内におけるTDM施策の取組み紹介」
[12]国土交通省 「 Vol.1 長年の課題である「過度なマイカー依存型社会」をどう解決するか」
[13]沖縄県「那覇市シェアサイクル事業について」
[14]沖縄観光コンベンションビューロー公式サイト
[15]南城市観光協会
[16]やんばる3村観光連携サイト
[17]恩納村公式サイト
[18]GoTo ONNA公式サイト
[19]恩納村公式サイト「サンゴの村宣言」普及啓発アニメ完成!」
[20]石垣市公式サイト「ツーリストシップ石垣島4か条」
[21]宮古島市公式サイト「宮古島市エコアクション・カンパニー認定事業所」




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