良好な環境を活用した観光モデル事業とは?選ばれた10団体と合わせて解説

令和7年度に始まった、環境省の「良好な環境を活用した観光モデル事業」をご存知でしょうか?
良好な環境を活用した観光モデル事業とは、地域の自然環境や資源を活かして観光振興を進め、その収益を環境保全に還元することで、持続可能な観光地域づくりを目指す取り組みです。
令和7年5月には、全国からこうした事業を行う10の団体が選定され、今後それぞれの地域特性を活かした独自の観光モデルが展開される予定です。
本記事では、「良好な環境を活用した観光モデル事業」の概要や、令和7年度に選ばれた10団体の取り組み内容について解説します。
良好な環境を活用した観光モデル事業とは?
良好な環境を活用した観光モデル事業とは、地域がこれまで大切に育ててきた自然環境や文化資源を観光振興に活用し、得られた収益を保全活動へ還元することで、持続可能な観光地域づくりを目指す取り組みです。[1]
環境省が令和7年度に開始したもので、自然環境の保全と利用の好循環を生み出し、地域の「良好な環境」を継続的に維持管理することを目的としています。
近年、資金不足や担い手不足により自然環境の保全活動が困難となる地域が増加しています。こうした課題を解決するため、環境省は本事業を通して自然資本を活用した観光事業に取り組む団体・事業者を全国から募集しました。
良好な環境を活用した観光モデル事業に選定された団体には、環境省が資金提供などのサポートを行います。
現在は、各団体がそれぞれの地域特性を活かした観光事業に取り組んでいる状況です。
令和7年度に「良好な環境を活用した観光モデル事業」に選定された団体一覧
令和7年度の「良好な環境を活用した観光モデル事業」には、全国から10の団体が選定されました。選定された団体は、それぞれの地域が持つ自然環境や文化資源を活用した、持続可能な観光事業に取り組む予定です。
各団体の事業内容や取り組みの特徴について、詳しく紹介します。[2] [3]
- 一般財団法人史春森林財団
- 特定非営利活動法人おおつちのあそび
- 阪南市
- 一般社団法人 豊岡観光イノベーション
- 一般社団法人 北房観光協会
- 株式会社のどか荘暮らしの設計室・hinel
- 株式会社山都竹琉
- 山川町漁業協同組合
- 一般社団法人 E’more秋名
- 一般社団法人 大宜味村観光協会
1. 一般財団法人史春森林財団

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
| 北海道大樹町・広尾町 | 北海道南十勝の自然共生サイト・OECMと国立公園を対比しながら日本的自然観を観て感じ取れるエコツアーの多言語対応化 | 森林作業体験プログラムを多言語化・AI化し観光コンテンツへと磨き上げるとともに、地域の自然を案内できる人材を育成する。 |
一般財団法人史春森林財団は、北海道大樹町・広尾町において「林業」と「生物多様性の向上」を目指し、先進的な取り組みを展開しています。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- 森林作業体験プログラムを多言語化・AI化し観光コンテンツへの磨き上げ
- 平地林・河川など北海道ならではの自然資源を通じた、海洋生態系や漁業資源の保全
- VRデータや経営情報を活用したエコツアー・企業研修の展開
メインの活動は、自然共生サイトに認定されている「生花の森」を舞台にした観光コンテンツの磨き上げです。自然共生サイトとは、民間の取り組みなどによって生物の多様性が保全されている区域を指します。
森林作業体験プログラムを多言語化・AI化することで、単なる体験プログラムではなく観光コンテンツとしての魅力向上を図ります。
また、並行して地域の自然を案内できる人材を育成し、自然共生経営を広く発信するための環境を構築。
得られた収益は生物多様性や地域経済のために再投資され「林業」と「生物多様性の向上」の両立を目指す持続可能なモデルの確立を目指しています。
2. 特定非営利活動法人おおつちのあそび

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 岩手県大槌町 | 海と共生するまち・大槌~環境再生型観光モデルの創出~ | 藻場再生を軸とした環境再生型観光プログラムの開発などを行い、地域ならではの持続可能な観光モデルを確立する。 |
特定非営利活動法人おおつちのあそびは、岩手県大槌町で環境再生型観光モデルの創出に取り組んでいます。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- エコツーリズムに取り組む地域としてのブランディング構築(市場調査、受入体制の強化、コンセプト策定)
- インバウンド誘致に向けたモニターツアーの実施とアンケート調査
- 環境保全と観光を融合したリジェネラティブな観光モデルの確立
中心となる取り組みは、環境省の「令和の里海づくり」モデル事業(藻場・干潟の保全や再生を目指す事業)と連携した沿岸環境で行う、観光プログラムの開発です。
他にも、「観光」を切り口に、狩猟体験などの地域の特性を活かしたユニークな体験型プログラムも展開しており、世代や業界を超えた幅広い層からの関心を集めています。
3. 阪南市

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 大阪府阪南市 | 「海と山が出会うまち」はんなん森里川海プロジェクト | 自然共生サイトである「阪南セブンの海の森」を対象に森里川海をつなぐコンテンツの企画などを行い、持続可能な地域づくりの実現を目指す。 |
阪南市は、大阪府に位置し「海と山が出会うまち」という地理的特性を活かした環境保全と地域活性化の両立に取り組んでいます。
自然共生サイトである「阪南セブンの海の森」を舞台に、森・里・川・海をつなぐ多様なコンテンツを企画。持続可能で好循環な地域づくりを目指しています。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- 森・里・川・海の資源を観光に活用するための課題整理
- 学生との協働によるツアーコンテンツの企画・制作
- 地域の魅力を発信するプロモーション動画やWebの整備
具体的には、紀州街道やハイキングコース、大阪最古の酒蔵「浪花酒造」など、地域に根付いた文化資源を活かし、山から海へのつながりを体感できる観光を企画しています。「森・川・里・海」の物語を一体的に発信していく計画です。
4. 一般社団法人 豊岡観光イノベーション

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 兵庫県豊岡市 | 人とコウノトリが共生するまち・豊岡リジェネラティブな旅 | コウノトリの郷公園を中心としたエリアにて自然環境を楽しめるコンテンツを企画。これによりコウノトリの生息地の持続可能な保全を行う。 |
一般社団法人豊岡観光イノベーションは、兵庫県豊岡市で「人とコウノトリが共生するまち」をテーマに、リジェネラティブな旅の創出に取り組んでいます。
コウノトリの郷公園を中心に、コウノトリの生態や地域の歴史・文化を楽しめるコンテンツを企画し、環境と経済の好循環を拡大させる狙いです。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- インバウンド向けガイド付サイクリングツアー/セルフサイクリングツアーの企画
- 地域人材を対象としたガイド養成講座・モニターツアーの実施
- サイクリングMAP作成
豊岡市はこれまで、人にもコウノトリにも優しい「コウノトリ育む農法」により、環境と農業の再生に取り組む地域として注目されてきました。[4]
そうした取り組みに加え、本事業では環境負荷の少ない自転車観光にも挑戦。参加者が、豊かな田園風景を巡りながら、豊岡市ならではの文化やくらしを体感できるツアーを目指しています。
5. 一般社団法人 北房観光協会

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 岡山県真庭市、備前市、笠岡市 | 岡山県広域里山・里海学習体験型コミュニティプロジェクト | 真庭市・備前市・笠岡市の里山里海エリアにて、オンラインとオフラインの両面で自然保全学習・体験コミュニティの形成を行う。 |
一般社団法人北房観光協会は、岡山県の真庭市・備前市・笠岡市の3地域で、環境保全と観光の両立を目指した取り組みを展開しています。地域への関心向上や観光客の増加を目的に、オンラインとオフラインの両面で自然保全学習や体験コミュニティの構築を行う予定です。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- 岡山県の里山と里海の関わりを学び体験できるコミュニティサイトの作成・発信
- 里山と里海の関わりを学び体験するプログラムの企画・実施
- インバウンドを含むツアーの企画・実施
本事業の特徴は、里山里海の関連をテーマに3地域が連携している点です。
鍾乳洞から流れ出る栄養塩が瀬戸内海に与える影響や、川ごみ・海ごみの削減活動など、共通のテーマをもとに3地域が連携。これにより、広域かつ効果的なプロジェクト運営を目指します。
6. 株式会社のどか荘暮らしの設計室・hinel

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 愛媛県西条市 | 「水の都西条」の未来につなぐ水資源高付加価値化と環境保全還元モデル構築プロジェクト | 水資源の活用法を考えるチームづくり、観光コンテンツの開発、水資源のブランド強化などにより「水の街の循環型観光モデル」の構築を目指す。 |
株式会社のどか荘暮らしの設計室・hinelは、愛媛県西条市で持続可能な循環型観光モデルの構築に取り組んでいます。
西条市の課題の一つは、水資源が豊富すぎるがゆえに地域住民が価値を実感しづらいことです。そのため、本事業ではコミュニティづくりを通じて、水資源の魅力を「自分ごと」として再発見してもらうことを目的の一つとしています。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- 「水の街の循環型観光モデル」プロジェクトチームの設立
- インバウンド誘客に関する調査およびモデルプランの企画
- 水資源に対する意識向上とブランド強化
西条市では、これらの取り組みを通して観光による地域経済と環境の好循環を目指しています。
7. 株式会社山都竹琉

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 熊本県山都町 | 山都の有機農業をとおして体験・交流する「たべる-まなぶ-つながる-そだてる」の良好な環境関係人口創出プロジェクト | 有機農業を軸として農産物を活かした地域の認知度向上、教育旅行・農業研修・エコスタディツアーの受入体制構築、観光プログラム開発等を行い、アグロエコツーリズムの構築を目指す。 |
株式会社山都竹琉は、熊本県山都町で有機農業を軸としたアグロエコツーリズムの構築に取り組んでいます。アグロエコツーリズムとは、農村地域に配慮しながら訪問者がその地域の環境や文化を学び、体験する観光の形です。[5]
本事業では、自然共生サイトである「Present Tree in くまもと山都」を拠点に、以下のような活動を実施、または予定されています。
- 山都町の自然環境や有機農業の魅力を伝えるガイド人材の育成
- 地域内外の関係者が連携するネットワークづくり
- 高校生や大学生、留学生と連携したエコツアープログラムの実施
山都町は、有機農業の歴史が50年以上に及ぶ全国でも希少な地域です。水俣病をきっかけに、50年以上前から自然環境との調和と環境負荷の軽減に取り組んできた結果、現在では無農薬の田んぼにはゲンゴロウやタガメなどさまざまな水生生物が生息しています。
本事業では、そんな山都町の自然環境や食品を活かし、訪問者が大地とのつながりを実感できる観光プログラムを構築。経済活動と環境保全の両立を目指しています。
8. 山川町漁業協同組合

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 鹿児島県指宿市 | 指宿海域の自然共生サイトの活用と持続可能な観光モデルプロジェクト | 平成の名水百選や自然共生サイトに選定・認定された海域を対象に、藻場に関係するコンテンツを企画する。これにより、温泉と豊かな自然をもつ観光地としての魅力と持続可能性の向上を目指す。 |
山川町漁業協同組合は、鹿児島県指宿市で藻場再生を軸とした持続可能な観光モデルの構築に取り組んでいます。
指宿市の山川地区は、名水百選の湧水や天然の砂むし温泉などの自然に恵まれる一方、温暖化による「磯焼け」に直面しています。
こうした問題を解決するため、本事業では「観光」を切り口に、行政や観光協会など業界を超えた連携を展開。観光客が地域全体の恵みを体感しながら環境保全にも貢献できるツアーを開発していく計画です。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- 藻場再生を軸とした地域参加型観光コンテンツ検証ツアー(県内向けトライアル)の実施
- ブルーカーボンを活用した持続可能な観光研修プログラム試行事業(県外企業向けトライアル)の実施
- モニターツアー実施に基づいた関係者・協働者の分析
過去に環境省が実施した環境保護プログラムで選定・認定された海域を対象に、藻場再生などのコンテンツを企画。これにより温泉と豊かな自然をもつ観光地としての魅力と、持続可能性の向上を目指しています。
9. 一般社団法人 E’more秋名

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 鹿児島龍郷町 | ~100年後も続く観光と自治~リジェネラティブツーリズム創出事業 | 地域住民と観光客が協働するためのプログラムの検証、ブランディング戦略の立案。これらを通し、観光客が来るほど自然も暮らしも豊かになる地域の実現を目指す。 |
一般社団法人E’more秋名は、鹿児島県龍郷町で地域住民と観光客が協力して作り上げるリジェネラティブツーリズムの実現に取り組んでいます。
龍郷町には、清流が流れる里山やさまざまな動植物が共存する文化的景観が残っています。本事業では、そんな龍郷町の自然を活かして観光客と地域住民が協働できる環境を構築。
現時点で予定または実施されている主な活動内容は、以下の通りです。
- 地域住民への気候変動問題や秋名地区が有する資源価値の共有
- 住民参加型による地域資源とフィールドを活用したプログラムの効果検証
- 観光事業のストーリーとブランディング戦略の具体化
観光客が自然の営みを体験し、保全活動に参加することで当事者意識を育むことを重視しています。地域の人々にとっても観光客との交流を通じて「奄美の価値」を再認識する機会となります。
10. 一般社団法人 大宜味村観光協会

| 活動場所 | 事業名 | 事業概要 |
|---|---|---|
| 沖縄県大宜味村 | 「飲水思源」~やんばるの水に親しみ、その源に思いをはせる~ | 「平南川ター滝」を中心に、持続可能な観光情報の発信やオーバーツーリズム抑制の制度設計を行う。 |
一般社団法人大宜味村観光協会は、沖縄県大宜味村で地域の自然観を伝えるサステナブルな観光地域づくりに取り組んでいます。
令和5年度に環境省が実施した「良好な水循環・水環境創出活動推進モデル事業」の対象地である「平南川ター滝」を中心に、以下のような活動を行う予定です。
- 環境保全を重視した観光の教育と推進
- フィールド管理(安全管理・環境保全)を専業とする雇用の創出
- 観光の収益を安全・保全に還元する仕組みづくりと体制の整備
沖縄県大宜味村にあるター滝は、かつては村民の憩いの場として利用されていたスポットです。しかし、現在では観光地として多くの人に知られ、観光客が増加。安全や受け入れの体制づくりが求められています。
大宜味村観光協会は本事業を通し、村民と観光客が共に自然や伝統的な暮らしを学ぶことで、環境の保護と利用が好循環する観光モデルの確立を目指しています。
まとめ | モデル事業を参考に持続可能な観光地域づくりを目指そう
良好な環境を活用した観光モデル事業は、これからの時代に求められる持続可能な観光のあり方を示しています。令和7年度に選定された10団体の取り組みは、観光産業に携わる全ての事業者にとって参考になる内容です。
本記事で紹介したモデル事業を参考に、持続可能な観光地域づくりに向けた一歩を踏み出しましょう。
参考文献
