Haka Educational Toursが実践する環境配慮型の教育旅行

企業の研修担当者にとって、単なる体験で終わらない学びをどう設計するかは大きな課題ではないでしょうか。Haka Educational Tours(ハカ・エデュケーショナル・ツアーズ)は、データに基づく教育設計と少人数制を組み合わせ、成果につながるプログラムを実施しています。
STEAMやサステナビリティ、文化やスポーツなど幅広い分野に対応し、B CorpやEkos認証の取得で持続可能性への取り組みも裏付けられています。
本記事では、Haka Educational Toursの取り組みから、研修の質を高めるためのヒントを解説します。
Haka Educational Tours(ハカ・エデュケーショナル・ツアーズ)とは?

Haka Educational Toursは、ニュージーランド発の教育旅行会社で、学校・大学・スポーツチーム向けのグループツアーを提供しています。[1]社名の由来である「Haka(ハカ)」は、マオリ族の伝統的な踊りであり、戦いや祝祭の場で踊られてきた力強い舞です。このハカに込められた情熱や団結の精神を学びに活かし、次世代のリーダーが環境問題や社会課題に主体的に取り組む力を育むことを目指しています。
Haka Educational Toursは、「データに基づいた持続可能な教育の普及」を使命に掲げ、「学びを通じて世界をより良く変える未来を築く」ことをビジョンとしています。観光地を単に巡るだけでなく、文化への敬意と環境への配慮を大切にし、旅行者に深い学びと行動の変化をもたらすプログラムを提供している点が大きな特徴です。
主力事業・サービス

Haka Educational Toursは、学校や大学向けに5つの主要分野で専門性の高い教育プログラムを展開しています。すべてのプログラムがカリキュラムに準拠し、参加者の学習目標達成を重視した設計となっているのが特徴です。
| サービス分野 | 内容 |
|---|---|
| STEAM教育ツアー | 科学・技術・工学・芸術・数学を統合した体験型学習プログラム。スペースキャンプUSAとの提携により、宇宙科学や最新技術を学ぶ機会を提供 |
| 環境サステナビリティツアー | 生態系保護や気候変動対策を実地で学ぶプログラム。ニュージーランドの自然環境を活用した持続可能性教育を実施 |
| アート・メディアツアー | 創造性と表現力を育む芸術分野のプログラム。地域の文化や伝統芸術を通じた学習体験を提供 |
| スポーツツアー | チームビルディングと競技力向上を目指すスポーツ専門プログラム。技術向上と文化交流を両立 |
※カーボンフットプリント:モノやサービス、活動全体で排出する温室効果ガス(主にCO2)の総量を数値化したもの。製造・輸送・使用・廃棄の各段階で発生する排出量を合計して算出
※オフセット:自社が排出したCO2と同じ量を、他の場所で森林保全や再植林などにより吸収・削減することで「差し引きゼロ」にする仕組み
※Ekos認証:独立した第三者機関が、企業や製品のCO2排出量を国際基準に沿って測定・管理し、その分を信頼性の高い自然由来のクレジット購入で確実に相殺することを保証する認証制度
Haka Educational Toursのサステナブルな取り組み
Haka Educational Toursは、持続可能な観光を理念にとどめず実践へと落とし込み、数多くの認証や取り組みを通じて業界をリードしています。2024年にB Corp認証を取得。ニュージーランド初の教育旅行会社として社会的責任を果たす経営を目指しています。
同時にEkos認証によるカーボンゼロ運営を達成し、すべてのプログラムで環境負荷を最小化しています。これらの取り組みは、単なる企業アピールではなく、次世代への責任として継続的に実施。Keep New Zealand Beautifulとの協業や「旅行者1名につき1本の植樹」など、具体的なアクションを通じて持続可能性を追求しています。
この包括的なサステナビリティ戦略は、教育と環境配慮を両立するモデルとなっています。
B Corp認証取得

B Corp認証とは、社会と環境に対する厳格な基準を満たし、透明性と説明責任を重視する企業に与えられる国際認証です。取得には、従業員・顧客・地域社会・環境すべての関係者への配慮が必要で、利益追求だけでなく「良い会社」としての責任を果たすことが求められます。
同社は「ビジネスを通じて人と地球のための力になる」というB Corpの理念に共感し、教育旅行業界の変革を目指しています。この認証により、持続可能な経営への取り組みが第三者によって客観的に評価され、教育機関や顧客からの信頼をさらに高めているのです。
カーボンゼロ認証(Ekos)の取得

Ekosは森林保護・再生プロジェクトを通じた炭素クレジット提供を行う社会的企業です。単なる排出相殺にとどまらず気候変動対策・水系保護・土壌侵食防止・生物多様性保全・地域経済発展にも貢献しています。
同社が購入するカーボンクレジットは、ニュージーランドや太平洋諸島の森林プロジェクトから調達され、現地のコミュニティや生態系にもプラスの影響を与えています。
この取り組みにより、教育旅行の環境負荷を「見える化」し、参加者にも環境意識を高める効果があります。最終目標は「気候にプラスの影響を与える企業」への発展です。
Keep New Zealand Beautifulとの協業

KNZBはニュージーランド最古かつ最も権威ある環境保護団体で、「気候への意識向上・生態系多様性・汚染のない未来」を目指しています。
この協業により、同社のツアーにはKNZBの市民科学プログラム「Upstream Battle」「Backyard Battle」が組み込まれ、参加学生は海洋汚染や陸地ゴミ問題の根本原因について実地で学習できます。
Upstream Battleは海洋汚染につながる上流地点でのゴミ清掃・調査プログラム、Backyard Battleは内陸部でのゴミ収集・分析を通じて汚染経路を理解する活動です。ツアー参加校には環境保護への貢献としての寄付も実施。教育と実践を融合した持続可能性教育を提供しています。
旅行者1名につき1本の植樹

Trees that Countは、在来種植樹プロジェクトと寄付者をつなぐオンラインプラットフォームで、ニュージーランド全土での森林再生を支援しています。
1本の寄付額は10ドルで、参加者の代わりに同社が負担し植樹を実行。[5]
この取り組みは単なる環境対策ではなく、参加者が「マオリの価値観であるカイティアキタンガ(自然との共生・保護責任)」を実体験する教育プログラムとしても機能しています。帰国後も環境意識を持続させる効果的な仕組みとなっています。
Tourism Declares(観光宣言)への署名

Haka Educational Toursは「Tourism Declares」に署名し、気候緊急事態を宣言しています。
同社はこの目標達成に向け、以下のような取り組みを進めています。
- 3年間の計画で「気候行動計画」を策定
- 地域の生物多様性を支援
- 環境プロジェクトへの資金提供
- 社内の業務プロセスにおける環境配慮
- 参加者に対して環境に配慮した体験を提供
この署名を通じて、同社は単なる事業活動にとどまらず、観光産業全体の変革をリードする役割を担っています。さらに教育旅行を通じて、次世代に気候変動対策の重要性を伝えるという使命を果たし、持続可能な観光産業の実現に向けて具体的な行動を継続的に進めています。
責任ある旅行原則の推進

Haka Educational ToursはTiaki Promise(ティアキの約束)を積極的に推進し、責任ある旅行の実践を参加者に浸透させています。Tiaki Promiseは「ニュージーランドを守り、保護し、大切にする」という全国的な取り組みで、マオリ語の「ティアキ(守る・世話をする)」に由来。
この約束は以下の3つの柱で構成されています。
- 土地・海・自然を大切にし、軽やかに歩み痕跡を残さない
- 安全に旅行し、すべてに配慮と思いやりを示す
- 心を開いて文化を尊重する
同社のツアーでは、このプロミスを単なるマナー啓発ではなく「マオリの世界観を通じた自然との関わり方」として教育しています。山や川、樹木すべてに物語があり、人間の生活と密接に関わっているという先住民の視点を学び、真の持続可能性を理解する機会を提供しています。
スポーツ機会の平等化支援

Level Playing Fieldは、経済的な理由でスポーツに参加できない子どもたちに対し、シーズン参加費や必要な用具を提供する団体です。Haka Educational Toursは独自のキャラクター「タニファのトア」を活用したミッション活動を展開し、参加学生が課題を達成するごとに350ドルをLevel Playing Fieldへ寄付する仕組みを構築。この金額は、子ども一人が1シーズン、スポーツに参加するために必要な費用に相当します。
同社はスポーツツアーを通じて技術向上だけでなく、社会貢献への意識も育んでいます。まさに「スポーツを通じた社会変革」という理念といえるでしょう。
Haka Educational Toursのツアー例
Haka Educational Toursには、さまざまな学習ニーズに応える3つの主要プログラムがあります。
- マオリ文化を深く学ぶ「マラエ滞在プログラム」
- 国際的な視野を育む「日本視察ツアー」
- 創造性と歴史理解を深める「アメリカ演劇・歴史文化体験ツアー」
これらのプログラムは、単なる観光旅行ではなく、明確な学習目標に基づいた「教育の場」として構成されています。体験を通じて学ぶことを重視し、参加者が主体的に知識を得ながら、異文化理解や国際感覚を身につけられる仕組みです。
また、少人数グループ制を採用することで、一人ひとりに合わせたきめ細かな対応を可能にし、学習効果を最大限に高めています。
マラエ滞在プログラム

マラエ滞在プログラムは、ニュージーランドの先住民マオリ族の集会所「マラエ」で一晩を過ごす本格的な文化体験プログラムです。参加者は「ワエワエ タプ(神聖な足)」として正式な歓迎セレモニー(ポーフィリ)を受け、マオリの伝統的な暮らしを実際に体験します。プログラムには、以下のような制作が含まれます。
- 地面で蒸し焼きにする伝統料理「ハンギ」の準備
- 学習セッション(ワナンガ)、伝統舞踊「ハカ」や歌(ワイアタ)の習得
- 伝統工芸(マヒ トイ)の制作
宿泊は集会所(ファレヌイ)で全員が同じ空間で眠り、マオリの共同体意識を体感。食事の前後には必ず祈り(カラキア)を行い、マオリの精神性も学びます。このプログラムを通じて「自然との共生責任(ティアキタンガ)」や「おもてなしの心(マナアキタンガ)」といったマオリの価値観を深く理解し、多文化共生への視点を育みます。
日本視察ツアー

「日本視察ツアー」は、日本の教育システムや文化を深く学ぶための教育プログラムです。東京と京都を中心に5~6日間の日程で実施され、以下のような体験が組み込まれています。
- 小学校から高校までの学校訪問・授業参観
- 日本の学生との交流
- 給食体験(学生と同じ環境で食事を共にするユニークな学び)
- 茶道や着物などの伝統文化体験
- 新幹線での移動体験
さらに、金閣寺や清水寺といった歴史的建造物の見学を通じて、日本の歴史や文化への理解を深めます。
このプログラムを通じて、参加者は 、規律・尊敬・学習への真摯な姿勢といった日本の教育哲学を体験。異なる教育システムへの理解を広げられます。
アメリカ演劇・歴史文化体験ツアー

「アメリカ演劇・歴史文化体験ツアー」は、舞台芸術を通じてアメリカの芸術文化と歴史を学ぶ総合的なプログラムです。主な体験内容は以下のとおりです。
- ブロードウェイやオフブロードウェイでの本格的な演劇鑑賞
- 演劇ワークショップへの参加
- アメリカ演劇史の学習
参加者はプロの演出家や俳優から直接指導を受け、演技技術や舞台制作の基礎を習得します。さらに、アメリカ独立戦争や南北戦争の歴史的な場所を訪れることで、歴史的背景と文化の発展の関わりを深く学びます。
また、リンカーンセンターやメトロポリタン美術館での芸術鑑賞を通じて、幅広い文化への理解を促進。このプログラム全体を通じて、表現力・創造性・批判的思考力を育むとともに、多様性を尊重するアメリカ社会の価値観を理解し、グローバル市民としての意識を高めます。
まとめ
Haka Educational Toursは、教育とサステナビリティを融合させたニュージーランド発の教育旅行会社です。B CorpやEkos認証の取得は、社会的責任を果たす企業姿勢を示すものといえるでしょう。CO2排出量の測定とオフセットを徹底し、環境配慮を教育の現場に組み込んでいます。
提供するプログラムはSTEAMからアート、スポーツまで幅広く、学校や大学の多様なニーズに対応。文化体験を重視し、参加者に行動変容や国際的な視野を育む機会を与えています。
Haka Educational Toursは、従来の研修旅行とは異なる「変革的な学び」を提供しているため、教育機関にとって信頼できるパートナーと言えるでしょう。次世代の教育旅行を検討している担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
参考文献
[1]Haka Educational Tours 公式ホームページ
[2]Haka Educational Tours – Certified B Corporation – B Lab Global
[3]Haka Educational Tours|Impact Report 2023
[4]Keep New Zealand Beautiful Collaboration – Haka Educational Tours
