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ダークスカイツーリズムとは?|暗闇の中で見つける新しい旅の魅力

2025 11/04
リジェネラティブツーリズム
サステナブルツーリズム ダークスカイツーリズム 地域の事例
2025-12-8
星空

最後に満天の星空を見たのはいつでしょうか。現代の都市生活では人工の光が夜空を覆い、星の輝きを奪っています。そんな中、暗闇そのものを楽しむ「ダークスカイツーリズム」が世界中で注目を集めています。

これは単なる星空観賞ではなく、光害を減らし自然を守りながら地域経済を活性化させる、持続可能な観光の新しい形です。

本記事では、観光事業者が次世代の取り組みを考える際のヒントとして、ダークスカイツーリズムの本質と実践例を紹介します。

目次

ダークスカイツーリズムとは?

画像出典:DarkSky International

ダークスカイツーリズムとは、光害*のない夜空を求めて旅をし、星空観賞やナイトハイクなどを通じて自然本来の暗闇を体験する観光のことです。

過剰な照明を減らすことで、夜空本来の美しさを取り戻すだけでなく、生態系の保護や省エネルギー、そして地域経済の活性化にもつながります。

その背景には、年々深刻化する光害の問題があります。研究によると、夜空の明るさは過去12年間で毎年7〜10%の割合で増加しており、世界人口の約8割が光害の影響を受けながら生活しているということです。[1]

アメリカでは人口の80%、世界全体でも約3分の1の人々が自宅から天の川を見ることができなくなりました。[2] 

こうした状況を受け、1988年にアメリカで設立されたダークスカイ・インターナショナルが中心となり、世界的な光害対策が進められています。

2001年には「星空保護区認定制度(ダークスカイプレイス・プログラム)」を開始。光害の少ない夜空を守る取り組みが制度化されました。

2025年10月時点で、世界22カ国230カ所以上が認定を受け、ダークスカイツーリズムの拠点として注目されています。[3]

※光害:必要以上の人工照明が原因で夜空の星が見えにくくなり、自然環境や生態系に悪影響を与える現象のこと

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他の観光形態との違い

ダークスカイツーリズムは、天文学的な現象を観察する「アストロツーリズム」と似ていますが、目的が異なります。 アストロツーリズムは、天体観測や天文台見学を通じて宇宙への理解を深めることが主な目的です。

一方、ダークスカイツーリズムは、暗闇の中で自然や文化を体験することに価値を置いています。星空観賞に加え、月明かりの下でのハイキング、夜行性動物の観察、先住民族による星の物語など、暗闇を活かした多様な体験が可能です。

カナダのジャスパー国立公園では、懐中電灯を消して森を歩くナイトハイクが人気を集めています。参加者は暗闇の静けさや自然との一体感を感じ、光のない世界の豊かさに気づくきっかけとなっています。

このように、ダークスカイツーリズムは知識よりも感性を重視した観光であり、夜を通じて自然と向き合う体験といえるでしょう。

ダークスカイツーリズムと持続可能性

ダークスカイツーリズムは、環境・経済・文化の三つの側面から見ても、持続可能な観光の理想的なモデルといえます。これら三つの側面は相互に連動し、ひとつの側面の取り組みが他の分野にも波及します。

観点/側面環境経済文化
主な内容不要な照明を減らし、電力とCO2を削減。夜行性動物の生態を回復光害の少ない地域が観光資源に。夜間観光で滞在・消費が増加星空にまつわる先住民の知恵や物語を次世代へ継承
主な効果エネルギー削減生態系の健全性維持自然環境の回復地域経済の活性化持続的な収益確保地域内循環の促進文化の継承地域アイデンティティの再生“夜”という文化資源の保護
全体的な意義環境負荷を抑え、地球規模の持続可能性に貢献地域に根ざした経済の再構築人と自然をつなぐ文化の再生

たとえば、照明の改善による環境の回復が夜間観光を促し、地域経済を活性化。その利益が地域の教育や伝統行事の支援に活用されることで、文化の継承にもつながります。

つまり、ダークスカイツーリズムは単独の環境施策ではなく、「自然と経済と文化の再生」を同時に実現する統合的な地域づくりモデルといえるでしょう。

環境と野生動物への影響|なぜ暗闇が重要なのか

地球上の生きものは、太陽の昇り沈みに合わせた昼と夜のリズムの中で進化してきました。しかし、人間が夜を人工の光で照らすようになったことで、この自然のサイクルは乱れ始めています。

暗闇は、生態系のバランスを保つうえで欠かせない要素です。過剰な照明は、動物や植物の行動や成長に影響を与えるだけでなく、人間の健康にも悪影響を及ぼします。

光害が生態系に与える影響

画像出典: DarkSky International

人工の光は、夜の生態系に深刻な影響を及ぼしています。街灯や建物の照明に引き寄せられた渡り鳥は進路を誤り、衝突事故が多発。夜行性のコウモリや昆虫は採餌の機会を逃し、個体数の減少が懸念されています。[4] 

両生類では、暗闇での鳴き声が繁殖行動の合図です。しかし、人工光がその行動を妨げると、繁殖率の低下につながる恐れがあります。また、水辺の生物では夜間照明が摂餌リズムを乱し、成長の遅れを引き起こすでしょう。

植物も同様に、夜の光が光合成の周期を狂わせます。その結果、開花時期や受粉のタイミングがずれ、生育に支障をきたす場合もあります。

このように光害は、個々の種だけでなく生態系全体に影響を与える問題です。照明のあり方を見直し、暗闇を守ることが生物多様性の保全につながるでしょう。

人間の健康への影響

画像出典:DarkSky International

光害は、私たちの生活リズムや健康にも深刻な影響を及ぼすことがわかっています。夜間の過剰な照明は、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌を抑制し、体内時計を乱します。本来、夜になると自然に分泌されるメラトニンは、眠気を誘い、免疫機能の維持や老化防止にも関係する重要なホルモンです。そのため、夜でも明るい環境で過ごすことが続くと、睡眠の質が低下し、心身のバランスを崩す要因となります。[5] 

特に、LED照明などに多く含まれる青色光(ブルーライト)は影響が強く、白色LEDの街路灯は従来のナトリウムランプに比べて約5倍もメラトニン分泌を抑えるといわれています。[6]

その結果、夜勤者や都市部で生活する人々の間では、睡眠障害やうつ病、肥満、糖尿病、さらには心疾患のリスク上昇が報告されています。

国際がん研究機関(IARC)も、概日リズムの乱れを伴う夜勤などを「発がん性の可能性あり」と分類しています。[7] つまり、光害は単に夜の景観を損なうだけでなく、人間の生理機能そのものに影響を及ぼす環境問題なのです。

こうした背景からも、夜間の人工光を減らし、特に青色光を避ける照明設計や生活習慣の見直しが、健康維持のために重要だといえるでしょう。

ダークスカイツーリズムの効果

ダークスカイツーリズムは、星空という非消費型の資源を守りながら新たな観光価値を生み出す取り組みです。

環境保護・地域経済・文化・教育という三つの軸が相互に作用し、持続的な好循環をもたらします。

これらの成果が連鎖的に広がることで、観光地全体のレジリエンス(回復力)が高まり、地域の持続可能性を強化することができるでしょう。

環境保護効果

夜空から不要な人工光を減らすことで、夜行性動物が本来のリズムを取り戻し、自然な摂食や繁殖活動を行えるようになります。

たとえば、渡り鳥は人工光に誘引されると衝突事故が増えますが、適切な配光設計やシールド照明を導入することで死傷率を大幅に低減することが可能です。[8] 

また、暖色系LEDの採用やタイマー制御による照明改修によって、従来比で60〜70%の電力削減が可能となり、年間数十万トンのCO2排出削減に寄与します。[9]

このようなエネルギー効率化は自治体の気候行動計画と連動し、地域のカーボンニュートラル実現を後押しするでしょう。

さらに、夜間の暗さが回復することで植物生理にも良い影響が見られ、植生の健全性や炭素吸収力の向上にもつながると考えられます。

経済的効果

星空観察を目的とする観光客は、日帰り客に比べて宿泊・飲食・体験プログラムなどへの支出が多く、地域経済への貢献度が高いとされています。

調査によると、ダークスカイツーリズムによる観光支出は今後10年間で58億ドルに達し、年間平均で約1万人の雇用創出が見込まれています。[10] 

さらに、秋冬シーズンや夜間という新しい観光需要が生まれることで、季節偏重型の経済構造から脱却し、通年で安定した収益が確保可能です。

こうした雇用や消費の波及効果は、ガイド業・ホスピタリティ・飲食・小売・交通など多様な産業に広がり、地域内での経済循環を強化するでしょう。

文化・教育的効果

ダークスカイツーリズムは、無形文化遺産の保護と科学教育の普及を同時に進める取り組みでもあります。

星座神話や伝統的な天文学の知恵を取り入れた体験型プログラムを通じて、地域固有の文化を観光とともに継承しています。

また、地域の学校と連携した天文ワークショップでは、子どもたちが光害測定や星空観察を体験。科学的な好奇心を育むことができます。

また、ナイトフォトグラフィーや天体観測ガイドの研修を住民に提供することで、新たな職業機会の創出や社会的エンパワーメントが進みます。

さらに、住民と観光客が協働して夜空を守る体験を共有することにより、地域コミュニティの結束と誇りが深まり、持続的な観光運営の基盤が築けるでしょう。

日本と海外のダークスカイツーリズム事例4選

ダークスカイツーリズムは、世界各地で広がりを見せる新しい観光の形です。日本でも先進的な取り組みが進み、地域ごとの特色を活かした実践が始まっています。ここでは、国内3つと海外1つの代表的事例を紹介し、観光事業者が応用できる具体的なヒントを探ります。

美星町(岡山県)|アジア初の星空保護区コミュニティ

画像出典:井原市役所

岡山県の美星町は2021年11月、アジアで初めて「ダークスカイ・コミュニティ」に認定されました。[11]自治体全体で夜空保護に取り組む先進モデルとして注目されています。

認定条件である「上方光束(照明器具等から照射される光のうち水平よりも上方に向かう光の束)がゼロであること」「色温度3000K以下」という厳格な基準を満たすため、町内389台の防犯灯を専用開発された照明器具にすべて交換。

この成果の背景には、1989年に制定された日本初の光害防止条例という長年の取り組みがあります。[12] 

美星天文台を中心に、年間を通じて観測イベントを開催。

地域住民へのワークショップや光害アンケートによる理解促進、クラウドファンディングで目標額の296%を達成するなど、地域全体が一体となった運営が成功の鍵となりました。[13]

神津島(東京都)|東京初のダークスカイパーク

画像出典:星空保護区

東京都心から南へ約180kmに位置する神津島(こうづしま)は、2020年12月に日本で2番目、東京都では初めて星空保護区(ダークスカイ・パーク)に認定されました。島全体が対象となったことから、特別に「ダークスカイ・アイランド」という呼称が認められています。[14] 

神津島村は2020年1月に光害防止条例を制定し、わずか5か月で島内の屋外照明を大規模改修。生活圏を含む全域で光害対策を短期間で完了させました。 [15]

この迅速な対応は、都心からアクセスしやすい立地を活かし、観光振興と環境保護を両立させた好例として他地域の参考にもなっています。

西表石垣国立公園(沖縄県)|亜熱帯の星空体験

画像出典:西表石垣国立公園ダークスカイ・パーク

西表石垣国立公園は2018年3月、日本初かつアジアで2番目の星空保護区(ダークスカイ・パーク)に認定されました。[16]日本最西南端の八重山諸島に位置し、面積約12万ヘクタールの広大な国立公園全域が対象です。

南十字星をはじめとする本土では見られない星々を観察できるのが魅力で、亜熱帯特有の生態系と夜空が調和した体験が楽しめます。

地元事業者を中心とした組織「星空H2O」は、夜の自然環境保全、観光商品開発、地域交流の三本柱で活動。

星空ガイドや宿泊施設、旅客運送が連携し、滞在型観光の促進と地域経済の循環に貢献しています。

アメリカ・デスバレー国立公園|極限環境での夜空保護の成功例

画像出典:DarkSky International

アメリカのデスバレー国立公園は2013年、国際ダークスカイ協会(DarkSky International)から最高ランク「ゴールドティア」の認定を受けました。[17] 地球上でもっとも暗い夜空を保つ場所の一つとして知られています。広大な砂漠地帯では、ラスベガスなど遠方都市からの光害を最小限に抑える努力が続けられています。

毎年2月に開催される「ダークスカイ・フェスティバル」では、NASA、カリフォルニア工科大学、SETI研究所などが協力し、昼夜にわたる科学教育プログラムを展開。[18]

火星の地形に似た環境を活かした惑星研究や天体撮影ワークショップ、レンジャーによる星空解説など、科学と観光を融合させた先進モデルとして世界的に注目されています。

リジェネラティブツーリズムとの接点

ダークスカイツーリズムは、単に環境への負荷を抑えるだけではなく、観光活動そのものが地域の自然環境や文化を再生・回復へ導く「リジェネラティブツーリズム(再生型観光)」の代表的な実践モデルといえます。

光害を低減する取り組みが夜行性生物の生息環境を本来の姿に戻し、地域住民が主体的に夜空という共有資源の保護に関わる仕組みを生み出しています。観光客の訪問と自然再生が相乗的に作用することで、環境・経済・社会の三側面から持続可能な地域づくりを支える新たな観光の形が形成されているのです。

サステナブルツーリズムから一歩進んだ取り組み

ダークスカイツーリズムは、環境負荷を軽減する段階にとどまらず、自然環境を積極的に再生へと導く観光形態です。

照明器具の改修や光害対策の導入により、夜行性動物の繁殖や採餌行動が正常なリズムを取り戻しました。その結果、渡り鳥の衝突事故の減少や昆虫の個体数回復など、生態系の改善が確認されています。

さらに、適正照明への切り替えはエネルギー使用量を60〜70%削減し、年間数十万トン規模のCO2排出抑制にも寄与します。

こうした、星空観察という体験そのものが環境再生のきっかけとなり、観光と自然保護が共生する仕組みが確立されているといえるでしょう。

コミュニティツーリズムとの融合

ダークスカイツーリズムの推進には、地域住民が主役となるコミュニティツーリズムの考え方が深く根付いています。照明基準の策定や光害防止条例の制定過程で住民が意思決定に関与することで、地域のガバナンスが強化されます。

さらに、天文ガイドやナイトフォトグラフィー講師などの専門スキルを住民が身につけることで、新たな職業機会や収入源が生まれます。

観光収益は宿泊・飲食・体験プログラムなどを通じて地域内で循環し、外部への資金流出を防ぎながら経済の自立を促進。こうした住民エンパワーメントの仕組みが、持続可能な観光地経営を支える基盤となります。

地域住民との連携による継続的運営

持続的なダークスカイツーリズムの成立には、地域住民の理解と長期的な参加が欠かせません。定期的なワークショップや光害モニタリング活動を通じて環境意識を高め、夜空保護を共通の目標とするコミュニティネットワークが育ちます。

さらに、住民が共同で望遠鏡を購入し、星空観察会や教育プログラムを自ら企画・運営することで、地域の一体感と誇りが育まれるでしょう。

こうした協働の積み重ねが、暗闇という貴重な観光資源を長期的に守る力となり、地域全体のレジリエンス(回復力)を高めます。

また、次世代への知識や文化の継承にもつながっていくでしょう。

まとめ

夜空を守ることは、自然を取り戻すだけでなく、地域の未来を育てることでもあります。ダークスカイツーリズムは、環境保全・地域経済・文化継承を一体化させた新しい観光のかたちです。暗闇の中にこそ、地域の個性や人々のつながりが輝きます。観光事業者にとっては、光害対策やナイトプログラムの導入など、小さな一歩から始められる持続可能な取り組みです。

星空の下での体験を通じて、訪れる人と地域が共に再生していく。その一歩を、今こそ踏み出してみてください。

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参考文献

[1] Science|Citizen scientists report global rapid reductions in the visibility of stars from 2011 to 2022 

[2] NPR|Light Pollution Hides Milky Way From 80 Percent Of North Americans, Atlas Shows

[3] International Dark Sky Places

[4] Light pollution harms wildlife and ecosystems | DarkSky International

[5] Light pollution affects human health | DarkSky International

[6] PubMed|Blue light from light-emitting diodes elicits a dose-dependent suppression of melatonin in humans 

[7] Shift Work and Cancer: The Evidence and the Challenge – PMC

[8] REDUCING BIRD COLLISIONS WITH BUILDINGS AND BUILDING GLASS BEST PRACTICES

[9] LIGHT POLLUTION COSTS MONEY AND WASTES RESOURCES

[10] Dark sky tourism: economic impacts on the Colorado Plateau Economy, USA

[11] 井原市役所|【美星町】アジア初となる「星空保護区(コミュニティ部門)」に認定 

[12] ダークスカイ・ジャパン|屋外照明 

[13] 夜の暗さを守り続ける。国際ダークスカイ協会が岡山・美星町を認定

[14] 東京都の離島「神津島」が星空保護区認定

[15] 神津島村|東京都初!! めざす! ☆「星空保護区」認定☆

[16] 西表石垣国立公園 ダークスカイ・パーク

[17] Death Valley National Park | DarkSky International

[18] Caltech Stars in Otherworldly Dark Sky Festival




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